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KON1083「国内自動車業界の再編/自動運転タクシー/金融・商社の戦略転換/外国産米と日米関税交渉/AIと半導体」

TOP大前研一ニュースの視点blogKON1083「国内自動車業界の再編/自動運転タクシー/金融・商社の戦略転換/外国産米と日米関税交渉/AIと半導体」

KON1083「国内自動車業界の再編/自動運転タクシー/金融・商社の戦略転換/外国産米と日米関税交渉/AIと半導体」

2025.05.16
2025年
KON1083「国内自動車業界の再編/自動運転タクシー/金融・商社の戦略転換/外国産米と日米関税交渉/AIと半導体」

国内自動車業界の再編:日野×三菱ふそう―大型トラック統合の行方―

日野自動車と三菱ふそうトラック・バス、そして両社の親会社であるトヨタとダイムラーによる四社連合は、2023年内をめどに予定していた経営統合の最終合意が、日野のエンジン認証不正問題で長引いていました。しかし、今回2026年4月上場を目指して持株会社設立に最終合意する見通しが明らかになりました。
かつては国内のトラック事業者が競合関係にあったものの、世界市場では電動化や自動運転、さらには米国や欧州の大手プレーヤーとの競争が激化しています。三菱ふそうはインドネシアなどアジアの商用車市場で強みを発揮してきたものの、親会社ダイムラー内での戦略的位置付けも変化し、今回の統合は必然ともいえる流れです。トヨタ系の日野との協業でコスト削減と技術開発の効率化を進め、生き残りを図るのが狙いですが、一方で国内のいすゞやUDトラックス(旧日産ディーゼル)といった企業との関係も含め、さらなる再編を見据えた構図に注目が集まります。

自動運転タクシー:トヨタ×ウェイモの挑戦―レベル5時代の覇権争い―

トヨタ自動車とグーグル傘下のウェイモが、自動運転技術開発で提携すると発表しました。ウェイモは米国の四つの都市で商用の自動運転タクシーを展開しており、世界最大級の地図・走行データベースを有しています。トヨタとしては、ウェイモの圧倒的プラットフォームを活用しながら自社車両の信頼性と大量生産のノウハウを持ち込む形ですが、日本勢によるレベル5の自動運転で主導権を握れるかは不透明です。
すでにウェイモ(グーグル)はグローバル規模で3Dマップを構築済みであり、そこに追随するのは容易ではありません。提携戦略としては合理的ですが、データとソフトウェアでリードを広げる米IT企業の勢いが続く中、トヨタなど自動車メーカーの強みはハード面でのクオリティや安全性に限られがちです。将来的にはハンドルを持たない完全自動運転車が普及する可能性も高く、従来のエンジン車で培った競争力をどう転換するかが日本勢共通の課題といえるでしょう。

日系自動車の好不調:マルチ・スズキと日産―インド市場 vs. グローバル構造改革―

インドの乗用車市場でトップを走るマルチ・スズキが、小型車の販売減少をSUVなどで補い、2025年3月期の純利益が過去最高を更新しました。インド国内だけでなく輸出も好調で、小型車に偏るリスクをSUVラインナップ強化でカバーした成果が出ています。EV化の波が来ても、現地需要やコスト事情に合わせた柔軟なモデル展開で安定した業績を上げている点は特筆されます。
一方、日産自動車は2025年3月期連結決算で最大7500億円の最終赤字を見込むと公表しました。ロシアやモロッコ等での拡大路線の失速、ゴーン事件後の混乱、メキシコ工場のトランプ関税リスクなどが同時にのしかかり、国内市場でも存在感が薄れています。経営再建には生産拠点やモデルラインナップの抜本見直しが必須ですが、単にリストラに頼るだけでは将来の成長力を確保しにくく、今後も苦戦が続く可能性があります。

金融・商社の戦略転換:野村HDと伊藤忠商事―海外M&Aと持ち合い解消の動向―

野村ホールディングスはオーストラリアの金融大手マッコーリーグループからアメリカ子会社を買収し、資産運用ビジネスを拡充します。ウェルスナビやネット証券の台頭で国内リテール部門が伸び悩む中、世界最大級の資産運用市場である米国で販売網を獲得し、「運用資産1兆ドル」を目指す足がかりをつくる狙いです。過去の海外買収でシナジーを十分発揮できなかった野村が、今回は戦略をモノにできるか注目されます。
一方、伊藤忠商事はタイの財閥CP(チャロンポカパン)グループの中核企業・CPポカパン株を売却し、持ち合いを解消すると発表しました。2014年の提携を軸にアジアでの原料調達やコールセンター事業などを連携してきましたが、コーポレートガバナンス・コードが上場企業の政策保有株解消を促進しています。伊藤忠は対中国では国営企業CITICグループとの関係も抱え、今後の対アジア戦略をどう組み立てるのかが問われています。

