
イラン最高指導者の後継と体制の行方
── 次男モジタバ・ハメネイ氏の選出は「革命防衛隊の傀儡」誕生か
ハメネイ師の殺害を受けて、次男のモジタバ・ハメネイ氏が最高指導者に選出されました。しかし私は、この人事の裏側を冷静に見極める必要があると考えています。モジタバ氏は保守強硬派として知られ、革命防衛隊もただちに忠誠を表明しましたが、宗教的権威の不足を指摘する声は根強いものがあります。
注目すべきは、モジタバ氏自身も爆撃を受けた場所にいたとされ、重傷との情報がある点です。私は「もしかしたら革命防衛隊がこの人をパペット(操り人形)として使っていく可能性がある」と見ています。イランの統治構造は、人民が選ぶ大統領と、宗教指導者が選ぶ最高指導者という二重構造になっており、革命防衛隊は通常の軍よりも巨大な存在です。
体制の安定は、この新指導者が自ら統治するのか、それとも革命防衛隊に操られるのかによって大きく左右されます。アメリカの情報機関もイラン体制が近い将来崩壊する兆しはないと分析しており、事態の長期化は避けられない見通しです。
トランプ大統領の「夢遊病」──女子学校誤爆と迷走する指揮
── 170人以上の児童を殺害しながら謝罪なし、娘婿の助言で戦争を始めた大統領
イランへの攻撃において、アメリカ軍の巡航ミサイル「トマホーク」が女子小学校を誤爆し、児童を含む170人以上が死亡しました。これに対するトランプ大統領の対応は、私に言わせれば「夢遊病状態」としか形容できないものでした。
当初トランプ氏は「イランが自爆した」と主張し、次に「イランのトマホークだ」と述べ、イランがトマホークを保有していないと指摘されると「よく知らなかった」と答えたのです。これは明らかに戦争犯罪であり、未だに謝罪していないという事実は深刻です。
さらに問題なのは、この攻撃がCIAなどの情報機関ではなく、娘婿のジャレッド・クシュナー氏の助言に基づいて決断されたという点です。クシュナー氏はイスラエルのネタニヤフ首相の情報を鵜呑みにし、「攻撃すればすぐに終わる」と報告したとされます。トランプ氏は今になって「あいつの言うことを聞きすぎた」と親子喧嘩を始めています。あらゆる情報組織を持つ大統領が、身内の助言だけで戦争を決断する──これが世界最大の軍事力を持つ国の現実なのです。
ホルムズ海峡封鎖と原油危機──日本のエネルギー安全保障が試される
── 原油98ドル台、ガソリン200円超え、「数日で終わる」楽観論は完全に消えた
ホルムズ海峡の事実上の封鎖により、原油価格(WTI先物)は一時110ドルに迫り、攻撃前から47%上昇しました。私がこの週末に訪れた長野県では、すでにガソリン価格が200円を超えていました。
もし海峡に機雷が敷設されたとしたら、その除去は大きな問題になります。「気合を入れて通ればいい」というトランプ氏の当初の発言がいかに非現実的だったかが明らかになりました。来週の高市首相訪米では日本への掃海艇派遣要請も予想されますが、日本は法律上、紛争地域に自衛隊を派遣できません。高市首相がトランプ氏に「戦争が終わった状況を作ってくれ」とうまく言いくるめることができるかどうか。ここが一つの鍵になります。
高市首相はガソリン価格を170円程度に抑える緊急措置を発表し、IEAも過去最大の4億バレルの備蓄放出で合意しましたが、いずれも短期的な対症療法に過ぎません。サウジアラムコのCEOが警告するように、封鎖の長期化は石油市場に壊滅的な影響を及ぼします。しかもアメリカは自国が産油国であるため、日本や韓国のような輸入依存国の窮状を真に理解していないのです。
原子力産業の崩壊──廃炉不可能・人材枯渇・柏崎刈羽の不具合
── MIT原子力工学科130人→17人の衝撃、「彼女にデートを断られる」産業の末路
原子力規制委員会の山中委員長が「住民の意見を聞きながら議論を進める」「2051年までの廃炉完了を貫徹してほしい」と述べましたが、私はこれを聞いて「この人は何もわかっていない」と断じざるを得ません。
