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KON1142:熊本震度7・28年ぶり日米協調介入・ソニーのタムロン買収提案──国家と企業の「有事対応力」

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KON1142:熊本震度7・28年ぶり日米協調介入・ソニーのタムロン買収提案──国家と企業の「有事対応力」

2026.08.06
2026年
KON1142:熊本震度7・28年ぶり日米協調介入・ソニーのタムロン買収提案──国家と企業の「有事対応力」

熊本でマグニチュード7.1・震度7──10年ぶりの大地震が突きつけた企業防災とサプライチェーンの課題

7月28日午後4時27分ごろ、熊本県熊本地方でマグニチュード7.1の地震が発生し、宇城市と氷川町で最大震度7を観測しました。各地で建物の倒壊や道路の損壊、火災が相次ぎ、嘉島町のイオンモール熊本では地震後に大規模な爆発が発生して2階部分が崩落。日本製紙八代工場では煙突の一部が折れて倒れるなど、多くの死傷者・安否不明者が出ており、警察・消防・自衛隊による捜索・救助活動が続いています。

なぜ同じ地域がこれほど繰り返し被災するのかと思いますが、前回熊本を襲ったのは、ちょうど10年前の2016年4月です。4月14日にマグニチュード6.5、その2日後の16日に今回を上回る7.3の地震が発生し、熊本城が大きく損傷しました。ただ、前回は気温の高くない4月でした。今回は35度前後の猛暑の中での被災で、明日は40度超えも予想されています。避難生活における熱中症など災害関連死への対策が極めて重要になります。私の友人が熊本で音楽学校を運営しているのですが、前回の地震で校舎が倒れ、ようやく修復したコンサートホールの天井が今回また落ちてしまったと聞きました。被害の集中した益城町周辺では、2度にわたる打撃からの再建意欲をどう支えるかも課題です。

イオンモール熊本では、来店客の避難がほぼ完了した後に爆発が起き、従業員に被害が集中したと報じられています。犠牲となった従業員が、避難誘導を終えた後に施設内へ戻る業務指示を受けていたとの報道もあります。事実関係の検証はこれからですが、もし災害発生時に従業員を建物内に戻す判断があったとすれば、企業の危機管理として重大な問題であり、徹底的な検証が必要だと私は考えます。米国の9.11同時多発テロでも、建物全体の崩壊を想定していなかった消防士に多数の犠牲が出ました。想定を超える災害では、救助や事後対応にあたる側にこそ被害が及ぶ。この教訓を、日本企業の防災訓練とBCP(事業継続計画)に改めて組み込むべきです。犠牲になられた方々には心からお悔やみを申し上げます。

もう一つの論点は産業への影響です。この10年で熊本には半導体や自動車関連の工場集積が進み、トヨタやホンダは工場の稼働を停止、菊陽町のTSMC(JASM)も緊急対応に入りました。地震そのものの被害に加えて、サプライチェーンを通じた産業界へのダメージが全国に広がりつつあります。このクラスの地震は日本でも15年に5〜6件程度しか起きていませんが、起きれば必ず産業の急所を突く。立地分散と復旧手順の事前設計は、もはや製造業だけの課題ではありません。

円が163円台から一時157円台へ急騰──日米韓が連携した異例の円買い介入

7月30日のニューヨーク外国為替市場で、円相場が1ドル163円台後半から一時157円台まで急騰しました。円相場はこのところ約40年ぶりの安値水準に下落しており、政府は市場を牽制する姿勢を強めていましたが、今回は不意打ちの介入となりました。市場関係者の間では、日銀が追加利上げに慎重な姿勢を維持する中、中長期的には再び円安が進むとの見方も広がっています。

今回注目すべきは介入の座組みです。財務省が主導し、ベッセント米財務長官率いる米財務省、さらに韓国の通貨当局とも歩調を合わせた、これまで見たことのない「三カ国連携」のパターンで実施されました。韓国当局は30日の介入実施を認め、日本との緊密な連携を明言しています。米側にも、円が安くなりすぎれば米国のインフレと金利上昇を加速させかねないという事情があり、ベッセント長官自身が「円は著しく過小評価されている」と発言して援護しました。日米の通貨当局が足並みを揃えた円買いは、1998年以来約28年ぶりのことです。

