
欧州熱波で超過死亡がスペイン・フランスで各1000人超──日本製エアコンへの追い風
スペインの保健当局は7月1日、先月の熱波による健康被害が原因で、平時より著しく死亡数が増加する超過死亡が1000人を超えたと発表しました。またフランス保健当局も、先月24日以降の国内の超過死亡数がおよそ1000人に上る見通しを公表しています。これを受け、欧州委員会は極端な気候に耐えられるよう社会で備える必要があるとし、年内に総合対策を取りまとめる考えを示しました。
フランスやスペインは、エアコン普及率が2割程度にとどまっており、元来エアコンが必須ではなかった環境に加え、室外機を問題視する景観規制やCO2削減の観点から冷房規制を優先してきた経緯があります。ドイツもエアコンなしでも過ごせるという意見が根強い国でしたが、この2年ほどで状況は明らかに変わりました。フランスの一部スーパーで中国製エアコンが売り出された際には、1000人以上が押し寄せて奪い合いになるといった光景も報じられています。買えなかった人は扇風機で凌ぐしかない。
私はここに、日本のエアコンメーカーにとっての明確な機会があると見ています。日本のエアコン技術は、省エネ性能とCO2排出面で世界トップ水準です。ヒートポンプ技術、インバーター制御、冷媒管理といった要素技術で日本メーカーが持つ強みを、欧州向けに「気候規制と両立するエアコン」として提案していく余地は大きい。人命保護と気候対策の両立という論点で、日本企業が積極的に欧州市場に切り込む戦略を検討すべき局面です。
ブラックストーン、日本のデータセンターに4.8兆円投資──「対日投資の壁」は依然として残る
米大手投資ファンドのブラックストーンは、日本でデータセンターの開発投資を加速する方針です。ジョナサン・グレイ社長兼最高執行責任者(COO)は日本経済新聞の取材に、今後3〜5年で300億ドル(約4兆8000億円)を投資すると語りました。AI開発で拡大する需要を取り込む狙いです。日本は電力供給が比較的安定しているほか、半導体や精密機器の産業基盤があり、AI需要の拡大余地が大きいことなどが背景で、データセンターだけでなく発電設備や送電網など周辺インフラへの投資も視野に入れているとみられます。ブラックストーンの総運用資産残高は1兆3000億ドル超、稼働中のデータセンターポートフォリオは800億ドル規模に達しています。
一概に比較できませんが、、韓国や米国に比べれば投資額の桁が違います。同じ週に韓国のサムスン電子とSKハイニックスが発表した半導体投資額は合計約83兆円。日本への4.8兆円と比べると、実に一桁以上の差があります。米国のAIインフラ投資はさらに桁が違います。ブラックストーンほどの巨大ファンドが日本に4兆円台の投資を打ち出したこと自体は前向きな話ですが、これで「日本にお金が集まっている」と喜んでいいレベルではありません。
日本が海外資金を本格的に呼び込むには、規制緩和以上の構造改革が必要です。私はかねてから、道州制の導入によって各地域が独自のルールで投資を呼び込める仕組みを提案してきました。米国では、投資家が「どの州に行くか」で条件を比較検討します。日本では全国一律のルールしかないため、地域間の競争が働かず、結果として資金流入も限定的にとどまる。九州が独自の税制と規制を打ち出して外資を呼び込めば、四国も愛知も対抗策を打つ。こうした「地域間競争」を可能にする制度設計が、対日直接投資の残高を政府目標の120兆円へ引き上げる本質的な条件だと私は考えています。
キオクシア従業員600人に平均10億円のストックオプション──「社員=オーナー」の日本での成功例
キオクシアホールディングスの株価急上昇を受け、同社の従業員に付与されたストックオプションが、1人当たり10億円を超える見通しであることが明らかになりました。2018年に米ベインキャピタルらのコンソーシアムが同社を買収した際、役員だけでなく部長・課長クラスを含む約600人にストックオプションを付与したもので、権利行使価格は1株当たり1667円〜2600円。時価総額は6月22日に一時60兆円を突破し、日本の上場企業で首位となりました。付与された約700万株分のオプション価値は約7900億円に達し、1人平均10億円以上の含み益(税引前)が発生しています。日本では前例のない従業員との利益共有の成功例として注目されています。
私はこの事例を、ベインキャピタルの手腕として高く評価しています。買収先を「投資リターンだけで刈り取る」のではなく、「役員だけでなく現場の管理職クラスまでオーナーとして巻き込む」という判断が、10年近い時間を経て大きな成果につながりました。サラリーマンが生涯で得る収入がおおむね3億円前後と言われる中、その3倍以上の利益を課長クラスの社員が得られる可能性がある。これは「会社が社員を所有する」のではなく、「社員が会社の成長にオーナーとして参加する」という思想の実践例です。
