日本語/English

KON1152:ビール4社にカルテル強制調査、三菱重工は下関に1000億円、ヒョンデが北米HVで2位──競争の規律と国家の支援

TOP大前研一ニュースの視点blogKON1152:ビール4社にカルテル強制調査、三菱重工は下関に1000億円、ヒョンデが北米HVで2位──競争の規律と国家の支援

KON1152:ビール4社にカルテル強制調査、三菱重工は下関に1000億円、ヒョンデが北米HVで2位──競争の規律と国家の支援

2026.10.15
2026年
KON1152:ビール4社にカルテル強制調査、三菱重工は下関に1000億円、ヒョンデが北米HVで2位──競争の規律と国家の支援

マンション修繕談合に排除措置命令、ビール4社にはカルテル強制調査──公取委が競争の規律に本気を出した

公正取引委員会は9月28日、関東1都6県のマンション大規模修繕工事をめぐり、施工会社36社と設計コンサルタント2社に対し、独占禁止法違反で排除措置命令を出しました。設計コンサルタントが施工会社と連携してあらかじめ受注する会社を決め、他社が高い見積もり価格を提示して受注を調整していたもので、計およそ16億円の課徴金納付命令も出されています。さらに公取委は10月7日、アサヒビール、キリンビール、サントリー、サッポロビールの4社がビール類の出荷価格を事前に調整していた疑いがあるとして、検察への刑事告発を視野に入れた犯則調査(強制調査)に入りました。4社の営業担当者らが数年前から会合を開き、ビールや発泡酒などの卸売業者向け出荷価格について値上げ幅や時期を調整していた疑いが持たれています。

マンション修繕の談合は、被害者の顔が見えやすい事案です。談合で工事費がつり上がれば、住民が長年積み立てた修繕積立金では足りなくなり、修繕も建て替えもできないまま建物の老朽化が進む。地震リスクを考えれば、これは住まいの安全に直結する問題です。発注者の味方であるはずの設計コンサルタントまで談合側に加わっていた構図は悪質で、徹底した摘発を求めたい。あわせて私がかねて主張しているのは、容積率・建ぺい率の柔軟化です。韓国では老朽団地を大型マンションに統合建て替えし、戸数を増やして外部から新住民を呼び込むことで、既存住民の負担を抑えて再生させた事例があります。積立金の不足を談合摘発だけで解決することはできず、建て替えの経済性を成り立たせる制度の工夫が必要です。

ビールのカルテル疑いで注目すべきは、日本と米国の運用の落差です。米国の反トラスト法の世界では、競合他社と会合を持つこと自体が訴追リスクとされ、競合と会う際は事前に弁護士に相談してテーマを限定するのが常識です。日本では業界の担当者が定期的に顔を合わせる慣行が長く続いてきましたが、グローバル基準ではそれ自体が危険行為です。ただし、摘発の先にある風景も冷静に見ておく必要があります。価格調整の余地がなくなれば、競争力の強い企業がシェアを一気に取りにいく。かつてスーパードライでアサヒが市場を席巻したような寡占化が進む可能性もあり、それは競争の帰結として受け入れるしかありません。横並びの安定か、競争の淘汰か。日本の消費財業界全体が、この問いを突きつけられています。

三菱重工が下関に1000億円の造船新工場、国は最大400億円助成──問われる事業戦略の一貫性と支援の規律

三菱重工業は10月2日、山口県下関市の人工島「長州出島」の産業振興用地を市から取得する契約を締結しました。取得額はおよそ30億円。同社はこの土地におよそ1000億円を投じて船体ブロックの製造工場を新設し、下関造船所の一部機能を移管するとともに、傘下の三菱造船の建造能力を大幅に拡大する計画で、2030年の稼働を目指します。この投資は経済安全保障推進法に基づく特定重要物資(船舶部品)の供給確保計画として9月11日に国土交通省の認定を受けており、投資額のうち最大400億円の助成を受ける予定です。

造船回帰の方向性は理解できますが、私は経営判断の一貫性に疑問を持っています。三菱重工は長崎・香焼(こうやぎ)工場に、かつて世界最大級と言われた100万トン級タンカー対応の大型ドックを持っていました。それを数年前に地元の大島造船所へ売却しています。大型建造能力を自ら手放した後に、造船ブームと政府支援を背景に新拠点を建設する。それなら香焼を売るべきではなかったのではないか。拠点戦略の見通しとして、ちぐはぐさが残ると言わざるを得ません。

