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KON1120:関税違憲判決、エプスタイン波紋拡大、NATO縮小要求が示すもの

TOP大前研一ニュースの視点blogKON1120:関税違憲判決、エプスタイン波紋拡大、NATO縮小要求が示すもの

KON1120:関税違憲判決、エプスタイン波紋拡大、NATO縮小要求が示すもの

2026.02.26
2025年
KON1120:関税違憲判決、エプスタイン波紋拡大、NATO縮小要求が示すもの

ベネズエラ情勢 ── マドゥーロ拘束後も変わらない現実

先月、アメリカ軍がベネズエラに軍事介入し、マドゥーロ大統領を拘束しました。石油産業での雇用増加や、銀行が一般市民にもドルを売り始めるなど、一部で変化の兆しが見えています。しかし私は、この「変化」には懐疑的です。

治安部隊を率いるカベジョ内務法務大臣がそのまま残っており、政治犯としてマドゥーロ政権に反対した約800人が未だ拘束されたままです。トランプ政権はマドゥーロを逮捕したものの、新政権の樹立を支援せず、ノーベル平和賞受賞者のグアイドを支持する姿勢も見せていません。本質は何も変わっていないのです。

ベネズエラからの難民は782万人に達し、スーダンを上回って世界最大規模です。コロンビアを中心に周辺国へ逃れた人々の生活は依然として厳しい状況にあります。

私が最も問題視しているのは、この軍事介入の真の動機です。トランプファミリーがベネズエラのLNG・原油の利権を確保し、アメリカの石油会社が手を引いた資源をインドなどに売りつけようとしている構図が浮かび上がっています。トランプ大統領の親族もこの利権に関与しているとされ、「ベネズエラの解放」が実はファミリービジネスの拡大に過ぎないのではないか。油ぎった話が聞こえてきます。

トランプ関税に違憲判決 ── 最高裁の歯止めと迷走する政策

アメリカ連邦最高裁は2月20日、相互関税を課す権限はトランプ大統領にはないとする画期的な判決を言い渡しました。IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づき、議会の承認なく関税を発動したことが大統領権限の逸脱に当たると判断されたのです。

しかし翌21日、トランプ大統領は別の法律を根拠に全世界を対象とした追加関税を発表。当初は一律10%と述べながら、翌日には15%に引き上げるなど、政策の一貫性が大きく揺らいでいます。私に言わせれば、信憑性がガクンと落ちたと言わざるを得ません。

さらに衝撃的だったのが、ニューヨーク連銀が発表したレポートです。関税負担の実に9割がアメリカ側の負担になっているという分析結果が示されました。トランプは「関税は相手国が負担する」と言い続けていますが、それは嘘です。輸出国側がわずか5%程度しか出し値を下げていないのに対し、アメリカの輸入業者や消費者がほぼ全額を負担しているのです。

このレポートに対し、ハセット国家経済会議(NEC)委員長は「最悪の論文」と批判し、「関わった人々は処分されるべき」と発言しました。論文を書いただけで処分しろというのは、もうトランプと同じ頭の構造です。事実に基づく分析を認めた上で議論すべきなのに、事実を封殺しようとする。これこそが最大の危機です。

日本の対米投資84兆円 ── 不透明な負担構造と「成果」の実態

トランプ大統領は2月17日、日本による対米投資約84兆円の第一号として三つのプロジェクトを発表しました。オハイオ州のガス発電施設、テキサス州の原油積み出し港、ジョージア州の人工ダイヤモンド製造施設です。トランプ氏は「関税なしには実現し得なかった」とその成果を強調しました。

しかし私が最も疑問に思うのは、「誰がこのお金を負担するのか」という点です。これが依然として不明なのです。日本の関連企業は名を連ねていますが、これらの企業は日本政府が費用を負担すると考え、それに便乗しようとしているのではないでしょうか。つまり、日本企業もたかっているのではないかと私は見ています。