キオクシアの前身は東芝メモリで、NAND型フラッシュメモリ、垂直方向に積み上げる3次元メモリ(BiCS FLASH)といった技術は、いずれも東芝のエンジニアが発明したものです。技術者が残り、AIの推論需要でNAND市場が急拡大し、時価総額60兆円まで登り詰めた。日本の技術資産が海外ファンドの経営判断と結びついて花開いた形です。現在は太田裕雄社長が経営を率い、財務戦略は元三菱商事・元日立で豊富な国際経験を持つ河村芳彦副社長兼CFOが担当しています。2027年度初めの米国預託証券(ADR)上場も視野に入れており、株主還元策の具体化と併せて、次のフェーズに入りつつあります。日本企業のガバナンス改革の議論でも、この事例は繰り返し参照されるべきだと考えています。
世界半導体投資競争──マイクロン広島1.5兆円、韓国83兆円、独インフィニオン9000億円
半導体産業への大型投資が世界で相次いでいます。米マイクロン・テクノロジーは7月4日、広島県東広島市の工場で新たな製造棟の起工式を開き、同社は昨年同工場に約1兆5000億円を投資する計画を公表済みです。データの一時記憶に使うDRAMや高帯域幅メモリ(HBM)を増産する計画です。一方、韓国SKハイニックスの株価は先月22日、前月比6%高の1株291万9000ウォンで終値ベースの時価総額約210兆円となり、サムスン電子を上回って韓国総合株価指数(KOSPI)で首位に立ちました。SKハイニックスとサムスン電子は先月29日、韓国国内で半導体工場を新たに4か所建設する計画を発表。HBMを中心に総額約83兆円の投資を打ち出し、AIデータセンター向け先端半導体で世界を引き離す構えです。ドイツのインフィニオン・テクノロジーズも東部ドレスデンで約9000億円の新工場を稼働させ、EV・データセンター向けパワー半導体でシェア首位(世界12%)の座を固める考えです。
韓国のイ・ジェミョン(李在明)大統領が両社のトップとともに83兆円投資を発表した際、注目すべき点は投資先を「南西部(光州=クァンジュ周辺)」に集中させると明言したことです。これまで韓国半導体投資はソウル近郊や南東部(プサン周辺)が中心でしたが、南西部は歴史的に開発が遅れた地域でした。政治的意思を反映した「地域均衡発展」型の投資戦略で、韓国が「大統領・財閥・産業政策」を一体で回している構図がよく分かります。日本の「戦略17分野に370兆円」計画とは、官民の実行性という点で大きな差があります。
パワー半導体は、EV・データセンター・産業機器などあらゆる領域で使われる基幹部品ですが、世界シェアが非常に分散しており、トップのインフィニオンでも12%程度です。日本ではロームや三菱電機など複数社が事業を展開しており、事業統合の構想も出ていましたが、現時点では大きな統合が実現していません。世界の巨大投資が本格化する中で、日本のパワー半導体4〜5社が別々に立ち向かうのは規模の面で厳しい。統合による量産効果とR&D力の集約が、日本半導体産業の生き残りに不可欠だと私は考えています。
フォルクスワーゲンが最大10万人リストラ・独4工場閉鎖検討──収益源だったポルシェの不振が痛手
ドイツ経済誌『マネジャー・マガジン』電子版が6月26日、独フォルクスワーゲン(VW)のオリバー・ブルーメCEOが最大10万人の人員削減とドイツ国内4工場の閉鎖を含む再建策を経営会議に提示したと報じました。同社の従業員数は現在約65万7000人で、10万人削減は全体の約15%に相当します。閉鎖候補はハノーバー、エムデン、ツヴィッカウのVW拠点、およびネッカーズルムのアウディ工場。7月9日の監査役会で協議される予定で、2030年までに一般管理費を110億ユーロ(約2兆円)削減し、5年間の設備投資を約15%圧縮する計画も含まれます。
VWは中国市場では長年、米GMと世界1、2位を争ってきましたが、中国のEVシフトが急速に進む中で販売が失速。ドイツ本国でもEV需要が伸び悩み、二重の圧力を受けています。より痛いのは、稼ぎ頭だったポルシェの収益力低下です。かつては他ブランドの利益が薄くてもポルシェが1社で稼いでくれるという構造でしたが、そのポルシェが販売台数を減らし、利益もほとんど出ない状態に近づいています。ポルシェのEV路線が既存の顧客層に必ずしも歓迎されなかった可能性も指摘されています。
