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KON1078「国内AI事業/トランプ相互関税/自動車関税/日本の米事情/東南アジアと米中貿易摩擦/金利動向/イーロン・マスク氏/安全保障環境の変化」

TOP大前研一ニュースの視点blogKON1078「国内AI事業/トランプ相互関税/自動車関税/日本の米事情/東南アジアと米中貿易摩擦/金利動向/イーロン・マスク氏/安全保障環境の変化」

KON1078「国内AI事業/トランプ相互関税/自動車関税/日本の米事情/東南アジアと米中貿易摩擦/金利動向/イーロン・マスク氏/安全保障環境の変化」

2025.04.11
2025年
KON1078「国内AI事業/トランプ相互関税/自動車関税/日本の米事情/東南アジアと米中貿易摩擦/金利動向/イーロン・マスク氏/安全保障環境の変化」

国内AI事業の最前線:マイクロソフトの取り組みと流通業界の事例

国内でAI導入の機運が高まるなか、マイクロソフトは「AIパートナートレーニングデー東京」を開催しました。自社のAI開発事例を共有するとともに、多彩なパートナー企業がプレゼンを行い、流通・小売業向けシステム開発を手掛ける企業などがAIエージェントの実装事例を紹介したのが大きな特徴です。特にヴィンクスは、自社ソフトにAIエージェントを組み込み、顧客企業の意思決定をサポートするサービスを披露しました。

このような取り組みは、流通業界の在庫管理や接客支援をはじめ、多岐にわたる導入可能性を示しています。実際、ビッグデータをもとに需要予測を高精度化することで売り場オペレーションを効率化したり、AIチャットボットによるカスタマーサポートを拡充したりと、活用範囲が広がっています。大前研一も指摘しているように、日本企業が世界で競争力を高めるためには、こうした先行技術を積極的に取り込み、自社のビジネスモデルに合う形で展開していくことが重要です。企業がAI導入をためらう背景には人的リソースの不足や初期コストの問題が挙げられますが、先行事例から学ぶことでスムーズな運用体制を整えやすくなります。今後ますます高まる需要に対応するべく、国内AI事業の進展が加速すると期待されます。

トランプ相互関税がもたらす世界経済への波紋:根拠なき計算式と国際社会の反発

アメリカのトランプ大統領が発表した「相互関税」は、各国からの輸入額や貿易収支の赤字幅を根拠に、一律関税に上乗せする形で決定されました。例えば中国に対しては34%、日本には24%、EUには20%を課すなど、根拠が不明瞭な計算式で算出されているのが特徴です。経済学者のラリー・サマーズ氏は「危険で有害」と批判し、ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン氏も「完全に狂っている」と強い言葉で非難しました。

この政策によって輸入品価格が急騰すれば、アメリカ国内の消費者はインフレの圧力にさらされる一方、製造拠点をアメリカに回帰させるというトランプ氏の狙いが実現するかは疑問です。なぜならアメリカには製造業を支える労働力不足という構造的問題があり、コスト面でも多国籍サプライチェーンの現状を覆すのは容易ではありません。長年の貿易摩擦を経ても、アメリカ国内で生産が復活しなかった事例は多く存在し、今回も同様に成果が得られない可能性が高いと見られます。世界経済の不安定化が懸念されるなか、国際社会の反発はさらに強まるでしょう。

自動車関税とメキシコへの影響:GM輸入台数トップの実態と日系メーカーの対応

相互関税の一環として、自動車にも高率な追加関税が課される可能性が取り沙汰されています。興味深い点は、アメリカで最も多くの輸入車を扱っているのが、実は現地メーカーのGMであることです。GMはメキシコ工場で生産した車を大規模にアメリカへ持ち込み、輸入台数では日系や欧州メーカーを上回ります。こうした実態は、トランプ政権の「製造業を国内に呼び戻す」という主張と矛盾しているとも言えます。

一方、日系自動車メーカーは長年にわたりアメリカ現地生産を拡大し、今や年間350万台以上を生産する水準に達しました。トヨタ、ホンダ、日産などは現地雇用の創出にも大きく寄与しており、仮に高関税が発動すれば、かえってアメリカ経済自体に悪影響が及ぶ可能性があります。メキシコとの関係でも、NAFTAの流れを汲む新協定によって一部の関税が猶予される状況で、メキシコ政府は優遇を「尊敬の関係」と表現しました。しかし、関税をちらつかせるアメリカの強硬姿勢は、企業の投資戦略やサプライチェーンの最適化を混乱させる要因になっています。

コメ関税と日本の米事情:“700%”発言への反論とミニマムアクセスの背景

トランプ大統領は日本のコメ関税について「700%もの高関税をかけている」と指摘しましたが、日本政府はこれを否定しています。実際、ミニマムアクセス枠で輸入されるコメには関税がかからず、それ以外の輸入コメでも1kgあたり341円程度の関税が基本です。これは日本の農家保護政策の一環で、長年の日米交渉の積み重ねによって確立された枠組みといえます。

