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KON1085「定期預金増加と日本人の「貯蓄傾向」/移動データをめぐる攻防/保険・金融業界の海外進出と脱「生保」依存/自動車・トラック再編/製薬業界への関税/教育の越境」

TOP大前研一ニュースの視点blogKON1085「定期預金増加と日本人の「貯蓄傾向」/移動データをめぐる攻防/保険・金融業界の海外進出と脱「生保」依存/自動車・トラック再編/製薬業界への関税/教育の越境」

KON1085「定期預金増加と日本人の「貯蓄傾向」/移動データをめぐる攻防/保険・金融業界の海外進出と脱「生保」依存/自動車・トラック再編/製薬業界への関税/教育の越境」

2025.05.30
2025年
KON1085「定期預金増加と日本人の「貯蓄傾向」/移動データをめぐる攻防/保険・金融業界の海外進出と脱「生保」依存/自動車・トラック再編/製薬業界への関税/教育の越境」

定期預金増加と日本人の「貯蓄傾向」―消費より利息重視、低金利でも動く資金―

日銀が13日に発表した4月のマネーストックによると、定期預金など純通貨の残高は491兆7300億円で前年同月比2.3%増と、2010年3月以来の高伸び率を記録しました。日銀の利上げを受け、わずかとはいえ金利の高い定期預金への資金移動が起きている格好です。実質金利0.3%程度でも「少しでも有利」な商品に移す日本人の貯蓄志向は根強く、消費拡大にはつながりにくい面があります。
根底には賃金上昇の停滞や将来不安などがあり、「お金を使って楽しむよりも蓄えたい」という心理が強いと考えられます。インフレ局面が鮮明になる中、実質的には資産価値が目減りしかねない状況でも、行動を変えない日本人の特徴はしばしば指摘されてきました。民間の需要刺激策や新しい投資商品の提案など、経済全体としては消費に回る流れをどう作り出すかが引き続き大きな課題となりそうです。

移動データをめぐる攻防:三井住友カード×交通事業者―クレカ改札の普及とプライバシーリスク―

日経新聞は「ボーダレス金融 移動データ クレカが狙う」と題する記事を報じ、三井住友カードがクレジットカードをかざすだけで乗車できるサービスを拡大する狙いを紹介しました。運賃から手数料を差し引く形になるため直接の利益は薄いものの、移動情報が蓄積されることで利用者の行動パターン分析が可能となります。これまで交通事業者が独占的に保有していた「乗降・移動データ」を、カード会社側も獲得することで、ピンポイントのマーケティングが可能になると期待されているのです。
一方で、生活圏を詳細に把握されることへの懸念やプライバシー保護の問題も大きく浮上します。利用者の行動履歴が、個人の同意範囲を超えて広告連動などに使われるリスクがあり、自由度の高いビジネスモデルと社会的要請の間で倫理規範と規制の整備が求められます。便利さと引き換えに個人情報がどこまで活用されるのか、利用者側の理解や選択の尊重が不可欠と言えるでしょう。

保険・金融業界の海外進出と脱「生保」依存―第一生命の英ヘッジファンド出資とKDDI自社株買い―

第一生命ホールディングスは、イギリスの債券ヘッジファンド大手キャプラインベストメントマネジメントへの出資比率を約15%に引き上げ、持分法適用会社にすると発表しました。運用資産約4.8兆円を有するキャプラを取り込むことで、トランプ政権の関税政策などが複雑化する債券市場で高い運用力を発揮し、生保中心の体質から脱却を図る狙いがうかがえます。
一方KDDIは4000億円の上限で自社株買いを実施すると公表しました。筆頭株主の京セラ、そして大株主のトヨタが持ち合い株を売却方針とする流れに対応した形で、政策保有株の縮減が進む昨今の潮流を象徴しています。創業時からの出資関係や持ち合いが徐々に解消される中、企業は自由度の高い経営戦略を手に入れる反面、一定の安定株主が減るリスクも抱えることになります。

自動車・トラック再編:いすゞ×UDの販売統合―四社乱立から二つの陣営へ集約進む―

いすゞ自動車は14日、完全子会社のUDトラックスと販売会社を統合する方針を発表しました。かつて国内のトラックは、いすゞ、日野自動車、三菱ふそう、UDトラックスの四社体制でしたが、不正検査問題などで日野が凹み、三菱ふそうはダイムラーと連携、UDはスウェーデンのボルボ傘下を経て現在は再編途上です。そこへいすゞが統合を進め、全国拠点の重複を削減してコストを抑え、収益力強化を狙う構造です。
背景にはグローバル競争の激化や電動化・自動運転など新技術投資の巨額化があり、国内だけで四社が同様の開発を重複して行う余裕はありません。実際、欧米ではすでにダイムラーベンツやスカニア、ボルボなどが覇権を争い、中国でも大型車の製造数が急伸しています。日本勢は二つの大きなグループへと再編が進み、世界市場での「攻めの戦略」をどう形にするのかが次の段階となるでしょう。

