▼機密情報共有 「ファイブ・アイズ」各国軍が日本で初会合へ
旧英連邦と並ぶために求められる、情報管理の改善
アメリカ、イギリスなど5カ国が機密情報を共有する枠組み、ファイブ・アイズの各国軍が日本で初めて会合を開く見通しが明らかになりました。日本はファイブ・アイズに加盟していませんが、5カ国との安全保障で協力を進めており、中国をはじめとする地域の情報収集拠点として存在感を高めている現状です。
非常に残念なことに日本の情報管理体制には課題が多く、情報機密をキープできるとは言えません。ファイブ・アイズの原型である「エシュロン」は通信傍受を行う強力な諜報ネットワークですが、日本は情報をセーフガードする仕組みが確立しておらず、ありがたいことではありながらも、私はファイブ・アイズへの加盟には賛成できません。
ファイブ・アイズのメンバー国は旧英連邦で、現在、既に怪しいと思われる人物に対しては通信・電波傍受を行っています。このネットワークを活用した例として、日本国内で連合赤軍の重信房子が捕捉された事件がありました。彼女は日本に入る際には通関もイミグレーションも難なくすり抜けましたが、エシュロンによる傍受がきっかけで逮捕されました。彼女がホテルから送信した、爆発など不審なキーワードが書かれたメールが検知され、ファイブ・アイズが日本の警察に情報を与えたのです。
一方、日本には「セキュリティクリアランス」と呼ばれる機密情報の取り扱いに関する資格制度が整備されておらず、このような状況で日本がファイブ・アイズに参加すれば情報が漏れる可能性が高まります。それが、私が加盟を反対する一番の理由です。
▼日中関係 領空侵犯で中国政府が説明
米中対立の激化、日中関係への色濃い影響
外務省、防衛省は19日、8月末に発生した中国軍機による領空侵犯について、中国政府から「領空に侵入する意図はなかった」との説明を受けたと発表しました。これは中国軍のY-9情報収集機が長崎県男女群島沖の領空を2分ほど侵犯した事案ですが、中国側は気流の妨害に遭い、乗組員が臨時的措置を取る過程で不可抗力により日本領空に短時間入ったとし、再発防止に努める考えを示したということです。
今回の中国の対応はこれまでの一方的な突っぱね方とは異なり、領空侵犯を認めつつ意図的でなかったと弁明、日本側に対する歩み寄りの姿勢を見せています。航空自衛隊の緊急発進回数の推移を見ても、以前は圧倒的にロシアがその原因でしたが、近年では中国が多く、2023年は中国による緊急発進が479回で、ロシアの174回を大きく上回っています。ロシアの回数が減ったのは、ロシアの関心が西側諸国へ移っているためだと推測できます。
また海上においても、尖閣諸島周辺の領海や接続水域における中国公船侵入が頻発しており、これらの活動も全て記録に残されています。今回の事案では中国側が「意図はなかった」と説明したことは、これまでにない対応ですが、それがコミュニケーションや技術的な問題によるものと主張する姿勢は、これまでと比べて非常に異例のことです。
この背景には、米中対立の影響を受けて、習近平氏が日本との関係改善を図ろうとしている意図があります。日中関係では、この件をはじめ、外務大臣同士の会談やその他の交流が進展している兆しがあり、王毅外相と岩屋外相が会談を予定しているのもその一つです。また福島の海産物に関する問題は未解決ですが、ビザに関しては11月30日から来年末までの特別措置実施の予定が発表されています。
▼中国ビザ 日本人の短期滞在ビザ免除を再開
半スパイ法の明確化なくして、不安は解消せず
中国外務省は22日、日本人の短期滞在ビザの免除措置を再開すると発表しました。再開は新型コロナ禍で停止した2020年3月以来、4年8カ月ぶりで、背景にはペルーで開かれた日中首脳会談で人的交流を深めることで合意したほか、中国側はトランプ政権の誕生により米中対立が激化するのを見据え、日本との関係を安定させたい思惑です。
一方で、中国における「反スパイ法」が依然として懸念されています。この法律は非常にあいまいな形で定義されており、どのような行為がスパイ行為に該当するのかが明確でなく、日本人が突然拘束されるケースが後を絶ちません。このような事態を受け、日本企業は中国での駐在員数を徐々に減らしているものの、それでも約10万人の日本人が中国に在留しており、依然としてリスクを抱えています。現在拘束されている人の多くは、具体的な理由を知らされないまま拘留されており、どのような行為を対象としているのか、速やかな明確化が欠かせません。
▼エンゲル係数 日本は26%(22年)でG7首位
貧困国への転落は、目前に迫っている?
