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KON1131:米中首脳会談に露呈したトランプの歴史的無知、サムスン中国撤退、ヤービン氏「CEO型君主」思想

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KON1131:米中首脳会談に露呈したトランプの歴史的無知、サムスン中国撤退、ヤービン氏「CEO型君主」思想

2026.05.21
2026年
KON1131:米中首脳会談に露呈したトランプの歴史的無知、サムスン中国撤退、ヤービン氏「CEO型君主」思想

米中首脳会談──トランプの「ランニングマン」発言と歴史的無知の露呈

トランプ大統領は5月14日から15日にかけて北京を訪問し、中国の習近平国家主席と首脳会談を行いました。両首脳は米中の建設的・戦略的な安定関係の構築で一致し、中東情勢や台湾問題、貿易問題などを議論しました。中国側はボーイング製航空機200機の購入で合意(トランプ氏はエアフォースワン機内で「750機の確約が含まれる」とも発言)、米国産大豆・原油・LNGの購入でも一致しました。会談は中南海でも行われ、「歓迎」の演出が大々的に展開されました。

率直に申し上げれば、頭がぼけているということが非常にはっきりした米中会談でした。トランプ氏の中国問題、台湾問題に対する理解があまりにも浅く、もう一歩で外交関係が崩壊するところでした。特に問題だったのは、FOXニュースのインタビューで台湾の指導者を「ランニングマン(the running man)」と表現したことです。「We」(私たち)と言わず「I」(私)と言い、「私は台湾を統括している者と話す」と語った。もしこれが本当に実行されれば、つまり米国大統領が台湾の頼清徳氏と直接交渉したとなれば、中国はひっくり返ります。習近平からすれば、台湾は「自分の国の一部の省」であって独立した交渉相手ではない。プライドを逆撫でする最大級の言葉です。しかも「台湾を統括している者」という表現自体が、「台湾を国と呼んだ」と中国側に解釈されかねない、両刃の剣でした。

習近平の側にも、見栄っ張りな部分が露呈しました。中南海で会談したのに「他に来た外国の指導者はいるか」と問われると、プーチンが訪れていることを伏せて「あなたが初めてだ」と答える。マクロン仏大統領が訪中した際は田舎まで飛行機で案内したのに、その記憶も伏せる。劣等感の裏返しのような演出です。中南海は普通の家で、フロリダ州のマール・ア・ラーゴに招待してくれたお礼として、自分の住んでいる場所に案内した。ただそれだけの話を「歴史的な訪問」と仕立てた。9月24日には習近平夫妻が訪米予定とされていますが、これではテレビ番組の演出のようで、内容的にはほとんど煮詰まっていません。世界中の誰もこの会談を「大成功」とは思っていないのに、当事者だけが「大成功だった」と言っている。これが現実です。

イラン核交渉「20年で十分」──トランプの関心は中国に移ってしまった

トランプ大統領は5月10日、イランからの回答について「気に入らない、全く受け入れられない」と投稿しました。さらに15日には、イランが核開発を停止する期間について「遵守を確約するなら20年で十分」と述べ、これまでの「無期限」から大幅な後退を示しました。イラン側は「10年」を主張しており、米国の譲歩がさらに進む可能性があります。イランはすでに60%濃縮ウランを保有し、原爆数十発分に相当する量とみられています。

トランプ氏はもうイラン問題に関心を失っています。「2、3日でフィニッシュする」と踏んでいたものが思うように進まず、ネタニヤフ首相にごまかされて一緒にやってしまった。何とか足を洗いたいというのが本音でしょう。イスラエル側は「核の開発力を根こそぎなくしてもらいたい」ので開発停止を永遠(無期限)にしたかったわけですが、トランプ氏は中国訪問の間に20年で十分と言い始めた。10年であれ20年であれ、その頃にはトランプ氏は当然この世にいません。

問題は、ウラン濃縮の技術と人材が現に存在しているという事実です。イランで核開発に携わっている人間が生きている限り、政権が変わればまた始まる。国家間の約束など、この問題には通用しません。なぜなら、目の上のたんこぶであるイスラエルがすでに核を保有しているからです。私の見立てでは、トランプ氏はこの問題を忘れたままにする可能性が高い。ホルムズ海峡の開放だけは交渉するでしょうが、それではネタニヤフ首相は収まらない。最終的にはイスラエルが単独でイランを叩く局面が来るのではないかと、私は見ています。

