▼衆院選 自公過半数割れ、立民、国民躍進
過半数を切った与党議席が、政権の枠組みを大きく変える
衆院選の投開票が先月27日に行われ、自民・公明の与党は215議席となり、目標としていた過半数を割り込みました。自民党派閥の政治資金問題が大きな逆風となったものですが、一方、立憲民主党と国民民主党は議席を大きく伸ばして躍進、首相指名選挙を行う特別国会が11日に招集される見通しで、与野党ともに新たな政権の枠組みを探る動きを始めました。
ちょうど先週のライブ中に開票が進んでいましたが、こうした結果はある程度予測していたとおりです。今回の選挙結果を分析すると、これまでとは異なる新しい動きが多く見られ、非常に興味深いと言えます。まず注目すべきは石破首相についてです。開票中の石破首相の表情を見る限り、「目が死んでるよ、これじゃあ首相は務まらない」と心から実感しました。
次に、自民党が小選挙区での得票を大幅に減らしたことは、与党にとって大きな課題です。立憲民主党は躍進を強調していますが、得票数自体は減少しています。維新の会や共産党の得票はわずかに増加し、国民民主党は大きな伸びを見せた一方、公明党は得票を減らしました。
さらに比例代表の得票数にも大きな変動が見られました。自民党は前回に比べて大幅に票を減らし、立憲民主党も期待ほどの伸びは見られませんでした。一方、国民民主党は得票を倍増させ、れいわ新選組も得票を伸ばしましたが、維新の会は得票を減らしています。また、公明党や共産党のように組織票に依存する政党が得票を減らした点も特徴的です。
今回の選挙で自民党が票を減らしたことに加え、公明党が小選挙区と比例代表の両方で得票を減らしたことは、日本の政治構造に大きな変化をもたらすでしょう。
▼自民党 自民党会派197人で届け出
「賄賂」が招いた議席減少、政局への影響は?
自民党は、自民党会派として197人で届け出を行いました。世耕氏、萩生田氏、西村氏、平沢氏など衆院選非公認の6人と公明党を合わせた与党勢力は221人となりましたが、過半数には12人不足しています。
今回の衆議院選挙で、自民党非公認の候補者が代表を務める党支部に対し、党本部から2000万円が配布されました。森山幹事長は「党勢拡大のため」と発言しましたが、結果的に選挙戦にマイナスの影響を与えたとの指摘もあります。森山氏は、この資金が選挙活動には使用されないと説明しましたが、非公認で当選した6人の議員が後に自民党会派に加わったことで、「当選したからには自民党に加わってほしい」という意図があったのではないかと受け取られています。いわば、この配布が党勢拡大を目的とした「賄賂」であるとの見方もあります。
さらに今回の選挙で公明党の議席が減少したため、与党勢力は過半数を12人下回る状況に陥り、今後の政局に大きな影響を及ぼす可能性があると見られています。
▼公明党 石井代表が辞任表明
わずか1ヵ月での、辞任表明へ
公明党では、石井代表が衆院選で落選し、代表辞任を表明しました。後任には斉藤国交大臣が就任する見通しです。公明党代表が衆院選で落選するのは、埼玉14区で太田氏が落選して以来、約15年ぶりのことです。今回の選挙で公明党の議席数は32から24に減少し、さらに自民党の非公認候補を応援したことに対して、公明党支持者の間では大きな不満の声が上がりました。
公明党の支持基盤である創価学会の票は、かつて900万票に達していましたが、今回の選挙では600万票を下回る結果となりました。池田大作氏の逝去以降、創価学会の組織的な拡大が困難となっており、加えて支持者層の高齢化が進んでいることも、党勢維持の難しさにつながっていると考えられます。
ちなみに、石井氏は代表就任からわずか1カ月での辞任となりますが、かつては山口那津男氏が15年もの長きにわたり代表を務めました。
▼国民民主党 経済対策など政策協議入りで合意
自民党のお家芸がまた発動されるか
自民党と国民民主党の幹事長会談で、経済対策に関する政策協議に入ることで合意がなされました。国民民主党が掲げる「手取りを増やす」「103万円の壁見直し」などの公約が、今回の協議に反映される見通しです。これに関連して林官房長官は、基礎控除の引き上げを178万円とした場合、7~8兆円の減収になるとの見解を示しました。
国民民主党は今回の衆院選で党勢を拡大しましたが、特に比例代表において一般票を大きく取り込んだようです。しかし、比例代表であと4名分の候補者を立てていれば32議席を得られた可能性があり、これほどの票数を得られるとは考えていなかったようで、惜しい結果とも言えます。自民党からの連携要請もある中、玉木代表は「選挙公約の実現を前提に、自公国での政策協議には応じる」とし、是々非々の姿勢を示していますが、与党入りへの期待もうかがえます。