消費支出に占める食費の割合、エンゲル係数について、日本は2022年に26%となり、G7で首位となったことが分かりました。背景には食材の値上がりや共働き世帯が家事の負担を避けるため、割高な惣菜などの中食への依存を強めているほか、支出に占める食費の割合が高い高齢者が急増していることなどがあると見られます。
かつて22~23%だった日本のエンゲル係数は、近年27~28%に上昇し、このままでは30%に達する可能性があります。エンゲル係数は食費の収入に占める割合を示す指標であり、その上昇は貧困の兆候とされています。アメリカ、ドイツはわずかに上昇していますが低いままで、フランスは次第に上昇してはいるものの24%です。しかし日本の増加幅は特に顕著であり、G7諸国の中で断トツの首位となっています。
また消費者物価指数の動向を見ても、生鮮食品など食料品の上昇が目立っています。これは先日の選挙で自民党が敗れた要因の一つでもあり、改めて日本人の生活が厳しくなったことが浮き彫りになりました。石破氏は103万円の壁を見直す考えを示しましたが、実は具体的なアイデアを理解しておらず、大変お粗末だと私は失望しました。政府は食費負担の増大が国民の生活に与える影響を軽視しており、今後も国民の収入は伸びぬまま、支出の多くが食費に費やされると考えられます。
▼103万円の壁 立憲民主は存在感の発揮に苦慮
魅力あるリーダーが不在の政党に未来はあるか
読売新聞は21日、「『103万円の壁』合意、立憲民主は存在感の発揮に苦慮」と題する記事を掲載しました。これは自民、公明、国民民主の3党が年収103万円の壁の見直しで合意したことについて、立憲民主の大西・党税制調査会長が不快感を示したと紹介。立憲民主は年収の壁対策の必要性は認めるものの、来年夏の参院選をにらみ、与党との対決姿勢を鮮明にするため、3党協議とは距離を置いており、立憲民主の党幹部は代表の考えがあるので協議に加われず、もどかしいと漏らしたということです。
立憲・野田代表は「本当は103万円ではなく130万円が妥当ではないか」と発言するなど、独特な表現が目立ちました。その上で、自党の影響力が薄れることを危惧し、自分たちの意見を明確に伝えるため記者会見を開きましたが、党の存在感はますます希薄になりつつあります。立憲民主党は政策面や、野田氏や枝野氏といった指導者の魅力不足が明らかとなり、第2党としての立場は維持しているものの、党の役割は大きく揺らいでいます。
また国民民主党では玉木氏のスキャンダル報道が影響し、現在、代表代行を務める古川元久氏へのシフトが進む可能性が高いと見られています。古川氏は非常に堅実で信頼できる政治家と評価されていますが、キャラクターとしての魅力に欠けているのが課題です。一方、玉木氏には一定のチャーミングさはあるものの、その魅力を別の方向に生かしてしまったということでしょうか(笑)
▼総合型リゾート 日本の国会議員に贈賄で潘正明被告を起訴
米国に先を越された日本、捜査機関の徹底捜査に期待
アメリカ司法省は18日、日本のIR、統合型リゾート事業に絡み、日本の国会議員らに賄賂を渡したとして、中国のオンライン賭博業者の元CEO、潘正明被告を起訴しました。潘被告は2017年から19年、賄賂目的でコンサルタントにおよそ2億9000万円を仲介させたほか、旅行や接待、贈答品などを送ったということです。
問題に関わった秋元司氏は、既に国会議員を失職しています。また北海道知事である鈴木直道氏も、夕張市長だった頃から、この問題に関与していると私は思っています。鈴木氏は、かつて夕張市長から北海道知事へと転身し、菅義偉氏の法政大学の後輩という縁もあり、若さやイメージの良さから初当選を果たしました。
500ドットコムが北海道でのIR計画を持ちかけましたが、同社には実績も能力もほとんどなく、北海道がこの計画を受け入れた経緯が疑問視されています。ルスツリゾートを運営する加森観光も計画に関与しましたが、贈収賄問題が明るみに出た後、加森公人氏は代表を辞任し、現在は息子の加森久丈氏が後を継いでいます。
今回の起訴は、アメリカ側で進められたものですが、日本でこの問題を軽視してはいけません。鈴木知事は現時点では明らかな証拠はなく、ぬれぎぬである可能性もありますが、潔白を証明するためにも、日本の捜査機関が徹底的に調査を行う必要があるでしょう。
—この記事は2024年11月24日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。