
米30年債利回りが一時5.337%、19年ぶり高水準──「ベッセント3つの誤算」と日米同時金利上昇の危険水域
8月18日の米債券市場で、長期金利の指標となる30年物国債の利回りが一時5.337%と、2007年以来およそ19年ぶりの高水準を付けました。原油高によるインフレや米財政赤字拡大への懸念が背景です。これを受け米財務省は19日、残存期間10〜30年の国債について、流動性支援のための買い戻し規模を1回あたり20億ドルから少なくとも40億ドルへ倍増すると予告外に発表。利回りは一時5.2%を割り込みましたが、翌日には上昇分をほぼ失い、再び5.2%台に戻りました。日経新聞は22日、「ベッセント3つの誤算」と題する記事で、原油高インフレ、高市政権の積極財政を受けた日本の金利上昇、そして関税政策への違憲判決という3つの想定外により金利抑制効果が失われたと指摘し、必要なのは小手先の規則ではなく財政再建と海外投資家の呼び戻しだと論じています。
私はこの状況を、日米が同時に危険水域へ入りつつあるシグナルだと見ています。買い戻しを倍増しても1日で効果が消えたという事実は、市場が問題の本質を「流動性」ではなく「財政」だと見抜いていることを意味します。40兆ドルに迫る米国の政府債務と、その利払い負担。テクニカルな操作で糊塗できる局面は過ぎました。
そして他人事ではないのが日本です。日本の10年債利回りも約30年ぶりの水準まで上昇してきました。長く世界最低水準に張り付いていた日本の長期金利が、いまやドイツに近い水準まで来ている。利回りが上がるということは、その値段でなければ買い手がつかないということです。GDP比200%を超える債務を抱え、日銀が発行残高の半分近くを抱え込んだ日本にとって、金利上昇は利払いの膨張と日銀の含み損拡大に直結します。私が長年「インプロージョン(内部爆発)」と呼んで警鐘を鳴らしてきた構図。外からの攻撃ではなく、腹の中に抱え込んだ国債が内側から金融システムを揺さぶるリスクが、いよいよ現実味を帯びてきました。米国の長期金利は、日本の財政と市場を映す鏡でもあります。経営者は自社の借入金利や年金運用の前提を、金利のある世界どころか「金利が急変しうる世界」を想定して見直すべき局面だと私は考えます。
サントリー鳥井社長が消費減税に反対を表明──経済界に広がる「言いにくい正論」
サントリーホールディングスの鳥井信宏社長が、2027年4月から実施予定の食料品の消費税率1%への引き下げに反対を表明しました。社会保障の安定財源が損なわれることに加え、自社が関わる外食産業は税率10%のまま据え置かれるため利用控えが生じかねないこと、税率変更に伴う事業者のシステム改修負担などを理由に挙げています。報道各社が実施した食品・小売大手トップへのアンケートでも、反対や慎重意見が賛成を大きく上回り、ローソンの竹増貞信社長も将来世代への先送りにならないよう慎重な議論を求めています。
私は、鳥井さんはよくぞ言ってくれたと思っています。酒類は減税対象外とはいえ、サントリーは食品飲料の大手であり、本来この政策の「恩恵側」に立つ企業です。その当事者が、目先の追い風よりも財源の持続性と制度の歪みを問題にした。経済界の多くは政権の勢いに押されて沈黙していますが、内心では同じ懸念を抱えている経営者が多数派でしょう。店内で買えば1%、外食なら10%という線引きは、軽減税率で経験した混乱を一段と拡大再生産しますし、2年後に税率を戻す際にはもう一度システム改修と価格改定の負担が発生します。
前回もお話しした通り、この減税は連立合意の公約であることを唯一の論拠に押し切られた政策です。しかし公約であることと、政策として精緻であることは別の話です。自民党内にも制度設計を見直すべきだという声が広がっていると伝えられており、財源の議論は年末の予算編成に持ち越されたままです。経済界からの具体的な異論が出てきたこの機を捉えて、給付との組み合わせ方、対象範囲、出口の設計をもう一度実務の目で詰め直すべきだと私は考えます。政策への異論が「空気」で封じられる状態は、企業経営で言えば取締役会が機能していない状態と同じです。
湯沢町の中古マンションが値上がり率で全国上位に──「負動産」再評価は10年前から見えていた
新潟県湯沢町の中古マンション価格が上昇しています。70平米換算の推定価格は339万円と前年から上昇し、値上がり率では東京都心の区部と並ぶ全国トップクラス。日経新聞も、買い手がつかず「負動産」とまで呼ばれた越後湯沢のリゾートマンションが再評価され、値上がり率で全国首位に立ったと報じました。バブル期に建設された物件が長らく超低価格で取引されてきましたが、スキーリゾートを訪れる外国人観光客の増加、首都圏マンション高騰による割安感、そして東京から新幹線で約1時間強というアクセスが見直されています。
