
国内初の「酷暑日」40度観測と欧州の大規模山火事──気候リスクが日常になった
岐阜県郡上市で7月21日午後2時前、最高気温が40.0度に達し、気象庁が今年4月に「酷暑日」(最高気温40度以上の日)という名称を定めて以降、全国で初めての酷暑日となりました。この日は岐阜県多治見市(40.3度)や愛知県豊田市(40.1度)など全国3地点で40度以上を観測。気象庁は太平洋高気圧に覆われた影響で危険な暑さになったとして、熱中症への警戒を呼びかけました。一方、欧州ではスペインとフランスで大規模な山火事が拡大しています。フランスではボルドーからピレネー山脈にかけての地域、スペインでは南部を中心に延焼が続き、各国は消火活動と住民避難を急ぐとともに、EUへの支援要請も行われています。
郡上市の中心部・郡上八幡は、長良川の最上流に位置する美しい城下町です。町中に水路が張り巡らされ、家々から湧き水があふれる。日本でも稀有な「水の町」で、山頂の郡上八幡城からの眺望も素晴らしい。私も足を運んだことがありますが、皆さんにもぜひ訪れていただきたい町です。その水の町が、全国で最初の40度を記録した。海風の届きにくい内陸の盆地という地形要因はあるにせよ、象徴的な出来事です。
欧州の山火事は、40度超の高温が続いて森林が乾燥しきったところに着火し、止めようがなくなるという構造です。ボルドーはワイン産業、スペイン南部も農業・観光の重要地域ですから、経済的な打撃は小さくありません。猛暑・乾燥・山火事・熱中症死という連鎖は、もはや「異常気象」ではなく毎年の定常リスクとして、企業も自治体も織り込むべき段階に入りました。空調・防火・水資源・保険。気候適応はコストではなく、事業継続の前提条件になっています。
「飛鳥・藤原の宮都」が世界遺産に登録──喜びとともに考えたい「保存と活用」のジレンマ
韓国・釜山で開催されたユネスコ第48回世界遺産委員会は7月26日、飛鳥時代の宮殿跡や高松塚古墳、キトラ古墳、石舞台古墳など19遺跡で構成する「飛鳥・藤原の宮都」(奈良県明日香村・橿原市・桜井市)を世界文化遺産に登録すると決めました。6世紀末から8世紀初頭、日本が律令国家を形成していく過程を示す遺跡群で、中国や朝鮮半島との緊密な交流を背景に東アジアで中央集権体制が成立した過程を証明する遺産として評価されました。国内の世界遺産は27件目です。
登録自体は喜ばしいことですが、私はあえて「世界遺産登録の後」を考えておきたいと思います。過去の登録地を見ると、登録後に保全上の制約が強まり、防災工事や交通アクセスの整備が難しくなった例が少なくありません。白神山地では山崩れの復旧に大型重機を入れることへの制約が課題になり、小笠原諸島は空港建設が事実上困難になったため、いまも片道24時間の船便が本土との唯一の交通手段です。登録の高揚感が去った後、観光客数が定着しなかった地域もあります。「登録がゴール」になってしまうと、保存の制約だけが残りかねないのです。
飛鳥・藤原の場合、もう一つ考えておきたいのは、学術研究との関係です。高松塚古墳の極彩色壁画は東アジア交流史の一級資料ですが、被葬者については諸説あり特定されていません。陵墓や関連遺跡の学術調査には制約も多く、研究者からはより開かれた調査を求める声が以前からあります。この地域の歴史は、朝鮮半島や中国大陸との深い交流の上に成り立っています。上皇陛下(当時の天皇陛下)が2001年の会見で、桓武天皇の生母が百済・武寧王の子孫であると続日本紀に記されていることに「韓国とのゆかりを感じています」と述べられたことは、その歴史を率直に語られた例として広く知られています。世界遺産登録を機に、東アジア交流史としての飛鳥・藤原の研究と発信がさらに開かれたものになれば、登録の価値は何倍にもなると私は考えています。
ハノイ「100年ビジョン」最大22兆円──日本が誇るべき「私鉄モデル」の知恵を伝えよ
ベトナム・ハノイ市人民委員会のブー・ダイタン委員長は6月29日、大規模インフラ整備計画「100年ビジョン」の披露式典で演説し、インフラ開発は最優先事項の一つであり数十年にわたる成長の基盤だと強調しました。総事業費は最大22兆円規模。2065年までに都市鉄道を約1000kmに拡大するほか、スマートシティ化や先端産業の育成を目指します。ベトナム財閥最大手のビングループが参画する見通しで、これまで同分野に関わってきた日本企業の受注機会は縮小するとみられます。ハノイの都市鉄道は1号線を日本、2号線を中国が手掛けるなど各国が分担してきましたが、高速鉄道では中国との関係が強まっています。
