▼衆院選:老舗政党の地盤沈下と組織力の錆びつき
都営住宅と宗教組織に見る公明党・共産党の課題
日経新聞が報じた衆院選の結果は、日本の老舗政党の地盤沈下を象徴しています。特に、公明党と共産党の失速は深刻です。かつて900万票を誇った公明党の比例票は600万票を下回る可能性が指摘され、共産党も「赤旗」読者を中心とする支持基盤が縮小しています。
かつて公明党は都営住宅や公共リソースの配分を通じて支持者を確保していました。私が1995年の都知事選に出馬した際、公明党の支援を得ようと試みましたが、彼らの条件は厳しく、「政策が一致していても自分たちの利権を侵さないこと」を求められました。都営住宅に住む支持者の多くが聖教新聞を購読し、そのネットワークが組織力を支えていたのです。
一方、共産党も「赤旗」を軸にした鉄壁の支持基盤を築いていましたが、現在ではその多くが高齢化し、若い世代からの支持を失っています。これらの現象は、宗教的またはイデオロギー的な帰属意識の低下と組織の時代遅れを反映していると言えるでしょう。
また、池田大作氏が公明党を組織化した際の手腕は「天才的」と言えます。当時、彼は単に宗教紙を配布するだけでなく、朝日新聞の購読まで勧めました。いざという時、支持者全員に購読停止を呼びかけることで大きな影響力を行使できるという理由です。しかし、現在のリーダーシップにはそのような戦略的な視点が欠けているように感じます。
今回の衆院選の結果は、老舗政党が若年層に訴求できていない現状を浮き彫りにしました。日本の政党が本質的な改革を進めるには、若い世代の価値観に対応した政策と組織運営が不可欠です。
▼SNS規制:教育の欠如と自由をめぐる議論の混迷
オーストラリアの16歳未満禁止法と日本の課題
オーストラリアが16歳未満のSNS利用を禁止する法律を可決しましたが、このアプローチには限界があります。禁止が一時的な抑制効果をもたらす一方で、子どもたちのSNS活用能力を制限してしまう危険性があるのです。
私がマレーシアの国家アドバイザーを務めていた際、類似の問題をマハティール首相と議論しました。当時、一部のイスラム聖職者がインターネットを規制するよう求めていましたが、私は「自由に使わせた上で教育を行わない限り、国民は育たない」と強く反対しました。この考え方は現在でも変わりません。
SNSの利用を教育によって正しい方向に導くことこそが、本来の課題解決につながるのです。禁止を選択肢とするのではなく、学校教育や家庭内でのガイドラインを整備し、子どもたちがSNSのリスクを理解しながら活用できる能力を育むべきです。
日本では、SNSの教育プログラムが未整備であり、親世代の知識不足が課題です。SNSを通じた問題を解決するには、親子双方が学ぶ場を提供し、実践的な指導を行う必要があります。
▼次期戦闘機開発:サウジ参画の意義と日本の課題
多国間プロジェクトのリーダーシップ不足
日本、イギリス、イタリアが進める次期戦闘機開発にサウジアラビアが加わることが決定しました。サウジの資金力はプロジェクトの推進力になると期待されていますが、一方で、技術移転や知的財産権の問題が潜在的なリスクとなる可能性があります。
特に、イギリスがプロジェクトのリーダーを務める中で、具体的な計画や成果の明確化が遅れています。イタリアの技術的貢献や日本の役割も曖昧であり、各国の責任範囲が不透明です。
さらに、日本はこれまで米国依存型の防衛戦略を採用してきましたが、このプロジェクトにおいては独自の技術力を示す必要があります。日本が本当に国際的な信頼を得るには、明確なビジョンとリーダーシップが不可欠です。
また、サウジがパートナーとして参加する意義は、単に資金提供だけではありません。自国の防衛産業育成を目指しており、日本がその経験から何を学べるかが問われています。
▼年収の壁:地方財政の危機と政策の矛盾
103万円から178万円への転換の光と影
国民民主党が提案した年収103万円の壁を178万円に引き上げる法案は、一見すると働き手不足の解消につながるように見えます。しかし、地方財政への影響や国民負担の増加といった問題が議論されていません。
例えば、地方自治体にとって、税収減少は大きな課題です。扶養控除の見直しや社会保障費の増加は、地方自治体の財政を圧迫し、地域社会の持続可能性に悪影響を与えます。
さらに、扶養控除の変更により、専業主婦やパートタイム労働者が受ける影響も見逃せません。家計全体の負担が増加する可能性があり、政策全体の整合性が欠如していると言わざるを得ません。
私が提言するのは、抜本的な社会保障改革と地方財政の見直しを含む包括的なアプローチです。単に控除額を変更するのではなく、国民全体が納得できる持続可能な政策を打ち出す必要があります。
▼サイバー攻撃とプラットフォーム規制:社会インフラの未来
法整備と市場の公正性の確保
政府が推進する能動的サイバー防御の導入は、社会インフラを守るための重要な取り組みです。電力や鉄道などの基幹インフラ事業者に報告義務を課すことで、サイバー攻撃に迅速に対応できる仕組みを整える必要があります。
また、公正取引委員会がアマゾンジャパンを独占禁止法違反の疑いで調査した件は、デジタルプラットフォーム企業の規制の必要性を浮き彫りにしました。アマゾンが価格競争を通じて他社を排除しようとした行為は、市場の公正性を損なうものであり、厳しい監視が求められます。
これらの課題に取り組むためには、政府、企業、そして国民全体の意識改革が必要です。特に、サイバー攻撃の防御策や市場規制は、次世代の社会基盤を支える重要な要素となるでしょう。
—この記事は2024年12月1日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。