
教皇レオ14世を呼び捨てたトランプ大統領
──「核とベネズエラ攻撃に弱腰な教皇は不要」発言が招くカトリック離反の可能性
トランプ大統領は12日、自身のSNSでローマ教皇レオ14世を呼び捨てで批判しました。教皇が対イラン軍事作戦や米国のベネズエラへの姿勢を問題視したことに反発したもので、「レオは犯罪対策に弱腰で、外交政策も最悪だ」「イランが核兵器を持つことを容認する教皇などいらない」と投稿し、さらに「私がホワイトハウスにいなかったら、レオはバチカンにいなかっただろう」とまで述べています。CNNは16日、両者の対立が長期化する可能性があり、カトリック層のトランプ支持に変化をもたらす可能性があると報じました。
私は、トランプ大統領が極めて危うい領域に踏み込んだと見ています。第一期政権のアドバイザーだったスティーブ・バノンは、当時のフランシス教皇を引きずり下ろすような運動を展開していましたから、ユダヤ系に近いそうした発想がトランプ周辺に根強くあります。問題は、「自分が大統領になったからアメリカ出身のレオが教皇になれた」という論理まで持ち出している点です。現実認識としてかなり無理のある主張です。
ローマ教皇の本来の役割は平和を説くことにあります。今回も教皇は「一握りの暴君が世界を荒廃させる」と語っていて、これは宗教指導者として至極まっとうな発言です。イタリアはまさにカトリックの国ですから、これまでトランプと良好な関係にあったメローニ首相ですら、今回は距離を置いています。昨年の米大統領選でトランプを支えた福音派プロテスタント、ヒスパニックのプロテスタント、白人のカトリック層が、今後どれだけ離反していくか。私は中間選挙で共和党が大敗する展開は、もはや避けがたいと見ています。
さらに深刻なのは、トランプが自らをイエス・キリストになぞらえた生成AI画像を投稿したり、病人に手をかざす姿、水の上を歩くパロディまで拡散していることです。キリスト教の伝統的な信者にとって、これは明白な冒涜行為です。支持層の信仰心を逆なでする行動を繰り返せば、得るものは何もありません。
対イラン戦争と「自己顕示欲の傲慢」
──クシュナー氏・ウィトコフ特使の助言に依拠した「1日で決着」の誤算
ニューヨーク・タイムズは14日、トランプ氏の予測不能な言動と過激な発言がメンタルヘルスに関する議論を再燃させると題する記事を掲載しました。イランへの強硬発言や要人批判を繰り返す中、その精神状態をめぐる議論が世論や専門家のみならず、支持層にまで広がっていると伝えています。日経新聞も16日、「トランプ氏 共栄心の傲慢」と題する記事で、当初「終わりなき戦争」として中東介入に否定的だった大統領が、側近ら強硬派の働きかけと自身のレガシー志向に動かされ対イラン攻撃に踏み切ったと指摘しました。ギリシャ悲劇の教訓的パターンになぞらえた分析です。
自己顕示欲と傲慢という指摘は的を射ています。トランプ大統領は、イランとの戦争がどう展開するか十分に見通せないまま、「1日で決着できる」という前提で踏み切ってしまった。この判断を後押ししたのが娘婿のジャレッド・クシュナー氏と、スティーブ・ウィトコフ中東担当特使です。実際にはイラン側の抵抗は想定以上にしぶとく、現在は戦況の実像すら把握しづらい状況にあります。仲介役として当初は想定すらしていなかったパキスタンに頼らざるを得なくなっている事実が、戦略の破綻を雄弁に物語っています。
イラン側の被害は停戦交渉が始まるまでで物理的に40兆円以上、回復には10年を要すると私は見ています。これほどの戦争を、戦線布告もせず、議会の承認も得ずに始めてしまった。連邦議会の機能はどこへ行ったのかと問いたいところです。世界から見れば、アメリカは不安定で暴力的な振る舞いを繰り返す、予測不能な国家に変質しつつあります。
ラスベガスでの演説では、「イランというラブリーな場所へのちょっとした気晴らしにも関わらず、経済は成長した」という発言まで飛び出しました。数千人の死者を出した戦争を「気晴らし」と呼ぶ感覚は、一国の指導者として受け入れがたいものです。停戦交渉の論点とされているウラン濃縮停止の期間についても、そもそも2015年の核合意から離脱したのはトランプ自身です。「20年か10年か」で議論している間に、当のトランプが政権を去っている可能性すらあります。この問題の本質は、合意文書の条文ではなく、濃縮能力を持つ技術者の存在にあり、人がいる限りいつでも再開できてしまうのです。
ハンガリー16年ぶり政権交代
──ティサ党マジャール・ペーテル氏圧勝と「J.D.ヴァンス応援のブーメラン」
