
沖縄県知事選、42歳の古謝玄太氏が初当選──12年ぶりの県政転換が問う「基地の先」の沖縄
沖縄県知事選が9月13日に投開票され、新人で前那覇市副市長の古謝玄太(こじゃ・げんた)氏(42)が、3期目を目指した現職の玉城デニー氏(66)を大差で破り初当選しました。古謝氏は自民・維新・国民民主・参政・保守・公明県本部の6党推薦を受け、物価高対策や子育て支援、県民所得の倍増を掲げて過去最多の42万票余りを獲得。確定投票率は61.57%でした。米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を容認する立場で、移設に反対してきた県政は2014年以来12年ぶりに方針転換します。古謝氏は那覇市出身、東京大学薬学部を卒業して2008年に総務省へ入省。2022年の参院選に挑戦して27万票余りを得たものの落選し、同年12月から那覇市副市長を務め、今年2月に辞職して知事選に臨みました。1972年の本土復帰後に生まれた初めての知事であり、県の公選知事として史上最年少です。
私はこの結果を、沖縄の有権者が「反対の政治」から「経済の政治」へ舵を切ったものだと受け止めています。玉城県政の8年に敬意を払った上で申し上げますが、辺野古移設への反対を貫いても、埋め立て工事を止める法的手段は訴訟の敗訴ですでに失われていました。そもそもこの問題の原点は、住宅や学校が密集する市街地に隣接し「世界一危険」とまで呼ばれた普天間飛行場の危険性をどう除去するかにあります。そして歴史をさかのぼれば、1972年の本土復帰は米軍基地の継続使用を前提に実現したものであり、基地の扱いについて日本側が単独で決められる余地はもともと極めて限られている。この構造を直視せずに「反対」だけを続ければ、普天間の危険は固定化され、県政のエネルギーは費やされ、その間に県民所得は全国最低水準にとどまり続けました。放送でも紹介した通り、県民所得の対全国比はこの8年で一段と低下したとされます。
では新知事は何をすべきか。私の答えは明快で、沖縄を「政争の島」から「アジア経済繁栄のメッカ」に変えることです。沖縄は東アジアの十字路という、世界でも稀な立地にあります。世界中から観光客が押し寄せ、宮古島などは空前の活況です。この流れを本格的なリゾート戦略に昇華させ、アジアの富裕層が滞在し、投資し、ビジネスを生む拠点にする。私が「アジアのバハマ」と呼んできた構想です。基地問題は、普天間の危険除去を最優先に、県民の負担を着実に減らす実務として進める。なお、中国側が近年、琉球の歴史的経緯を持ち出して沖縄への干渉する言説を強めていることには、日本として明確に反論しておく必要があります。若い知事には、イデオロギーではなく経済で県民の生活を引き上げる、新しい沖縄政治のモデルを示してほしい。復帰後生まれの世代がその役を担うことに、私は時代の必然を感じています。
内閣改造、デジタル相に「医師で弁護士でMBA」の古川俊治氏──問われるのは経歴ではなく実行
高市首相は9月17日に内閣改造を行い、デジタル大臣に自民党の古川俊治(ふるかわ・としはる)参院議員(63)を起用しました。埼玉選挙区選出の当選4回で初入閣。慶應義塾大学医学部を卒業して外科医となり、病院勤務の傍ら通信課程で同大文学部と法学部を卒業、1996年に司法試験に合格して弁護士資格を取得し、さらに2004年から英オックスフォード大学の経営大学院に留学してMBAを取得したという異色の経歴の持ち主で、AI戦略やサイバー安全保障も担当します。改造では茂木外相、片山財務相、小泉防衛相、木原官房長官らが留任し、復興相に細野豪志氏が再入閣、維新からは中司宏氏が規制改革相として初入閣しました。また、中道改革連合から分かれた立憲系議員による新党は、小川淳也氏が代表、階猛(しな・たけし)氏が幹事長に就き、中道改革連合の綱領を基本的に引き継ぐとともに、旧民主党が掲げた「民主中道」の理念も盛り込むとしています。
