
長期政権トップの功罪と「引き際」の美学〜ニデック永守氏、キヤノン御手洗氏らの事例から考える〜
企業のトップが長期にわたって在任することには、功罪の両面があります。 視聴者の方からの質問にもありましたが、ニデックの永守重信氏やキヤノンの御手洗冨士夫氏など、創業家やカリスマ経営者の長期政権が話題になります。結論から言えば、これは「人による」というのが実情です。例えば信越化学工業の金川千尋氏のように、長期間トップに君臨しながらも最後まで見事な経営手腕を発揮された方もいます。
一方で、ニデックの永守氏の場合、かつては見事なM&Aで成長を遂げましたが、近年は後継者選びで「回転ドア」のように人が入れ替わり、誰も反対意見を言えない環境を自ら作ってしまった感があります。キヤノンの御手洗氏も同様に、長年の在任で社内や財界での影響力が強くなりすぎて、周囲が萎縮してしまっている懸念があります。 対照的なのがサイバーエージェントの藤田晋氏です。彼はまだ若いですが、権限委譲を進め、次世代のキャリアパスを明確に描いています。 経営者の引き際に正解はありませんが、長期政権が「裸の王様」を生み出し、企業の自浄作用を失わせていないか、常に厳しい目でチェックする必要があります。
日本の「ドラッグ・ラグ」を解消する処方箋〜過剰な規制と既得権益を打破せよ〜
中国でがん治療薬の治験が急速に進む一方、日本では承認の遅れ(ドラッグ・ラグ)が深刻です。 背景には、かつての薬害問題に対する過剰反応があります。もちろん安全性は最優先ですが、現状の日本のシステムはあまりに非効率です。解決策はシンプルです。「FDA(アメリカ食品医薬品局)やEMA(欧州医薬品庁)など、信頼できる機関で承認されたデータは、日本でもそのまま受け入れる」という相互認証を大胆に進めることです。
なぜこれが進まないのか。実は、国内での治験を必須とすることで利益を得ている「悪い連中」がいるからです。大学病院などで形式的な治験を行い、研究費を得るという構造が出来上がってしまっている側面があります。 救えるはずの命が、手続きの遅れや既得権益のために失われることはあってはなりません。特に中国の創薬スピードが上がっている今、どの国のデータを承認するかという議論も含め、日本の治験制度を抜本的に見直す時期に来ています。
都心マンション高騰と投機マネーの正体〜実需かバブルか、二極化する不動産市場〜
首都圏、特に東京23区内のマンション価格高騰が止まりません。平均価格が1億円を超え、千代田区などの一等地では即日完売、抽選倍率100倍という異常事態も起きています。 これに対し、不動産業界団体が転売防止策を打ち出しましたが、背景にあるのは圧倒的な「供給不足」と「海外マネー」の流入です。5年以内の転売には高い税金がかかりますが、それでも利益が出るほど価格が上昇しています。
注目すべきは、市場の二極化です。海外の富裕層は、資産価値が落ちにくい都心3区(千代田・港・中央)や、大阪の「うめきた」エリアなどに集中投資しています。彼らは転売目的というよりは、資産保全や日本への移住を見越して購入しているケースも多いのです。 一方で、郊外や地方の価格はそこまで上がっていません。日本人が普通の給与で都心に住むことが難しくなっている今、この価格高騰が健全な経済成長によるものなのか、単なるマネーゲームなのかを見極める必要があります。
原発再稼働の条件と政府の「無責任」〜緊急時の「指揮官」不在という最大のリスク〜
新潟県の柏崎刈羽原発について、花角知事が再稼働を容認する考えを示しました。私は基本的に原発推進論者ですが、現在の日本の体制での再稼働には反対の立場をとっています。 その最大の理由は、政府側に「緊急時の当事者能力」が欠如しているからです。
福島第一原発事故の教訓は、「安全審査をした機関(当時の保安院など)は、事故が起きると責任逃れをする」ということでした。いざ過酷事故が起きた際、現地の所長や自治体の首長と直接対話し、住民避難や事故処理の決断を下せる「専門知識を持った指揮官」が内閣府に存在しません。 かつて私はこの仕組みを作るよう提言しましたが、政治家たちは「そのような役職に就けば、事故が起きることを前提にしていると批判され、選挙に落ちる」と逃げ腰になりました。 安全神話に頼り、万が一の際の責任体制を曖昧にしたままの再稼働は、あまりに無責任と言わざるを得ません。