VWグループ内では、比較的健闘しているのがチェコのシュコダ(Škoda)やスペインのセアト(SEAT)といった「ローエンド寄り」のブランドです。売れ筋が高級車から手頃な価格帯へシフトしている構造変化を、VW本体は取りこぼしてきました。これはトヨタと世界販売台数1000万台を競った時代のVWとは、まったく違う姿です。VWの株式の約20%をニーダーザクセン州政府が保有し、監査役会の半数を労働組合が占める「共同決定」制度の下で、機動的なコスト削減が長年タブー視されてきた統治構造の問題も、今回の局面に凝縮されています。日本の自動車メーカーにとっても、ヨーロッパ市場と中国市場の同時失速というシナリオを直視すべき事例です。
ウクライナ戦争、両軍の死傷者200万人超──ロシア国内で燃料不足、戦況の主導権が移り始めている
米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)が7月1日公表した報告書によると、ロシアによるウクライナ侵攻の開始から先月までの両軍の死傷者と行方不明者が最大200万人を超えたことが明らかになりました。うちロシア側の死者は約50万人、ウクライナ側の死者は約15万人と一般に推定されています。報告書はロシアが軍事的主導権を失い、犠牲者の増加や経済的負担に直面していると分析したほか、ウクライナ軍がAIを活用した無人機攻撃を強化し、前線のロシア兵の死傷率が急上昇していると指摘しました。プーチン大統領は先月28日、ロシア国内で燃料不足が発生していることを初めて公に認めました。ウクライナ軍がロシア国内の製油所や石油関連施設へのドローン攻撃を強化し、一部の石油精製能力が低下したことが要因です。
ロシアの死者50万人という数字は、強権的な政府でも持ちこたえられないでしょう。アフガニスタン侵攻でも旧ソ連にとって重い社会問題となりました。今回はそれをはるかに超える死者・負傷者・行方不明者を出しており、傷病兵として帰還する人々を含めた社会復帰の問題は、これから長期にわたってロシア社会にのしかかります。にもかかわらず兵員が不足しており、北朝鮮からの派兵を乞う状況になっています。
燃料不足の背景には、ウクライナの無人機生産能力の急上昇があります。ウクライナ側は年間100万機規模のドローンを製造できる体制を築き、AIを活用した低空飛行で迎撃を回避しつつ、モスクワ近郊やペテルブルクの製油所、遠くペルミの拠点まで攻撃を届かせています。クリミア半島は補給路を絶たれ、ガソリンスタンドで燃料が売り切れる状況が続いています。プーチン大統領はウクライナ側からの東部・南部4州限定停戦提案を6月28日に拒否しましたが、戦況の変化を踏まえれば、和平交渉に応じる局面が近づいているとの見方が広がっています。追い込まれたロシア側の判断リスクは引き続き注視すべきですが、外交による着地点を模索する条件は、これまでよりは整いつつあると私は見ています。
トランプ大統領を襲う4つの逆風──出生地主義違憲判断、賠償8億円確定、仮想通貨2000億円
トランプ米大統領を巡って、複数の逆風が同時に発生しています。第一に、米連邦最高裁は先月30日、米国で生まれた子どもに自動的に米国籍を与える出生地主義を制限する大統領令について、違憲との判断を下しました。判決は憲法修正第14条を根拠に、両親が不法滞在者・一時滞在者であっても米国内で生まれた子は米国民であると指摘。移民規制を看板政策とするトランプ氏には打撃です。第二に、同最高裁は6月29日、女性作家E・ジーン・キャロル氏への性的暴行を認定した民事訴訟について、トランプ氏の上告申し立てを却下し、約8億円の賠償金支払い義務が確定しました。第三に、米政府倫理局が6月30日に公表した2025年資産報告書によれば、トランプ氏の仮想通貨関連の収益は約2000億円に上り、個人資産は約1兆500億円と2年前の3倍に増加しました。関連銘柄はワールド・リバティー・ファイナンシャルやミームコイン事業などで、利益相反への批判が広がっています。第四に、トランプ氏関連団体「フリーダム250」が6月25日からワシントンで開催した建国250周年記念イベントは、出演予定アーティストの相次ぐ辞退や来場者数の伸び悩みが伝えられています。
この4つの逆風は、いずれも個別に見れば大統領の求心力を削る材料です。私が特に注目するのは、最高裁の判断です。トランプ政権寄りの判定も一部にはあります。独立機関委員への大統領介入、人種構成を意識した選挙区割り、トランスジェンダー女子競技参加への制限などです。ただ、出生地主義の違憲判断と賠償金支払い義務の確定は、看板政策と個人的な訴訟リスクの両面で大統領の権威を揺るがす結果でした。
