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KON1054「ノーベル平和賞/ノーベル物理学賞/楽天グループ/国内携帯販売大手/セブン&アイHD」

2024.10.18
2024年
KON1054「ノーベル平和賞/ノーベル物理学賞/楽天グループ/国内携帯販売大手/セブン&アイHD」

▼ノーベル平和賞 日本被団協に平和賞授与
授与の理由は、若い世代を巻き込んだ継続的な取り組み

ノルウェーのノーベル賞委員会は11日、2024年のノーベル平和賞を日本被団協に授与すると発表しました。被団協が核兵器のない世界を実現するための努力と、核兵器が二度と使われてはならないことを、目撃証言を通じて示してきたことが受賞の理由ということで、日本の平和賞受賞は1974年の佐藤栄作元首相以来50年ぶりです。

しかし放送などでは、このニュースが正確に伝えられていないように感じます。被団協がこのタイミングでノーベル平和賞を受賞したことには、大きな意味があります。現在、被爆体験の語り部の多くが86歳以上と高齢化しています。そんな中、被団協は若い世代を委員に登用し、高校生などが新たな語り部として活動する仕組みを作り、継続的な取り組みが評価されたのです。

広島県知事や市長がこの受賞を支持した一方で、長崎市長は「遅きに失した」とコメントしましたが、これは受賞の本質を理解していない発言です。ノーベル委員会が評価したのは、まさに現在、核の脅威が再び現実味を帯びているからこそ、被団協の活動が重要だという点です。北朝鮮やロシア、さらにはベラルーシといった国々が核兵器使用の威嚇を露骨に行い、イランやイスラエルも核保有を目指しています。このような状況下で、被団協が核兵器の恐ろしさを次世代に伝える努力を続けていることが、今回の受賞理由です。被団協の代表は「自分たちが受賞したことに驚いている」といった趣旨の発言をして、頬をつねっていましたが、それは受賞の本質とは異なります。

今回の受賞理由を見れば、被団協が新しい世代に被爆体験を引き継いでいることが評価されているのがよく分かります。これは、今まさに核の脅威が高まっている現状に対する重要なメッセージです。以前、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)が平和賞を受賞しましたが、被団協の場合は、被爆者自身が中心となっていることが、より現実的な核廃絶のキャンペーンになっているのです。

一方で、日本政府は核拡散防止条約(NPT)に未加入です。石破茂氏はその背景として、日本がアメリカの「核の傘」に依存しており、もしNPTに加入すれば、アメリカによる核の保護が不要だと見なされることを懸念しているため、加入が難しい状況だと指摘しています。しかし私は、日本がNPTに加入したとしても、いざというときにはアメリカが日本を守るという日米安保条約の再交渉を行うべきだと考えます。そうしなければ、日本が「核を持たない」という立場を堅持することが困難になるからです。日本は核を保有しないという立場を明確にし、被団協の主張する「核を持たない」というメッセージを世界に向けて堂々と発信しなければなりません。

今回のノーベル平和賞の受賞理由は、まさに次世代への継承が評価された点にあります。この受賞は、単に語り部の高齢化によるものではなく、若い世代がその活動を引き継ぎ、核廃絶に向けた努力が続いていることが認められた結果です。被団協の代表が自分自身の功績が認められたと過度に喜んでいる発言をしていますが、冷静に受賞理由を読んで理解してほしいと思いますね。

▼ノーベル物理学賞 「AIの父」に物理学賞授与
AIブームと、初のアジア女性受賞が話題に

スウェーデン王立科学アカデミーは8日、2024年のノーベル物理学賞を米プリンストン大学のジョン・ホップフィールド氏とカナダ・トロント大学のジェフリー・ヒントン氏に授与すると発表しました。ホップフィールド氏が脳の神経細胞の回路を模倣したシステムを開発し、ヒントン氏がそれを発展させた技術を1985年に発表。与えられたデータから特徴を抽出して学習できるようになり、現在のAIの技術革新と発展の基礎になったことを評価したということです。

ジェフリー・ヒントン氏については、いずれノーベル賞を受賞するだろうと予想されていたため、今回の受賞は非常に正当な結果だと思われます。またノーベル化学賞もAIを活用したタンパク質の研究が評価され、ノーベル賞においても、今年はAIブームの年と言えるでしょう。

またノーベル文学賞では、韓国のハン・ガン氏がアジア女性として初めて受賞し、これが大きなサプライズとなりました。村上春樹氏の受賞は今回も見送られましたが、韓国ではこの受賞を国全体で祝うムードが広がっています。韓国籍のノーベル賞受賞者はハン・ガン氏が2人目で、かつ女性の受賞という点でも韓国にとっては非常に喜ばしい出来事です。

