
イラン戦争の泥沼化と「トランプの孤立」── 同盟国は背を向け、政権内部からも批判噴出。中間選挙への命取りとなるか
イランへの軍事作戦が開始から3週間を迎え、事態は一向に収束の気配を見せません。ホルムズ海峡の事実上の封鎖が続く中、トランプ大統領はNATOや日本など同盟国に艦船派遣を要請しましたが、各国は軒並み消極的な態度を示しました。すると一転して「支援は必要ない」と表明。翌日にはまた派遣を求めるという二転三転ぶりです。さらには「48時間以内にホルムズ海峡を全面開放しなければ、イランの発電所を攻撃し壊滅させる」と警告するに至りました。
韓国・中央日報は「アメリカではなくトランプの戦争」と題する記事を掲載し、同盟全体の合意に基づかない戦争に各国が背を向けた構図を描いています。中国は「自分で火をつけて、今になって世界中に火消しを求めている」と冷ややかに傍観しています。
さらに深刻なのは、政権内部からの離反です。国家テロ対策センターのケント所長が「イランは差し迫った脅威ではない」と公言して辞任しました。ギャバード国家情報長官もアメリカとイスラエルの目標が異なると指摘し、トランプ氏が攻撃の根拠としてきた「差し迫った核の脅威」の存在を否定しています。これはイラク戦争でコリン・パウエルが「大量破壊兵器」のプレゼンを行い、後にそれが嘘だったと認めた構図と酷似しています。
トランプ氏の支持率は低下を続けており、民主党支持者の74%が「非常に激しく不支持」と回答。原油価格の高騰がインフレを加速させれば、11月の中間選挙は苦戦必至です。この戦争は、アメリカ自身の足を食べるタコのような政策と言わざるを得ません。
日米首脳会談:高市首相の「法律の範囲内」── ホルムズ海峡護衛要請をかわした外交と、曖昧さが残した課題
高市首相は3月19日、ワシントンでトランプ大統領と首脳会談を行いました。冒頭で高市氏は「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけだ」と述べました。多くのメディアは「無事に乗り切った」と評しましたが、果たしてそうでしょうか。
最大の焦点はホルムズ海峡への艦船派遣要請でした。高市首相は「法律の範囲内でできることとできないことがある」と説明したとのことですが、茂木外務大臣が補足する場面もあったようです。日本の法律では紛争地域への艦艇や掃海艇の派遣はできないのですから、その点をはっきりと国民に向けて説明すべきです。「法律の範囲でできることをやります」では、何ができて何ができないのか、曖昧なままです。
一方、対米投融資の第二弾として約11兆円規模のプロジェクトが合意されました。日立製作所などが手がけるSMR(小型モジュール炉)に約6兆円、データセンター向けガス発電施設に約5兆円という内容です。しかし、日立がSMRを実際に作った実績はなく、利益が出なかった場合の負担者も不明確です。アラスカの原油パイプラインなど、完成まで10年はかかるプロジェクトが多く、その頃にはトランプ氏はいません。起承転結がまったくクローズしていない「怪しいプロジェクト」と言わざるを得ません。
トランプの「真珠湾発言」とテレビ朝日記者の失態── 話法に長けた大統領に切り返された日本メディアの英語力不足
日米首脳会談の冒頭で、トランプ大統領が放った「真珠湾発言」は大きな波紋を呼びました。テレビ朝日の記者がイラン攻撃を同盟国に事前通知しなかった理由を問うと、トランプ氏は「奇襲の効果を狙った。日本ほど奇襲(スニークアタック)をよく知っている国はないだろう。なぜ真珠湾攻撃を教えてくれなかったのか」と切り返したのです。
これは100%、質問した記者の責任です。トランプ氏は話法に非常に長けた人物であり、こうした切り返しは彼の得意技です。もし記者が「ならばアメリカも同じ汚名を今後背負うのか」と返せれば合格でしたが、見事に切り返されてしまいました。高校1年生レベルの英語力では、トランプ氏のレトリックには太刀打ちできません。
興味深いのは、アメリカ側のメディアの反応です。米国の記者たちはむしろトランプ氏のこの下品な切り返しを厳しく批判する記事を多数書いています。日本の記者がバカな質問をしたことで、結果的に日本が辱められるという最悪の展開になりました。こうした場での発言は国益に直結します。英語力だけでなく、相手の話法を理解した上で戦略的に質問できる人材を送り込むべきです。
ソフトバンク「80兆円」の大風呂敷── 人類史上最大の投資計画、しかしビジネスプランは見えず
ソフトバンクグループの孫正義会長が、アメリカ・オハイオ州で約80兆円規模のAI向けデータセンター投資計画を発表しました。アメリカの閣僚も同席してのくわ入れ式が行われ、「人類史上最大規模の産業拠点」を目指すと大々的にアピールしています。
しかし、トランプ第一期の時もインディアナ州でくわ入れ式をやっていたことを覚えている人がどれだけいるでしょうか。あの計画がどうなったか、もう誰も覚えていません。日経新聞がついに「孫正義大風呂敷」と見出しに書いたのは、象徴的です。
問題は、これだけの巨額投資に見合うビジネスプランがまったく見えないことです。データセンターを作ったとして、ユーザーはどこにいるのか。完成してからどのように利益を出すのか。パートナー企業も未確定のまま、でかい数字だけが先行しています。アメリカ側は雇用創出につながるので歓迎していますが、投資のリスクを負うのは日本側です。孫氏はテレビのディレクター出身者のように、その瞬間のインパクトで勝負する人です。しかし経営は瞬間芸ではありません。
ホンダ6900億円の赤字:EV戦略転換の手遅れ── トヨタのハイブリッド戦略が正解だった理由と、日産・ホンダの根本的な違い