三大メガバンクのAI連合系列化──三菱UFJ-Google、住友-エクサウィザーズ、みずほ-ソフトバンク

三菱UFJフィナンシャル・グループは5月7日、米Googleと個人向け金融分野で提携すると発表しました。商品をスマホで撮影すると、最も安い購入先やポイント還元も含めた最適な支払い方法をAIが提案するサービスで、住宅ローンの組み方など現役世代の人生設計もAIで支援します。三菱UFJはGoogleとOpenAI、それに国内のウオロAIと組み、三井住友はエクサウィザーズ、みずほはソフトバンクと提携するという構図で、邦銀のAI連合の系列化が進んでいます。

率直に言えば、AIが「最適な支払い方法を提案する」というサービスが本当に機能したら、まず三菱UFJのサービスをやめなさいという提案が真っ先に出てくるはずです。三菱UFJは自分が儲けることしか考えていない銀行ですから。最近はウェルスナビが三菱UFJの傘下に入って、若干そこの空気が変わってきていますが、根本的に三菱UFJは「何もやらない銀行」です。三菱商事や三菱地所、三菱自動車といった仲間内を一生懸命応援し、それ以外の顧客が来たら「抵当を出せ」「金貸してやるから抵当を出せ」と求める。この伝統で育った人間がほとんどです。

だからGoogleと組んで真面目にAIで最適化サービスを提供したら、顧客はみんな三菱UFJから他の銀行に移っていきます。これは皮肉でも何でもなく、本気でやればやるほどそうなる仕組みです。フィンテックや個人向けAIサービスは、銀行の自己利益と顧客の利益が真正面から衝突する領域なのです。三大メガバンクのAI連合系列化は確かに進んでいますが、それが顧客本位の金融サービスにつながるかどうかは別問題です。

ソニー・TSMC熊本合弁──画像センサー世界一を守る「ファブライト」戦略

ソニーグループは5月8日、半導体受託製造最大手の台湾積体電路製造(TSMC)と次世代画像センサーの開発・生産で提携すると発表しました。ソニーセミコンダクタソリューションズが過半数株式を保有する合弁会社を設立し、熊本県合志市にあるソニーの新工場内に開発設備と生産ラインを設置する方針です。経済産業省は4月17日、最大600億円の助成金を発表しており、総投資額は約1800億円、2029年5月の供給開始を目指しています。ソニーセミコンのCMOS画像センサー世界シェアは2024年で50%超、最大の顧客はアップルです。

このソニー・TSMC連合は、ソニー側が「過半数を持つ」という形を保ったまま、製造の負担をTSMCと分担する設計になっています。十時裕樹社長CEOは決算会見で、これを「ファブライトへの第一歩」と表現しました。私はこの戦略を高く評価しています。画像センサーは、スマートフォンだけでなくセキュリティカメラ、車載カメラ、産業用ロボット、フィジカルAI領域へと応用範囲が広がる一方で、最先端ロジック層の製造には3ナノ世代の微細化技術が必要で、単独投資では負担しきれなくなってきました。

もともとソニーの工場の隣(菊陽町)にTSMCの熊本工場を作って、スマホ向け画像センサーの背面照射型チップでTSMCが供給するという協業は始まっていました。ここから一歩踏み込んで、合弁会社を設立し、ソニーが画像センサーで世界一のポジションを守る。応用先はスマホ以外にも広く、セキュリティ、車載、ロボティクス、エッジAIまで広がる。世界中がこのセンサーを使ってくれるという読みです。熊本連合は、日本の半導体産業にとって極めて重要な戦略拠点になると私は見ています。

住友商事マダガスカル4000億円減損─ 参画から20年、ライバルを追う焦りが招いた巨額損失

住友商事は5月1日、マダガスカルのニッケル鉱山事業「アンバトビー」からの撤退を発表しました。2005年の参画から20年、累計損失は約4000億円に達しました。譲渡先は英投資会社Ambatovy Mineral Resources Investment Holding Companyで、住友商事の保有株式54.17%を全て売却します。2026年4-6月期に約700億円の損失を計上する見込みです。アンバトビーは年産6万トンのニッケル地金を構想した世界最大級プロジェクトでしたが、HPAL(高圧硫酸浸出)法の操業安定化に苦しみ、想定通りには稼働しませんでした。