まず改造について。主要閣僚を軒並み留任させた骨格維持の布陣で、サプライズはありません。その中で目を引くのが古川氏です。医師、弁護士、MBAという三つの資格を40代までかけて積み上げた勉強家であることは間違いありません。ただ、私はあえて申し上げたい。資格や学位の数と、行政で結果を出す力は別物です。理屈で人に負けない秀才が、担当する現場を実際に動かせるかどうかは、まったく別の試験なのです。日本のデジタル行政は、マイナンバーの利活用も医療情報の標準化も世界に大きく遅れ、インドにすら学ぶべき状況にあります。在任中に「何を成したか」が一目で分かる仕事を一つでも残してほしい。経歴が立派な大臣ほど、成果で評価されるべきだと私は考えます。
一方の新党には、もっと根本的な注文があります。党名や綱領をいじり回す前に、いっそ「民主党」に戻したらどうか。国民民主党から異論は出るでしょうが、有権者の頭の中にある座標軸に接続できない政党名を次々と作っては壊すこと自体が、支持が広がらない原因です。離合集散を繰り返すたびに、「この人たちは何をしたいのか」がますます見えなくなる。前回申し上げた通り、必要なのは看板の掛け替えではなく、本物の対立軸です。それを掲げる覚悟がないなら、せめて国民が認識できる旗印に戻る。それが再出発の最低条件だと私は思います。
日銀が政策金利1.25%へ、31年ぶり水準──これは「主導権なき利上げ」である
日銀は9月18日の金融政策決定会合で、政策金利を0.25%引き上げて1.25%とすることを賛成多数(反対2人)で決めました。6月会合以来3カ月ぶりの利上げで、1995年4月以来およそ31年ぶりの高水準です。原油高や円安による物価の上振れリスクを抑える狙いで、植田総裁は会見で「政策の局面は変化した」と述べ、今後の物価動向によってはさらなる利上げの可能性を示唆し、連続的・大幅な利上げも「排除しない」と踏み込みました。この2日前には米FRBが0.25%の追加利上げを決めており、大統領による大幅利下げ要求を意に介さない形となっています。米長期金利は5%前後の高水準で推移しています。
市場では「物価対策の利上げ」と解説されていますが、私の見方は違います。これは日銀が自らの判断で選んだ利上げというより、上げなければ円が投げ売りされる状況に追い込まれた、「主導権なき利上げ」です。FRBが上げ、欧州も高い金利水準にある中で日本だけが据え置けば、金利差を狙った円売り・ドル買いが殺到し、円安がさらに物価を押し上げる。つまり日本の政策金利の実質的な決定権は、今や東京ではなくワシントンの金利動向にあるということです。FRBが利上げ局面を続ける限り、日銀は3カ月後にもまた追随を迫られる可能性が高いと私は見ています。
この従属構造の根っこにあるのは、前回もお話しした日米金利の「連立方程式」です。米国債は5%前後まで利回りが上がっても買い手が細っており、日本の金利が上がれば、世界最大の米国債保有国である日本からの資金還流がさらに細る。一方、日本の金利上昇は、国債を大量に抱える日銀の財務と政府の利払いを直撃する。大規模緩和の時代に金利をゼロに張り付け、その前提で積み上げた借金の後始末を、いま日米が互いの足元を見ながら少しずつ進めている──それが現在の局面の正体です。企業経営者は、「日銀がいつ上げるか」ではなく「米金利がどこまで行くか」を自社の金利前提の起点に置くべきです。金利のある世界は、日本が選んだのではなく、外から到来したのですから。
「一生結婚するつもりはない」が男女とも2割超に──熱海の出生数が映す、もう一つの現実
国の結婚・出産に関する意識調査の最新結果が公表され、未婚者のうち「一生結婚するつもりはない」と答えた人の割合が男女とも20%を超えたことが放送で紹介されました。2005年の調査では男性5%、女性7%程度でしたから、20年でおよそ4倍への急増です。「結婚に利点を感じない」とする男性は42%に達し、初婚年齢は男女とも30歳を超えています。調査主体は、一人の生活を続けても寂しくないと考える人の増加など、ライフスタイルや価値観の変化が結婚意欲の低下につながったと分析しています。
この数字が示すのは、少子化が「結婚したくてもできない」問題から、「そもそも結婚を人生の前提としない」問題へと質的に変わったことです。経済的な支援策は前者には効きますが、後者には届きません。子どもを産み育てる家庭を持つことが当たり前だった社会は、静かに終わりつつある。晩婚化が進めば、結婚しても出産に至りにくいという生物学的な制約も重なります。米国では若いうちに卵子を凍結保存しておく選択が広がっていますが、日本ではまだ一般的とは言えません。価値観の問題、お金の問題、時間の問題が幾重にも絡み合い、人口減少に歯止めがかからない構図です。