地方リゾートの再生と海外投資家の実像〜妙高高原開発に見る期待と懸念〜
長野・新潟県境の妙高高原や斑尾高原で、シンガポールの投資会社による大規模なリゾート開発計画が進んでいます。日本のスキーリゾートは雪質も良く、インバウンド需要のポテンシャルは極めて高いです。地元鉄道会社も観光列車を走らせるなど期待を寄せていますが、ここで注意すべきは投資家の「実像」です。
今回話題になっている中心人物や企業について、資金力や実績に疑問符がつく報道も出ています。かつてアマンリゾーツの創業者を名乗る人物が日本各地でプロジェクトをぶち上げ、結局立ち消えになった事例もありました。 地方自治体や企業は、「海外からの投資」というだけで諸手を挙げて歓迎するのではなく、相手のデューデリジェンス(信用調査)を徹底する必要があります。とはいえ、日本国内にリスクを取って開発するプレイヤーがいないのも事実。本物の投資を呼び込めるかどうかが、地方再生の鍵となります。
ソフトバンク孫正義氏のAI投資戦略〜事業会社か、単なる投資ファンドか〜
ソフトバンクグループがOpenAIに対して巨額の追加出資を行うことが報じられました。累計出資額は5兆円を超え、マイクロソフトを抜いて筆頭株主になる可能性もあります。 孫正義氏は「AI革命」を掲げていますが、ここで問われるのはソフトバンクの立ち位置です。
マイクロソフトは、自社のクラウドサービスやOffice製品にOpenAIの技術を組み込み、具体的な事業価値を生み出しています。対してソフトバンクは、巨額の資金を投じてはいますが、それを自社の通信事業やサービスとどう融合させ、シナジーを生み出すのかが見えてきません。 単にお金を出すだけの「投資家」に留まるのであれば、AIバブルが崩壊した際に共倒れになるリスクがあります。かつてのビジョン・ファンドのように、投資先が不振に陥ればグループ全体が揺らぎます。事業会社としての明確なAI活用ビジョンが求められています。
日の丸半導体「ラピダス」への巨額支援への疑義〜IBMが自社でやらない理由を考えよ〜
政府は、最先端半導体の量産を目指す「ラピダス」に対し、追加で1兆円規模、累計で約3兆円もの支援を行う方針です。しかし、私はこのプロジェクトの成功確率極めて低いと見ています。 ラピダスはIBMの技術支援を受けて2ナノメートルの半導体を量産しようとしていますが、冷静に考えてみてください。もしその技術で本当に採算が取れ、簡単に量産できるのであれば、IBMは自社で工場を作ってやるはずです。
民間からの資金が集まらず、政府が「国益」を掲げて税金を投入し続けている現状は、市場原理から見て不自然です。2ナノという超微細プロセスの量産は、TSMCやサムスン電子ですら苦労している領域です。 成功の見込みが薄いプロジェクトに、「経済安全保障」という名目で湯水のように税金を使うことは、国民に対する背信行為になりかねません。
「一つの中国」と国連の歴史的真実〜外交無知が招く日本の危機〜
高市早苗氏の台湾有事に関する発言や、中国による日本人への渡航制限など、日中関係がギクシャクしています。しかし、多くの政治家やメディアは、中国が主張する「一つの中国」の歴史的背景を正しく理解していません。
中国は「台湾は中国の一部(核心的利益)」と主張しますが、これは1971年の国連におけるアルバニア決議以降、彼らが作り上げてきた既成事実です。1971年以前、国連の常任理事国だったのは台湾(中華民国)でした。もし本当に「一つの中国」であれば、国連加盟時に台湾を追い出す必要はなかったはずです。台湾を追い出したという事実こそが、国際社会が当時「台湾は別の国」と認識していた証拠でもあります。 また、日本の「非核三原則(持ち込ませず)」についても、実際には日米間の密約や現状において形骸化していることは、ライシャワー元駐日大使の発言などからも明らかです。 歴史的経緯や密約の実態を知らぬまま、表面的なスローガンで外交を語ることは、日本の国益を損なうだけでなく、無用な対立を招く危険があります。
—この記事は2025年11月23日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。






