
ASEAN各国から高まる日本人気:円安と文化的魅力が呼び込む観光需要
ASEAN諸国を対象とした調査によると、休暇に最も訪問したい国として日本が33%で首位に立ちました。昨年の30%からのさらなる上昇には、円安による割安感と日本文化への根強い関心が背景にあるとみられます。タイやフィリピン、シンガポールといった国々では日本が圧倒的な支持を得ており、その一方でマレーシアやインドネシアでは宗教的配慮(ハラール対応)の面が課題となっています。
また、ASEAN各国から見て「信頼できる国」としても日本はトップで、2位のEU、3位の米国を上回りました。中国に対しては逆に「信用できない」という回答が最多であり、政治・経済的要因を背景に各国の見方が変化してきています。日本が大きな下心なく付き合えると見なされている点は強みと言えるでしょう。今後さらにインバウンド需要を拡大するためには、ハラール食対応など多様な文化的ニーズに応える受け入れ態勢の整備が重要になってきます。人の往来をきっかけに、ASEANとの関係をより深めていく機会をしっかり捉えるべきです。
公取委の排除措置命令:Google独占への一石:検索エンジン市場をめぐる競争法の攻防
公正取引委員会は、米Googleがスマートフォン端末メーカーに対し自社の検索サービスを初期画面に搭載するよう求めていた行為を独占禁止法違反と認定し、排除措置命令を出しました。欧州委員会は以前から巨額の制裁金を科してきましたが、日本がGAFAと呼ばれる巨大IT企業に排除措置命令を下すのは今回が初めてです。
Googleは圧倒的な検索シェアを背景に、Android端末やPlayストアなどのプラットフォームを武器にして、メーカーやアプリ事業者に有利な条件を押し付けやすい構造を持っています。Appleもまた自社OSを独占的にコントロールしているため、同様の調査が進む可能性があります。技術の優位性が高まるほど独占に陥りやすいICT業界では、競争当局による牽制がさらに強まっていくと考えられます。イノベーションの成果として高シェアを獲得すること自体は自然の流れですが、市場での行き過ぎた囲い込みは社会的コストを生む懸念があるため、規制と技術革新のバランスを見極める必要があります。
農業基本計画と輸出戦略:米は本当に海外で売れるのか:大規模農家の育成なくして成長なし
政府が決定した「食料・農業・農村基本計画」では、2030年までに米の輸出量を現在の8倍となる35万トンへ拡大する目標を掲げました。海外での日本食人気や寿司需要の拡大が背景にあるものの、コシヒカリなど日本産米がアメリカやアジア地域で主流化するにはハードルが高いのが現実です。米国産カリフォルニア米など、日本品種をルーツとする良質米が既に安価に流通しており、輸出先の一般家庭で高価格帯の日本米がどれほど受け入れられるかは未知数と言えます。
また、国内農家の大半は高齢化が進む零細規模であり、本格的な輸出拡大策としては、大規模農家や企業的農業へのシフトが避けられません。しかし、既得権益を守る構造の強い農協や票田を重視する政治の状況下では、思い切った改革が進まないのが実態です。輸出の拡大と国内基盤強化を同時に狙うのであれば、農業構造の転換に着手しなければならず、計画の実効性が問われることになるでしょう。
米輸入枠拡大の動きと国内コメ価格:ミニマムアクセス米を「飼料用」で済ませてきた矛盾
日本は国際ルールに基づいて年間約77万トンのミニマムアクセス米を輸入していますが、その大半を飼料用などに回し、主食用へは上限10万トンと設定してきました。しかし、近年のコメ価格高騰を受け、財政制度等審議会はこの上限を引き上げて不足分を主食用に回す案を提示しました。
実際には、ミニマムアクセス枠で入ってくる米の多くが十分食用に耐える品質であり、ブラインドテストでも日本米との差が分からないケースがあります。しかし、米農家保護を最優先して輸入米を「飼料用」に振り替える形を続けてきたのが現実です。国内のコメ消費量は年々落ち込み、小麦消費などとの逆転現象も起きている中、果たして政治的妥協による輸入制限を続けることが得策なのか、再検討が迫られています。今後は世界的な食糧需給の変動リスクもあり、日本の食料安全保障の観点から議論を深める必要がありそうです。
