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KON1126:トランプ「勝利宣言」の虚構・タングステン危機・ペロブスカイトの敗北

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KON1126:トランプ「勝利宣言」の虚構・タングステン危機・ペロブスカイトの敗北

2026.04.09
2026年
KON1126:トランプ「勝利宣言」の虚構・タングステン危機・ペロブスカイトの敗北

トランプの「勝利宣言」──勝っているなら、なぜまだ戦争を続けるのか

4月2日、トランプ大統領は国民向け演説で、対イラン軍事作戦について「圧倒的な勝利」を強調しました。イランの海軍・空軍は壊滅し、ミサイル能力は破壊され、核兵器開発の道は断たれたと主張しています。そして「2〜3週間以内に作戦を完了させる」意向を示しました。

しかし、勝っているのであれば、なぜまだ戦争の継続を語らなければならないのでしょうか。イランのアラグチ外相は「少なくとも6ヶ月の戦闘に備えている」と明言しています。トランプ氏の発言はこの1週間で完全に迷走しており、「イランを石器時代に戻す」と言ったかと思えば、「責任者を呼べ」と叫び、その責任者が誰なのかさえわからない状態です。

米国内の専門家からも懸念の声が出始めています。F-15やA-10といった米軍機が撃墜され、パイロットの救出に手間取るなど、「圧倒的勝利」とはほど遠い現実が明らかになっています。アマゾンやオラクルなど米IT大手の中東拠点がイランの攻撃対象になっているという報告もあり、経済面での打撃も深刻化しています。

カーグ島占領論の危うさ──イラン原油の90%が集中する島を狙う狂気

トランプ大統領は3月29日、イランの原油輸出拠点であるカーグ島を制圧する可能性に言及しました。イラン産原油の90%がこの島から輸出されており、ここを抑えればイランの経済を窒息させられるという算段です。

しかし私は、仮にカーグ島を占領したとしても、その先に待つのは地獄だと考えます。イランは自国の施設を破壊してでも抵抗するでしょうし、駐留する米軍を殲滅するために全力を尽くすはずです。これは陸上戦を意味し、トランプ氏が通常ならやらないようなことですが、今は追い詰められているだけに、やりかねません。

イランは世界第4位の原油埋蔵量を持ち、人口も約9000万人を擁する大国です。カーグ島を潰しても他の油田は残りますし、陸上輸送で対象国に供給することも可能です。壊滅的ではあっても致命的ではない。トランプ氏が「簡単に占領できる」と言うのは、イラクやアフガニスタンと同じ過ちを繰り返す前兆にしか見えません。

ホルムズ海峡と日本のエネルギー政策──「170円に抑える」は合理的でない

高市首相は国民への節電要請について「あらゆる可能性を排除しない」と述べ、需要抑制策の可能性を示唆しました。一方、EU加盟国のうち10ヶ国以上がすでに燃料税の一時引き下げに踏み切っています。

しかし、私に言わせれば高市首相のリスク認識は完全に甘い。ホルムズ海峡が通れず、石油の90%がそこを経由する日本にとって、これは選挙前の「市民サービス」で済む問題ではありません。ガソリン価格を170円に設定するなど、非合理としか言いようがない。日本は石油を一滴も産出しないのに、世界最大の産油国であるアメリカよりも安い価格で売ろうとしている。ドイツは日本の2倍以上、フランスやイタリアも軒並み高い。

しかも、たとえホルムズ海峡を通過できるようになっても、湾岸の輸出施設はすでに破壊されています。カタールのLNG施設の復旧には1〜2ヶ月、長ければそれ以上かかります。これは短期的な問題ではありません。国民に対して本当のことを伝え、エネルギーを大幅に節約する覚悟を求めるべきです。値上げこそが最も合理的な消費抑制策なのです。

タングステン危機──中国依存の「見えない急所」が露呈した

今回のニュースで多くの方がご存じなかったであろうトピックが、タングステンの供給危機です。タングステンは融点が最も高い金属で、その炭化物にコバルトなどを混ぜると超硬合金になります。工作機械の切削工具や砲弾の芯材など、産業と軍事の両面で不可欠な素材です。

このタングステンの価格がわずか4ヶ月で3倍に高騰しました。供給の大部分を中国が握っており、モリブデンやロジウムなど関連レアメタルも同様に不足しています。中国以外ではベトナムやロシアに若干の埋蔵量がありますが、代替調達は容易ではありません。

タンガロイのような超硬合金メーカー、そして工作機械全般がこの影響を受けます。機械加工、研磨、切削──日本のものづくりの根幹を支える素材が、中国の手の中にあるという事実に、私たちはもっと危機感を持つべきです。少なくとも3年分の備蓄を国内に持っておかなければ、中国に首根っこを掴まれたままになります。レアアースだけでなく、タングステンの備蓄戦略を今すぐ議論すべきです。