視聴者の方から「国家が守るべき産業と市場に委ねる産業をどう線引きすべきか」というご質問をいただきました。造船はまさに中間に位置する産業です。防衛艦艇の建造能力は他国に頼れず、国内に維持する必要がある。これは米国も同じ発想でしたが、米国は「防衛用だけ守る」方針の結果、商船で競争力を失い、今では艦艇の建造力にも影を落としています。防衛目的の温存だけでは産業は守れず、商業的な競争力との両輪が要るというのが歴史の教訓です。一方で日本は、かつて世界シェアの大半を握った造船業が、韓国・中国に追い上げられる過程で守勢に回りました。韓国の現代重工業には日本側が技術供与をした歴史もあり、教えた相手が積極投資で成長する間、日本は投資を怠った。責任の一端は日本側の経営判断にあります。だからこそ、国の支援には規律が必要です。助成を受けるなら、建造能力・コスト競争力の達成目標を明確にし、未達なら打ち切る。「経済安保」の名の下に予算が青天井になることこそ、長期的には産業を弱くすると私は考えています。

「副首都」の要件を定める政令へ──何のための副首都かを詰めずに器だけ作っていないか

政府は、副首都の指定要件を定める政令の案を公表しました。首都直下地震の緊急対策区域や富士山の火山災害警戒地域に含まれないこと、国内総人口の1.2%以上を占める政令指定都市があることなどを求める内容で、10月16日までパブリックコメントを実施し、今月下旬にも政令を決定・公布する方針です。

首都機能の議論には長い歴史があります。かつての「首都移転」論では福島、岐阜、奈良などが名乗りを上げ、ある県は大手シンクタンクに「国土の重心がわが県にあるから首都にふさわしい」というレポートまで作らせました。しかし世界を見渡せば、首都が国土の中心にある国はほとんどありません。ワシントンは東海岸に偏り、ロンドンもパリも偏在しています。むしろキャンベラ(シドニーとメルボルンの対抗)、オタワ(英語圏と仏語圏の均衡)、ブラジリア(リオとサンパウロの均衡)のように、新首都とは「二つの都市の綱引きの妥協点」として生まれるものです。地理的中心という発想自体が、首都立地の世界史から外れています。

今回は移転ではなく「副首都」ですが、私はまず「何のための副首都か」を詰めるべきだと考えています。最大の論拠が災害バックアップなら、致命的な問題があります。南海トラフ巨大地震では東京・名古屋・大阪が同時に被災しうるため、大阪を副首都にしても冗長性は確保できません。本当に守るべきは行政データと意思決定の継続性であり、それなら議論の起点は「庁舎をどこに置くか」ではなく「国家のデータベースとサーバーをどこに分散するか」です。災害リスクの低い北海道などへの分散、国外や、将来的には軌道上のデータセンターまで含めた設計こそが現代のバックアップ論でしょう。その上で、都市としての副首都を論じるなら、私はかねて道州制とセットで考えるべきだと主張してきました。大阪が関西州の州都として京都と一体の都市圏を形成する。そうした国の形の設計抜きに、要件の政令だけが先行することを危惧しています。

高市首相が所信表明「責任ある積極財政」──言葉の修飾では市場は納得しない

高市首相は10月5日、臨時国会の召集に合わせて衆参両院の本会議で所信表明演説を行いました。経済政策では「責任ある積極財政」を掲げ、今後5年間の国内投資の道筋を示す成長戦略実行計画を年内に策定する方針を表明。物価高対策として飲食料品の消費税率を引き下げるための法案成立に意欲を示したほか、外交・安全保障では「ルールに基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜く」と述べ、経済安全保障や防衛力強化を進める考えを示しました。

私が注目するのは「責任ある積極財政」という言葉そのものです。財政運営の世界で、拡張的な財政政策に「責任ある」という形容を付けた概念は国際的に定着していません。歴史を振り返れば、財政再建に成功した国々が取ってきたのは、歳出規律を軸とする引き締め側の運営です。「積極財政」に「責任」を冠しても、国債発行への依存という実態は変わらない。言葉の修飾と実態の乖離こそ、市場が最も敏感に見抜くものです。

