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KON1081「海外インフラ計画と自治体財政の破綻/激化する肥満症治療薬競争/米金融大手の再編と国内M&Aの動き/テクノロジーの勝者と敗者/変わる採用市場」

TOP大前研一ニュースの視点blogKON1081「海外インフラ計画と自治体財政の破綻/激化する肥満症治療薬競争/米金融大手の再編と国内M&Aの動き/テクノロジーの勝者と敗者/変わる採用市場」

KON1081「海外インフラ計画と自治体財政の破綻/激化する肥満症治療薬競争/米金融大手の再編と国内M&Aの動き/テクノロジーの勝者と敗者/変わる採用市場」

2025.05.02
2025年
KON1081「海外インフラ計画と自治体財政の破綻/激化する肥満症治療薬競争/米金融大手の再編と国内M&Aの動き/テクノロジーの勝者と敗者/変わる採用市場」

海外インフラ計画と自治体財政の破綻:米テキサス高速鉄道の頓挫と英バーミンガム市の混乱

アメリカ南部テキサス州で日本の新幹線技術導入を目指していた高速鉄道計画に対し、連邦政府が約91億円の補助金を撤回しました。2019年着工予定が進まず、事業費が1兆7000億円から5兆7000億円へ膨らみ、「税金の無駄遣い」と批判されたことが背景です。ダラス~ヒューストン間は高速道路が発達しており、ドライバーが4~5時間の運転を当たり前とする文化も新幹線の採算性を厳しくしています。
一方、イギリス第二の都市バーミンガムは、賃金差別問題による補償費などで財政難に陥り、事実上の財政破綻を宣言。大幅な予算削減に反発した労働組合がストライキを起こし、1万7000トンを超えるゴミの収集が滞りました。都市サービスの停滞が生活環境へ大きな悪影響を及ぼしており、イギリス軍への支援要請にまで発展しています。
これらは、大規模インフラや自治体運営の難しさを浮き彫りにしました。事業費や既存インフラとの兼ね合いで採算が合わないケース、財政破綻寸前の自治体が公共サービスを維持できなくなるケースなど、多様なリスクが同時進行している状況です。適切な優先順位づけや住民説明、財源確保策が整わないまま進む計画は、結果的に深刻な影響を及ぼす可能性が高いといえます。

激化する肥満症治療薬競争:イーライ・リリーとノボ・ノルディスクの明暗

アメリカの製薬大手イーライ・リリーは、経口肥満症治療薬オルフォルグリプロンの第三相臨床試験結果で、二型糖尿病患者の体重を約8%落とせることを示しました。競合するデンマーク企業ノボ・ノルディスクの「オゼンピック」と同水準の成果が確認されたとされ、この発表を受けイーライ・リリーの株価は一時17%上昇しています。
肥満率の高いアメリカでは、肥満症向け治療薬の市場は非常に大きく、医療費削減や健康リスク軽減の観点から新薬への期待が高まります。ノボ・ノルディスクは一時的に株価が急伸したものの、経口薬ではなく注射の必要があることやその後は減量効果が予想ほど画期的ではないとの見方から値を下げています。実際、肥満患者が短期間で体重の大幅減少を得るには薬だけでなく食習慣や生活改善を伴う必要があり、現状の治療薬で10%以上の減量を目指すのは容易ではありません。
それでも、新薬の開発が進めばアメリカの医療費や健康政策に大きなインパクトを与えるのは確かです。さらに製薬企業の株価動向は、市場の期待や臨床試験の結果に敏感に反応しやすく、イーライ・リリーの成功が今後のグローバル競争に大きく影響する可能性もあります。

米金融大手の再編と国内M&Aの動き:キャピタルワンとディスカバー、養命酒製造と大正製薬

アメリカでは、金融大手キャピタルワン・ファイナンシャルがクレジットカード大手ディスカバーファイナンシャルサービスを買収し、米規制当局からも承認を得ました。ディスカバーは独自の決済ネットワークを保有しており、買収によってキャピタルワンは顧客基盤や与信残高の拡大を狙います。IT企業の決済サービス参入などクレジットカード業界を取り巻く環境が激変する中で、巨額買収は業界再編をさらに加速させる可能性があります。
一方、日本では養命酒製造と大正製薬ホールディングスが資本業務提携を解消。大正製薬が保有株を投資会社に売却し、結果として投資ファンド系の株主が事実上の筆頭株主になりました。両社は2005年の提携から相乗効果を模索してきましたが、思うような成果を得られなかったとみられます。投資ファンドによる株式取得の意図は企業価値向上か単なる保有資金狙いか、今後の経営方針で判断されるでしょう。
米金融の大型買収から国内企業の提携解消まで、M&Aはグローバルな資金の論理と市場競争の圧力を映し出しています。買収後のシナジーを十分に引き出せるかは、買収金額の正当化や経営戦略の整合性にかかっており、今後の進捗に注目です。