高齢者向けNISAと毎月分配型投信の可能性:生活費下支えか、資産形成か、方向性が問われる
金融庁が「毎月分配型の投資信託」を高齢者向けNISA(少額投資非課税制度)の対象とする案を検討しています。一般的に中長期の資産形成には複利効果を高めるため再投資が望ましいとされ、毎月分配型は趣旨にそぐわないとして外されてきました。しかし、主な収入が年金のみの層などからは、分配金を毎月の生活費に充てたいとのニーズが根強いのも事実です。
NISAの非課税枠は積立投資や成長投資枠が拡充される方向ですが、毎月分配による税の優遇となれば高齢有権者へのアピールとして政治的に支持を集める可能性があります。一方で、毎月分配型のファンドは運用効率が下がりやすく、資産寿命を延ばす本来の目的と矛盾しかねません。高齢者の「安心感」と制度本来の「資産形成支援」の両立は難しく、金融リテラシーへの周知や分配時の税制設計が重要になるでしょう。
国内雇用情勢・新卒一括採用からの転換:即戦力を求める人材確保と変わる採用観
日経新聞によると、学生を一度に一律採用する新卒採用システムを見直す企業が増えており、通年採用や職務経験・学歴不問での募集に踏み切る動きが広がっています。グローバル競争が激化する中、人材の必要時期やスキルが多様化しているため、柔軟な採用が求められているのです。
日本企業では、新卒一括採用で画一的に若手を受け入れ、社内で長期育成する文化が長く続いてきました。しかし、専門能力を持つ即戦力の争奪が激しくなる一方、社会経験を積んだ既卒や中途採用の方が教育コストを抑えられるメリットがあります。大学卒業直後だけにフォーカスする時代は終わりを迎えており、中途・キャリア採用やスキルベースの評価が主流となるでしょう。企業にとっては優れた人材を機動的に獲得でき、求職者にとってもキャリアの選択肢が広がる変革期となっています。
ドラッグストア大手の経営統合:売上高2兆円超の新連合が誕生へ
ウェルシアホールディングスとツルハホールディングスが経営統合を前倒しし、年内に実施すると発表しました。コンビニエンスストア並みの店舗密度を誇るドラッグストア業界ですが、OTC医薬品だけでなく化粧品、飲食料品まで取り扱うことで日常生活の拠点として存在感を高めています。
両社が統合することで、売上高2兆円規模に達する国内最大級のドラッグストアチェーンが誕生します。店舗網の効率化や仕入れ規模の拡大、調剤薬局との連携強化など、規模メリットを生かした経営を進める狙いがあります。一方で、中小勢も調剤専門や地域密着型など差別化を図ろうとしており、業界全体の再編や淘汰は今後も加速するでしょう。人口減少とネット通販の普及が進む中で、ドラッグストアは「日常のヘルスケア拠点」としての強みをどう磨くかが鍵となりそうです。
中国・小米のEV事故と人型ロボット開発:“次の産業革命”に潜む安全性への警鐘
中国の安徽省で、小米(シャオミ)のEV「エスユーセブン」がスマートアシスト運転(オートパイロット)中に事故を起こし、乗車していた女子大学生3名が死亡するという痛ましい事態が発生しました。衝突直前の減速が間に合わなかったほか、バッテリー爆発やドアが開かなくなった可能性も指摘され、安全面の見直しが強く求められています。
一方、中国政府はEVと同様に人型ロボットを次世代の重点政策分野に位置づけ、大手EV企業やAI企業がこぞって開発投資を拡大しています。人型ロボットの主要部品はEVと7割程度が共通し、アルゴリズムやバッテリー技術など双方に転用可能なため、企業間競争が激化しているのです。とはいえ、ロボットによる労働代替や軍事転用のリスクもあり、技術革新には慎重な規制と高い安全基準が必要となるでしょう。今回のEV事故は、ハイテクがもたらす利便性と危険性を改めて考えさせる出来事です。
—この記事は2025年4月20日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。