▼楽天グループ みずほ、楽天カードの資本提携へ協議
法人向けとフィンテック部門の強化で相互利益を

楽天グループは先月30日、みずほフィナンシャルグループと楽天カードの資本提携へ向け、協議に入ると発表しました。楽天カードが弱い法人向けで、みずほの顧客基盤や営業ノウハウを活用する一方で、みずほはグループ内に有力なカード会社を持たず、他のメガバンクに遅れを取っていることから、資本提携により巻き返しを図る考えです。

楽天グループの三木谷氏は日本興業銀行の出身であり、かつての興銀グループの人々が三木谷氏を表に影に支援してきました。今回の提携も、その関係が表面化した一例だと言えるでしょう。楽天のフィンテック部門の業績は好調で、楽天カードは500億円、楽天銀行は480億円、証券事業も300億円と高い利益を上げています。ペイメント事業やその他事業についてはそれほど大きな利益を出していないものの、フィンテック全体としては堅実な業績を上げています。この提携が進めば、最終的に楽天グループに何かあった場合、みずほフィナンシャルグループが楽天を抱き込む可能性も視野に入れているのではないかと思われます。

▼国内携帯販売大手 ティーガイアを買収、非公開化へ
疑問の残る買収は、投資家にとっては渡りに船

米ベインキャピタルは先月30日、携帯電話の販売代理店国内最大手ティーガイアを買収し、非公開化すると発表しました。TOBを実施するほか、大株主の住友商事や光通信から保有株を買い取る方針で、買収総額は1400億円の見通しです。

携帯電話の販売代理店のような事業について、今このタイミングで買収する必要があるのかは少々疑問です。しかしベインキャピタルは最近、幅広い分野で積極的な買収活動を展開しており、富士ソフトの買収でもKKRを上回る高値を提示しました。今回のティーガイア買収もその一環として行われるもので、1400億円を超える規模の取引となります。現在ティーガイアの株を保有している投資家にとっては、今回の買収は渡りに船と、多くが株式を売却する可能性が高いと考えられます。

▼セブン&アイHD 買収額7兆円規模で再提案
買収を受け入れ、時期を見て買い戻す戦略を

カナダのアリマンタシォン・クシュタールがセブン&アイ・ホールディングスに対し、新たな買収提案をしたことが分かりました。これに対しセブン&アイの井阪社長は、真摯に対応すると語るとともに、セブン銀行の資本関係見直しなど、複数の戦略的施策を検討し、グループの企業価値を高める考えを示しました。

私は、もし7兆円の買収提案であれば、売却するのも一つの手だと考えます。クシュタールがうまく経営できるとは思えず、いずれ企業価値が低下する可能性が高いでしょう。そして、値が下がったところで再び買い戻すのも面白い戦略だと思います。クシュタールは時価総額が高くなっていますが、実際にはセブン&アイに比べて価値は半分以下の34兆円のはずです。ですから逆に、セブン&アイが銀行から資金を借りてでも買収を仕掛けることは有効な手段でしょう。クシュタールの株主たちは、適切な価格を提示すれば売却に応じる可能性が高いと考えます。

セブン&アイの業績をセグメント別に見ると、特に海外コンビニ事業が大きく利益を上げています。特にアメリカ市場で成功しています。一方、クシュタールのコンビニはガソリンスタンドとの併設が多く、主にガソリン販売で利益を得ているため、将来的に持続できるかは疑問です。また、セブン&アイのスーパー事業はイトーヨーカ堂からスタートし、全国的にもうかっていないため、アクティビスト投資家から売却を求められています。現在は創業家の伊藤家に対する敬意から売却を躊躇していますが、今後はスーパー事業の売却も現実味を帯びてきたと言えるでしょう。

セブン&アイという社名は、元会長の鈴木敏文氏が名付けたものです。鈴木氏は伊藤家との関係が良好ではなく、セブン‐イレブンを自らの手で成長させたことから、「アイ」は伊藤家への愛ではなく、むしろ「私(アイ)」を意味していたのではないかと私は考えています。実際、かつて『The King and I』(邦題:『王様と私』)という映画がありましたが、この「アイ」が王様に対する「私」であるように、鈴木氏も「セブン&アイ」の「アイ」は自分自身を指しているのではないかと思ったのです。私はこうした推測を、自署で書いたことがあります。いずれにせよ、今回、社名を「セブン&アイ」から「セブン‐イレブン」に戻すという決定は、大きな変化を意味しています。

安心していただきたいのは、外国の小売業者が日本市場に進出して成功した例は非常に少ないという点です。コストコを除けば、ウォルマートやテスコ、カルフールなどは最終的には撤退しています。こうした状況を考えれば、クシュタールが失敗する可能性も十分にあります。そのため、一度売却して資金を確保し、後に有利なタイミングで買い戻すという戦略が有効だと考えます。コストコは会員権で利益を得ていますが、それ以外の外資系小売業者は日本市場ではうまくいっていないのが現状です。

—この記事は2024年10月13日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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