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TOP大前研一ニュースの視点blogKON1068「トランプ大統領再選/主要大統領令/移民政策/国際機関との対立/クルーグマンの警鐘」

KON1068「トランプ大統領再選/主要大統領令/移民政策/国際機関との対立/クルーグマンの警鐘」

2025.01.31
2025年
KON1068「トランプ大統領再選/主要大統領令/移民政策/国際機関との対立/クルーグマンの警鐘」

トランプ大統領再選と就任式

第47代大統領として“黄金時代”を高らかに宣言

トランプ氏が2期目の大統領に就任したのは、2025年1月20日にワシントンD.C.の連邦議会議事堂で行われた就任式でした。式典では約30分に及ぶ演説を行い、「アメリカの黄金時代が今始まる」と力強く断言。就任早々から不法移民対策や内政・外交の大幅な転換を示唆し、演説後はワシントン市内のアリーナに移動して大統領令に連続署名するパフォーマンスを披露しました。前回の大統領選挙(2024年11月)で再選を果たしたばかりというタイミングも相まって、注目度は極めて高かったと言えます。

こうした大胆な演出には、本人の“アメリカファースト”を改めて打ち出す狙いだけでなく、前政権(第46代大統領ジョー・バイデン政権)との差別化を徹底し、「自分こそがかつてない改革を遂行するリーダーである」というメッセージをアピールする意図が強く表れています。実際、演説の中でも「今までのアメリカは何をしていたのか」といった趣旨の発言があり、バイデン前大統領やハリス前副大統領の施策を暗に批判する場面が散見されました。

一方、トランプ大統領の就任をめぐる支持率調査では、共和党支持者の約91%が支持する一方で、民主党支持者の84%が反対し、無党派層は大きく割れていることが示されています。これは、バイデン政権下で顕在化したインフレ問題や雇用不安への不満をトランプ氏が取り込む形で支持を伸ばしている半面、リベラル層からは「人権や環境を軽視しすぎる」との警戒感が強まっている現状を如実に表しています。

主要大統領令と国内制度の再編

関税強化と“外国歳入”構想

トランプ大統領は、就任直後から矢継ぎ早に大統領令を発し、中国に対する追加関税10%の継続・引き上げをはじめ、カナダおよびメキシコからの輸入品に対して25%の関税を2月1日から発動する方針を打ち出しました。加えて、関税徴収のための新設機関として“外国歳入省”を立ち上げる構想に言及したことで、既存の税関組織を無視する「屋上屋を架す」施策ではないかと専門家の批判を招いています。

このような強硬な保護貿易策は、「アメリカ国内の雇用を守る」という点でトランプ氏の支持層から歓迎される一方、物価上昇や報復関税による輸出入の停滞などを通じて、消費者や輸入依存度の高い産業に負担を転嫁しかねないという指摘も絶えません。党内でも一部の議員が「短期的な支持率向上を狙った無謀な政策」と懸念を示しており、議会審議の行方が注目されます。

エネルギー緊急事態宣言とパリ協定再離脱

トランプ大統領は、バイデン政権が復帰させたパリ協定から再度の離脱を宣言し、化石燃料を優先するエネルギー政策へ舵を切る姿勢を示しました。具体的には、「地下のガスや石油を徹底的に掘りまくる」と公言し、風力発電や電気自動車関連の支援策を縮小する方針を強調。これにより、化石燃料関連の企業には追い風が吹く一方、環境保護団体や再生可能エネルギー産業からは「気候変動対策を大きく後退させる」と強い反発が噴出しています。

連邦議会でも、与党・野党を問わず一部の議員が「地球温暖化を無視する政策転換は、国際的信用を損ねる」と批判しており、今後の法案審議でも大きな争点になることが予想されます。

テレワーク廃止と公務員解雇方針

コロナ禍で定着したリモートワークを「生産性が低い」と決めつけ、政府機関での在宅勤務を原則禁止とする通達を出したことも大きな議論を呼んでいます。「気に入らない職員はどんどんクビにしろ」という過激な発言が伝えられ、連邦政府における働き方改革が混乱する可能性が高まっています。
行政効率化を掲げてはいるものの、各省庁では「現場の士気が低下する」「有能な人材の流出につながる」という危機感が強く、職員組合も一斉に反発。連邦人事管理局(OPM)の対応が焦点となるでしょう。

議会襲撃事件と大規模恩赦

収監者1600人を一挙釈放する“味方救済”の是非

トランプ大統領が就任直後に下した最も衝撃的な決定が、前期終盤(2021年1月)に発生した連邦議会襲撃事件に関連して収監されていた1600人を一挙に恩赦した措置です。中には禁固18年を言い渡されていた主犯格も含まれ、共和党の重鎮マコネル氏は「警察官への暴力を容認するのか」と公然と批判。党内からも大きな反発の声が上がっています。

トランプ氏は、「彼らは愛国者にほかならず、不当逮捕が横行していた」と擁護していますが、司法省や複数の州司法当局は連邦地裁への異議申し立てや追加提訴を検討中と伝えられ、政治と司法の対立が一層深刻化する可能性があります。今後、恩赦の合憲性や越権性が争われることになれば、連邦最高裁を巻き込んだ長期の法廷闘争に発展することが予想されます。

