
株式市場の乱高下と世界経済への影響:トランプ政権がもたらす混乱
世界の株式市場は、トランプ政権が発動した高関税政策への警戒を背景に大きく変動しています。下落幅が過去のリーマン・ショック(2008年)やブラックマンデー(1987年)に匹敵する懸念が示されるなど、市場では不安定な状況が続きました。トランプ大統領は保護主義的な関税引き上げで米国製造業を支えようとしましたが、中国など各国も対抗措置を打ち出しており、投資家心理は揺さぶられています。その結果、為替や債券市場にまで波及し、利回り上昇やドル安が進行するリスクが高まっているのが実情です。
著名ヘッジファンド「ブリッジウォーター・アソシエイツ」の創業者であるレイ・ダリオ氏は、こうした保護主義の潮流が単なる貿易摩擦を超え、国際秩序の不安定化につながりかねないと警鐘を鳴らしています。彼の見立てでは、投資家が関税ばかりに気を取られ、金融全体や地政学リスクの高まりを見落とすことがリセッションの引き金になり得るとのことです。米国債利回りが下落してドル安が進めば、政権としても方針変更を余儀なくされる可能性があります。今後は自国経済への悪影響をいかに抑え、国際協調を再構築するかが各国の課題となるでしょう。企業や投資家の側もリスク管理を徹底し、激変する市場環境に柔軟に対応する必要が高まっています。
米民主党の追及と相互関税をめぐる構図:インサイダー取引疑惑から政策立案の不備まで
米国では、トランプ大統領が保護主義的な相互関税を打ち出す中、民主党の上院議員らが疑惑追及の手を強めていました。特に、関税引き上げの一部停止を公表する直前に大統領本人が「絶好の買い時 DJT」と、自身の関係するトランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループの銘柄コードを添えてSNSで発信していた事実が、インサイダー取引や市場操作の可能性を指摘する材料となっています。これに対しホワイトハウスは問題視する声を否定する意向を示していましたが、政治とマーケットの線引きがあいまいになるリスクへの懸念は拭えません。
さらに、ある米シンクタンクからは、相互関税の税率算定で輸入価格ではなく小売価格を基に計算していた可能性が指摘され、政策立案の精度の低さが浮き彫りになりました。トランプ大統領の「まず高関税ありき」というディール型アプローチがもたらした混乱により、米国債の価格下落やドル安など、米国自身の金融市場にも悪影響が及んでいるのが現状です。民主党議員らは金融システム全体の安定を脅かすリスクを訴え、調査や是正措置を求めています。結果として、対中貿易摩擦だけでなく、米国内の政治対立や市場の混乱も同時進行で深刻化する局面を迎えていました。
揺れる米国産業界と企業の対応:イーロン・マスク氏の批判からウォルマートの収益下方修正まで
相互関税を取り巻く混乱は、米国内の大手企業や著名経営者にも波及しています。電気自動車メーカー「テスラ」のCEOであるイーロン・マスク氏は「米欧間で関税ゼロを目指すべきだ」と訴えた一方、政権内の強硬派は「国内生産比率の低い組み立て企業に過ぎない」と突き放しました。この対立構図は、グローバル分業で成り立つ企業活動と、保護貿易を志向する政策とのミスマッチを象徴しています。
一方、小売大手ウォルマートは中国からの輸入に大きく依存しており、高関税の長期化で販売コストが上昇すれば価格転嫁や利益圧迫が避けられません。そのため、同社は通期の収益見通しに対して極めて慎重な姿勢を示すようになりました。すでにサプライチェーン上の中国企業にも株価急落の例が見られ、今後、貿易戦争が激しさを増せば米国企業への悪影響は拡大する見込みです。こうした状況下で、政権は一部製品の関税を免除するとしたものの、政策運営は一貫性を欠くとの批判も残っています。産業界は政治リスクやコスト増への対応を迫られ、生産拠点の見直しや販売戦略の再検討など、厳しい経営判断を余儀なくされているのが実情です。
日米関係と米国鉄鋼業の再編:日本製鉄とUSスチール買収計画をめぐる思惑
保護主義が強まるトランプ政権下で注目されたのが、米国鉄鋼大手USスチールをめぐる買収報道です。トランプ大統領は以前から「特別な企業が海外資本に渡るのは見たくない」と難色を示してきた一方、投資家としての間接出資であれば容認もあり得るとの見方が報じられました。ただし、政権が何らかの安全保障上の懸念を示す場合、買収が頓挫するリスクもあり、政策の一貫性には疑問が投げかけられています。
USスチールは、かつてアンドリュー・カーネギーが保有した製鉄会社の流れをくみ、米国産業を象徴する存在として発展しましたが、現在は海外勢に押されて業績低迷が続いています。高関税による一時的な保護があったとしても、本格的な国際競争力回復には新たな資本や技術が不可欠とされます。日本製鉄(旧 新日鉄住金を経て改称)としては、生産拠点や技術面での相乗効果が期待できる一方、トランプ政権による政治的リスクは拭えず、買収に踏み切るかどうかは慎重な検討が続くとみられます。日米同盟でもかつての「特別扱い」が通用しにくくなったいま、鉄鋼業再編は日米関係の行方を占う一つの焦点にもなり得るでしょう。
デンマーク・グリーンランドをめぐる波紋:欧州の安全保障と米政権内部の対立
相互関税問題とは別軸で、デンマーク自治領グリーンランドの扱いが取り沙汰されました。バンス副大統領の発言がきっかけで、グリーンランド基地の司令官が「基地の総意ではない」と異論を示し、これにより解任されたとされる一件です。米政権内部の文民統制や言論統制の厳格化をうかがわせる行為として、軍内部でも波紋を広げていると伝えられています。
北大西洋地域では、ロシアの動向や資源開発など地政学的重要性が増しており、デンマークを含む欧州諸国もグリーンランドに関する米国の戦略に敏感です。トランプ大統領が以前、グリーンランド買収に言及していたという報道もあり、欧州側では米政権への不信感がくすぶっている面があります。一方でデンマークは酪農・養豚など特定分野に強みを持ち、保護主義下でも独自のブランド力で生き残ってきた歴史がありますが、軍事・安全保障の問題では米国の影響力を無視できません。グリーンランドをめぐる動きは、貿易政策だけでなく、欧州と米国の安全保障上の溝を浮き彫りにする象徴的な事例といえるでしょう。
ウクライナ停戦交渉と中国人兵士問題:ゼレンスキー大統領の苦境と大国の思惑
ウクライナをめぐる停戦交渉では、米国のケロッグ特使が「戦後のベルリンのような分割管理」を示唆したと報じられ、一時騒然となりました。その後、「言及はなかった」という釈明がなされたものの、ロシアとの衝突が長引く中、米国が早期の停戦に向けて妥協策を模索している可能性が指摘されます。
さらに、「中国人兵士がロシア軍に志願参加している」とウクライナが発表、拘束した中国人の記者会見を開きましたが、、中国は「無責任な発言だ」と反論しています。若年層の失業率が高い中国では、SNSを介した募集で報酬を得ようとする動きが一部にあるようです。
—この記事は2025年4月13日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。