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KON1077「日中外交/台湾有事/中国とロシアの脅威/備蓄米/損保再編/遺伝子検査企業の破綻と限界」

TOP大前研一ニュースの視点blogKON1077「日中外交/台湾有事/中国とロシアの脅威/備蓄米/損保再編/遺伝子検査企業の破綻と限界」

KON1077「日中外交/台湾有事/中国とロシアの脅威/備蓄米/損保再編/遺伝子検査企業の破綻と限界」

2025.04.04
2025年
KON1077「日中外交/台湾有事/中国とロシアの脅威/備蓄米/損保再編/遺伝子検査企業の破綻と限界」

日中外交の見解相違と対話の評価:難題山積の中で続く対話と関係安定化への模索

東京で行われた日中間の一連の外交協議では、懸案事項に対する両国の見解の相違があらためて鮮明になりました。中国当局による日本人拘束問題や尖閣諸島周辺での公船侵入など、日本側が懸念を伝えた事項に対し、中国側から前向きな回答は得られず、政治・安全保障面での溝は埋まりませんでした。駐日大使も経験した王毅氏は流暢に日本語を操る知日派ですが、自身の立場を考えると、日本と建設的な話をすることが難しいのが昨今の中国国内事情を反映しています。

台湾有事に備えた日本政府の避難計画:南西諸島12万人の安全確保へ初の大規模避難シミュレーション

日本政府は、中国と台湾の間で有事が発生した場合に備え、沖縄県の南西諸島地域に住む住民ら約12万人を対象とした大規模な避難計画を策定しました。対象となるのは台湾に近接する先島諸島(宮古島、石垣島、与那国島など)の住民約11万人と観光客約1万人で、紛争発生時に6日間かけて安全な本土側に避難させる想定です。計画では、自衛隊艦船や海上保安庁の巡視船、民間フェリーや航空機を総動員し、1日あたり2万人ずつ九州など本土の受け入れ先に輸送する段取りが盛り込まれています。

日本政府がこのような具体的避難シミュレーションを公表するのは初めてで、背景には台湾海峡を巡る緊張の高まりと、万一の事態への備えの必要性があります。併せて、有事に備えた避難訓練を2026年度から現地で実施する方針も明らかにされました。政府は島嶼部への地対空ミサイル配備やシェルター整備など住民防護策も進めており、今回の避難計画はその一環です。中国側は日本が危機感を煽っていると批判していますが、日本政府としてはあくまで国民の生命を守る予防的措置であると説明しています。有事が現実とならないよう外交努力を続けつつも、最悪の事態への準備を怠らない姿勢が示された形です。

日米合同慰霊式典と硫黄島問題:硫黄島での戦没者慰霊と遺骨収集に向き合う日米の和解と課題

第二次世界大戦末期の激戦地であった硫黄島(東京都小笠原村)において、戦没者を追悼する日米合同の慰霊式典が執り行われました。今年の式典には日本の首相と米軍高官が初めて揃って参列し、戦後80年を前に両国が共に犠牲者を悼む姿が象徴的だと評価されています。式典の中で日本側は、未だ島内に多く残る日本人戦没者の遺骨収集に国家として全力を尽くす決意を表明しました。硫黄島では戦後長らく行方不明兵士の遺骨が埋もれたままとなっており、この「硫黄島問題」は遺族にとって心の重荷であり続けています。

今回の慰霊式典は、日米双方の犠牲者に対する慰霊の意を示すとともに、当時敵同士だった日米が現在は同盟国として和解していることを改めて示す機会にもなりました。ただ、遺骨収容作業の停滞や過去の遺骨混入問題(別の用途に遺骨を含む土砂が使用された問題)も指摘されており、信頼回復と課題解決に向けた努力が求められます。今後、政府は遺骨収集の専門チームを強化し、一刻も早く御遺骨を故郷へ届けることを目指す方針です。両国の協力の下、戦没者への敬意と追悼の念を次世代に伝えながら、歴史の教訓を平和構築に生かしていくことが期待されています。

アメリカ情報報告書が語る中国とロシアの脅威:米情報機関が警鐘を鳴らす戦略的競争相手としての中露

米国の情報機関が議会に提出した最新の「世界脅威評価」報告書において、中国とロシアが米国および国際社会に対する主要な脅威であると改めて位置付けられました。報告書は特に中国について、軍事面・サイバー面で米国にとって最大の挑戦であり、人工知能(AI)分野でも2030年までに米国を凌駕する国家戦略を掲げていると指摘しています。中国人民解放軍は台湾への軍事圧力を強める一方、米軍の介入を抑止・打破し得る能力を着実に向上させており、極超音速兵器やステルス戦闘機、先進潜水艦、大量の核戦力など高度な装備を配備していると分析されています。また、中国は偽情報の生成にもAIを活用し、自国に有利な世論形成やサイバー攻撃能力の強化を図っている可能性が高いとの懸念が示されました。