国民民主党は「政策の5本柱」を掲げています。「『給料が上がる経済』を実現」ではベーシックインカムの導入、「積極財政」では消費税・ガソリン税の減税、「『人づくり』こそ国づくり」では高校までの教育無償化など、いずれも財源の確保が大きな課題となる政策です。また「自分の国は『自分で守る』」という政策は、ロシアや中国が喜ぶかもしれません。「『正直な政治』をつらぬく」も素晴らしい政策ですが、若者参加を推進するための高校生・大学生議員制度の創設については疑問が残ります。玉木氏はケネディスクール出身ですが、その割にはナイーブな人物で、彼の掲げる政策には夢物語に近いものも多く見受けられます。
関連する質問 1
「衆院選で自民党議席が過半数に届かなかったことで、今後の政権運営はどうなっていくのでしょうか。野党共闘、または94年の村山富市氏を首相としたようなウルトラCも考えられるのでしょうか」
鋭い視点ですね。まさに私も同じ考えです。例えば、初回の首相指名選挙で、公明党と自民党がひそかに「玉木雄一郎」と書けばどうなるでしょうか。国民民主党は既に玉木代表への投票を表明していますから、与党側も同じく「玉木雄一郎」で足並みをそろえれば、玉木氏が首相に就任することになります。これは、自民党がかつて社会党の村山富市氏を首相に据えて政権を維持したような戦略であり、自民党の「お家芸」とも言えます。
石破首相が引き続き務めるよりも、未知数ながらも新鮮な玉木氏のほうが適任かもしれません。彼は若干ナイーブな面もあるものの財務省出身で、外務省勤務時代には、皇太子であった現天皇陛下と雅子妃殿下をヨルダン国王の葬儀で、一緒の飛行機に乗ってエスコートした経験もあり、皇室との関係も良好です。また、ケネディスクールでの学歴も含め、外交・財政の基礎を持つ点では期待が持てると言えます。万年総裁選に落第し続け、ようやく総裁選に勝った石破氏よりも、玉木氏のほうが適任だと思います。
私が自民党の伝統的戦略に従うなら、村山氏を取り込んだときのように玉木氏を擁立し、政権の安定に寄与させるでしょう。玉木氏が首相となれば、国民民主党からも数名が大臣ポストに就任し、自民党も厚遇が期待できます。もちろん安定していた岸田氏に戻すという選択もありますが、玉木氏をうまく取り込むことが現状での最適解と考えます。しかし、開票時の表情を見る限り、石破氏にこうした発想があるかは疑問です。
関連する質問 2
「先週の衆院選で自民大敗となった結果を受け、少数与党の自民党は、躍進した国民民主党へパーシャル連合に向けた協議を本格化しているとの報道がありました。部分連合というと政権不安定となるようにも見受けられ、11月11日の首相指名選挙も混乱が生じるように思うのですが」
確かに、首相指名選挙は1回目で決着をつけなければなりません。1回目で決まらない場合、上位2名による決選投票に移りますが、この際にも国民民主党は玉木氏に投票する方針を示しています。もし自民党がそこで改めて玉木氏に投票しても、国民民主党の票と合わせた玉木票は無効票となり、最終的に野田氏と石破氏の一騎打ちになってしまうでしょう。このため、1回目で玉木氏を支持する戦略が重要です。今回の混乱の原因とされる森山氏が、どのように事態を取り仕切るかが鍵であり、その手腕が注目されています。
▼千葉県・熊谷知事 「いったい何回目の給付なのか」
地方自治体が巻き込まれた、政治家のリップサービス
石破首相が取りまとめる総合経済対策に、公明党が給付金を盛り込むよう求めていることについて、千葉県の熊谷知事は先月30日、Xの投稿で「いったい何回目の給付なのか。市町村職員に多大な負荷をかけるのは止めて頂きたい」と訴えました。また熊谷氏は「10万円を配る度に事務費に巨額の税金が使われています。いい加減、市町村を巻き込まず国の責任で事務をして頂きたい」とし、国が市町村から住民データを集め、一元的に給付事務を行うべきとの考えを示しました。
私はこの意見に賛成です。給付金が実施されるたびに、国が事務作業を市町村に委ねるため、地方自治体には過重な負担がかかっています。熊谷知事が訴えるのも無理はありません。ただし、熊谷氏はNTTコミュニケーションズ出身なので、NTTコムが事務作業の一式を請け負うことになれば、態度が変わるかもしれません(笑) しかし、中央の政治家たちのリップサービス実現のために、地方自治体が多大なコストを負担するのは、たまったものではありません。そのコストは、政治家の裏金と同じくらいの額に達するのではないでしょうか(笑) 国が一元的に対応すべきだとする熊谷知事の主張には、非常に説得力があると私は思います。
また、このような一元管理を実現するには、住民データを正確に扱うためのインフラ整備が不可欠です。例えばインドのアドハーのように、統一されたシステムがなければ難しい面があり、現状では日本のマイナンバー制度も十分に整備されていないため、地方の事務量が増える課題が続いているのです。
—この記事は2024年11月3日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。