ハンガリーで12日、総選挙の投開票が行われました。中道右派の新興政党「ティサ(尊重と自由)」が議会で圧倒的多数を確保し、16年ぶりの政権交代となります。オルバン首相率いる与党フィデスは2022年の選挙から大幅に議席を減らして敗北を認め、野党としての役割を果たすと表明しました。
マジャール・ペーテル氏の勝利は圧倒的でした。ロシア寄りの路線を続けてきたオルバン首相に対し、国民は「我々はEUのメンバーであり、EUと協調するのが本来の道だ」「ロシアは信頼できる相手ではない」という判断を下したわけです。かつてハンガリーがロシアから受けてきた歴史的な苦難を踏まえれば、当然の帰結と言えます。
「マジャール」というのはハンガリー語で「ハンガリー」を意味します。ハンガリーで早くから自動車生産を手掛けてきたスズキがインドでも強いことで知られていますが、現地では「マジャール・スズキ」と呼ばれ、ハンガリー国民から深く愛されている存在です。中央アジアにいたフン族が西へ流れてハンガリー(フンガリー)となり、さらにフィンランド(フンランド)に至った。その歴史の流れの中で、「マジャール」という党首が圧勝したという構図です。
オルバン敗北の一因は、J.D.ヴァンス副大統領がハンガリー入りして応援したことだと私は見ています。現在の米国政権は、ハンガリー国民から見れば歓迎されざる存在に映っていました。「トランプと親密である」というオルバンの売りが、今のヨーロッパにおいては逆に重大なマイナス要因として作用したのです。
もう一つ看過できないのがEU補助金の構造です。ハンガリー、ギリシャ、ルーマニア、ポーランドなどは、一人当たりGDPがEU平均を下回る地域が補助金の受給側で、残る諸国は拠出側に回ります。ドイツは徹底した拠出国です。ハンガリーの最大の貿易相手はロシアではなくEUですから、EUと良好な関係を保つことで初めて経済的恩恵を享受できる。ウクライナ支援に消極的だったオルバン政権と異なり、マジャール新政権は今後、欧州と歩調を合わせた前向きな政策を展開するものと見られます。
長期金利2.49% 日本国債暴落のカウントダウン
──1998年運用部ショック超え、IMFも海外への波及リスクを警告
13日の国内債券市場で、新発10年もの国債の利回りが一時2.49%となり、1998年の運用部ショックの水準を上回りました。運用部ショックは当時の大蔵省が財政投融資改革の一環として国債の買い入れを停止したのを受け、金利が3カ月で1%未満から2.44%まで急上昇したものです。今回の上昇の背景には日銀の利上げ観測、高市政権の積極財政路線、そして中東情勢の混迷による原油高があります。IMFも14日、日本の金利上昇が海外に波及するリスクを指摘する報告書を公表しました。
この動きは、日銀が利上げできないと市場が見切ったことの表れです。10年もの国債利回りが2.49%という水準に急激に達している。日銀は現在、長期国債を約555兆円(2025年9月末時点)保有していますから、金利上昇に伴う利払い負担の増加は無視できない規模に達します。日本国債暴落の危険性が迫っているというのが、今週の懇親会で私が取り上げたテーマでした。
IMFの指摘には、もう一つ別の側面があります。「日本国債の利回りが上がったなら、そこに資金を振り向けよう」と海外投資家が動き始めているという事実です。一見するとありがたい話に見えますが、実は極めて危険な兆候です。これまで日本国債が安定していた最大の理由は、「日本人が保有している」という認識でした。実際には日銀と国内金融機関が大半を持っているのであって、国民が直接保有している額は大きくありませんが、少なくとも海外勢の比率は極めて低く保たれてきました。
ここに海外投資家が「利回りが高いから組み込もう」と入ってくると、暴落リスクが顕在化した瞬間に容赦なく空売りを浴びせてきます。一度売り浴びせられれば、元の水準には戻りません。「責任ある積極財政」という掛け声の下で歳出を膨らませる政策を続ける限り、こうしたツケはさらに積み上がっていくのです。
ユーロ対円187円・人民元23円台の衝撃
──利上げできない日本の通貨価値が音を立てて崩れていく
14日の東京市場で、円が対ユーロで一時187円52銭となり、1999年のユーロ誕生以来の最安値を更新しました。対オーストラリアドルでも一時113円台と、1990年以来の安値水準に迫っています。中東情勢を受けた資源高騰で日本の貿易赤字が拡大するとの見方から、円売りが進みました。同じく13日には中国人民元が一時1元23円台となり、管理変動相場制に移行した2005年以降の最高値を更新しています。