ホンダが2026年3月期の連結決算で最大6900億円の赤字になる見通しを発表しました。EV需要の鈍化を受けた資産減損と開発中止に伴う損失が主因です。三部社長は「2040年までにEVとFCVの販売比率100%」の目標について「現実的に達成困難」と認めました。しかし「達成困難」ではなく「方向転換する」とはっきり言うべきです。
結果論ではありますが、トヨタのハイブリッド戦略が正解でした。同じ1リッターで30キロ走れるハイブリッド車に対し、EVは走行時こそクリーンですが、電気そのものが石炭火力で作られていれば、CO2の総排出量はむしろ多くなります。補助金ありきのEV普及策の欠陥に、もっと早く気づくべきでした。
欧州主要自動車メーカー6社の決算でも、ステランティスなど3社が最終赤字に転落し、損失総額は約6兆7000億円に達しました。世界的なEV需要の低迷が各社を直撃しています。
ここで重要なのは、日産とホンダの問題は根本的に異なるという点です。日産はカルロス・ゴーン氏のアメリカ偏重戦略が日本市場を失わせた「ゴーン後遺症」です。一方、ホンダは「ホンダにあらざれば人にあらず」という企業文化から、どの会社と組んでもうまくいかないという体質的な問題を抱えています。ホンダの救いは二輪事業の利益です。オートバイがなければ、もっと深刻な状態だったでしょう。
EU「原発は戦略的に正しかった」フォンデアライエン委員長の方針転換── 福島後の脱原発路線を「誤り」と認め、SMR推進へ舵を切る欧州
EUのフォンデアライエン委員長が、「欧州が原発から距離を置いてきたことは戦略的な誤りだった」と明言しました。福島第一原発事故後、欧州各国は脱原発に舵を切りましたが、再生可能エネルギーのインフラ整備が追いつかず、ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー不足が深刻化した現状を踏まえたものです。
フランスは何があっても原発路線を貫いてきましたが、ドイツは脱原発を決断し、その結果エネルギー供給の脆弱さが露呈しました。イギリスは国民投票で原発再開のコンセンサスを得ています。欧州全体で見ると、再生可能エネルギーは確かに増えていますが、風力が中心で、原発の比率低下分を完全には補えていません。CO2を出す石油・石炭は減少傾向にあるものの、原発がかつてのように30%程度に戻れば、エネルギーミックスはかなり安定します。
フォンデアライエン委員長はSMR(小型モジュール炉)の導入を推進する方針を示しました。比較的短期間で小規模なものを多数設置できるSMRは、大型原発に比べて立地の柔軟性が高く、段階的な導入が可能です。EUは今後、原発を低炭素電源と位置づけ、産業競争力の回復とエネルギー安全保障の強化を両立させる戦略をとることになります。エネルギー政策における現実主義への回帰と言えるでしょう。
イギリス解体の予兆:ウェールズ独立派が首位に── スコットランドに続きウェールズも。ブレグジットが招く「イングランド・アローン」
イギリスの調査会社ユーガブの世論調査で、ウェールズ議会選において地域政党ブライド・カムリ(ウェールズ党)の支持率が37%で首位となりました。反移民のリフォームUKが23%で2位、労働党と保守党はともに10%に沈んでいます。
これは重大な変化です。ユナイテッド・キングダムはイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4地域で構成されていますが、スコットランドの独立運動はすでに長い歴史があります。それに加えてウェールズでも独立志向の政党がトップに立ったことは、UKの解体リスクが現実味を帯びてきたことを意味します。
ブレグジットの日にBBCに出演して「このまま行けばイングランド・アローンになる」と指摘した時、イギリスの司会者には一笑に付されましたが、今やブレグジットは間違いだったと考える国民が6割に達しています。スコットランドが独立すればEUに再加盟を申請し、ウェールズもほぼ同時に動くでしょう。北アイルランドはアイルランドとの統合を望んでいます。
日本企業にとって見逃せないのは、日産以外の日本企業の多くがウェールズに進出しているという事実です。ソニーもパナソニックも拠点を置いており、ウェールズは日本企業と非常に相性がよい地域です。ウェールズの独立が現実になれば、日本の製造業に直接的な影響が及びます。この動きはしっかりと注視しておく必要があります。
レアアース国産化は「経済的に非合理」── コスト20倍の深海採掘に3400億円、中国に市場で潰される構造を見よ
南鳥島沖のレアアース開発について、供給網整備の総投資額が約3400億円に上る見通しが報じられました。1トンあたりの生産コストは約1100万円と、中国の約20倍です。国内需要の約1割を供給できる計算ですが、これは経済的には非合理な計画です。
企業戦略の立案家として断言しますが、やめるべきです。コストが20倍のものを苦労して高い施設を作り、運んできて売り始めた瞬間に、中国は輸出制限を解除して安い価格で大量供給に転じるでしょう。競合を潰すのは企業戦略の基礎中の基礎です。今は意地悪をして輸出を絞っていますが、それは日本にバカな投資をさせるための罠とも言えます。
レアアースは世界中に存在します。チリ、オーストラリア、アフリカなど、中国以外の国々が参入し始めています。放っておいても供給源は多様化していきます。日本がやるべきは、深海5600メートルから莫大なコストをかけて引き上げることではなく、都市鉱山の活用です。パソコンやスマートフォンを解体し、中に含まれるレアアースを回収する方が、はるかに合理的です。
学者はこうした採掘プロジェクトをやりたがりますし、役人は予算を確保したがります。しかし、3400億円もの税金を投じて、中国に市場で叩き潰される未来が見えている事業に手を出すべきではありません。
—この記事は2025年3月22日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。






