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KON1125:4000キロ弾道ミサイル・エネルギー備蓄の限界・NEC世界首位の皮肉──日本の”持ち腐れ”体質を撃つ

TOP大前研一ニュースの視点blogKON1125:4000キロ弾道ミサイル・エネルギー備蓄の限界・NEC世界首位の皮肉──日本の”持ち腐れ”体質を撃つ

KON1125:4000キロ弾道ミサイル・エネルギー備蓄の限界・NEC世界首位の皮肉──日本の"持ち腐れ"体質を撃つ

2026.04.02
2026年
KON1125:4000キロ弾道ミサイル・エネルギー備蓄の限界・NEC世界首位の皮肉──日本の"持ち腐れ"体質を撃つ

 イランの長距離ミサイル発射──4000キロの射程が欧州を震撼。ディエゴガルシア基地への攻撃が示す「想定外の脅威」

イランが3月20日、インド洋のディエゴガルシアにある米英共同基地に向け、射程約4000キロの中距離弾道ミサイル2発を発射しました。1発は迎撃され、もう1発は途中で墜落し攻撃は失敗に終わりましたが、問題はその「射程」にあります。イランはこれまで弾道ミサイルの射程を2000キロに自主規制してきたとされており、4000キロという数字はイギリスやフランスなど欧州の主要都市が射程圏内に入ることを意味します。

欧州各国にとってこの衝撃は計り知れません。これまでイランのミサイルは「中東地域の問題」という認識でしたが、それが一夜にして自国の安全保障に直結する脅威へと変貌したのです。攻撃そのものは不成功に終わりましたが、イランが4000キロ級の兵器を開発しているという事実こそが、安全保障上の前提を根本から揺さぶる出来事です。

ディエゴガルシアはB-2ステルス爆撃機やB-52戦略爆撃機を運用できる米軍の戦略的要衝であり、ここを狙うことはイランにとって「米軍の安全圏はもはや存在しない」というメッセージの発信でもあります。技術的な精度はまだ未成熟であっても、この「到達能力の誇示」が持つ地政学的インパクトは極めて大きいと言わざるを得ません。

トランプの「夢遊病」──停戦交渉の一人芝居と責任転嫁

トランプ大統領はイランとの戦闘停止に向けた協議が「生産的だった」として、イランの発電所への攻撃を5日間延期すると発表しました。しかし、私にはこの停戦協議そのものが行われていないように見えます。パキスタンのシャリフ首相が仲介に動いてはいますが、正式な交渉とは言い難い状況です。

当初「48時間以内にホルムズ海峡を開放しなければ発電施設を攻撃する」と最後通牒を突きつけたはずが、それが5日間に伸び、さらに延びていく。これは彼の「一人芝居」に過ぎません。陸上作戦の準備に時間を稼いでいる可能性もありますが、停戦に向けた実質的な進展があるとは考えにくいでしょう。

さらに問題なのは責任転嫁です。トランプ氏は対イラン軍事作戦を最初に支持したのはヘグセス国防長官だったと示唆し始めました。しかし実態は、娘婿のジャレッド・クシュナーが「今やればすぐ終わる」と助言したことがきっかけだったとされています。泥沼にはまった結果、秋の中間選挙に不利だと気づき、誰かに責任をなすりつけようとしている。「戦争をしない大統領」を公約したはずの人物が始めた戦争の代償は、想像以上に重いものになりつつあります。

ホルムズ海峡封鎖とエネルギー危機──日本は「我慢」と「節約」で乗り切るしかない

ホルムズ海峡の通航リスクが高まる中、日本のエネルギー自給の限界が改めて突きつけられています。しかし、ここで原発再稼働に舵を切ったところで、実際に動くまでには5年、6年とかかります。福島第2原発は物理的には稼働可能でも、福島県民がOKする可能性はほぼゼロです。青森県の東通原発も建設途中で止まったまま。再生可能エネルギーも建設に同程度の時間がかかります。

したがって、今回は「油が来なければ来ないなりに我慢する」しかありません。夏の甲子園を中止する、東京タワーのライトアップをやめる、冷房を27度で我慢する──コロナ禍で夜8時閉店をやったのと同じことです。今あるエネルギーを倍持たせるよう節約を徹底すれば、十分に耐えられるはずです。