米騒動再び?:外国産米と日米関税交渉―高止まりする国産米への不満と政治的綱引き―

主食用外国産米の輸入量が2025年度に4万トン超と、前年度の約20倍に増える見通しです。国産米価格が高止まりしている中、商社や外食大手が割安な輸入米を確保する動きが顕在化しています。一方、自民党内では「米輸入拡大は断固阻止」との声も強く、米の国益や食料安全保障論が繰り返し浮上していますが、現行制度では備蓄米の市場放出がうまく機能せず、値下げ効果が出ていません。
加えて日米間の関税交渉では、自動車関税を下げる代わりにコメ・農産物を譲歩材料に使うのかが政治的な火種です。自民党幹部らは「トウモロコシ拡大は容認し米は死守」という姿勢を示していますが、実際のところ米が国民生活でどれほど必須か(自給率や有事対応の意味合いなど)は、エネルギーや飼料問題とセットで考える必要があります。農業票の存在が大きい日本の政治構造では抜本改革が難しいまま、輸入米が事実上市場を広げているのが現状です。

ゴルフ場の「2025年問題」と地域レジャーの行方―団塊世代75歳到達で激変する客層―

日本のゴルフ場が「2025年問題」に直面しています。ゴルフ利用者の多くを占めてきた団塊世代が後期高齢者となり、免許返納や健康不安からラウンド回数が減ると予想されているためです。各ゴルフ場は韓国からの誘客やシニアゴルファーの送迎サービス強化などに動いており、プレー人数の急減をどう補うかが深刻な課題となっています。
バブル期にはゴルフ会員権が高値で取引され、コース開発も相次ぎましたが、その後の倒産や買収で業界再編が進みました。近年は若年層をゴルフに呼び込む努力も見られますが、プレーにかかる時間やコスト、練習環境などのハードルが依然高いのが実情です。シニア層への依存度を下げるためには、短時間プレーやオンライン予約の充実、さらにはレジャー観光とのセットプランなど総合的なアプローチが求められます。

パラオ共和国と日本の関係強化―コロナ禍後の観光復興と歴史的つながり―

パラオのウィップス大統領が大阪関西万博参加のために来日しました。人口2万人弱の小国であるパラオはコロナ禍で観光客が激減し、経済が大打撃を受けてきた経緯があります。かつて日本の委任統治領だった歴史から日本語を話せる住民も多く、対日感情が良好な国として知られますが、台湾や韓国、中国などからの観光客が戻らず、レストラン閉鎖やホテル経営の苦境が続いています。
日本はパラオとの外交樹立30周年を迎え、石破総理との会談でも一層の関係強化が確認されています。ダイビングの名所として知られるパラオは、北米やアジアからの観光客誘致が経済の大きな柱であり、日本直行便の再開や海外投資の誘致など、ポスト・コロナでの回復が鍵となります。小国ながら地政学的にはアメリカの自由連合盟約下にあり、中国の海洋進出を牽制する拠点としても、日米台にとって地政学上重要な存在です。

AIと半導体:インテルの苦戦と中国IT勢の動き―エヌビディアH20確保が示す世界分断―

インテルが2025年1~3月期決算で約1180億円の最終赤字を計上し、かつての「インテルインサイド」全盛期とは大きく様変わりしています。PC向けCPUの落ち込みに加え、TSMCなど競合に押されるファウンドリー事業が業績足かせとなり、AI半導体分野でもエヌビディアなどに大きな後れをとっているのが現状です。
一方、中国のIT大手(アリババ、バイトダンス、テンセントなど)はエヌビディアのAI半導体H20を大量購入し、米国が輸出規制を課す前から在庫を確保していたことが分かりました。米中対立のもと、トランプ政権から続くハイテク封じ込め政策をかいくぐる形で、中国企業は半導体の「先買い」を進めており、AI技術の主導権争いが激化しています。米国政府としてはSWIFT(国際送金網)などと同様に、半導体供給を外交カード化する意図がうかがえますが、世界経済の分断を深める要素となる可能性も否定できません。

以上が、今回のニュースの視点です。国内外の自動車再編から農業・貿易交渉、ゴルフ・観光産業の構造変化、そしてグローバルAI・半導体競争まで、多岐にわたるテーマが同時並行で動いています。世界が急速に変化する中、日本やアメリカ、中国など主要プレーヤーがどう戦略転換を図るかが、今後の焦点となるでしょう。

—この記事は2025年5月11日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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