ただし私は、この効果が長続きするとは思っていません。日米の金利差という構造が変わっておらず、10年債利回りを見れば依然として米ドルで持っている方が有利であり、円からドルへ資金が移りやすい、つまり円安になりやすい地合いは続いているからです。しかも円買い介入は日本の外貨準備を取り崩して行うため、実施すればデータに表れて必ず「バレる」性質のものです。協調介入という演出で時間は稼げますが、本質的には金利と成長力の問題です。企業の為替前提は、介入による一時的な円高に引きずられず、構造要因を軸に置くべきだと私は考えます。

インテリジェンスの司令塔「国家情報局」が発足──器はできた、問われるのは省庁の壁と人材

政府のインテリジェンス(情報収集・分析)の司令塔となる国家情報局が7月31日、発足しました。警察庁や外務省、防衛省などが収集した情報を一元的に集約・分析する機能を担うもので、内閣情報調査室を格上げした約730人体制。外交・安全保障の司令塔である国家安全保障局(NSS)と同格に位置づけられ、初代局長には前内閣情報官の原和也氏が就任しました。同日には高市首相を議長とし官房長官ら9閣僚で構成する国家情報会議の初会合も開かれ、初の指針「国家情報戦略(仮称)」の策定に着手します。

私はこの組織について、「ないよりはあった方がよい」と評価しています。これまで日本には、首相と関係閣僚が出席する会議体はあっても、各省庁の情報を横断的に総合調整する実務組織が欠けていました。その空白を埋める器ができたこと自体は前進です。

問題は運用です。日本の役所には、他省庁や他部局から届いた情報を重要視しない、共有したがらないという根深い傾向があります。一方で、中国は語学教育機関などを活用した組織的な対日情報工作を行っているとかねて指摘されており、ロシアも旧ソ連時代から要人育成型の諜報活動や、国外の離反者への苛烈な工作を続けてきました。相手はその水準で動いているのに、日本側の感度は率直に言って低い。警告情報が上がってきても「あの人はいい人だから」で流してしまうようでは、いくら組織を作っても意味がありません。寄せ集めの人事では機能しないでしょうから、私は日本もインテリジェンスのプロフェッショナルを腰を据えて育ててほしいと思います。前途多難ではありますが、統合の受け皿ができたことは評価したいと思います。

高市内閣の支持率58%に急落──女性天皇容認84%の民意と、皇室典範改正の「ずれ」

日本経済新聞とテレビ東京が7月24〜26日に実施した世論調査で、高市内閣の支持率は58%となり、前回調査から10ポイント低下しました。内閣発足後初めて6割を下回り、不支持は37%と10ポイント上昇。不支持の理由は「自民党中心の内閣だから」が41%、「政策が悪い」が35%でした。同じ調査では、女性天皇を認めるべきだとの回答が84%に達し、「女性天皇も女系天皇も認めるべきではない」は8%にとどまりました。一方、改正皇室典範に盛り込まれた「旧宮家の男系男子を養子に迎え、その子が皇位継承権を得る」仕組みについては、「適切だと思う」42%、「適切だと思わない」45%と評価が割れています。

私は今回の国会運営について、優先順位が国民の関心と大きくずれていたと見ています。国旗損傷罪の創設や皇室典範の改正は、会期を延長してまでこの時期に急ぐ必要があったのか。皇位継承は本当に差し迫った問題になった時点で議論すればよいテーマであり、養子の子にまで継承権を認める規定は極めて不適切だと私は考えます。保守色の強いテーマに力点が置かれる一方で、物価高をはじめ国民生活に対して何をしてくれたのかが見えない。この落差が支持率に表れたということです。首相の「あまり寝ていない」という発言も、かつて雪印の企業不祥事の際に経営トップの「寝ていない」発言が猛烈な批判を浴びたことを思い出させます。国民が求めているのは睡眠時間の犠牲ではなく結果です。十分に寝て、良い仕事をしてくれれば、それで十分なのです。

GPIFに国債買い増しを促す政府──「稚内信金の教訓」が当てはまるのは日銀自身である

片山財務大臣は7月10日、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)をはじめとする年金基金が日本の金融資産へさらに投資するよう後押しする考えを示しました。長期金利の上昇を受け、日本国債などへの投資拡大を促すものです。一方、日経新聞の世論調査では、年金の日本国債での運用拡大に「賛成」34%に対し「反対」が45%でした。私は、国民はなかなか正しい相場観を持っていると思います。