タイミングも重大です。長期金利はすでに30年ぶりの3%台に乗り、過去最大の概算要求と相まって、国債の買い手確保が難しくなりつつあることは、これまで繰り返し指摘してきた通りです。この環境下で、恒久減税的な性格を持つ食料品の消費税率引き下げと投資拡大を同時に打ち出すなら、財源の説明と中期的な財政健全化の道筋が不可欠です。それを欠いたまま「責任ある」という言葉だけが先行すれば、金利上昇という形で市場が代償を要求し、利払い費の膨張がかえって政策の自由度を奪います。経営に例えれば、売上拡大計画を語る前に資金繰り表を示せ、ということです。年内に策定するという成長戦略実行計画には、歳出改革と財源の具体論がどこまで書き込まれるのか。「責任」の中身を、数字で検証していく必要があります。

ハッカー集団「キリン」中心人物を日本で拘束・独へ引き渡し、パーク24は660万件流出──1か月で延べ3億人超の漏えい

国際的なハッカー集団「キリン」の中心人物とみられるロシア国籍の28歳の男が5月に日本国内で拘束され、10月2日にドイツへ身柄を引き渡されていたことが分かりました。男はドイツの物流会社にサイバー攻撃を仕掛け、データを暗号化した上でおよそ2600万円相当の暗号資産を要求した疑いが持たれています。キリンは昨年、アサヒグループホールディングスへのサイバー攻撃で犯行声明を出しており、男はその中心人物とみられています。また駐車場大手パーク24は9月28日、カーシェアサービス「タイムズカー」のシステムが不正アクセスを受け、およそ660万件の個人情報が流出したと発表しました。氏名、住所、生年月日などが対象で、クレジットカード情報の流出は確認されていません。日本経済新聞の集計では、9月からのおよそ1か月間に公表された個人情報の漏えいは、少なくとも延べ3億人分を超えています。

キリンの件でまず問いたいのは、日本政府の対応です。日本企業が現実に大きな被害を受けた攻撃集団の中心人物を国内で拘束しながら、国内での捜査・解明のプロセスがどこまで尽くされたのか、十分な説明のないままドイツへ引き渡された。国際捜査協力の枠組み上の事情はあるにせよ、日本企業への攻撃の手口、組織の全容、再発防止につながる情報を日本自身が引き出す機会をどう確保したのか。政府には説明責任があると考えます。サイバー攻撃が経営リスクの最上位に来た時代に、「捕まえたが中身は外国任せ」では、日本企業は守れません。

パーク24の事案を含め、延べ3億人分という数字は、日本のデータ管理の構造問題を示しています。私が強調したいのは「つながっている便利さ」こそが脆弱性だということです。社内の各システムが相互にアクセスできる設計は業務には便利ですが、一点を破られれば全部が抜かれる。顧客データ、とりわけ運転免許証の顔写真やマイナンバーのような身元情報は、オンラインの利便性を一部犠牲にしてでも、ネットワークから隔離して管理する。この原則を、企業の自主努力に任せるのではなく、法律で義務付ける段階に来ていると思います。預かったデータを隔離管理できない企業は、そもそもデータを預かってはならない。韓国やデンマークのような行政デジタル先進国でも大規模漏えいが起きている今、「デジタル化と分離管理はセット」という設計思想を、日本は制度として先取りすべきです。

 

OpenAIが常時稼働エージェント「DOTS」発表、ホワイトハウスのAIは政権の主張と食い違う回答──自律AIと「真実」の関係

米OpenAIは9月29日、サンフランシスコで年次開発者イベントを開き、20以上の新製品・新機能を発表しました。新発表の「DOTS」は、利用者が目標を設定するとAIが必要な作業を自ら判断し、専用のクラウド上のコンピューターや連携アプリを使って継続的に作業を進める常時稼働型のエージェントです。一方、AIの暴走が問題視される中、最上位モデルは安全基準を満たさなかったとして公開が見送られました。同じ頃、米ホワイトハウスの技術チームは、政府の公式情報をもとにAIが質問に回答する行政サービスを開始しましたが、2020年大統領選について「広範な不正が選挙結果を変えたことを示す証拠はない」と回答し、気候変動の主因を「温室効果ガスの排出」と説明するなど、サービス開始直後からトランプ政権の主張と食い違う回答が相次ぎました。