資源ビジネスは大きな収益を生むこともある半面、市況等の影響で大きな損失を計上することもあります。住友商事はマダガスカルのニッケル以外に、ニューヨークの銅不正取引事件で2850億円の損失を出したこともあります。本社が知らないうちに現場が暴走したケースで、コーポレートガバナンスの典型的な失敗例でした。三菱商事もチリの銅やオーストラリアのLNG、鉱石事業で4300億円の損失を出していますし、三井物産もチリの銅、オーストラリアのLNGで3500億円を吸い込みました。丸紅もチリの銅とオーストラリアの鉄鉱石で700億円の損失です。

住友商事に至っては、三菱商事や三井物産がBHPやリオ・ティントといった資源メジャーと組むのに対し、アンバトビーではパートナーのカナダ・シェリットが経営不振で2020年に完全撤退してしまい、住友商事だけが残ってしまった。ライバルを追いかける焦りが、知見のない領域での無謀な大型投資につながった構図です。鉱山ビジネスは「メジャーと組まなければ手を出すな」というのが、この20年が教える教訓ではないでしょうか。

サムスン中国家電・テレビ撤退──日本を韓国が、韓国を中国が置き換える連鎖

韓国サムスン電子は5月6日、中国本土市場でテレビ、モニター、冷蔵庫、洗濯機などの家電販売を停止すると発表しました。当面は中国国内の在庫を販売し、既存購入者にはアフターサービスを継続するものの、年内にも家電・テレビ事業からは完全撤退する見通しです。スマートフォン、半導体、医療機器事業は継続。世界経済の先行き不透明感、原材料・部品価格の高騰、そして何より中国メーカー(TCL、ハイセンス、ハイアール、シャオミ、美的)の台頭による収益悪化が背景です。サムスンの映像ディスプレイ事業部と生活家電事業部は2025年に合計2000億ウォン(約216億円)の赤字を計上していました。

これは少し驚きのニュースです。ちょっと前まで、世界最大の家電メーカーといえばサムスンだと言われていました。それが中国市場では、もうかなわないということで、家電とテレビから撤退する。ソニーもTCLと組まざるを得なくなったわけで、同じような浮き目にあっています。

私が注目するのは、この動きが世界の家電産業における大きな置き換えの連鎖を示していることです。かつて日本のソニー、パナソニック、シャープ、東芝、日立、三菱電機が席巻していた市場を、韓国のサムスンとLGが置き換えました。今度はその韓国を、中国のTCL、ハイセンス、ハイアール、シャオミ、美的が置き換えつつある。あらゆる業界でこの置き換えの動きが進んでおり、サムスンの中国家電撤退はその象徴的な一例として見ておくべきです。日本企業も、家電だけでなく半導体やEVなど、同じ構造の中で「次に置き換えられる側」になっていないかを冷静に点検する必要があります。

インド国勢調査100年ぶりのカースト調査──モディ政権の波乱要因

インド政府は16年ぶりの国勢調査を開始しました。個別訪問とデジタル技術を組み合わせ、政府職員300万人以上が1年かけて人口や生活実態を把握します。最大の注目点は、約100年ぶりに身分制度「カースト」を調査対象としていることです。優遇措置の見直しにつながる一方、政治的な対立や社会の分断を深めるとの懸念が指摘されています。

これは良くないと私は思います。国勢調査の時にカーストまで調べるという発想は最近聞いたことがなかったのに、100年ぶりだそうです。みんな言わなくても分かっているのです。「あの人はどういう人だ」というのは、地域社会では暗黙の了解として伝わっている。それをわざわざ書く人がいるのか?私は大いに疑問です。ヒンドゥー教徒の中の伝統的な4つのカーストの外側にいる「アウトカースト(不可触民、ダリト)」と呼ばれる人々が結構いて、彼らが差別を受けている。イスラム教徒、キリスト教徒、シーク教徒、仏教徒、ジャイナ教徒──それぞれにカーストの内外がある複雑な構造です。

正直に答える人がいるのかどうかも疑問ですし、調査員が動員されて「あなたはこのカーストではないのか」と詰め寄ればトラブルになります。インドはカーストから卒業しなければならない時期に来ているのに、なぜいまこんなことをやるのか。すでに「アドハー」という国民の生体IDシステムがありますから、それで十分なはずです。モディ首相はヒンドゥー至上主義的な政党から出てきた人物ですから、その文脈で読み解く必要がありますが、長期政権でややマンネリ化している中、これは波乱を起こす可能性があると私は見ています。14億人の国勢調査を1年かけて行うのは、それ自体が大変な事業です。