原子炉の専門家として申し上げますが、福島第一原発のデブリ除去は不可能です。チェルノブイリでもスリーマイルでもデブリを取り除けた例はなく、唯一の現実的な解決策は、国が双葉町・大熊町・浪江町の土地を買い取り、デブリはそのまま封じ込めることです。住民の意見を聞いて解決する問題ではありません。
さらに深刻なのが人材不足です。私自身の体験をお話しします。1967年にMITの原子力工学科に入学した時は130人の学生がいました。しかしスリーマイル事故の後は17人にまで激減し、全員がアフリカからの国費留学生でアメリカ人はゼロになりました。なぜか。「原子炉をやっている」と言うと、彼女がデートしてくれないのです。「そんな衰退産業を勉強しているの?」と。これは笑い話ではなく、世界中で起きている現実です。柏崎刈羽原発6号機でも15年間停止していた配管系統の不具合が相次いでおり、巨大システムを長期間放置するリスクが顕在化しています。私が週刊ポストに書いた通り、そう簡単にはいかないでしょう。
ロシア制裁の一時解除──「親分、何考えてるの」という同盟国の悲鳴
── ホルムズ封鎖の穴埋めにロシア産原油を許可する矛盾
アメリカ財務省が、ホルムズ海峡封鎖による原油逼迫を受けて、ロシア産原油への制裁を約1か月間一時的に解除すると発表しました。とんでもない話です。ロシアに対する制裁を言ったアメリカが、自分の引き起こした中東危機の穴埋めのために「ロシアのを買っていいですよ、一ヶ月だけは」と言っているのです。
フランスやウクライナが「ロシアに莫大な資金が転がり込む」と猛反発するのは当然です。「親分、何考えてるの」というのが、同盟国の偽らざる気持ちでしょう。
ロシアの原油輸出データを見ると、ウクライナ戦争後に中国とインドがロシア産原油の購入を大幅に増やしている構図が見て取れます。EUが制裁で購入量を減らす中、その穴を埋めてきたのがこの両国でした。そこにアメリカまでが「都合によって買っていい」と言い出す。もう方針がないんじゃなくて、放心状態になっていると言うべきでしょう。同盟国を振り回しながら、自らのルールをも破る──この「日替わりメニューのトランプ」に引きずり回される世界の構図は、深刻というほかありません。
AI兵器利用の現実──OpenAIとAnthropicの対立が映す倫理の境界
── 国防総省がクロードを「こっそり使っていた」という不都合な真実
アメリカ国防総省がOpenAIと機密ネットワークでのAI展開契約を結んだことに対し、Anthropicのアモディ CEOが強く批判しました。Anthropicは「AIの乱用防止を重視したため、国防総省の取引を受け入れなかった」と説明しています。
しかし、現実はさらに複雑です。イスラエルとアメリカによるイラン攻撃においてAIが実際に使用されており、しかもAnthropicのクロードも使われていたことが後に明らかになりました。国防総省はトランプが「Anthropicは生意気だから使うな」と言っても、実際は使わないとダメだという状況なのです。
これはAI倫理をめぐる根本的なジレンマを浮き彫りにしています。開発企業が軍事利用を拒否しても、政府機関が「こっそり」利用する。トランプ大統領が「使ったやつは懲罰だ」と言っても、現場は必要性から使い続ける。AIが戦争の道具として不可欠になりつつある現実の中で、技術と倫理の境界線をどこに引くのか。トランプさんも少しは目覚めてほしいところですが、この問いは軍事だけでなく社会全体に突きつけられています。
—この記事は2025年3月15日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。
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