この動きについて、私は10年以上前から実践してきた張本人として申し上げたい。当時、越後湯沢の駅前の不動産店を覗くと、数百万円の物件がずらりと並んでいました。よく見ると、その多くは十数年分の固定資産税等の滞納を精算すれば実質タダ同然という代物です。バブル期に1億5000万円だった高層階の物件を、私は1000万円台前半で購入し、1800万円ほどかけて内装を全面的に作り替えました。設計者が「越後湯沢にこんな部屋はありません」と次の顧客に見せたがったほどの仕上がりです。眼下に山々が広がり、館内には温泉も温水プールもある。子どもたちは今もそこを拠点にスキーやスノーボードを楽しんでいます。
ポイントは、建物の躯体と管理状態を見極めることです。同じ湯沢でも、管理が崩れて人の住まないゴーストタワーと、管理組合が機能しスキーバスが客を拾いに来る物件とに、はっきり明暗が分かれています。買うべきは後者であり、そして安く買った分を思い切って内装に投資することです。躯体は一流、内装は自分仕様の一級品、取得価格は都心の数十分の一。都心の高騰したマンションを追いかけるより、こうした「時間差の資産」に目を向ける方がはるかに合理的だというのが、実践者としての私の結論です。首都圏から1時間圏のリゾート再生は、個人の資産戦略としても、地方の地域戦略としても、まだ入り口に立ったばかりだと思います。
ユニツリー初値629%高、CXMTは時価総額83兆円でテンセント超え──中国市場の「大化け」上場ラッシュ
中国の資本市場で、テック企業の記録的な上場が相次いでいます。人型ロボットの宇樹科技(ユニツリー・ロボティクス)は8月19日、上海証券取引所の科創板に上場し、初値は公開価格の7倍超となる629%高を記録。終値でも460%高の845元、時価総額は約7兆円に達しました。人型ロボット企業のIPOは中国本土市場で初です。一方、DRAM大手・長鑫存儲技術(CXMT)の親会社は7月27日の上場からわずか17日で時価総額約83兆円に達し、テンセントを抜いて中国企業の首位に立ちました。また、AIエージェントで注目された中国発のマナス(Manus)は、米メタによる約3000億円の買収を中国当局が国家安全保障上の理由で撤回させたことを受け、独立企業として運営を再開すると発表しています。
ユニツリーの王興興CEOは1990年代生まれの36歳。同社のロボットは走り、跳び、宙返りし、圧倒的な運動性能と学習の速さで世界の注目を集め、米誌タイムの表紙も飾りました。二足歩行ロボットといえば、かつてはホンダやソニーが世界をリードした日本のお家芸です。それが今や、ユニツリーを筆頭に中国に200社規模の裾野が広がり、政府が戦略分野として全面支援する構図になりました。CXMTの83兆円という数字も、AIメモリー需要と国策支援への期待が凝縮されたものです。
もっとも、冷静に見るべき点もあります。人型ロボットの実用的な用途はまだ研究・教育が中心で、629%という初日の急騰は、実力というより「国家が推す産業に乗り遅れたくない」という投資家心理の反映です。個人投資家の応募倍率が数千倍に達したという事実は、過熱のシグナルでもあります。他方で、Manusの一件が示すように、米中は有望企業の帰属を巡って買収の巻き戻しまで行う段階に入りました。技術・資本・人材の分断が進む中で、中国は国内市場で自前のチャンピオンを育てて資金を集中させる回路を作り上げつつある。バブルの気配を差し引いてもなお、この「国策×市場」の資金循環の勢いは、日本の資本市場が学ぶべき点を含んでいると私は考えています。
GoProが売上3割減、人員23%削減へ──お掃除ロボットと同じ道をたどるのか
米アクションカメラ大手GoProが8月10日発表した2026年4〜6月期決算は、売上高が前年同期比31%減の約167億円、最終損益は約81億円の赤字となりました。中国勢がシェアを伸ばしカメラ販売が低迷していることが要因で、同社は経営再建に向け従業員の約23%を削減するほか、会社売却や他社との合併の検討を進めています。
GoProは一世を風靡した会社です。私たちもバイクツーリングやダイビングでずいぶん使いました。しかし、後から来た中国勢は単に安いだけではありませんでした。インスタ360は360度をまるごと撮っておき、後から欲しいアングルだけを切り出すという発想で、撮影ではなく「編集体験」を設計し直した。ドローンのDJIも同様の機能を備えたカメラを展開しています。息子がジェットスキーで撮った映像を編集するのを見ていても、この使い勝手の差は歴然です。ハードの性能競争をしているつもりの先行者を、後発が製品の定義そのものを変えて抜き去る。ロボット掃除機で起きたことと同じ構図です。