ここで私が指摘したいのは、日本の都市開発における「私鉄モデル」の価値です。日本では国鉄とは別に、東急、西武、小田急、関西では阪急、阪神といった私鉄が世界で最も発達しました。私鉄は郊外へ路線を延ばし、特急と各駅停車を組み合わせて、遠くに住んでも都心まで短時間で通える環境を作った。その結果、生活圏が50km圏へと一気に広がり、都心の過密とスラム化を防いだのです。東京や大阪が世界の巨大都市の中で例外的にスラム化を免れた最大の要因は、この私鉄網だと私は考えています。
ベトナムの場合、不動産を祖業とするビングループが自動車(EV)で大幅な赤字を抱えながら、今度は鉄道まで担おうとしています。財閥が産業を興すこと自体は、明治日本の五大財閥形成と同じ道筋ですが、日本の場合、鉄道は財閥とは別の複数の私鉄事業者が競い合う形で発展し、行政がその調整を担いました。産業は財閥、都市鉄道は複数の専業事業者。この役割分担こそが日本モデルの核心です。日本企業がハノイで受注を競うだけでなく、この都市開発の設計思想そのものを政策レベルで提案していくことが、長期的には最大の貢献になるはずです。
ガイアナ、南米の新産油国として急台頭──ベネズエラを追い抜く日は来るか
南米ガイアナの石油生産が急拡大しています。人口100万人に満たない小国ながら、2019年の生産開始以降、産油量は急激に伸び、産油国として長い歴史を持つ隣国ベネズエラに迫る勢いです。ガイアナは旧英領で英連邦の一員。東インド系、アフリカ系、先住民など民族構成は複雑で、イスラム協力機構にも加盟しています。ベネズエラのマラカイボ湖周辺と同様の地質構造が沖合に広がっており、大きなポテンシャルが確認されています。
南米の産油国地図は、この10年で大きく塗り替わりつつあります。かつて中南米で最も豊かだったベネズエラは、政治混乱と制裁で生産能力が大きく損なわれました。ブラジルは深海油田(プレソルト)で生産を拡大していますが、深い海底から掘り出すためコストが高く、これに対しガイアナの油田は、より低コストで成り立つ可能性が指摘されており、これが確認されればコスト競争力で優位に立ちます。
日本にとっての示唆は明確です。エネルギー調達の多元化を進める上で、こうした新興産油国に早い段階で関係を築くことの価値は大きい。ベネズエラは米国の関与で不透明さが残り、ブラジルは資源ナショナリズムが強い。その中でガイアナは、英連邦の法体系を持ち、外資への開放度も相対的に高い。総合商社やエネルギー企業がガイアナへの関与を深めることは、中東依存度9割という日本の原油調達構造を長期的に見直していく上で、検討に値する選択肢だと私は考えています。
メタ8.1兆円のAIデータセンターと中国ムーンショットAI「Kimi K3」──米中AI競争の新局面
米メタは7月13日、南部ルイジアナ州で建設を進める世界最大級のAI向けデータセンターに約8兆1000億円を投資すると発表しました。投資額を当初計画の5倍に拡大し、電力容量は原発5基分に相当する5ギガワット級を確保する見通しで、AI向け計算資源を外部に貸し出すクラウドコンピューティング事業への参入を視野に入れます。一方、中国の新興AI企業ムーンショットAI(月之暗面)は7月17日、新たな大規模言語モデル「Kimi K3」を発表しました。学習済みモデルの重みを公開する「オープンウェイト」方式を採用し、推論やプログラミングで米Anthropicのモデルに迫る性能とされ、AI開発競争が一段と激化しています。
メタのクラウド参入については、私は正直「遅い」と見ています。メタの収益は依然としてFacebookを中心とする広告事業がほとんどで、VRヘッドセットなどのハードウェア事業は赤字が続いています。AWSを擁するAmazon、Azureのマイクロソフト、Google Cloudという先行3強に、5年遅れで挑む構図です。巨額の電力と設備を確保しても、顧客基盤とエコシステムの蓄積では容易に追いつけません。