また、日本国内ではJAルートを通さずに農家と直接取引する動きが拡大しているため、コメの在庫が分散し、集荷ルートによっては需給ひっ迫感が出ている状況です。実際には米の消費量は高齢化や食生活の多様化で減少が続いていますが、高品質米を直接購入したい需要は根強く、ネット販売や道の駅など新しい流通が生まれています。過去には米輸入をめぐるウルグアイ・ラウンドで日本が国内生産を守るため、最低輸入量を設定するなど複雑な経緯がありました。こうした歴史的背景を踏まえつつ、米政策は引き続き政治的にも経済的にも大きな争点となるでしょう。

東南アジアと米中貿易摩擦:ベトナムへの生産移管と“巻き添え関税”の実態

米中貿易摩擦が激化する中、中国企業や台湾企業がベトナムやラオスへ生産拠点を移す動きが加速しています。本来は中国からアメリカへ輸出していた製品を東南アジア経由に切り替えることで、中国以外の原産国と見なされる狙いがあります。しかし、トランプ政権の計算式では、たとえばベトナムからの対米輸出増加をそのまま「不公正な貿易黒字」とみなし、高率関税対象に含めてしまうため、ベトナムにも45%という高率関税が課される可能性が浮上しました。

こうした想定外の“巻き添え”が東南アジア諸国に動揺を広げています。ベトナムは自動車輸入関税の引き下げやアメリカ産農産物の輸入拡大といった譲歩策を検討し、タイも同様の動きを見せています。これは「中国プラスワン」と呼ばれるリスク分散戦略が、一転して各国への関税強化につながる皮肉な状況です。大前研一も指摘しているように、グローバルなサプライチェーンが複雑化した今、単純な関税政策は各国経済に波及的な混乱をもたらすだけで、何ら生産回帰の効果をもたらさない可能性が高いとみられます。

株式市場と金利動向:ダウ暴落とトランプ大統領のFRB圧力

相互関税の発表を受け、中国が報復措置を表明すると、米株式市場は大幅下落し、ダウ平均が史上三番目の下げ幅を記録しました。投資家は貿易戦争による景気後退やインフレ圧力を警戒し、リスク回避姿勢を強めています。一方でトランプ大統領は、FRB(連邦準備制度)のパウエル議長に対し「今が利下げの絶好の機会」とSNS上で主張。自らの政策が経済不安を増幅しているにもかかわらず、金融緩和で景気の下支えを図ろうとしているわけです。

しかしパウエル議長は「FRBは厳格に非政治的な立場であり、急ぐ必要はない」と反論し、政治介入を拒んでいます。大前研一は、トランプ政権が強引に関税を引き上げ、企業のサプライチェーンに混乱をもたらす以上、金利だけで景気を下支えするのは難しいと見ています。インフレリスクと景気減速の板挟みは、株価の乱高下を促進する要因となり、今後も米金融政策は難しい舵取りを迫られそうです。

イーロン・マスク氏と政権内の動き:多事業経営者の去就と政治利用の思惑

トランプ政権下では、さまざまなポストが短期間で入れ替わる混乱が続いています。そのなかで政府効率化に関する委員会を実質的に率いるとされたイーロン・マスク氏も「数カ月以内に職務を離れる可能性が高い」と伝えられました。マスク氏は複数の企業を経営しており、政権ポストと事業の両立が難しいことが背景にあるとみられます。

ただし副大統領のバンス氏は「マスク氏はアドバイザーとして影響力を持ち続ける」と述べており、政権と実業家の関係が単純に断ち切れるわけではありません。大前研一は、トランプ政権がビジネス界の有力者を政策に取り込みつつ利用する手法に注目しています。政権が求心力を失った時にも、資金力や知名度の高い企業家を味方につけられるかどうかは大統領選を含む政治的な駆け引きで重要な要素となります。マスク氏の今後の立ち位置は、政権内外のパワーバランスを映す鏡となりそうです。

安全保障環境の変化と世界秩序の再編:日米同盟の再定義・台湾情勢・ウクライナ停戦交渉・レアアース

トランプ政権の発足後、国家防衛戦略の前倒し改定を検討する動きが日本政府内で活発化しています。アメリカが「同盟の抑止力・対処力強化」を口では謳いつつも、実際には「日本が前線に立つべきだ」という姿勢を示し、在日米軍の役割や費用負担にも再度言及しています。これは戦後80年にわたる「アメリカ主導の安全保障体制」に変化が訪れている証左といえます。

一方で、中国は台湾周辺で大規模軍事演習を繰り返し、台湾政府やアメリカ軍への威嚇を強化。アメリカ側は非難声明を出すものの、かつてのように空母を派遣して軍事的圧力をかけるまでには至っていません。ウクライナの停戦交渉においても、ロシアとアメリカがレアアース共同開発を協議し、ウクライナへの国連暫定統治案が浮上するなど、ヨーロッパの意向を置き去りにした動きが進行しています。大前研一は、これらの事象を総合して「世界秩序は大転換期に入りつつある」と見ています。アメリカ主導の枠組みから自国優先へとシフトする動きが加速するなか、日本を含む各国は安全保障の再定義とエネルギー・レアアース確保の戦略を再構築する局面に立たされています。

—この記事は2025年4月6日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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