日本に暮らす外国人は今や400万人を超えました。つまり日本の選択肢は二つです。外国人住民が地域社会の担い手として定着することを正面から受け入れ、制度を整えるのか。それとも日本人の結婚観・家族観の変化に対応した、まったく新しい家族支援を設計するのか。おそらく答えは「両方」であり、どちらからも目を背けたままの少子化対策は、もはや対策の名に値しないと私は考えます。
KOKUSAI ELECTRICの「日立離れ」8年で時価総額8倍──日立建機と対をなす教材
日経新聞は9月9日、「KOKUSAI 日立グループ離れ変貌」と題する記事を掲載しました。半導体製造装置のKOKUSAI ELECTRICは、前身の日立国際電気時代の2017年に米投資ファンドKKRが約2570億円でTOBを実施し、2018年に日立グループを離れて半導体成膜装置の専業会社として再出発。KKRの支援で研究開発と設備投資、グローバル経営を強化し、2023年10月に東証プライムへ上場しました。KKRは今年5月に残る保有株すべてを売却して8年間の関与を終え、現在の時価総額は約2兆円と、KKRの取得時点からおよそ8倍に拡大しています。
もともと技術力のある会社でしたが、日立グループの中にいた時代には、この事業に思い切った資源を集中することはできませんでした。総合電機の一部門としての優先順位と、半導体装置専業としての成長戦略は、要求される投資のスピードも規模もまったく違うからです。ファンドの傘下で腹を決めて研究開発と海外展開に張った結果が、売上・利益・時価総額の急拡大です。KKRにとっても、2570億円で買った会社が2兆円企業になったのですから、教科書に載るような投資成功例でしょう。
先日、日立製作所が日立建機の全株式を売却し、「HITACHI」の看板が世界の建設現場から消えることへの残念さをお話ししました。今回のKOKUSAIは、その同じ「選択と集中」の裏面です。送り出された側から見れば、グループを離れることは制約からの解放であり、成長の起爆剤になり得る。つまり問題はグループ再編の是非そのものではなく、「抱えている間、その事業の潜在力を最大化できていたのか」というコングロマリットの機会費用にあります。日本の大企業グループの中には、独立させて資本と裁量を与えれば化ける「社内のKOKUSAI」がまだ相当数眠っているはずです。経営者は自社のポートフォリオを、売る側の論理だけでなく、事業の側から見直してみるべきだと私は思います。
アンソロピックのアモデイCEOが「AI開発の減速」を提言──ポジショントークか、正しい警鐘か
米AI大手アンソロピックのダリオ・アモデイCEOは9月12日、「我々はフロンティアのペースを律しなければならない」と題する論考を公開し、AI業界が協調して最先端AIの開発ペースを意図的に抑えるべきだと呼びかけました。AIがAI自身を改良する「再帰的自己改善」が急速に進み、安全対策が追いつかなくなる恐れがあると指摘。7月に起きた、米オープンAIのテスト中のAIエージェントが外部プラットフォームに不正侵入した事案などを警戒の理由に挙げ、対応を誤れば半年から1年以内にAIエージェントの群れがインターネット全体を乗っ取りかねないと警告しました。同氏は外部評価機関の社内常駐を始めたことを明かし、業界共通の安全基準の設定も提案。オープンAIのアルトマンCEO、xAIを率いるマスク氏、グーグル・ディープマインドのハサビス氏ら競合トップも相次いで賛同を表明しています。
私はこの提言を、二つの目で見ています。一つは、率直に言えば懐疑の目です。開発競争の先頭を走る当事者が「みんなでスピードを落とそう」と言う時、それが純粋な安全への憂慮なのか、先行者に有利なルール作りなのかは、外からは判別がつきません。米政権側には、悲観論をあおって開発を止めれば中国を利するだけだ、という反発もあると伝えられます。実際、アンソロピック自身も、テスト中のAIが外部システムに侵入した事案を報告しており、急成長する同社への警戒感が業界内にあるとの見方も出ています。他方で、オープンAIとアンソロピックの双方から、安全面への懸念を理由に退職する研究者が出ていると報じられているのも事実です。中にいる人間が危険を感じているというシグナルは、軽く扱うべきではありません。
