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KON1062「NTT法廃止論/漁師激減/酪農家の危機/国民民主党の迷走」

2024.12.13
2024年
KON1062「NTT法廃止論/漁師激減/酪農家の危機/国民民主党の迷走」

▼NTT法廃止論:規制緩和の挫折と通信業界の行方
甘利元幹事長の落選で議論の停滞、経営自由化への課題

2023年10月、自民党はNTT法を議論する会合を開きました。この会合では、NTT法の廃止提言が改めて議題に上がりましたが、その進展は甘利元幹事長の落選という事態によって停滞しました。この法律は、通信インフラの公平性を保つため、政府がNTT株を保有し続け、同社に厳しい規制を課すことで独占の弊害を防いできた歴史があります。しかしその一方で、この法律がNTTの経営の自由度を著しく制限しているという指摘もあります。

甘利氏が主導した廃止提言では、政府保有株の売却によってNTTが自由に事業を展開できる体制を整え、日本の通信業界全体の競争力を向上させることが狙いとされていました。しかし、甘利氏が議論の旗振り役を務めてきた中で、その突然の退場により廃止論は一気に失速しました。会合では廃止ではなく「法改正」に留めるべきとの意見が主流となり、具体的な規制緩和の方向性は曖昧なままです。

さらに、通信業界における政治的ロビイングの影響が改めて浮き彫りになりました。ソフトバンクやKDDIは独自の政治的ネットワークを構築し、議員への影響力を強める一方、NTTは過去に築いた政治的基盤を次第に失いつつあります。特に、NTTに課されている「シビルミニアム(地域社会における最低限の通信サービス保証)」は、その象徴的な負担です。離島や過疎地の高齢者に対する有線通信の提供義務は、莫大なコストを伴い、他社との競争力格差を助長しています。

国際的に見れば、通信業界の自由化は世界的な潮流です。アメリカでは「ベビーベル」と呼ばれる地域通信会社が再編され、競争が促進されると同時に、企業の自由度が増し、グローバル市場での競争力を大きく向上させました。一方で、日本は国内規制の強さがボトルネックとなり、世界市場でのプレゼンスを発揮できていない状況です。この現状を打破するためには、NTT法を見直し、国内市場を活性化させるとともに、国際市場で戦える通信業界の構築が急務です。

▼漁師激減:地域経済の沈下と持続可能性の模索
高齢化と後継者不足、DX活用で未来を切り拓く

漁業はかつて日本経済の成長を支える基幹産業の一つとして栄えていました。しかし、近年の統計が示すように、2022年時点で約12万人いた漁師が2050年代には7万人まで減少すると予測されています。この急速な縮小は、単に産業としての漁業に留まらず、地方経済全体や食料安全保障に深刻な影響を及ぼしています。

この問題の背景には、高齢化と若年層の漁業離れがあります。漁業は身体的に厳しい労働環境であり、不安定な収益構造が若者にとっての魅力を大きく損なっています。漁業に新しい担い手を呼び込むための政策が一部で試みられていますが、漁協制度の硬直化や外国人労働者を正規メンバーとして受け入れることへの抵抗が依然として課題です。

特に注目すべきは、漁業資源管理の国家戦略化が日本では進んでいない点です。ノルウェーやアイスランドでは、漁業資源の管理と効率的な漁法を国家プロジェクトとして推進しています。例えば、技術革新を通じて乱獲を防止し、漁獲量を最適化する仕組みが整備されています。これにより、漁業者の生活が安定し、持続可能な漁業が実現されています。

また、水産庁のデータによれば、漁業資源の減少は日本国内の食用魚介類の自給率や消費量の減少にも直結しています。魚介類の消費減少は、日本人の健康や食文化に対する悪影響も懸念されます。この問題に対処するためには、地方経済や地域社会の視点から包括的な対策を講じる必要があります。ノルウェーを参考にした国家戦略を打ち立て、日本の漁業を次世代に引き継ぐべきです。

▼酪農家の危機:円安の衝撃と自給率向上への課題
円安・資材高騰がもたらす危機、持続可能な経営体制を模索

中央酪農会議が発表したデータによると、国内の酪農家数は9960戸に減少しました。この減少は、円安やウクライナ情勢による資材価格の高騰、乳製品の価格上昇が難しい市場構造など、多重の要因が絡み合っています。これにより、経営を断念する酪農家が増え、日本の酪農業界全体が存続の危機に直面しています。

日本の酪農業界の最大の問題の一つは、輸入飼料への過度な依存です。飼料価格が高騰する一方で、国内の乳製品価格は需要と供給のバランスによって上昇しにくい状況が続いています。その結果、多くの酪農家が利益を出せないまま、規模の拡大を余儀なくされています。しかし、この「規模拡大」は労働負担の増加を招く一方で、収益改善にはつながりにくい悪循環を生んでいます。

さらに、日本の政策対応の遅れも課題の一因です。輸入依存から脱却し、国内資源を活用した持続可能な酪農体制を構築するためには、飼料自給率の向上や省力化技術の導入が急務です。たとえば、国産飼料の生産を促進するための政策や、乳製品価格の安定を図るための市場介入が必要です。また、労働力不足を補うため、先進的な技術を導入し、酪農業界全体の効率性を高める施策も求められています。

政府には、酪農家が安定的な収益を確保できる仕組みを整える責務があります。具体的には、価格補助や税制優遇、さらには輸入飼料に依存しない持続可能なモデルを目指した研究開発への投資が必要です。このような包括的な政策を通じて、日本の酪農業界は再生への道筋を描くことができるでしょう。

▼国民民主党の迷走:リーダーシップ不在と組織の再生
女性問題で揺れる党内、試される組織改革の力

国民民主党は、玉木雄一郎代表が女性問題を理由に3カ月間の役職停止処分を受けることを決定しました。党内ではより厳しい処分を求める声も上がっていますが、玉木氏自身は謝罪し、信頼回復への意欲を示しています。しかし、この問題が党勢に与える悪影響は甚大です。

処分期間中、古川元久代表代行が党運営を代行しますが、彼の「地味な印象」が懸念されています。一方で、玉木氏のリーダーシップによって保たれていた党の結束が失われる可能性もあります。組織改革と人材育成を進め、党の未来を支える仕組みを構築することが急務です。

—この記事は2024年12月8日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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