DOTSの発表は、AIが「質問に答える道具」から「仕事を預かる主体」へ移る流れが本格化したことを示しています。目標だけ与えれば、計画を立て、クラウド上の計算資源とアプリを使って作業を続ける。前回取り上げたメタの「ミューズ」が消費者の買い物や旅行を代行するものだとすれば、DOTSは業務そのものの代行に踏み込みます。同時に重要なのは、OpenAI自身が最上位モデルの公開を安全基準未達で見送ったことです。豪政府の医療情報への不正アクセスや他社システムへの自律侵入など、同社のモデルをめぐる事案が続いた後だけに、「出せるが出さない」という判断を市場に示したこと自体、規制圧力の高まりを織り込んだ経営判断と読めます。

ホワイトハウスのAIをめぐる顛末は、現代の寓話のようです。政府公式データで学習させたAIが、政権の政治的主張ではなく、データに基づく回答を返した。そして政治的に扱いにくい質問への回答は制限される方向になる。構図としては、体制に不都合な話題には「お答えできません」と返す中国のAIと、鏡写しになってしまいます。ここから得るべき教訓は、AIの回答品質は「学習データと検証プロセス」で決まるのであって、運営者の意向で答えを曲げれば、その瞬間にツール全体の信頼が崩れるということです。企業が社内AIやカスタマーサービスAIを導入する際も同じで、経営に都合の悪い回答を恣意的に止めれば、従業員も顧客もそのAIを信用しなくなります。自律化が進むほど、「AIに正直をやらせ続ける統治」が運営者の側に問われるのです。

 

ヒョンデが北米HVシェアでホンダを抜き2位に、BMWは「ノイエ・クラッセ」で立て直し──世界の自動車地図がまた動いた

韓国ヒョンデ(現代自動車)の北米でのハイブリッド車(HV)販売が前年同期比でおよそ8割増加し、HVの販売シェアは18.4%と、ホンダを初めて上回ってトヨタに次ぐ2位に浮上しました。中東情勢に伴う原油高でHV需要が高まる中、ヒョンデはHVの車種を拡充し、2030年までに北米での新車販売の半分をHVにする計画です。一方、独BMWは、EVを根本から再設計した次世代EV「ノイエ・クラッセ」のエントリーモデルを2028年に欧州で発売する計画を明らかにしました。同社はこの3年で売上・利益が減少傾向にあり、特にアジア・中国での落ち込みが、MINIブランドを含むグループ業績の重荷になっています。

ハイブリッドは、トヨタのプリウス以来、日本勢が四半世紀かけて築いた「お家芸」です。EV一辺倒の揺り戻しで世界的にHV需要が再評価される中、その成功方程式に正面から食い込んできたのがヒョンデ・起亜(KIA)グループです。同グループは一度米国市場でつまずき撤退した過去がありますが、兄弟ブランドを使い分けながら品質と商品力で信頼を取り戻し、ついに日本勢の一角を崩しました。私がオーストラリアで見てきた光景。日本車がヒョンデ・KIAに追い上げられ、そのヒョンデ・KIAが今度は中国勢に追い上げられる、という「第二幕」が、北米で始まっていると見るべきです。ホンダにとって北米HVは収益の柱ですから、この逆転は看過できない警報です。

BMWの苦境は、プレミアムブランドのEV時代の難しさを象徴しています。エンジンの官能性で差別化してきたブランドが、EVで「らしさ」をどう出すのか。ポルシェですら、伝統の形に電動の中身という組み合わせで顧客の心をつかみ切れていません。しかもBMWの業績悪化の主因は中国市場の縮小で、部品調達では中国製への依存が進むという、難しい二面性を抱えています。ノイエ・クラッセ(新しいクラス)は1960年代にBMWを再生させた歴史的車名の再登板であり、社運を懸けた勝負です。日本勢への示唆は明確です。HVの優位は永続しない。韓国勢がHVで、中国勢がEVで挟み込んでくる構図の中で、次の10年の「お家芸」を何にするのか。各社の戦略の解像度が問われています。