この事例から日本企業が汲むべき教訓は、「機能の改善」と「体験の再定義」は別物だということです。GoProはカメラを良くし続けましたが、ユーザーが本当に欲しいのは良いカメラではなく、良い思い出の映像でした。そこに気づいた側が、画質や堅牢性で劣っていても勝ってしまう。日本の製造業が得意とする擦り合わせ型の改善は、製品の定義が固定されている限りは強い武器ですが、定義ごと動かされると一夜にして無力化します。自社の製品は今、何の「体験」を売っているのか。GoProの転落は、それを問い直す格好の教材だと私は思います。
ASMLという「見えざる巨人」──EUV独占の次に来る、X線という日本の勝機
MITテクノロジーレビューは、世界の半導体を支えるオランダASMLの覇権を分析する記事を掲載しました。ASMLは2001年ごろ、ニコンやキヤノンも研究していたEUV(極端紫外線)を使った露光技術の開発に乗り出し、両社が撤退する中、16年の歳月と約1兆5000億円を投じて実用化に成功。現在、中国が独自のEUV開発を急ぎ、X線や原子ビームを使う代替技術の新興企業も登場していますが、量産化の壁は高く、当面はASMLの技術的優位が続くと分析しています。同社は売上高の3分の1が利益という驚異的な収益性を誇ります。
最先端の半導体は、EUV露光装置なしには作れません。つまりASMLがこの巨大な装置を「誰に売るか」が、TSMCやサムスンといった顧客側の勝敗まで決めてしまう。一民間企業が産業全体の秩序を規定するという、極めて特異な構造です。3割を超える利益率は、この独占の対価にほかなりません。日本にとって悔しいのは、ニコンもキヤノンも露光装置でASMLと世界を争っていた当事者だったことです。EUVという「16年かかる賭け」を降りた判断が、四半世紀後にこれほどの差になりました。
ただし私は、この覇権も永続はしないと見ています。微細化の次の段階では、EUVよりさらに波長の短いX線の領域に踏み込む可能性があり、そうなれば装置の設計思想は根本から変わります。そしてX線発生装置の技術では、リガクをはじめ日本勢に厚い蓄積がある。EUVのラウンドで日本は完敗しましたが、技術の転換点では必ず主役交代のチャンスが巡ってきます。重要なのは、次の16年の賭けを今度は降りないことです。国の半導体支援は、工場誘致だけでなく、こうした次世代の基盤技術に長期の資金を張ることにこそ向けるべきだと私は考えます。
「現在は1920年代に似ている」──2兆ドルを運用するノルウェー基金トップの警告
ノルウェー政府年金基金を運用するノルゲス・バンク・インベストメント・マネジメントのニコライ・タンゲンCEOは8月11日、世界的に市場が崩壊した場合、運用する2兆ドル規模の資産の価値が大きく損なわれる可能性があると警告しました。タンゲン氏は、基金の資産が2017年から倍増した背景には低インフレ・低金利という投資家に有利な環境があったとした上で、現在の経済環境は世界恐慌に向かった1920年代に類似していると指摘。多くのリスクが存在するにもかかわらず金融市場が上昇を続けていることに警戒感を示しました。
この基金は、北海油田の収入を原資とする世界最大級の政府系ファンドです。国民の給料から保険料を徴収するのではなく、国家の資源収入を将来世代の年金として運用するという、日本とはまったく違う設計になっています。そして特筆すべきは、保有する全銘柄と保有比率を公開していることです。彼らの分析力は本物で、私の記憶に残っているのは、日本でZOZOがまだ広く知られる前から同社の大株主に名を連ねていたことです。後になって高収益企業だと世間が気づく銘柄を、静かに先回りして仕込んでいる。サムスンやASMLといった世界の中核銘柄もしっかり押さえています。
だからこそ、その運用トップが「1920年代に似ている」と口にした意味は軽くありません。金利上昇、地政学リスク、貿易の分断、そして資産価格だけが上がり続ける市場。強気の当事者ほど、本来こうした警告は口にしたがらないものです。個人投資家への私の助言はシンプルです。第一に、この基金のポートフォリオは全て公開されているのだから、世界最高水準のプロの判断を無料の参考書として使うこと。第二に、彼ら自身が暴落時の資産半減シナリオを公然と語っている以上、自分のポートフォリオも「上がり続ける前提」を外して点検すること。前段の金利のトピックと合わせて、今は攻めより守りの設計を確認すべき局面だと私は考えます。