この文脈で見逃せないのが、同じ週に明らかになった稚内信用金庫のケースです。同信金は保有する日本国債の評価損が金利上昇で拡大したため、信金中央金庫に約200億円の資本支援を申請しました。注意すべきは、稚内信金は自己資本比率64%と国内トップクラスの健全性を誇り、本業も堅調だという点です。評価損の大半は満期まで持てば全額償還される国債であり、経営危機ではありません。それでも、将来の金利変動に備えて資本増強が必要と判断された。低金利時代に積み上げた国債が、「金利のある世界」でどれほどの重みに変わるかを示す象徴的な事例です。

では、日本国債を最も大量に保有しているのは誰か。日本銀行です。もともと中央銀行が自国国債を大量に買い入れることは「禁じ手」とされてきたのに、いつの間にか日銀が市中銀行の保有分まで飲み込み、発行残高の半分前後を抱え込みました。金利が上がれば保有債券の含み損が膨らむという、稚内信金とまったく同じメカニズムの、桁違いに大きな主体が日銀そのものなのです。私はかねてから、これを「インプロージョン(内部爆発)」のリスクと呼んで警鐘を鳴らしてきました。腹の中に抱え込んだ爆薬が、外からではなく内側から金融システムを揺るがすという構図です。小さな信金は業界の相互扶助で救済できますが、日銀を救済する仕組みはありません。その日銀の側に、公的年金までさらに国債へ寄せていくことが本当に賢明なのか。私は、この政策の方向性には相当慎重であるべきだと考えます。

タイで中国の高級EVが躍進──「日本車の牙城」も安泰ならず

タイの高級車ディーラー、ミレニアム・グループ・コーポレーション(アジア)が5月に発表した2026年1〜3月期決算は、売上高が約200億円と前年同期比73%増加しました。中国メーカーの高級EVブランド「ジーカー(Zeekr)」などの販売が好調だったことが寄与したもので、割安な価格や快適な車内空間を武器に、中国製高級EVの人気がタイで高まっています。

ジーカーを展開するのは、中国の吉利(Geely)グループです。吉利は2010年にスウェーデンのボルボを買収し、日本でもカー・オブ・ザ・イヤーを受賞するブランドに育て上げた実績があります。単なる低価格攻勢ではなく、高級ブランドの作り方を知っている企業が東南アジアに攻め込んできている。ここが重要な点です。タイはこれまでトヨタ、ホンダ、いすゞと日本車がほぼ独占的なシェアを握ってきた市場で、そこにBYDを筆頭とする中国勢が食い込み、今度は高級セグメントまで侵食が始まりました。「タイも安泰ならず」ということです。

では日本メーカーはどうすべきか。私は、これを恐れるのではなく、正面から競争すべきだと考えています。実力でぶつかってくる相手に対しては、日本企業が緊張感を持ってより良い車を作る。それが競争というものです。ただし一点、中国政府による自国メーカーへの巨額の支援については、競争条件を歪める不公平として、通商の場で毅然と是正を求めていくべきです。市場での競争は歓迎し、政府介入の歪みには対抗する。この切り分けを明確にした上で、日本勢には大いに戦ってもらいたいと私は思います。

台湾新幹線の新型車両「N700ST」が出荷──20年越しの関係修復が生んだ商談

日立製作所と東芝などの企業連合は7月30日、台湾高速鉄道(台湾高鉄)向けの新型車両「N700ST」の第1編成を、日立の笠戸事業所(山口県下松市)から台湾へ出荷しました。JR東海の最新型新幹線「N700S」をベースに台湾向けに開発したもので、停電時にも低速で自走できるバッテリーを搭載。2023年に約1240億円で受注した12編成の第一陣で、今後台湾で試験走行を経て2027年の営業運転開始を目指し、ピーク時の輸送力は25%向上する見込みです。

この商談には、実は不幸な歴史があります。台湾新幹線はもともと日本の新幹線技術をベースに建設され、車両は日本連合の700T型が採用されました。しかしその後、信号・制御システムの選定を巡る交渉過程で日台間に深い溝が生じ、この領域は欧州製が採用されるという、ちぐはぐな構成のまま長く運行されてきたのです。今回、車両更新の時期を迎えて改めて日本のN700S系車両が選ばれたことは、長い時間をかけて両者の信頼関係が修復されたことを意味します。

