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KON1063「韓国政局/シリア情勢/欧州動向」

2024.12.20
2024年
KON1063「韓国政局/シリア情勢/欧州動向」

▼韓国政局:2回目の弾劾訴追可決と政界再編の可能性
過去の大統領弾劾経験が示す政治的ジレンマ

2023年10月14日、韓国国会は尹錫悦大統領に対する2回目の弾劾訴追案を可決しました。この決定には野党および無所属議員の賛成に加え、与党「国民の力」からも少なくとも12名が賛同するという異例の動きが見られました。結果として、弾劾発議が成立し、尹大統領は直ちに職務停止となりました。憲法裁判所は今後180日以内に弾劾の正当性を判断し、もし認められれば尹氏は罷免され、60日以内に新たな大統領選が実施されることになります。

今回の弾劾の背景には、尹大統領の一貫性に欠ける発言や行動が挙げられます。初回の弾劾採決では与党が採決を妨害し不成立となりましたが、2度目は党内の不満が顕在化し、複数の議員が弾劾に賛同しました。尹氏は「最後まで戦う」との強硬姿勢を示しつつも、態度の揺れ動きが国民からの信頼を損ねています。また、大統領夫人キム・ゴンヒ氏の逮捕説などスキャンダルも重なり、政治的基盤の揺らぎが浮き彫りとなりました。

歴代韓国大統領の中には、退任後に逮捕・収監されるケースが少なくありません。朴槿恵元大統領も弾劾後に収監された経緯があり、尹氏についても同様の運命が予想されています。この不安定な政治状況は、次期大統領選に大きな影響を及ぼす可能性があります。現在、最大野党「ともに民主党」の李在明代表が支持率約49%で有利な状況にあり、与党側の有力候補ハン・ドンフン代表は支持率が9%台に低下しています。李氏の対日強硬路線やパフォーマンス重視の政治手法は、日本との関係に再び緊張をもたらす懸念があります。政界再編が進む中、韓国の今後の政治動向に注視が必要です。

▼シリア情勢:アサド政権崩壊と多元的勢力間の統治再編
宗派・民族のモザイク国家再建と国際的責任

中東地域において、長年独裁体制を維持してきたアサド政権が崩壊したとの報道がなされています。首都ダマスカスを含む主要都市が反政府勢力に掌握され、アサド大統領とその家族はロシアのモスクワへ逃亡、辞任と権力委譲を表明しました。アサド政権の崩壊はシリア再建への第一歩と捉えられる一方で、同国の宗派・民族構成の複雑さが新たな統治の難しさを浮き彫りにしています。

シリアにはアラウィー派(シーア派の一派)を中心とした支配階層、スンニ派の多数派、キリスト教徒、クルド勢力など多様なグループが存在し、新政権の安定的な統治の確立は容易ではありません。反体制側の「シリア解放機構(HTS)」は旧首相ジャラリ氏との合意に基づき政権を引き継ぎ、暫定首相としてイドリブ県統治者ムハンマド・バシル氏が任命されました。人権面では2万人の政治犯が解放されるなどの改善が見られるものの、国土の再統合や経済再建には大規模な国際支援が不可欠です。

周辺国への影響も甚大です。トルコは約300万人のシリア難民を受け入れており、レバノン、ヨルダン、イラク、エジプト、さらにはアフリカ諸国にも数十万人規模の難民が分散しています。帰還・定住にはインフラ整備、雇用創出、食料確保など多くの課題が山積しており、国連をはじめとする国際社会の協力が求められています。

一方、イスラエルはシリアとの国境に位置するゴラン高原の非武装緩衝地帯への部隊展開を発表し、占領を強化する姿勢を示しました。これはヒズボラなどの敵対勢力の流入を防ぐ狙いがありますが、国際的な批判も避けられず、地域の安定化にはさらなる外交努力が必要とされています。

▼欧州動向:ルーマニア大統領選無効化とロシア情報戦の影響
デジタル時代の民主主義に対する新たな挑戦

欧州において、ルーマニア憲法裁判所は2023年11月に実施された大統領選第一回投票を無効とし、再選挙を決定しました。極右候補ジョルジェスク氏が、実際には泡沫候補にもかかわらず首位に立った背景には、TikTokなどの有料広告を通じたロシア系と疑われる情報工作が指摘されています。ルーマニアはチャウシェスク独裁政権からの脱却後、EU加盟国として民主化と経済発展が期待されてきましたが、ロシアの巧妙な情報戦によって選挙結果が歪められる形となりました。

この事例は、欧州各国が直面する外部からの情報干渉リスクを再認識させるものです。インフルエンサーが資金提供を受けて特定候補を宣伝する手法は、民主的選挙プロセスの根幹を揺るがす危険性を孕んでいます。デジタル時代における情報戦は、従来の地政学的対立に加え、新たな脅威として浮上しています。

欧州はロシアによる情報操作への対抗策を強化する必要があります。具体的には、選挙プロセスの透明性を高めるための技術的対策や、偽情報の迅速な検出・拡散防止策の導入が求められます。また、国際社会全体でデジタル時代の選挙妨害問題に取り組むための協力体制の構築が急務です。ルーマニアの事例は、欧州各国が内外からの脅威に対して如何に対応すべきかを示す重要な教訓となるでしょう。

—この記事は2024年12月15日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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