その上で、私が最も重要だと考えるのは、彼の提案の中にある「中立の検査役」という考え方です。企業の決算に会計監査法人が付くように、最先端のAIシステムにも、開発企業から独立した第三者のインスペクターが立ち入り、システムそのものの危険性を検証する。この「AI監査業」は、業界が本気で合意すれば成立し得る仕組みです。課題は中立性の担保でしょう。監査人が特定企業寄りになったり、検査で得た知見を持って開発側に転じたりすれば制度は腐ります。それでも、開発企業の自己申告に頼る現状よりははるかにましです。当事者の思惑がどうであれ、「作る者と検査する者を分ける」という近代社会の知恵をAIに適用する議論が始まったこと自体は前進であり、日本もこの制度設計の議論に早くから加わっておくべきだと私は考えます。
「北アイルランドはいずれ統一される」──ブラウン元英首相の発言と、人口動態が動かす国境
英国のブラウン元首相がガーディアン紙のインタビューで、北アイルランドとアイルランドは「長期的にはもちろん統一される」との見方を示しました。バーナム首相が就任後初めてベルファストを訪れ、統一を問う住民投票は「選択肢にない」と述べたことを受けた発言です。さらにトランプ米大統領も13日、両者を「一つにまとめることは歴史的に最も自然」と語り、波紋を広げました。一方、英国内政では、2月に結成された新党リストア・ブリテンに、有力ソフトウェア企業レッドゲートの共同創業者サイモン・ガルブレイス氏が約1億円を寄付したことが判明。同党はリフォームUKを離党したルパート・ロウ下院議員が率い、不法移民の大規模な国外退去などより強硬な移民政策を掲げ、7月末のグレーターマンチェスター市長選では保守党を上回る8.7%を得票しています。
北アイルランド問題の本質は、歴史と人口動態にあります。イングランドはウェールズ、スコットランドを統合し、アイルランドではプロテスタント系入植者を北部に送り込んで、カトリック系住民を数で上回る地域を作り、これを併合しました。アイルランドにとっては植民の歴史そのものです。1990年代、メジャー首相とアイルランドのレイノルズ首相による共同宣言から和平プロセスが動き出し、武力闘争は終わりました。しかし国境は残った。そして今、二つの地殻変動が起きています。第一に人口です。出生率の差により、2021年の国勢調査で北アイルランドのカトリック系人口が初めてプロテスタント系を上回りました。第二にブレグジットです。EUに残ったアイルランドと英領北アイルランドの間には、モノの通関や規制の壁という現実の不便が生じました。今投票すれば統一派が勝ちかねない──だからこそ現職の首相は「住民投票は論外」と蓋をし、引退した長老は本音を口にする。人口動態は、軍隊よりも確実に国境を動かすのです。
リストア・ブリテンの台頭も、同じ英国の地殻変動の別の顔です。ブレグジットを扇動した経緯から、私はファラージ氏率いるリフォームUKをかねて厳しく見てきましたが、そのさらに右に新党が立ち、実業界から資金が流れ込む。右派の票が割れてリフォームの勢いが薄まることを期待する計算も透けて見えますが、政治全体の重心が右へ右へと引っ張られていることは間違いありません。連合王国は、外側の国境と内側の政治の両方で、静かに軋み始めている。スコットランド独立論も含め、「英国という国のかたち」は今後10年の欧州最大の変数の一つだと私は見ています。
サウジの誤算──パイプライン攻撃でヤンブー港停止、頼みの米国は動かず
中東の焦点がサウジアラビアに移っています。サウジ東部の油田地帯から紅海側へ原油を送る大動脈「東西パイプライン」が9月10日、複数の無人機攻撃を受けて稼働を停止。ロイター通信は15日、紅海に面する輸出拠点ヤンブー港で原油の積み出しが止まったと報じました。ホルムズ海峡が事実上封鎖される中、このパイプラインは日量700万バレル規模の代替輸出ルートとして重要性が高まっていただけに、供給懸念で原油価格は一段と上昇しています。復旧には数週間かかるとの見方が放送では紹介されました。攻撃には親イラン勢力の関与が取り沙汰されています。CNNは13日、紅海情勢を巡って米国とサウジなどの間で「責任のなすり付け合い」が始まっていると報道。韓国・中央日報は16日、ムハンマド皇太子がトランプ大統領にフーシ派への軍事行動を要請したものの拒否され、米側の支援は軍事顧問の派遣など間接的なものにとどまっていると報じました。トランプ氏自身、イランとの戦闘終結は「中間選挙の後になる」と、従来の早期決着方針を事実上修正しています。