移民政策・出生地主義と多様性政策の大転換

不法移民と国境封鎖の強化

トランプ大統領は、メキシコとの国境における不法移民対策として「緊急事態宣言」を発動し、軍を動員するなどの強硬措置を進めています。南部州には農業や加工工場などで移民労働が欠かせない地域も多く、経済界からは「急激な締め出しによる労働力不足とコスト増」を懸念する声が相次いでいます。一方、大統領の支持者層には「国境を守ってこそアメリカファーストが実現する」という主張が根強く、施策の強行は支持率を一定程度維持する狙いがあるとも見られます。

出生地主義の見直しと各州の反発

合衆国憲法修正第14条に基づき、アメリカ国内で生まれた子どもには自動的に国籍が与えられる制度(出生地主義)が長く運用されてきましたが、トランプ政権はこれを廃止すると宣言。カリフォルニアをはじめ18州が「違憲」として連邦地裁に提訴し、一時差し止め命令が下されています。
この制度は留学生や就労ビザ保持者にも適用されるため、国際的にも大きなインパクトを伴う問題です。専門家や州政府は「修正第14条の精神そのものが歪められる」と強く反発しており、長期化する法廷闘争は避けられない情勢です。

多様性政策(DEI)の廃止

バイデン前政権が推進していたDEI(Diversity, Equity, Inclusion)関連の部署が、トランプ大統領の大統領令によって事実上閉鎖されました。トランプ氏は「人間は男と女の二つだけ」などの保守的ジェンダー観を公言し、LGBTQ+やマイノリティ支援を柱とする各種プログラムを停止。これにより、連邦機関のみならず、企業や大学の研修・採用政策にも影響が及んでいます。人権団体や多様性推進派からは強い批判が噴出しており、今後、連邦議会での議論だけでなく州レベルでの対応も焦点となりそうです。

国際機関との対立とテクノロジー政策

WHO脱退とテドロス批判

トランプ氏は、コロナ禍で中心的役割を果たしてきたWHO(世界保健機関)から再び離脱する方針を表明しました。テドロス事務局長は「アメリカの財政支援が途絶えれば活動に深刻な支障が出る」と危機感を示しており、職員採用の凍結などを余儀なくされています。トランプ大統領が「中国寄りの報告ばかりを繰り返している」とWHOを批判する一方、「アメリカの拠出金を半分にしてくれるなら復帰を検討する」という発言もしており、WHOを“取引材料”として使う手法が国際社会で物議を醸しています。

TikTokとロビー疑惑

就任式前は「米国内での使用禁止」を示唆していたにもかかわらず、式典直後にTikTokへ75日間の猶予を与えた点について、専門家や一部メディアは「何らかのロビー活動や政治的取引があったのではないか」と疑念を表明。さらにイーロン・マスク氏への株式半数出資提案など、トランプ氏の個人的人脈や好悪が政策判断を左右しているとの批判が超党派で相次いでいます。

FTCトップ交代

前政権下でリナ・カーン氏が主導してきた大手IT企業への独禁法適用は、トランプ氏の指名により就任したアンドリュー・ファーガソン氏の下で大きく路線変更する可能性があります。企業側は規制緩和を歓迎する一方、消費者保護や子ども向けプライバシー規制は逆に強化される見通しもあり、連邦取引委員会(FTC)の動きは業界から注視されています。

AI開発投資の“空手形”

トランプ大統領は、ソフトバンクグループやオープンAI、オラクルなどが4年間で78兆円を投資すると大々的に発表しましたが、イーロン・マスク氏をはじめ多くの専門家が「資金確保の裏付けが不透明」と指摘。政治的パフォーマンスにとどまり、実際の投資が伴わない可能性も指摘されています。AI技術の世界的な覇権を狙う意図もうかがえますが、国内外のIT大手がどの程度本気で資金を投入するかは未知数です。

経済・社会問題:クルーグマンの警鐘と格差拡大

ポール・クルーグマン氏の警告

ノーベル経済学賞受賞者であるポール・クルーグマン氏は、「トランプ政権の政策は労働者階級や低所得層を裏切り、富裕層をさらに優遇する」と繰り返し警鐘を鳴らしています。トランプ氏が選挙期間中に掲げた食料品価格引き下げの公約を撤回し、代わりに追加関税や大幅減税を進めている点がその根拠です。結果的にインフレが助長され、低所得層の生活を圧迫する可能性が高いとクルーグマン氏は主張しています。

輸入品と物価高のリスク

乗用車、医薬品、農産物などアメリカの生活に密着した輸入品に相次ぐ高関税がかかれば、国内価格が上昇しやすくなり、消費者が負担を負わざるを得ません。バイデン前政権下のインフレで既に苦しんでいた層が、さらに物価上昇を経験する事態は避けがたいでしょう。一方、富裕層向けの減税措置によって所得格差が一層拡大するとの批判が強まっています。

階層別資産保有額と富裕層優遇

上位9%のアメリカ人が資産を飛躍的に増やし、下位50%がほぼ横ばいという格差が、前回の大統領選でトランプ氏への支持を後押しした要因の一つでもありました。しかし、実際に打ち出される政策の多くは富裕層や大企業を利する内容が多く、クルーグマン氏の指摘どおり「多くの国民が将来的に失望する可能性が高い」という見方が広がっています。

1セント硬貨の製造コストと政府効率化

イーロン・マスク氏が主導する「政府効率化省」は、1セント硬貨の製造に3セント以上かかるうえ、年間280億円超の税金が投入されていると公表しました。こうした実態を受けて硬貨廃止論が再燃していますが、99セント表示など端数価格を好む商習慣が根強く、「廃止すれば実質的な物価上昇を招く」という懸念も依然として根強いのが現状です。

—この記事は2025年1月27日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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