米国内では、11月の中間選挙を前に民主党がこうしたテーマを攻勢材料として活用しています。ブレナン司法センターの世論調査では、有権者の68%が「トランプ大統領は腐敗している」、85%が「議会は腐敗している」と回答しました。トランプ氏の心理を過去の経営者としての行動から推し量ると、劣勢と見れば早めに見切りをつける傾向があります。中間選挙で共和党が敗北すれば、レームダック期を耐えて政権を続けるよりも辞任を選ぶ可能性は十分あると私は見ています。日本の経営者・投資家にとっては、次期政権を含めた複数のシナリオで対米関係を組み立てておくことが、これまで以上に重要な局面です。
日印首脳会談──重要鉱物・半導体・AI・LNGで連携強化、新幹線プロジェクトも継続
高市首相は7月2日、訪問先のインド・ニューデリーでモディ首相と会談しました。両首脳は経済安全保障やエネルギー分野での協力強化を確認したほか、中国への依存低減を念頭に、重要鉱物・半導体・AI分野での連携を深めることで一致。液化天然ガス(LNG)の安定確保やクリーンエネルギーでの協力でも合意しました。並行してJBIC(国際協力銀行)と三井住友銀行などがインドの送電網整備事業に最大800億円を融資することも明らかになりました。対象はグジャラート州の再生可能エネルギー拠点とナグプールを結ぶ約1200kmの高圧直流送電網の建設で、高市首相が提唱しJBICが主導する「パワー・アジア」構想の第1弾となります。西部アーメダバード〜ムンバイ間の新幹線プロジェクトも継続案件として言及されました。
インドは人口で中国を抜き、世界最大の市場となりつつあります。ここに日本が経済人を伴って進出する姿勢を示したのは、時宜を得た判断です。インドは伝統的に事業環境が難しいと言われる国ですが、それは裏返せば、早期に足場を築いた企業が長期優位を確保できる市場でもあります。
ただし1点、注意すべきは投資地域の偏りです。モディ首相はグジャラート州出身で、これまで日本の対印投資はグジャラート集中の傾向が強まっています。政権交代があれば、他州の首長が「グジャラート集中」を政治的に問題視する可能性が十分あります。「モディが終わったとき、他州がこの投資バランスをどう受け止めるか」という論点は、長期投資家として意識しておく価値があります。インドはさらに「ブラックアウト」。突然の停電が頻発する国でもあります。高圧直流送電網の整備が実現すれば、日本企業のインド事業運営環境も大きく改善しますから、パワー・アジア構想は着実に進めていく必要があります。
中国「民族団結進歩促進法」施行とレアメタル囲い込み──「言い続ける」情報戦の意図
中国では7月1日、民族団結進歩促進法が施行されました。中華民族の団結を損なう行為や、民族の分裂を招く行為を処罰対象とし、中国国内だけでなく国外の組織や個人にも適用すると定めたほか、少数民族への中国語教育の推進や宗教の「中国化」を掲げています。台湾の住民にも中華民族への帰属意識を高めるよう促す内容で、国連人権高等弁務官事務所や欧州議会は法律の撤廃を求める声明を出しました。並行して中国商務省は6月29日、三菱電機ソフトウエアや防衛省防衛研究所など日本の20企業・団体を輸出規制の対象リストに追加。輸出管理法に基づき、デュアルユース(軍民両用)品目の輸出を禁じるほか、中国から輸入した対象品を第三国経由で日本に輸出することも禁じます。さらに、中国が輸出規制するレアメタルの1〜5月の輸入量は35万トンで前年同期比6割増加。北朝鮮、ミャンマーなどからの調達を強化し、囲い込みを進めています。
中国の情報戦の特徴は、「同じことを繰り返し言い続ける」ことにあります。「中国は一つ」「一帯一路」「軍国主義復活」といった表現を、パキスタン、バングラデシュ、ミャンマーなどとの共同声明に繰り返し盛り込む。反復されるうちに、当該地域では自然な認識として定着していく、というのが中国の戦略です。今回の民族団結進歩促進法も、その一環と読み解けます。少数民族を「中華民族」の一部として法的に統合し、100年、500年かけて漢族の中に取り込むという長期戦略の骨格です。
レアメタルの囲い込みも、中国らしい経済外交の手段です。ただし、中国が輸出規制を強めれば強めるほど、他国は代替供給源の開拓に動きます。韓国はタングステン鉱山の再開、日本は都市鉱山(廃電子機器からの回収)の活用など、複数国が自前で供給する体制を整えつつあります。中国が「独占的な供給者」であり続けるためには、むしろ安定的に輸出を続ける方が有利です。今回の囲い込みは短期的に外交カードとして機能しても、中期的には中国自身の交渉力を削ぐ効果を持つ可能性があります。日本企業としては、輸出規制対象に追加された20社の状況を注視しつつ、素材調達の多元化と国内備蓄・リサイクルの強化を、着実に進めていく必要があります。
—この記事は2026年7月5日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。