一方ロシアに関しては、ウクライナ侵攻を通じて得た大規模戦争での教訓を糧に、西側の軍事技術や情報戦への対抗策を磨いていると評価されています。加えて、ロシアは引き続きサイバー攻撃や核威嚇を含む戦略で米国や同盟国に挑みうる存在であり、イランや北朝鮮とも連携しながら米国の利益に対抗する動きを強めているとされています。

報告書は中露両国が長期的に米国の安全保障上の最優先課題であると結論付け、米政府内で対抗戦略の強化が求められています。ただし、中国国内の腐敗や少子高齢化、経済減速といった構造問題にも触れられ、長期的にはこれらが中国共産党体制の足かせになる可能性が指摘されました。米情報当局は、こうした包括的な脅威評価を通じて同盟国とも認識を共有し、抑止力と警戒態勢を維持していく方針です。中国側は「米国が脅威を誇張している」と反発していますが、国際秩序を巡る米中露の戦略的競争が一段と鮮明になった形です。

MIT日本分校構想の頓挫と背景:世界トップ大学誘致計画の挫折が映す日本のスタートアップ支援の難題

日本政府が検討していた米マサチューセッツ工科大学(MIT)の日本分校誘致構想が、条件面での折り合いがつかず白紙撤回となりました。これは政府肝いりの「グローバル・スタートアップ・キャンパス構想」の目玉プロジェクトとして一時浮上したものです。東京・渋谷~目黒に跨る国有地を活用し、世界的なイノベーション人材を呼び込む拠点としてMITの分校設立を目指していました。しかし、大学側との交渉で研究環境や財政面の条件が折り合わず、結果的に計画は実現困難となりました。

背景には、日本側の制度や資金面の準備不足、大学運営の自由度などで埋めがたいギャップがあったとされています。また、日本のスタートアップ支援のための基金には数千億円規模が計上されたものの、具体的な投資先調整に時間がかかり、予算消化が進んでいない現状も浮き彫りになりました。また、日本側が期待するような教員はボストンから離れたがらないケースが多く、一部の「よこしまな」教員が海外キャンパス設置を主張しても、大学をあげての取り組みになりにくいのが実情なのです。

備蓄米の販売とコメ政策の構造課題:米価高騰で初の政府備蓄米放出、浮かび上がる生産調整の歪み

昨年来のコメ価格急騰を受け、日本政府は食料安全保障用に備蓄していた米を市場に放出する異例の措置に踏み切りました。全国平均でコメの小売価格が前年の1.5倍近くに上昇し、家計負担が増す中、21万トンを超える政府備蓄米が卸売業者向けに売却され、一部はブレンド米として店頭に並び始めています。政府が備蓄米を価格高騰抑制のために市場投入するのは初めてのことで、従来の「コメ余り」を前提とした政策からの大きな転換点となりました。

この背景には、近年の作付け調整(減反政策の廃止後も続く生産縮小傾向)や天候不順が重なり、市場流通米の供給が一時的に逼迫した構造問題があります。また、昨年には政府と契約した備蓄米を生産者が高値を理由に納入せず、違約金問題に発展するなど、制度の歪みも表面化しました。コメ農家にとっては価格上昇は収入増につながる一方で、消費者には高値が直撃し、政策のバランス調整が難しい状況です。備蓄米放出により一時的に価格は落ち着くと見られますが、根本的には需要減少が続く中での生産調整の在り方や、備蓄制度と市場メカニズムの整合性といった構造的課題が横たわります。政府は食料安定供給を図りつつ、農家の経営と消費者利益の両立を目指した政策見直しを進める必要があります。今回の「令和の米騒動」とも言える状況を教訓に、生産と備蓄・流通の仕組みを再点検し、中長期的なコメ政策の安定化策を講じることが求められています。