カーティス・ヤービン氏「CEO型君主制」──トランプ・バンス政権の理論的支柱

日本経済新聞は5月10日、「直言・民主国家、CEO型君主を」と題するインタビュー記事を掲載しました。米国の思想家カーティス・ヤービン氏(1973年生まれ、Curtis Yarvin)への取材で、同氏は「米国の民主主義は官僚機構が支配する政治に陥っており、国家には企業のCEOのように権限と責任を持つ強力な指導者が必要」と主張。さらに「AI時代には従来の政治体制では変化に対応できない」とし、「日本も明治時代の中央集権的な統治精神を取り戻すべき」と論じました。

ヤービン氏は、シリコンバレー発の「暗黒啓蒙(Dark Enlightenment)」あるいは「新反動主義」と呼ばれる思想運動の中心人物です。2007年からブログ「Unqualified Reservations」を「メンシウス・モールドバグ」というペンネームで執筆し、米国の民主主義は失敗した実験だ、統治構造は企業に似ており責任ある君主制に置き換えるべきだ、と主張してきました。彼が「大聖堂(The Cathedral)」と呼ぶのは、大学・マスメディア・行政官僚を一体とした思想的支配構造です。日本で言うところの「ディープステート」批判を理論化したものと考えていいでしょう。

私は、ヤービン氏個人を危険極まりない人物だと考えています。しかし、彼のおかげで「ディープステートを叩きのめせ」「官僚機構をばかにせよ」というトランプ政権の動きが理論的に支えられている。トランプ氏のような人物が独裁的に動き、縦のものを横にばっさり切って、裁判所に引きずり込まれてはやり直すというとんでもないことが起きている。その張本人がこのヤービン氏です。ピーター・ティール氏とも深い関係があり、特にJ.D.バンス副大統領にとってヤービン氏は思想的師匠と言ってよい関係です。もし次の大統領選でバンス氏が大統領に昇格すれば、ヤービン思想がそのまま米国の統治原理になる可能性があります。日本としても、彼が何を言っているのかを理解しておく必要があります。

Anthropic「Claude Mythos」と三大バンクのアクセス権──金融危機リスクと中国の追走

米Anthropicでグローバルアフェアーズ責任者を務めるマイケル・セリット氏は5月15日、新型LLM「Claude Mythos(クロード・ミトス)」の悪用を防ぐ対策組織「Project Glasswing(プロジェクト・グラスウイング)」の対象を、日本を含めた米国外に広げる検討に入ったことを明らかにしました。Mythosはソフトウェアの脆弱性を自律的に発見・悪用する能力が、最も熟練した専門家を除く全ての人を上回るレベルに達しており、米Anthropicが2026年4月7日に発表した際にも一般公開を見送る決定をしました。現在は米国の50社(Google、Microsoft、JPモルガン・チェース、CrowdStrikeなど)に防御目的限定で提供されています。日本では三菱UFJ、三井住友、みずほの三大バンクがMythosへのアクセス権を確保できる見通しです。

IMF(国際通貨基金)はMythosを「金融危機を引き起こす可能性がある」と警告しています。「原子力(原爆)よりも恐ろしい」というのが今、世界のAI安全保障コミュニティの共通認識です。日本の三大バンクが米Anthropicの内部対策組織に組み込まれること自体は、表からハッキングに揺さぶられる前にインサイダーとして対策を整える上で意味があります。金融庁もMythos悪用への対応チームを立ち上げており、今後とも注視する必要があります。

しかし、私が最も懸念するのはもう一つの論点です。Mythosを開発しているAnthropic自身が「半年すれば中国は同じ水準に追いつく」と言っているのです。つまり、米国主導で「使用ルール」を作っても、中国側に同じルールに従わせる枠組みがなければ、半年でこちら側だけが手足を縛られた状態になってしまう。これは日米の問題ではなく、米中の問題として扱わなければならない。AI安全保障の議論を「西側だけで完結する話」と思っているうちは、本当のリスクには対処できません。原子力と同じく、AIも国際的な検証・規制の枠組みを作る段階に入っていると、私は考えます。

—この記事は2026年5月17日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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