もしこの構図が正しければ、5兆円規模の投資がアメリカになされるとしても、アメリカが一銭も出さず、日本政府の資金を日本企業が受け取るという奇妙な状況が生まれます。当然、アメリカ側からは「アメリカ企業への恩恵はないのか」という声が上がるでしょう。

さらにトランプ大統領の理解不足も気になります。テキサス州の原油積み出し港のプロジェクトについて、トランプ氏は「LNGの輸出」と説明しましたが、実際は石油の積み出し施設です。AI関連のデータセンター急増によるアメリカの電力不足を補うための発電事業など、実態を正確に把握しないまま「自分の関税のおかげ」と喧伝している。この人はどうも理解していないのです。

米台貿易協定と中国訪問 ── トランプ外交の「使い分け」戦略

アメリカと台湾は2月12日、先月大枠で合意した貿易協定に正式署名しました。アメリカが台湾に課していた20%の相互関税を15%に引き下げる代わりに、台湾は半導体を中心に約38兆円の対米投資と、エネルギーや航空機など約13兆円分の購入を約束するという大型の取引です。

台湾にとってアメリカは最大の輸出先であり、電気製品、特に半導体が主力商品です。一方、アメリカからは食料品や武器を輸入しています。しかし台湾にとって輸入を含めた最大の貿易相手は依然として中国であり、この三者間の力学がトランプ外交の「使い分け」を生んでいます。

私が注目しているのは、3月末に予定されているトランプ大統領の中国訪問です。習近平主席との会談を控え、トランプ政権は台湾との関係を一時的に抑制する姿勢を見せています。台湾に武器購入を求めておきながら、台湾が購入の意思を示すと一時中断する。中国が文句を言っているからだ、というわけです。

つまりトランプ大統領の頭の中では、中国訪問を成功裏に「儀式化」し、「俺のおかげで中国がおとなしくなった」というストーリーを作ることが最優先なのです。台湾への武器輸出はその後でいいという判断であり、同盟国・パートナーの安全保障よりも自身の政治的演出が優先されている。これがトランプ外交の本質です。

「逸脱の常態化」── FT紙が警鐘を鳴らすトランプ暴走の構造

フィナンシャル・タイムズ紙が発表した「逸脱の常態化(Normalization of Deviance)」に関する論文は、今週最も重要な指摘の一つです。私もこの概念は非常に重要だと考えています。

「逸脱の常態化」とは、人々が逸脱行為に慣れ、直接的な損失や被害が見えない限り、その逸脱が社会的に許容されていくプロセスを指します。まさに現在のアメリカで起きていることそのものです。

ヘッジファンド・シタデルのグリフィン氏のように、トランプ政権に対し「企業にとってもアメリカにとってもマイナスだ」と公然と苦言を呈する経済人はいます。しかし大多数のビジネスリーダーや政治家は沈黙を続けています。トランプがおかしいぞ、やめろ、と言わなければならないのに、みんな黙ってしまう。これが問題の核心です。

トランプファミリーが私腹を肥やしているとも受け取れかねない施策や、科学的根拠に基づく政策の撤回、他国の主権に対する無理解など、数々の逸脱行為が積み重なっています。にもかかわらず、アメリカの言論界、政界(民主党を含む)、そして市民社会がこれを放置していることこそが、トランプの暴走を許している最大の原因なのです。私もそう思います。トランプの暴走を許しているのは、やはりアメリカ社会全体の沈黙であると。逸脱そのものが「新しい常識」として定着してしまう前に、声を上げることが求められています。

温暖化対策の根拠撤回とゴーディーハウ橋問題 ── 科学と常識からの逸脱

トランプ大統領は2月12日、EPA(環境保護局)が2009年に示した温暖化ガスの危険性に関する科学的認定を撤回しました。CO2やメタンなど6種類の温暖化ガスに対する排出規制の根拠となってきたこの認定を、「事実面でも法律面でも全く根拠を欠いている」と切り捨てたのです。