政府がガソリン価格を170円に抑える補助金を再開するという話がありますが、これはIEA(国際エネルギー機関)が呼びかけている消費抑制策とは完全に矛盾します。供給不安の局面で消費を喚起する政策は間違いです。自然な価格に委ね、高ければ高いなりに節約する。それが合理的な対応です。

もう一つ重要なのは、フィリピンやベトナムへの支援です。これらの国は石油備蓄がほとんどなく、すでにパニック状態に陥っています。日本の254日分の備蓄のごく一部を回すだけで大きな助けになります。アジアにおける日本の役割として、ぜひ検討すべきだと考えます。

湾岸の生産基地が破壊されている──ホルムズ解放後も供給は戻らない

シェルのサワンCEOが、カタールのエネルギー施設の修復におよそ1年かかるとの見通しを示しました。エクソンモービルも、カタールに権益を持つLNG輸出基地の復旧に最大5年かかると言っています。これは、仮にホルムズ海峡が通れるようになったとしても、湾岸の生産基地そのものがイランの攻撃で破壊されており、供給力自体が落ちているということを意味します。

私たちは「海峡が通れるかどうか」ばかりに注目しがちですが、向こう側で生産設備がやられているという事実こそがより深刻な問題です。LNGについては、日本はかつてカタール一辺倒だったものが今は調達先をかなり多様化しているため、まだ対応の余地はあります。しかし石油については依然として湾岸からの調達に頼らざるを得ず、急遽、南米あたりからの調達を考える必要があります。

この状況は、エネルギー安全保障における「調達先の多様化」がいかに重要かを改めて突きつけています。海峡の開放だけでは問題は解決しない──この認識を持つことが、今後の政策判断の出発点になるべきです。

福島原発3号機のドローン調査──「チャイナシンドローム」が現実に

東京電力が福島第1原発3号機の格納容器内を小型ドローンで撮影した映像が公開されました。事故後初めて確認されたのは、鋼鉄製の圧力容器底部に開いた大きな穴です。溶融した核燃料がテーブルを突き破り、さらにその下のコンクリートまで溶かしていたことがわかりました。これはまさに、かつて映画にもなった「チャイナシンドローム」の現実版です。

東電は今後、デブリ取り出しの方法を検討するとしていますが、880トンものデブリを数グラムずつ削って取り出すなど、現実的に不可能です。あれはあのまま固めるしかないと考えます。東電が約束している「2051年までに全て取り出して更地にして大熊町と双葉町にお返しする」という計画は、今回のドローン調査で「思ったよりもひどい状況」であることが判明した以上、撤回すべきです。

私は基本的に原子力の人間ですが、この業界には嘘つきが多いと言わざるを得ません。「絶対安全」と言わなければ建てさせてもらえないから「絶対安全」と言う。確率の議論ができない日本の原子力行政の構造的問題は、事故から15年経った今もまったく解消されていないのです。

イタリアに輸出で抜かれた日本──「地方創生」の本質はブランド力にある

OECDの統計によると、2025年第3四半期にイタリアの輸出額が日本を上回り、イタリアは世界第4位の輸出国となりました。仏『Les Echos』紙をはじめ各紙がこの逆転を大きく報じています。10年前は世界7位だったイタリアが、人口3倍の日本を追い抜いたのです。その強さの源泉としてよく挙げられるのは、高級ブランドやワイン、チーズなど価格競争に巻き込まれにくい高付加価値製品です。しかし、私の見解は少し異なります。

イタリアの本質的な強みは、国内に約140の「産業集積地区(ディストレット)」が存在し、それぞれが世界市場と直接取引していることにあります。トスカーナのワイン、ビエッラのウール・繊維、カルピのニットウェア、パルマ近郊のプロシュートとパルミジャーノ・レッジャーノ、コモ湖畔のシルク産業──地域ごとの専門特化した中小企業群が、強力な輸出競争力を支えています。これは都市国家の伝統に根ざした「1つの地域=1つの産業=世界市場」という構図であり、『Les Echos』も指摘するように、地理的近接性がサプライチェーンの強靱性を高め、不安定な国際環境下でもイタリア企業の競争力を維持しています。