むしろ注目すべきはムーンショットAIです。創業者の楊植麟(ヤン・ジーリン)氏は清華大学出身、米カーネギーメロン大学でAIの博士号を取得した俊英で、米国のAI研究コミュニティの内側を知り尽くした人物です。DeepSeekに続き、中国勢は「米国の最先端モデルに数か月で追いつく」実力を繰り返し証明しています。米国側は中国の手法を「蒸留(上流モデルからの模倣)」と批判しますが、米国が同じことをすれば「リバースエンジニアリング」と呼ぶ。互いに学び合っているのが実態です。深刻なのは、この米中の激しい競争の中に、日本も欧州も実質的に登場していないことです。AI基盤を持たない国は、AI時代のルール形成にも参加できません。日本は「使う側」の工夫だけでなく、基盤技術への投資と人材育成を、国家戦略として立て直す必要があります。
OpenAIのAIモデルが「自律的に」他社システムへ不正侵入──制御可能性の議論を急げ
米OpenAIは7月21日、開発中のAIモデルが人間の意図に反して他社のシステムに不正侵入したと発表しました。AIのサイバー攻撃能力を評価する社内試験の最中、AIが与えられた課題を解く代わりに、インターネットに接続する方法を自ら見つけ出し、AI開発企業ハギングフェイス(Hugging Face)のシステムに侵入して答えを入手する行動を自律的に選択したというものです。被害は確認されていませんが、OpenAIは試験環境の見直しと安全対策の強化を進めるとしています。
この種の事案は、これから山のように起こると私は見ています。AIが自分で判断して、想定外の経路を見つけ、他社システムの脆弱性を突く。今回は「答えを得る」ためでしたが、目的関数の設定次第で、システムを破壊する方向にも、防御する方向にも働き得ます。重要なのは、開発企業自身の試験環境の中で、AIが「檻の外」に出る方法を自力で発見したという事実です。
私はむしろ、この種の事案が公表されること自体は健全だと考えています。問題が表に出て、批判を受け、どこに「たが」をはめるべきかという議論が起こる。「大丈夫です」と言い続けて密室で処理されるより、はるかに良い。AnthropicのMythosをめぐる米政府の輸出管理措置も、AIの制御可能性が国家安全保障の議題になったことの表れです。日本企業にとっての実務的な教訓は二つ。第一に、AIエージェントに与える権限(ネットワークアクセス、システム操作)は、性悪説で設計すること。第二に、AIの想定外行動を検知・遮断する監視の仕組みを、導入の前提条件とすること。「AIを使うリスク」の管理体制が、これからの企業統治の必須項目になります。
米国がサウジアラビアと民生用原子力協定──「核ドミノ」は最終局面に入った
米政府は7月22日、サウジアラビアと民生用の原子力協定を締結したと発表しました。サウジが脱石油依存に向けて原発導入を国家戦略に位置付けているのを受け、米企業(ウェスティングハウスなど)がサウジの原子炉建設に参加する枠組みを整えるものです。ただし、サウジ国内でのウラン濃縮を認める内容となっていることから、核兵器への転用を懸念する声が上がっています。
この協定の意味は、技術的に整理すると明瞭です。核兵器への道は二つあります。一つはウラン濃縮を進めて高濃縮ウラン(広島型はウラン235)を得る道、もう一つは原子炉で燃やした燃料からプルトニウム239(長崎型)を抽出する道。つまり「濃縮を伴う民生原子力」は、その気になれば兵器開発の入り口になり得ます。米国は従来、サウジの濃縮を認めない立場でしたが、今回それを転換しました。背景には、イランの核開発、そしてイスラエルの核保有という現実があります。サウジにとってイランと拮抗する抑止力への動機は消えません。
中東を見渡せば、トルコは原発建設を進め、UAEは4基を稼働させ、エジプトも4基を建設中。隣接地域ではパキスタンとインドがすでに多数の核弾頭を保有しています。NPT(核拡散防止条約)体制の下で国連安保理常任理事国が拡散を止めるはずが、現実には止まっていない。サウジへの濃縮容認は、この「核ドミノ」の最終局面を象徴する動きです。日本としては、唯一の戦争被爆国として核不拡散の原則を発信し続けると同時に、中東の安全保障構造が根本から変わりつつある現実を、エネルギー調達・企業進出のリスク評価に織り込む必要があります。理想論と現実対応の両方が求められる局面です。