ユーロ187円という水準は相当に衝撃的です。かつてはドルとユーロが等価で取引されていた時代もあったのに、現在はドルが159〜160円、ユーロが187円。これは日本が金利を引き上げられないという制約、今後の経済運営への不信、そして原油輸入による貿易赤字拡大への懸念が一体となって円に圧力をかけている結果です。
人民元についても、これまでは15円、せいぜい20円という水準で推移してきました。それが現在は23円。日中間の国力差が、為替レートという最も残酷な形で可視化され始めたとも言えます。
長期金利の急上昇と通貨価値の崩落は、それぞれ独立した現象ではなく、共通の根から同時に発生しています。利上げができない、積極財政で財政規律が緩む、貿易赤字が拡大する、海外投資家が日本国債への参入機会を窺う──この連鎖が円安を加速させ、同時に金利を押し上げているのです。資産と会社をどう守るかという点については、今週の向研会で詳しく論じましたので、ぜひご覧いただきたいと思います。少なくとも、「円と日本国債だけを保有していれば安全」という時代認識は、もはや通用しなくなったという前提に立つ必要があります。
食料品消費税ゼロ公約の迷走
──国民会議に付託した時点で「やる気なし」、ポスレジ改修を口実にした先送り
日経新聞が小売業を対象に行った調査では、食料品の消費税ゼロを店舗価格に反映するまでの準備期間が「6カ月以上」との回答が約7割に上りました。1989年の消費税導入以降、ポスレジが消費税を前提に設計されてきたため、税率をゼロにするにはシステム改修が必要で、エンジニア不足も懸念材料とされています。
これは政策論としてやや苦い笑いを誘う展開です。自民党は衆院選で「食料品の消費税8%を2年間だけゼロにする」と公約しました。ところがその実現を、超党派の国民会議に委ねて議論するという方針を打ち出したのです。自民党は単独で316議席を確保しており、法案を通そうと思えば通せる状況にあります。あえて他党と議論する場を設けたという事実は、高市内閣に当初から実施する意思がなかったことを示唆しています。
ここに小売業界から「ゼロにするには1年かかる」「全国のポスレジを改修しなければならない」「あらゆる調査を踏まえても半年は要する」という声が上がってくる。2年間だけゼロにして、その後また8%に戻すというオペレーションは、現場に大きな負担を強いる。結果として「実施は困難だ、他の方法を検討しよう」という結論に流れていく、という布石が見事に打たれているわけです。
本気で実施する意思があるのなら、この国会で即座に法案を通すことができたはずです。国民会議への付託という手順を踏んだ時点で、政治的な答えは「実施しない」方向に傾いていたと読むべきでしょう。最終的には別の形で財政を膨らませる措置が取られる可能性が高いと私は見ています。有権者がこの政策と発言の乖離をどう評価するかが、次の政局を左右するはずです。
南鳥島での核のごみ文献調査、小笠原村長が容認
──全国4例目、地元要請によらず国主導で進む初のケース
高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定に向け、国が南鳥島での文献調査を申し入れたことについて、東京都小笠原村の渋谷正昭村長は13日、「国が主体的に責任を持って判断すべきだ」と述べ、事実上容認する意向を表明しました。実施されれば北海道寿都町、神恵内村、佐賀県玄海町に次ぐ全国4例目。地元の要請によらず国主導で進む初のケースとなります。南鳥島は島全体が国有地で、滞在するのは気象庁職員と自衛隊員ら約30人のみで、住民はいません。
現実的な選定先として、南鳥島以外の選択肢は極めて限られていると私は見ています。住民不在の地ですから、反対運動が発生する余地がありません。これまで文献調査を受け入れた自治体には、交付金獲得という動機も少なからず働いていました。最終的に試掘段階に進むには、市町村ではなく都道府県知事の同意が必要となります。佐賀県も北海道も知事が反対姿勢を示しており、そこから先に進めないのが実情です。
南鳥島の場合、該当する知事は東京都知事となります。住民が不在である以上、都知事が「国のために受け入れる」と表明すれば、地元合意のハードルは格段に低くなる。小池都知事であれば、国に対して恩を売って自身の政治的立場を強化する機会として活用する可能性もあります。もっとも、試掘開始までに30年以上を要する長期プロジェクトであることは、改めて留意すべき点です。