翻って日本の地方創生はどうか。成功例として知られる徳島県上勝町の葉っぱビジネス(つまもの事業)は年商約2.6億円。大分県の一村一品運動は県全体で総生産額1,400億円に達したが、336品目に分散しており、個々のブランドが世界市場で独立して戦える規模にはなっていません。新潟の燕三条は金属加工で世界に通じるポテンシャルがありますが、品目やブランドが拡散して「一点突破」に至らない。福井の鯖江も眼鏡フレームで世界シェアの一角を占めながら、それ一筋で突き抜けられていない。

日本に欠けているのは、中央集権を脱して「自分の地域から世界へ」という発想の転換です。ローマ(中央政府)を嫌い、自分たちの街で世界と勝負する──イタリアの産業集積地区に流れるその精神にこそ、日本の地方創生が学ぶべき本質があります。

NEC顔認証「世界首位」の皮肉──インドで使われ日本で使われない技術

NECの顔認証技術が、アメリカ国立標準技術研究所の性能試験で再び世界首位になりました。1200万人分の静止画テストで認証エラー率0.06%という驚異的な精度です。顔、虹彩、指紋、声、耳の音響──いずれの分野でもNECはトップクラスの技術を持っています。

ところが、この世界最高の技術が日本のマイナンバーカードには使われていません。一方、インドでは14億人の国民ID「アドハー」に、10本の指と虹彩をNECの技術で認証するシステムが導入されています。しかもインドはそれを基盤に決済プラットフォームまで構築し、「21世紀型国家」へと進化しました。

日本のマイナンバーカードは暗証番号が2つあって5年に1回変更が必要という、時代遅れのシステムです。問題の根っこは、住基ネットの時代に自治体ごとにベンダーが異なるシステムを作ってしまったことにあります。統一するとNECに全部持っていかれるのが嫌だと、他のベンダーが抵抗した結果が今の惨状です。アメリカ軍でさえNECの虹彩認証を採用しているのに、日本政府だけが使っていない。この恥ずかしい現実を、もっと深刻に受け止めるべきです。

ソニー・ホンダのEV事業中止──「正しい質問」ができなかった悲劇

ソニーグループとホンダの合弁会社ソニー・ホンダモビリティが、EVの開発販売を中止すると発表しました。2022年の設立時には大きな期待を集めましたが、私はプレゼンを聞いた瞬間に「ダメだ」と思いました。彼らの発想が完全にフリーズしていたからです。

彼らのコンセプトは「レベル5の自動運転になれば運転しなくていい。だからリビングルームのようにスパイダーマンを見てプレイステーションで遊ぶ」というものでした。しかしそれなら自宅でやればいい話です。車は「動いている」のです。「動いている」ことの価値に対する問いかけがまったくなかった。

例えば、動いているときにGoogleマップと連動させ、ルートセールスの営業マンが訪問先企業の最新情報をAIで準備する。ストリートビューから駐車中の車の車検期限を読み取り、切れる2ヶ月前に売り込む──セールスフォースオートメーション(SFA)と組み合わせれば爆発的な可能性があります。これが「正しい質問」の力です。「動いていることで何ができるか」と問えば、無限のアイデアが出てくる。「スパイダーマンとプレステ」で止まったのは、サラリーマン経営者の発想の貧困さを象徴しています。ソニーとホンダの組み合わせは、創業者がいた頃であれば面白かったかもしれません。

三菱電機が中国ヒューマノイド企業に出資──「見てないで飛び込め」の実践

三菱電機が、中国のルーモス・ロボティクス・テクノロジーに出資する見通しが明らかになりました。ルーモスは2024年設立の新興企業で、製造業向け人型ロボットや作業データ収集技術に強みを持っています。三菱電機は自社のFA(ファクトリーオートメーション)機器と組み合わせ、工場の省人化・無人化を目指す方針です。

先月の講演会でも、ヒューマノイドの重要性を強調したところ「飛び込むしかない」とは言ったものの、実際にどう飛び込むのか難しいという反応が多くありました。その意味で、FA機器で十分な体力を持つ三菱電機が中国の新興企業に入っていったのは正解です。中国にはヒューマノイド関連企業が150社もあり、競争の真っ只中に入ることになります。

日本企業の多くは「中国企業との提携はリスクが高い」と遠くから見ているだけです。しかし、200億円以下の時価総額の企業もまだ多く、投資の機会は十分にあります。三菱電機のこの動きが他の日本企業にとっても良い事例となることを期待しています。遠くから見ていないで、突っ込んでいくしかないのです。

—この記事は2025年3月29日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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