統一教会解散命令と政界との関係性:戦後政治に影を落とした宗教団体への司法判断と今後の影響

世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対し、東京地裁が法人格剥奪の解散命令を下しました。これは2022年の安倍晋三元首相銃撃事件を契機に明るみに出た同教会の献金強要など違法行為への社会的非難を受け、文部科学省が宗教法人法に基づき請求していたものです。判決により統一教会は宗教法人としての法的地位と特権を失い、財産の解散処分を求められることになります。ただ、同教会側は「信教の自由に対する不当な介入」として直ちに控訴する意向を示しており、法廷闘争は続く見込みです。

今回の解散命令に至る過程で、旧統一教会と政治家との長年にわたる密接な関係も改めて注目されました。1960年代に反共運動を背景に日本に浸透した同教団は、岸信介元首相らの支援も受け、その後も自民党の多数の議員に選挙協力や集票で影響力を及ぼしてきたと指摘されています。安倍元首相銃撃犯が教団への恨みを動機に挙げたことで、一連の関係実態が白日の下にさらされ、政府・与党も関係遮断を表明せざるを得ませんでした。今回の司法判断は、被害者救済と社会秩序維持の観点から下されたものですが、政界にとってはかつて支持母体の一つでもあった団体との決別を意味し、その影響は政治資金や選挙活動の面にも及ぶ可能性があります。国会では超党派で被害者救済法が成立し、巨額献金の返還請求支援などが進められていますが、政治と宗教の関係性については有権者の目が一層厳しくなっています。

今後、統一教会の控訴審の行方とともに、類似の問題を抱える他団体への波及や、政治家側の体質改善が問われることになるでしょう。政教分離と信教の自由という原則を踏まえつつ、被害防止と政治倫理の確立という課題に社会全体で向き合う契機となっています。

損保再編と経営環境の変化:生き残りを賭けた保険各社の再編戦略と新たなリスクへの対応

国内の損害保険業界で再編の動きが本格化しています。大手損保グループの一つであるMS&ADインシュアランス(傘下に三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損保)が、傘下2社の合併による事業統合を発表し、一体運営による効率化と競争力強化に乗り出しました。既に損保各社は2000年代にかけて幾度かの統合で「3メガ損保体制」(MS&AD、東京海上HD、SOMPO HD)を築いてきましたが、国内市場の伸び悩みや自然災害による保険金支払い増加など厳しさを増す経営環境の下、さらなる合理化が避けられない状況です。自動車保険分野では少子化や若者の車離れで契約数の伸びが鈍化し、将来的な完全自動運転時代への対応も大きな課題です。

一方で豪雨や台風といった異常気象による巨額の保険金支払いが毎年のように損保各社の収支を圧迫しています。また、世界的な金融市場の変動で資産運用収益も不安定となる中、AIを活用したリスク予測やデジタル化投資への対応など、新たな課題も出ています。今回の再編策は人員や支店網の重複解消によるコスト削減効果に加え、商品開発力や大型保険引受け能力の結集で、海外勢や新興の保険サービス(通販型・デジタル保険など)との競争に打ち勝つ狙いがあります。経営環境の変化に適応するため、生き残りを賭けた損保各社の動きは今後も続く見通しです。同時に、顧客にとってはサービス低下を招かないよう、統合後の契約者対応や保険金支払い体制の充実が求められます。業界全体で経営効率と顧客信頼の両立を図り、変化するリスクに備えることが重要となっています。

INCJの成果と課題:官民ファンド15年の功罪、次世代産業政策への教訓

官民出資による産業革新機構(INCJ)は、今年度末で設立から15年にわたる役割を終え、その歩みと成果が総括されています。2009年の設立時、INCJは「次世代を担う産業の育成」を掲げて国内企業への投資や事業再編支援を開始しました。当初期待されたベンチャー育成以上に、実際には経営危機に陥った大企業の救済に動く場面が多く、政府の産業政策の道具としての性格が強まったとの指摘もあります。目立った失敗例として、ジャパンディスプレイ(JDI)への累計3000億円規模の支援が挙げられます。液晶市場の競争激化に対応しきれず経営再建に失敗し、巨額の公的資金が回収不能となりました。

また、東芝の半導体子会社(現キオクシア)への出資も国内産業維持を狙いましたが、結局外資支援に頼る形となり、思うような成果を上げられませんでした。一方でINCJ最大の成功例とされるのがルネサスエレクトロニクスです。2013年に経産省の要請で出資し、大胆なリストラと海外企業買収による収益改善を後押しした結果、自動車向け半導体メーカーとして復活を遂げました。ルネサス株の売却益は1兆円を超え、INCJ全体でも最終的に投資総額約1.3兆円に対し約2.25兆円を回収し、官民ファンドとして一定の収支成果を残しました。しかし、その陰に数多くの案件で損失や停滞もあったこと、政治主導の案件では市場原理とのズレが生じたことは反省点です。2018年には運営方針を巡る政府と経営陣の対立も表面化し、より自律的な新組織JIC(産業革新投資機構)へと移行する契機にもなりました。INCJの功罪は、日本の産業政策に多くの教訓をもたらしました。