今回の事態で露呈したのは、サウジアラビア自身の防衛力の脆弱さです。世界有数の予算を投じて最新兵器を揃えてきたにもかかわらず、無人機とミサイルによる攻撃を防ぎ切れず、頼みの米国は「今はそれどころではない」と動かない。石油、マネー、外交のすべてを握るとされ「ミスター・エブリシング」と呼ばれた皇太子の求心力は、安全保障という一点で大きく揺らいでいます。ホルムズが塞がれ、その迂回路の紅海ルートまで陸と海の両方から攻撃される──湾岸の原油をアジアへ運ぶ経路が、二重に締め上げられている状況です。
そして注目すべき動きが一つ。国交のないイスラエルとサウジアラビアが、フーシ派への対処を接点に安全保障面の連携を模索し始めたと伝えられていることです。中東・イスラムの盟主を自任するサウジにとって、イスラエルとの接近は国内的にも対外的にも大きなリスクを伴う劇薬ですが、背に腹はかえられないところまで来ているということでしょう。もし実現すれば、米国が退く空白を域内国同士の連携が埋めるという、中東の安全保障秩序の書き換えです。日本にとっての含意は明確です。原油調達の中東依存とホルムズ・紅海という二つの隘路のリスクは、もはや一時的な混乱ではなく構造です。先週お話しした南米など、調達先とルートの多様化を国家戦略として加速すべき局面だと私は考えます。
グリーンランドで米・デンマークが協定──「買収」騒動は、悪くない着地点にたどり着いた
トランプ米大統領は9月18日、デンマーク自治領グリーンランドの安全保障を巡り、デンマーク政府およびグリーンランド自治政府と協定を結ぶことで合意したと発表しました。米国はグリーンランドの安全確保に必要な措置を講じる「恒久的な管理権」を獲得し、ロシアや中国など敵対国は、米国の書面による承認なしに基地の設置や機微分野への投資ができなくなります。一方で、グリーンランドの主権と領土保全はデンマーク王国に、住民の自決権はグリーンランドに残ることが明記され、デンマークのフレデリクセン首相は「主権と領土の一体性、人々の自決権を認める合意だ」と歓迎。グリーンランド自治政府のニールセン首相も支持を表明しました。9月22日に開幕する国連総会に合わせ、3政府が正式に署名する見通しです。
「グリーンランドを買収する」という発言から始まった一連の騒動は、同盟国を深く傷つけ、私も再三批判してきました。しかしこの着地点そのものは、悪くないと私は評価しています。整理すればこうなります。米国が本当に必要としていたのは領有ではなく、北極圏の安全保障、すなわち中ロをこの戦略的要衝に入れないことでした。デンマークとグリーンランドが譲れなかったのは主権と自決権です。今回の協定は、前者を米国に、後者をデンマーク側に配分した、古典的な利益の切り分けです。ワシントンでは「乗っ取りには至らなかった」と論評され、トランプ氏は「恒久的な支配」と誇り、フレデリクセン氏は「主権は守られた」と語る。双方が自国向けに勝利を宣言できる合意は、外交としては上出来の部類です。
残る論点も見ておくべきです。「安全保障の恒久的権限」の中身は運用次第で膨らみ得ますし、レアアースなど資源開発への米国の関与がどこまで及ぶのか、グリーンランド住民が将来独立を選んだ場合にこの協定がどう扱われるのかは、条文を見なければ分かりません。それでも、力ずくの併合論がテーブルから降り、北極圏における中ロ排除の枠組みが同盟国間の合意として整ったことは、この2年の迷走の出口としては上々です。北極海航路と資源を巡る競争はこれからが本番であり、日本も観測・科学協力や資源投資の形で、この枠組みに関与の足場を作っておくべきだと私は考えます。
—この記事は2026年9月20日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。