地質的にも南鳥島は優位性を持っています。日本列島は大陸プレートの下に海洋プレートが沈み込む側に位置するため、国内のどこを掘っても地震リスクを免れません。これに対し南鳥島は沈み込む側のプレート上にあり、火山活動からも隔たっている。地質的安定性という観点では、国内で最も条件の良い立地です。小笠原村は人口約2800人ですから、文献調査で最大20億円、概要調査に進めば最大70億円の交付金を2800人で分け合う計算になり、財政的なインパクトも大きい。国が地質的適性と無住環境を理由に、責任を持って踏み込んだことの意義は評価されて良いと思います。
サントリー×第一三共ヘルスケア2465億円買収
──酒類離れ時代、ニュートラシューティカル戦略でOTC市場へ本格参入
サントリーホールディングスは15日、第一三共ヘルスケアを2465億円で買収すると発表しました。第一三共ヘルスケアは風邪薬「ルル」や解熱鎮痛剤「ロキソニン」などを展開し、2025年3月期の売上高は約760億円。国内酒類市場の成長鈍化を受け、サントリーは健康関連事業を中核事業に育てる考えです。2029年6月までに段階的に完全子会社化する計画となっています。
第一三共にとって、OTC(一般用医薬品)領域は事業全体の中ではそれほど大きくありません。同社の主力はがん治療薬「エンハーツ」や抗凝固薬「リクシアナ」であり、特にがん治療薬の売上高が最大です。760億円のOTC事業を2465億円で売却するというのは、第一三共にとって妥当な判断と言えます。(売上高は25年度第3四半期累計額)
サントリー側の狙いは、大塚ホールディングスが先行して築いてきた「ニュートラシューティカル」戦略──医薬品(ファーマシューティカル)と栄養食品(ニュートリション)の融合ビジネス──に本格参入することです。大塚は「ポカリスエット」「カロリーメイト」「ソイジョイ」「オロナミンC」「オロナイン軟膏」「OS-1」など多彩なブランド群を擁し、5500億円規模の事業を築き上げています。市場には他にも、大正製薬(1970億円)、小林製薬のコアシリーズ、ロート製薬、パンシロン、武田から分離してファンド傘下に入ったアリナミンなどが並びます。今回サントリー傘下に入る第一三共ヘルスケア(867億円)は、この競争地図に新たな強者として加わることになります。(24年度実績)
医薬品メーカーは、一般消費者に対する認知度を得にくいという構造的な弱点を抱えています。「アステラス製薬は何を作っているか」と問われて即答できる生活者は多くありません。大塚が塩事業から始まり、点滴・天敵事業を経て薬品事業に入り、日本の主要薬品メーカーへと登り詰めた道のりは、サントリーにとって極めて示唆に富みます。酒類と清涼飲料で培った圧倒的なブランド力をOTC市場で活用できれば、サントリーは「第二の大塚」を目指せる立場にあります。
フジクラ時価総額10兆円の虚と実
──AIデータセンター向け光ファイバー特需の裏で、営業利益との乖離
電線メーカー大手フジクラの株価が13日、上場来高値となる5698円で取引を終え、終値ベースの時価総額は10兆1149億円と初めて10兆円を超えました。昨年末比で約2倍、東証プライム市場ではHOYA、ゆうちょ銀行、丸紅を上回る27位にランクインしています。米国でデータセンター向けの光ファイバー関連製品の需要が急速に高まっていることが背景です。
日本には光ファイバーを手掛けるメーカーが多数存在するにもかかわらず、フジクラだけが突出して評価された理由は明確です。AIデータセンター内部で銅線(カッパー)が担ってきた領域を光ファイバーに置き換えることで、発熱を抑制できるという技術的優位性があるのです。発熱が減れば冷却コストも削減できる。この実需が、フジクラを一気にAI関連銘柄の主役に押し上げました。
これまで長距離通信用の光ファイバーは日本の各メーカーが共通して手掛けてきましたが、データセンター内部の短距離・大容量伝送という領域で、フジクラは一歩先に踏み出した格好です。情報通信部門の利益率が急拡大し、全社の収益構造が書き換わりました。2026年3月期の通期予想は売上高1兆1430億円、営業利益1950億円と上方修正されています。
ただし、時価総額10兆円という評価には慎重な視点も必要です。営業利益1950億円の規模に対して時価総額10兆円は、PER(株価収益率)で相応に高い水準となります。米国のAI関連銘柄急騰の波に引き上げられた側面が大きく、実需の成長は本物であっても、10兆円の評価が今後も持続するかは別問題です。AIデータセンター投資の拡大ペース、競合他社の追い上げ、そしていつか来る調整局面──これらを冷静に織り込んだ上で、経営層と投資家は距離感を測る必要があります。
—この記事は2025年4月19日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。