今後はこれを踏まえ、政府は民間資金が不足する成長分野に的を絞った支援を行う一方、民業圧迫とならないよう透明性と経営判断の独立性を確保することが求められます。官民の知恵を結集しつつ、真に国富を生むイノベーション創出につなげていくことが次世代の課題です。

日本郵政社長交代と構造問題:「増田体制」からの刷新、人事に透ける官僚色と郵政事業の行方

日本郵政グループでトップ人事の交代が決まり、増田寛也社長(元総務相・岩手県知事)の退任と、後任に根岸一行氏(元郵政官僚)の昇格が発表されました。増田氏は2019年の保険不正販売問題を受けて外部から招かれた「改革派」として5年間、ガバナンス強化と信頼回復に努めてきましたが、依然として業績低迷や不祥事再発防止に課題を残しました。

今回、グループ持株会社と郵便事業会社の社長が共に50代の生え抜きに交代することで、郵政創業以来と言われた増田体制に区切りをつけ、組織の若返りと立て直しを図る狙いがあります。しかし、新社長の根岸氏は旧郵政省出身であり、初の「官僚OBトップ」の誕生は、民営化以降薄らいでいた官庁色が再び強まるのではとの見方も出ています。日本郵政が直面する構造問題は深刻です。ネット時代で郵便物取扱量は年々減少し、郵便事業は慢性的赤字に陥っています。

一方、グループ中核のゆうちょ銀行・かんぽ生命も低金利環境や市場変動の中で収益拡大が容易でなく、新規業務展開の規制緩和も道半ばです。地方の郵便局ネットワーク維持と収益性確保との両立、そして過去の保険販売不正による信頼失墜からの完全な回復も依然大きな課題です。経営刷新には、人事の変更だけでなく抜本的な事業モデルの見直しや、デジタル時代に即したサービス改革が求められます。国民に身近な社会インフラ企業として、公的役割と株式会社としての収益責任のバランスをどう取るか、政府保有株の追加売却問題も含め議論が続いています。新体制のもと、現場士気の向上とコンプライアンス徹底を図り、全国一律サービスを守りながら持続可能な経営改革を進めていくことが急務です。利用者から信頼される郵政グループへの再生に向け、舵取りが注目されています。

遺伝子検査企業の破綻と限界:23andMe破産申請に見る個人遺伝情報ビジネスの難しさ

米国の大手遺伝子検査企業23andMe社が経営難に陥り、2025年3月に連邦破産法11章(日本の民事再生法に相当)適用を申請しました。同社は自宅で採取した唾液サンプルからDNAを解析し、祖先のルーツや健康リスクに関する情報を提供するサービスで一世を風靡し、一時は企業価値が60億ドル規模に達していました。しかし近年は利用者の伸び悩みや事業収益化の壁に直面し、株式公開後の資金調達もうまくいかずに資金繰りが悪化していました。消費者に一度キットを販売して終わりというビジネスモデルでは継続収入が限られ、収集した膨大なDNAデータを製薬研究などに活用して収益を上げる構想もうまく軌道に乗らなかった模様です。さらに、顧客の遺伝情報という「究極の個人情報」を扱うことへのプライバシー懸念も根強く、情報漏洩リスクや第三者へのデータ提供に対する不安が事業拡大の足かせとなりました。破産手続きに入った今、数百万人分とされる同社保有の遺伝データの取り扱いが大きな問題となっています。利用者から預かったデータが資産として売却されるのではないかとの指摘もあり、当局も監視を強めています。

このニュースは日本にも波紋を広げました。国内でも一部企業が類似の遺伝子検査キットを販売していますが、制度面で健康に関する診断結果提供が制限されていることもあり普及は限定的です。とはいえ今後、個人が自分の遺伝情報を知り活用するニーズは確実に高まると見られ、如何に安全・有益にそのサービスを提供するかが問われます。今回の23andMeの失敗は、技術への期待だけでは持続的ビジネスは成り立たないことを示しました。個人情報保護とビジネスモデルの両立という課題に各社がどう応えていくのか、引き続き注目が集まっています。

—この記事は2025年3月30日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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