米国防予算240兆円の非現実性──日本の国家予算2年分が「軍事費」に消える

米国の2027年度国防予算が過去最高の約240兆円に達する方針が明らかになりました。前年比42%増という数字は、冷戦時代のレーガン政権の増加幅すら上回ります。トランプ政権のミサイル防衛システム「ゴールデン・ドーム」などの新規プログラムも含まれています。

これは日本の国家予算のまるまる2年分に相当します。日本の防衛予算が5兆円から10兆円へ、GDP比5%にしたとしても25兆円ですから、少なくとも10倍の規模です。「世界最強」を何度も連呼しながら、他のあらゆる予算を削ってまで軍事費だけを積み上げていく。正気の沙汰とは思えません。

NATO諸国にもGDP比5%の防衛費を求めており、これが実現すれば世界全体の軍拡が加速します。議会が否決する可能性はありますが、上下両院とも共和党多数の「トリプルレッド」状態では、通ってしまう危険性も否定できません。

台湾の原発再稼働と国民党訪中──「台湾人意識」の高まりと習近平の焦り

台湾当局が原子力発電所の2028年再稼働を検討していることが明らかになりました。AI半導体産業の電力需要急増とエネルギー供給への懸念が背景にあります。台湾は脱原発政策で2025年に原子力をゼロにしましたが、石炭依存度が高く、CO2問題もあり、原発再稼働に舵を切らざるを得ない状況です。

一方、中国共産党は3月30日、台湾最大野党の国民党・鄭麗文(テイ・レイブン)主席と習近平主席が会談したと発表しました。2016年以来の党首級会談で、経済交流の拡大と大統領選を見据えた動きです。習近平は日々台湾を取り込もうとしていますが、なかなか思い通りにはいきません。

私が注目しているのは台湾のアイデンティティの変化です。「自分は台湾人だ」と考える人が圧倒的に増えています。李登輝の時代に私が提案した「本省人・外省人の区別をやめ、全員を台湾人とする」戸籍改革はまだ実現していませんが、実態としてはその方向に進んでいます。「本土籍」という区分が残っている限り、「いつか大陸に戻って全部取り戻す」という建前が消えません。ここが大きな問題です。

ペロブスカイト太陽電池──桐蔭横浜大学発の技術が中国100社に奪われる構図

ペロブスカイト型太陽電池の開発競争で、中国企業100社以上が参入していることが明らかになりました。中国のスタートアップがすでに世界初のギガワット級生産拠点を稼働させ、昨年11月には世界最高の変換効率を持つ市販品を開発しています。

この技術は桐蔭横浜大学の研究者が開発しました。ところが、費用や手間の問題で特許を出願せず、中国が自由に技術を活用できる状況になり、今や開発競争で日本を圧倒しています。

曲げられる、変換効率が高い、製造コストが安い──次世代太陽電池の本命と目されるペロブスカイトですが、開発のスピードと規模で中国に太刀打ちできていません。日本発の技術がまたしても中国に持っていかれるという、何度目かの悲劇が繰り返されています。

韓国コスメの躍進と資生堂の苦境──SNS時代のブランド戦略の明暗

韓国の化粧品輸出が過去最大を記録し、初めて中国を抜いて米国が最大の輸出先となりました。TikTokやInstagramでのインフルエンサーが「保湿力が高い」「肌に優しい」と拡散したことが爆発的な成長の原動力です。アモーレパシフィックをはじめとする韓国企業がSNSマーケティングで世界市場を席巻しています。

一方、資生堂はこの波に完全に乗り遅れました。従来のフランス型・アメリカ型のブランド投資──高額な広告費をかけてブランドイメージを構築する手法──に頼り続けた結果、SNS時代の「インフルエンサーが一言いえば売れる」というスピード感についていけなくなりました。中国市場でもシェアを落としています。

問題は、インフルエンサー頼みのマーケティングは、ブランドへの持続的な投資がないまま一瞬で消えるリスクもあるということです。

オムロン電子部品事業のカーライル売却──「ノウハウなき買い手」への懸念

大手電機メーカーのオムロンが、電子部品事業を米カーライル・グループに810億円で売却すると発表しました。対象事業の従業員は約6500人。中国企業との競争激化で業績が低迷する中、カーライルの支援で成長を目指すとしています。

私はオムロンの創業者・立石一真さんと50年前からの付き合いがあり、スイッチ・タイマー・リレーという電子部品の世界をよく知っています。かつては世界トップの圧倒的な強さを誇っていましたが、中国に一つずつ奪われ、今や利益がほとんど出なくなりました。

問題はカーライルにこの事業のノウハウがあるかどうかです。私にはないと思います。カーライルは買収資金は持っていますが、電子部品事業の知見はない。4〜5年以内に「出口」を求めるのが投資ファンドの常であり、その時に中国企業に投げ売りされる可能性は十分にあります。オムロンにとっては810億円が手元に入りますが、日本のスイッチ・タイマー・リレー産業がそのまま中国に移転するリスクを考えると、手放しでは喜べません。

—この記事は2025年4月5日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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