
トランプとイーロン・マスクの決裂:政治とビジネスの価値観の衝突
2025年6月、イーロン・マスク氏はSNS「X」でトランプ大統領を痛烈に批判し、両者の関係に決定的な亀裂が入ったことが明らかになりました。トランプ氏が提出した大型支出削減法案に対し、マスク氏は「利権と無駄に満ちた忌まわしい法案」と断じ、その賛成者を「恥を知れ」と非難しました。両者はかねてより異なる価値観を有しており、協力関係の継続は困難と見られていました。私も「予想より1か月遅れたが、決裂は必然だった」と述べています。今後はマスク氏がトランプ氏のスキャンダル(例:エプスタイン問題)を暴露する可能性や、民主党支援への転向など、対立が激化する見通しです。この対立は、アメリカの経済政策やIT産業、政界の力学にも影響を及ぼす可能性があり、世界中の注目を集めています。
テスラ株急落とイーロン・マスクの責任論
2025年6月、テスラの株価が1日で18%下落し、時価総額が約22兆円も失われるという事態が発生しました。背景には、マスク氏とトランプ氏の決裂による経営リスクの顕在化や、欧州で広がっていた「トランプ支持企業への不買運動」があります。販売台数や収益の減少傾向も続いており、株価の乱高下はマスク氏の政治的発言や経営姿勢への市場の不信感を反映しています。ただし、私は「マスク氏にとって20兆円の損失は“くしゃみ”程度に過ぎない」とも述べており、個人資産が巨大な彼にとっては限定的な影響と見られています。とはいえ、CEOとしての姿勢が問われる局面であり、今後の経営判断に注目が集まります。
のれん償却問題と日本のM&A環境
2025年3月、日本政府のワーキンググループが、M&A時に発生する「のれん」の会計処理について見直しの議論を開始しました。現行制度では20年以内の定期償却が義務付けられ、M&A後の業績に悪影響を及ぼすとの指摘が企業から上がっています。国際会計基準では「価値が下がった時点で一括償却」という方式で、利益を圧迫しない柔軟性があります。私は「実質的な企業価値が上がっても、日本では償却しなければならず、投資判断を鈍らせている」と分析。優良企業を適正価格で買収しても、定期的な損失計上が必要になる日本の制度は、成長を阻害する要因とも言えます。制度改正により、国内のM&A活性化が期待されます。
NTTとSBIの提携が意味する金融再編の兆し
2025年5月、NTTとSBIホールディングスは資本業務提携を発表し、金融・保険・再エネ分野での連携を進める方針を示しました。NTTがSBIの株式を約1,108億円分取得したことで、NTTがネット銀行分野に本格参入する姿勢が明確となりました。特に住信SBIネット銀行の吸収は、ドコモ契約者基盤との連携により、大手プラットフォーマーによる銀行業の新展開を示唆します。一方で、私は「SBI側の経営者は読みにくく、提携リスクもある」と指摘。証券分野ではマネックスや楽天との連携も進む中で、金融再編の新たな構図が浮かび上がっています。NTTによる“総合金融+通信”戦略が本格化すれば、既存の金融機関にとって脅威となる可能性があります。
三菱UFJによるマネーツリー買収の狙い
2025年5月、三菱UFJ銀行とその子会社ウェルスナビは、家計簿アプリ「マネーツリー」を買収する方針を発表しました。同アプリは650万人の個人ユーザーを有し、銀行口座やクレジットカードなどの情報を一括管理できる機能を備えています。買収により、顧客の資産動向を的確に把握し、資産形成サービスと連動させる狙いがあります。私は「米国では家計簿アプリが銀行、投資、納税情報のハブになっている」と述べ、クイッケンやエンパワーといった米国企業の事例を挙げながら、日本の金融サービスがようやく統合管理の時代に入ろうとしていると指摘しました。今後、アプリが会計機能まで包含すれば、税務や資産運用の常識が一変する可能性があり、金融業界における大きな転換点となるでしょう。
少子化加速とその社会的影響
厚生労働省が発表した2025年の人口動態統計によると、日本人の出生数は68万6,061人と過去最低を更新し、初めて70万人を下回りました。これは政府の想定より15年早いペースでの減少であり、婚姻数の減少や出産年齢の高齢化が要因とされています。私は「今のやり方では反転は難しい」とし、労働力不足や治安・災害対応体制の崩壊などを懸念。特に自衛隊や消防など、体力と若さを要する職業の担い手不足が深刻化すると指摘しています。その上で、ドイツのように移民政策と教育制度を組み合わせた「即戦力育成型」施策が不可欠と述べました。単なる出産支援だけでなく、社会構造そのものの見直しが急務であることが明らかになっています。
トランプ一族の仮想通貨依存とその危うさ
2025年5月、日経新聞が「トランプ一族が仮想通貨に傾倒している」と報じました。トランプ・コインの発行や、仮想通貨関連資産の急増などにより、資産の4割が暗号資産とされています。加えて、規制の緩い仮想通貨取引を通じて、政権への“裏口アクセス”が可能となる懸念が指摘されています。私は「監視の目を逃れる手段として仮想通貨を利用するのは極めて危険」と警鐘を鳴らし、国家と個人資産の分離が曖昧になりかねないと述べています。米国の金融規制当局にとっても看過できない問題であり、政治とマネーの境界が崩れることへの懸念が強まっています。今後の規制強化や議会での議論が注目されます。
群馬を「怖い」と表現した石破発言の真意
2025年6月、石破首相が群馬県前橋市での発言において「群馬と聞くと怖い人が多そう」と発言し、波紋を呼びました。本人は「差別の意図はない」と釈明しましたが、私はこの発言を「群馬の自民党系大物政治家に対する本音が出た」と評しました。群馬は中曽根康弘氏、小渕恵三氏、福田赳夫氏(息子は福田康夫氏)の首相経験者を輩出した“保守の牙城”であり、自民党内でも存在感の大きい地域です。私は、「石破氏にとっては頭の上がらない先輩たちが多く、発言にはその心理がにじみ出ている」と述べ、群馬の歴史的・政治的背景を理解することが発言の真意を解釈する鍵であるとしました。地方の発言が政治的文脈でどう受け取られるか、リーダーには慎重な対応が求められます。
—この記事は2025年6月8日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。