ちょっと待ってほしい。トランプ大統領はこうした科学的論文をちゃんと読んでいるのでしょうか。パリ協定は何だったのか、京都議定書は何だったのか。膨大な科学的知見を一大統領の判断で否定することがどれほど危険か。軍事基地で石炭使用を推進する大統領令に署名し、「石炭とはなんと美しい言葉だ」と語る。これはまさにFT紙が指摘する「逸脱の常態化」の典型例です。

もう一つ、国際常識からの逸脱を象徴するのがゴーディーハウ橋の問題です。ミシガン州とカナダ・オンタリオ州を結ぶこの橋は、既存のアンバサダー橋やデトロイト=ウィンザートンネルだけでは慢性的な交通渋滞を解消できないため、カナダ政府が全額を負担して建設しました。当初は米加折半の計画でしたが、アメリカが断ったため、カナダが単独で建設に踏み切った経緯があります。

ところがトランプ大統領は、この橋の半分はアメリカのものだと主張し、通行を認めない姿勢を見せています。資金を全額カナダが出したのに「俺のものだ」と言う。頭がおかしいとしか言いようがありません。科学の否定も、他国が建設した橋の所有権主張も、事実に基づかない強引な態度という点で根は同じです。

エプスタイン文書の波紋拡大 ── 英王室からオリンピックまで

エプスタイン事件の影響がかつてない規模で拡大しています。イギリス警察は2月19日、チャールズ国王の弟アンドリュー元王子を逮捕しました。アフガニスタン復興に絡む機密情報をエプスタインに提供した疑いに加え、性的虐待の疑惑も報じられています。

この事件の裾野は広い。アンドリューの元妻セーラは離婚後、エプスタインに結婚や雇用を求める手紙を送っていたことが判明し、2人の王女の称号剥奪まで議論されています。ウォール街にも波紋は及び、ゴールドマン・サックスのルームラー氏はエプスタインとの関係で辞職を余儀なくされました。大物タレントエージェントのワッサーマン氏はマクスウェルとの親密な関係が発覚し、ロサンゼルスオリンピックの大会委員長辞任を求められています。ハイアットのオーナーであるプリツカー氏も関与を深く後悔し辞任に至りました。

NATO縮小要求とトランプの世界二分割構想

政治メディア「ポリティコ」が2月19日に報じたところによると、トランプ政権はNATOに対し、イラクやコソボで展開している域外活動の大幅縮小を求めています。NATOを欧州大西洋地域の防衛に特化した同盟に「原点回帰」させる狙いとされ、7月にトルコで開催予定のNATO首脳会議には、ウクライナや日本を含むインド太平洋4カ国を招待しないよう働きかけているといいます。

ここにトランプ大統領の頭の中がはっきり見えます。NATOの東方拡大を阻止するという主張は、まさにプーチン大統領がウクライナ侵攻の理由として掲げてきたものと同一です。NATOは「北大西洋条約」なのだから大西洋に集中しろ、東に浸透するな。これはプーチンが言い続けてきたことそのものであり、それをトランプが代弁しているのです。

ここから見えてくるのは、トランプとプーチンが暗黙のうちに世界を分割する構想です。トランプは西側全体を押さえ、プーチンはNATOの東方拡大を封じ旧ソ連圏を確保する。ゼレンスキーには領土の譲歩とNATO非加盟を求める。残りは中国と分け合う。

このきわめて単純な三極構造の世界像が、各種の政策判断の背後に横たわっていることが、今週のニュースを通じてはっきりと見えてきました。日本がインド太平洋の一員としてNATO首脳会議から排除される可能性は、日本の安全保障にとっても極めて重大な意味を持ちます。私たちはこの世界秩序の再編を注視し、日本の立ち位置を改めて考える必要があります。

—この記事は2025年2月22日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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