製薬業界への関税:バイオジェンの原薬国内移管―トランプ政権の医薬品輸入制限が引き金に―

アメリカの製薬大手バイオジェンは、アルツハイマー病治療薬「レカネマブ」の原薬製造をスイスからアメリカ・ノースカロライナの工場へ移管する準備を進めています。トランプ政権が医薬品に関税を課す可能性を示唆しており、現状はスイスで原薬を作って米国で加工・出荷する形ですが、将来的に輸入コストの増大や関税負担リスクが高まることへの対策とみられます。
医薬品は製造のグローバル分業が進み、ヨーロッパやアジアの生産拠点で原薬を作り、アメリカ本土で最終製品化するケースが一般的でした。しかし、トランプ政権下では保護主義的な医薬品政策(「米国産優先」)や大幅な薬価引き下げ策を打ち出しており、各製薬企業が供給網を再構築せざるを得ない状況です。世界的にもサプライチェーンの見直しが加速する中、製薬業界の地理的バランスは今後さらに変化していくでしょう。

教育の越境:マレーシア留学の魅力―学費の安さと英語環境が人気を後押し―

マレーシアの小・中学校に留学する日本人が増えており、この2年間で42%も留学生数が伸びたと報じられました。学費が比較的安いことに加え、英語を日常的に使う教育環境や多民族社会ならではの文化的多様性が魅力として挙げられています。シンガポールよりも物価水準や学費が低い点も家計にとって大きなメリットです。
こうした流れの背景には、マレーシア国内で理数系を英語で学ぶクラスが増加し、英語力を高めやすい仕組みが根付いてきた歴史があります。日本では学校教育の中に英語話者の講師を十分取り込めず、「英語を教える先生が実は得意でない」という構造的課題が依然として存在します。子どもの将来を考え、海外留学を選択する保護者が増えるのは、国内教育改革の停滞を映し出す一面とも言えるでしょう。

南海トラフ地震の想定拡大と不透明なリスク評価―日向灘まで震源域拡大も「想定外」回避の色合い濃厚―

南海トラフ巨大地震については、これまでは駿河湾から四国沖をメインとするマグニチュード8~9級の被害想定が議論されてきました。ところが東日本大震災後、宮崎県沖の日向灘も震源域に加えられ、結果として想定津波被害が九州にまで及ぶリスクが指摘されています。日経新聞は、科学的根拠が薄い部分も「想定外」批判を恐れる行政担当者の思惑が重なっていると指摘し、リスク評価の曖昧さを浮き彫りにしました。
東海・東南海・南海と区切られていたゾーンの拡大は、防災対策を過度に広げる一方、具体的な地域優先度や住民避難計画の策定を難しくするという課題もあります。地震予知の限界が認められた今、「どこまでが本当に危険なのか」「社会や企業がどこまで備えるか」の線引きをしっかり議論する必要があります。無責任に「一帯全て」を危険とするだけでは、現実的な防災インフラ投資の指針が定まりません。

政治再編に向けた動きと韓国大統領制の課題―日本の連立模索と隣国の“強大権限”大統領の末路―

日本国内では、自民・公明が国民民主や維新、さらには立憲民主とも政策協議を進め、参院選後の連立再編や組み替えに備える姿勢が見えます。小選挙区制以降、勝ち馬に乗るかたちで野党が合従連衡を繰り返してきた歴史があり、夏の選挙結果次第ではガラガラポン的な連立再形成もありうる状態です。各党の公約が「バラマキ合戦」に陥りがちな点は国の財政にとって危惧すべきポイントとなります。
一方、お隣の韓国では歴代大統領のほとんどが退任後に逮捕・弾劾・自殺など悲惨な末路を辿るケースが相次いでおり、「国民の人気投票」で選ばれる大統領に立法・行政・司法・軍事を集中させる仕組みにも限界が指摘されています。アメリカ型の4年任期2期制へ移行する案などが取り沙汰されているものの、国民感情や既得権益の絡みもあり、一筋縄ではいかないのが実情です。日本の連立模索と韓国大統領制の再検討はいずれも「政治の正統性」や「民意との距離感」が焦点と言えます。

—この記事は2025年5月25日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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