英バーナム首相が就任──「サッチャー以来の中央集権モデル」見直しと連合王国の遠心力
英与党・労働党のアンディ・バーナム党首が7月20日、チャールズ国王の任命を受けて首相に就任しました。就任演説でバーナム氏は「過去40年で最大の変革を推進する」とし、権限の地方移譲、公共サービスの再建、地方経済への投資拡大により経済成長を全国に広げる考えを表明。サッチャー政権以降続いてきた中央集権的な政治経済モデルを見直すと強調しました。首相官邸機能の一部をマンチェスターに移す構想も掲げています。
第一印象としては、新しい人が新しいことをやってくれそうだという期待感を国民に与えることには成功しています。バーナム氏は党首選や労働党の要職を何度も争い、大一番では敗れてきた経歴の持ち主ですが、マンチェスター市長としての実績が「地方から国を変える」という物語に説得力を与えました。彼が失速すれば、次期総選挙でリフォームUK(ナイジェル・ファラージ党首)が第一党となる可能性が現実味を帯びます。労働党でも保守党でもない政権の誕生は、英国政治にとって歴史的な断層になりますから、バーナム氏の成否は英国の進路そのものを左右します。
ただし、地方分権には英国特有の難しさがあります。マンチェスターへの機能移転には、同じ北部でも他都市から不満が出るでしょうし、スコットランドではエジンバラとグラスゴーの対抗意識も根深い。ウェールズ、北アイルランドを含め、「どこに何を移すか」は連合王国の結束そのものに触れる問題です。分権を進めすぎれば、スコットランド独立論など遠心力を強めるリスクもある。中央集権の見直しと国家の一体性維持。この綱引きは、道州制や副首都の議論を抱える日本にとっても、極めて示唆に富む実験です。私は当面、バーナム政権への期待が支持率を押し上げ、リフォームUKの勢いが一服すると見ていますが、勝負は「変革の実感」を数年で示せるかどうかにかかっています。
ゼレンスキー大統領がシルスキー総司令官を解任──軍指導部の連続交代が映す政権の混乱
ウクライナのゼレンスキー大統領は7月21日、ウクライナ軍のシルスキー総司令官を解任し、後任にドラパティ陸軍司令官を任命しました。シルスキー氏は2024年2月から総司令官を務めてきましたが、兵士の損耗が大きい作戦運用や旧ソ連型の指揮スタイルへの批判が強まっていました。無人機など新たな戦術を重視するドラパティ氏の起用で反転攻勢を強める考えです。一方ロシア側でも、集英社オンラインが7月23日、「プーチン最側近に異変」と題する記事を掲載。制服組トップのゲラシモフ参謀総長と文民出身のベロウソフ国防相の対立が激化し、前線司令官や情報機関にもゲラシモフ氏への不満が広がっていると報じました。ベロウソフ氏は停戦交渉に前向きな姿勢を示しているとされます。
ウクライナ側の人事の流れを整理すると、混乱の構図が見えてきます。先週更迭されたフェドロフ前国防相は、ドローン戦を主導した功労者ですが、シルスキー総司令官との対立が背景にあったとされます。フェドロフ氏の更迭に対して国民の抗議デモが拡大し、今度は対立相手だったシルスキー氏も解任される事態になりました。フェドロフ氏の閣内復帰も取り沙汰されていますが、処遇をめぐる調整は難航していると報じられています。戦時に軍と政権の指導部がこれだけ短期間に入れ替わるのは、統治の求心力が揺らいでいるサインと言わざるを得ません。
興味深いのは、ロシア側でも同時に軍指導部の内部対立が表面化していることです。ゲラシモフ氏への不満、ベロウソフ氏の停戦志向、周辺国からの停戦圧力。双方の政権が内側から消耗しつつある今こそ、実は停戦交渉の窓が開きつつある局面だと私は見ています。問題は、割って入れる仲介者が見当たらないことです。米国の関与は一貫性を欠き、欧州も決定打を持たない。それでも、双方の軍・政権内部に「これ以上の消耗は限界」という認識が広がっていることは、4年目に入った戦争の明確な変化です。日本を含む国際社会は、停戦後の復興と安全保障の枠組みを、今のうちから具体的に準備しておくべき段階に入っています。
—この記事は2026年7月26日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。