私は、台湾が再び日本の新幹線車両を選んでくれたことに、心から感謝すべきだと思っています。というのも、高速鉄道の技術輸出には苦い前例があるからです。かつて日本メーカーが中国に車両技術を供与した際には、その後中国側が国産化を急速に進め、類似車両を自前で展開していったという経緯があり、日本側に深い教訓を残しました。台湾についてはそうした懸念は小さく、知的財産を尊重し合える相手です。人口減少で国内市場が縮む中、鉄道インフラの輸出は日本の重要な外貨獲得手段です。信頼で結ばれた相手と長期の関係を築く。台湾高鉄はそのモデルケースになると私は見ています。

ソニーがタムロンに完全子会社化を提案──「アナログの磨き」がAI時代の戦略資産になる

ソニーがカメラ用交換レンズ大手のタムロンに買収提案を行ったことが、7月30日明らかになりました。ソニーグループは2025年12月末時点でタムロン株の15.35%を保有する大株主で、完全子会社化によりイメージング事業の強化を目指す方針です。これを受けタムロンは、社外取締役などで構成する特別委員会を設置し、提案内容の検討を開始しました。タムロンの2025年12月期は売上高851億円、営業利益166億円、純利益118億円。営業利益率19.6%という高収益の光学専業メーカーです。

私がこの案件を面白いと思うのは、レンズという事業の本質にあります。レンズはデジタル機器ではありません。ガラスを「磨く」工程が品質を決める、徹底したアナログのすり合わせ技術の世界であり、設計にもデジタル計算だけでは置き換えられない長年の光学ノウハウが蓄積されています。だからこそ、世界を見渡してもレンズ専業で高品質なものを作れる会社は極めて少なく、参入障壁が高い。高い利益率はその希少性の反映です。

そしてレンズの用途は、カメラからセンシング全般へ広がっています。セキュリティ、工場の自動化(FA)における部品や工程の画像監視、車載など、AIに画像を入力するあらゆる場面で高性能な光学系が必要になる。イメージセンサーで世界を握る「デジタル屋」のソニーが、「アナログ屋」のタムロンを取り込むことは、AI時代のセンシング事業全体を垂直統合する布石として合理的だと私は評価しています。買収規模について、私は現在の時価にプレミアムを乗せた3000億円弱から保有分15%相当を差し引いた水準であれば成立するのではないかと見ていますが、報道ベースでは約2000億円規模とされています。いずれにせよ、日本の「磨きの技術」に世界的な戦略価値がつく時代になったということです。

大塚HD、上期純利益24%増の2156億円──「知られざるポートフォリオ経営」が花開く

大塚ホールディングスが7月31日に発表した2026年1〜6月期決算は、売上高が前年同期比12.8%増の1兆3324億円、純利益は24.3%増の2156億円となりました。主力の抗精神病薬「レキサルティ」や抗がん剤「ロンサーフ」の販売が好調だったことに加え、米欧での主力薬に対する後発品参入が想定より遅れたことも寄与し、通期の業績予想を上方修正、年間配当も増額する方針です。

大塚というと、多くの人はポカリスエットやオロナミンC、ボンカレーを思い浮かべると思います。しかし実態は、開発型の医療用医薬品で日本トップクラスに入る製薬企業です。製薬会社の宿命である「パテントクリフ」。特許切れと同時に後発品が押し寄せ収益が急減する崖への対応も巧みで、買収や提携で取り込んだパイプラインを着実に収益化してきました。将来有望とされた薬が期待外れに終わることは業界では珍しくありませんが、この会社は目利きが機能しています。

さらに注目すべきはポートフォリオの厚みです。医薬品のほかに、米国サプリメント首位のネイチャーメイド(ファーマバイト社)、飲料水のクリスタルガイザー、米国トップクラスのワイナリーであるリッジ・ヴィンヤーズまで傘下に持ち、どこかの事業が崩れても他がカバーする構造ができています。派手さはないが崩れない。私は30年近くこの会社のコンサルティングに関わってきた個人的な縁もあり、役員たちの顔が浮かぶだけに、この好業績は素直に嬉しいのですが、利害を離れて見ても、大塚HDの「本業深掘り+周辺分散」のポートフォリオ経営は、日本企業の一つの成功モデルとして研究に値すると考えています。

—この記事は2026年8月2日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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