テクノロジーの勝者と敗者:アイロボットの存続危機とサイバーエージェントのAI活用

ロボット掃除機「ルンバ」で知られる米アイロボットは、四半期連続の最終赤字を受け「この先一年の継続に重大な疑義がある」と発表し、株価が下落しました。中国企業が同等または改良型のロボット掃除機を安価で提供する中、アイロボットがかつてのイノベーション優位を失い、収益力が急低下している状況です。技術の模倣が速い中国勢との競争は厳しさを増しており、再生には抜本的な戦略転換が求められます。
一方、ネット広告大手サイバーエージェントは「AIエージェント」を導入し、広告運用やデータ分析など従来人手で丸一日かかっていた業務を数分に圧縮したと報じられました。自動化された連携によって社員が高付加価値領域に集中できるため、生産性と創造性を両立しやすいのがメリットです。しかし、AIが提示する結論を鵜呑みにする危うさや、人間の感情や直感に基づく判断の必要性も指摘されており、最終的な意思決定と責任は依然人間側に残ります。
こうした対照的な事例は、技術を巡る競争の残酷さと可能性の両面を示唆します。イノベーションがなければ衰退は避けられない一方、AIなどの先端技術を活用すれば新たな価値創造も見込める時代と言えるでしょう。

変わる採用市場:大卒・高卒の新潮流:初任給40万円時代と現場主力への期待

大企業を中心に初任給を引き上げる動きが広がっており、一部では「大卒で月給40万円」などインパクトのある数字が取り沙汰されています。終身雇用や年功序列といった従来の枠組みが崩れつつある中、学生にとって入社時の報酬水準は企業選択の重要な指標です。ただし、中堅・ベテラン層の処遇バランスが崩れれば社内の不満が高まりかねず、管理職手当の見直しなどを検討する企業も散見されます。
一方で、高卒採用の拡大も続いており、前年実績比13.6%増という調査結果が出ています。大学教育が必ずしも実務で役立つとは限らないという批判や、早期に若手を現場で育成するドイツ型の職業教育を模索する企業の動きが背景にあります。高卒者を単なるブルーカラー要員ではなく、AIや先端技術を吸収する主力人材に育てようという考え方も台頭しています。
高い初任給が話題を集める一方、実際の手取りは社会保険料や税負担で思ったほど多くない現実もあり、企業や個人にとって「給与だけで測れないキャリア選び」が重要になりそうです。メンタリング体制や自己成長機会をいかに用意できるかが、今後企業が生き残るカギとなるでしょう。

エネルギー政策:ガソリン補助と原発再稼働:石破政権の物価対策と泊原発の動向

石破総理は、ガソリン価格を1リットル当たり10円引き下げる施策を5月から実施すると発表しました。政府が元売り会社へ補助金を支給して価格上昇を抑えてきた仕組みを改め、固定的な引き下げ幅を設定するとしています。しかし、原油価格(WTI)が大幅に下落しているにもかかわらず、店頭価格はあまり下がっておらず、補助金が元売り側の利益になっている可能性や選挙対策的な側面を指摘する声も出ています。
一方、北海道電力の泊原発3号機が原子力規制委員会の審査書案を事実上クリアする見通しとなりました。東日本大震災後に停止し、敷地内の断層評価が長引いていたため再稼働が遅れていましたが、防潮堤工事を終える2027年前後の稼働を見据えています。各地で原発再稼働が進み始める中、エネルギーの安定供給と温室効果ガス削減が期待される一方、安全面や住民理解の課題が依然として残ります。
石破政権は短期的な物価対策としてガソリン補助を継続する一方、中長期のエネルギー戦略では原発の役割も重視するという二面性を抱えています。いずれにしても、国民負担の透明化やリスク管理が欠かせません。

国内政治の動き:石破首相の外遊と立憲の減税案:対中包囲網と食料品消費税ゼロの是非

石破総理はベトナム・フィリピンを訪問し、両国首脳との会談で安全保障の連携を強化すると表明しました。南シナ海や東シナ海での中国の行動を警戒し、地域の国々との結束を図る狙いとみられます。しかし国内では、トランプ関税問題や農業政策など緊急性の高い課題が山積しており、「このタイミングで海外に行くのは優先順位が疑問」との批判もあります。
一方、立憲民主党の野田代表は物価高対策として「1年間限定で食料品消費税率をゼロにする」案を打ち出し、参院選公約に盛り込む考えを示唆しました。野田氏はかつて民主党政権で消費税増税を推進した経緯があるため、この政策転換には意外感もあります。欧州などでは食料品の付加価値税を低率やゼロにする国がありますが、引き下げた税率を元に戻すのは難しく、日本の財政状況との整合性や効果測定が課題となりそうです。
国防・外交と経済政策、それぞれの緊急度や方向性をどう見極めるかが政治の力量を問う局面に入っており、石破政権や立憲の提案が国民の支持を得られるかが注目されます。

改正戸籍法と夫婦別姓問題:読み仮名記載の混乱と多様な家族観の衝突

5月26日の改正戸籍法施行を受け、法務省は全国民の戸籍に読み仮名を新たに記載する方針を打ち出しました。住民基本台帳と原則同じ読み方を登録するため追加手続きは不要とされるものの、発音や地域差で複数の読みがあるケースでは混乱が予想されます。さらに、英字表記となるとヘボン式か日本式かなどルールが統一されておらず、国際手続き上の不具合も指摘されています。
一方で「選択的夫婦別姓」が法制化されれば58万7千人が事実婚から法律婚に移行するという調査結果が公表されました。国内では明治期の家制度が色濃く残り、戸籍上は夫婦同姓を強制する仕組みが続いています。
家族のあり方、名前や戸籍の持つ意味をどう再定義するかは、日本社会全体の価値観に関わる問題です。読み仮名の混乱をきっかけとして、戸籍制度そのものの存在意義を再検討するタイミングが来ていると言えるでしょう。

—この記事は2025年4月27日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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