 

英バーナム首相が「ブレグジットは誤り」、EU再加盟も選択肢に──連合王国の遠心力は止まるか

英国のバーナム首相がブレグジット(EU離脱)を批判し、EUとの関係再構築から再加盟までを選択肢として検討する考えを示しました。英国にとってEUは輸出・輸入とも最大の貿易相手であり、離脱後は通関・検品などの実務負担が貿易の足かせになってきました。バーナム氏の政敵であるリフォームUKのファラージ党首はブレグジットを主導した人物であり、離脱の功罪を正面から争点化する構えです。

ブレグジットの再評価は、感情論ではなく数字の問題になりつつあります。最大の貿易相手との間に関税手続きと検査の壁を自ら築いた結果、英国企業は恒常的なコストを払い続けています。世論調査でも離脱を悔やむ声が多数派になって久しい。とはいえ、再加盟への道は平坦ではありません。安易に再投票を持ち出せば、離脱派の強い反発で国論が再び割れる。バーナム氏が「選択肢」という慎重な言い方にとどめているのは、その政治的な火力を熟知しているからでしょう。

私がブレグジット成立の日からBBCなどで指摘してきたのは、連合王国そのものの分解リスク、すなわち「イングランド・アローン(イングランドだけが残る)」シナリオです。北アイルランドは、EU加盟国であるアイルランドとの一体化への引力を常に抱えています。スコットランドは独立住民投票で二度否決されたものの、「独立すればEUに入れる」という選択肢がある限り、遠心力は消えません。スコットランドが独立してEU加盟で繁栄する姿が見えれば、ウェールズも続きかねない。つまり英国にとってEUとの関係修復は、貿易の損得を超えて、国家の一体性を保てるかどうかの問題なのです。バーナム政権が地方分権と対EU関係の再構築をどう両立させるか。国のかたちを作り直す実験として、引き続き注視に値します。

韓国の対米投資55兆円をめぐり「合意しなければ負担2倍」──対米交渉の落差が映すもの

昨年米韓が合意したおよそ55兆円規模の韓国による対米投資について、トランプ大統領は9月30日、韓国が最大およそ31兆円を投じる3つの事業を発表しました。これに対し韓国政府は、そのうちアラスカLNG事業については検討に着手する段階で、投資するかどうかも投資規模も決まっていないと説明。するとトランプ氏は、早期に合意しなければ負担額を2倍に引き上げるとの考えを示しました。

相手国政府が「未決定」と言っている案件を、投資決定として一方的に発表し、異を唱えれば「2倍にする」と迫る。通常の外交プロトコルから大きく外れたやり方であることは言うまでもありません。しかし、嘆いていても始まらないのがトランプ時代の現実です。注目すべきは、同じ圧力環境下での日韓の差です。日本も5500億ドル規模の対米投資枠組みを抱えていますが、案件の選定や官民の役割分担を事前に米側とすり合わせる実務プロセスを積み重ねており、今のところ公開の場で「言った・言わない」の応酬になる事態は避けられています。韓国は枠組み合意を先行させた結果、個別案件の解釈権をトランプ氏側に握られ、国内説明と対米関係の板挟みに陥りました。

ここからの教訓は、対米経済外交は「大きな数字の約束」で終わらせてはならない、ということです。総額の合意は政治ショーとして消費される一方、拘束力の設計。何を、いつ、どの主体が、どんな条件で投資するのか。を文書で固めない限り、数字は相手の都合で読み替えられます。これは企業間のM&AやJV交渉と同じで、基本合意書の段階で詳細を曖昧にしたまま祝杯を上げると、後で高くつく。日本企業にとっても、対米投資の政治的な見える化圧力は今後強まるでしょう。「発表される数字」と「コミットする中身」を切り分けて管理する契約の技術が、国家にも企業にも求められています。

—この記事は2026年10月11日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

関連コンテンツ

Lifetime Empowerment 学び続ける世界に、力をLifetime Empowerment 学び続ける世界に、力を

より詳しい情報をご希望の方は、
お問い合わせフォームより問い合わせください。