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KON1038「難民・亡命希望者/欧州議会選/伊メローニ首相/フランス情勢/英総選挙」

2024.06.21
2024年
KON1038「難民・亡命希望者/欧州議会選/伊メローニ首相/フランス情勢/英総選挙」

▼難民・亡命希望者 権威主義国からの国外避難2407万人(23年末)
受け入れだけではなく、難民出身国の政治を変える可能性の検討を

日経新聞が国連のデータベースなどをもとに集計したところ、権威主義国を脱出し国外へ避難した難民・亡命希望者の数は、2023年末時点で2407万人となったことが分かりました。避難民にはシリアやアフガニスタンなどから戦乱を逃れてくる人のほか、中南米からメキシコ経由でアメリカに不法入国した人なども含まれ、政治的な締め付けや貧困格差を背景に、自由を求め欧米へ逃れる動きが強まっている現状です。

「世界の難民数と国内避難民の数の推移」のグラフを見ると、難民よりも紛争や社会混乱、自然災害などによる国内避難民が多くなっています。アフガニスタンなどがそれに当たりますが、この問題については外からは救いようがありません。

また「世界の出身国別の難民申請者数」グラフによると、最も多い国はベネズエラです。ベネズエラは国民当たり石油埋蔵量が世界一の大変豊かな国で、国を出たいという人が多いのは不思議ですが、無能なマドゥロ氏の悪政がその理由です。イラクはアメリカがサダム・フセインを追い出して国を解放したものの、結果的に難民申請者数は2位であり、やり方を間違ったアメリカの責任であるといえます。アフガニスタンについては、タリバンが理由であるのは明白です。また以前は難民者数の多さで常に上位であったグアテマラは現在順位を下げ、エチオピアは伝統的難民排出国、そしてハイチの難民申請者数は8万人です。

亡命希望者が望む亡命先はアメリカ、近隣から脱出してくるペルー、ドイツなどです。対して亡命流出者数のトップはベネズエラです。この国に関しては、ヨーロッパの国々が受け入れを検討するよりも、強制的に政治を正すほうが早道であると思います。亡命流出者数2位のアフガニスタンについては、今はどうしようもありません。

今、ハイチは世界最貧困国と言われています。難民申請数はアメリカが最も多く、メキシコ、カナダと続きますが、受け入れ数はどの国も非常に少なくなっています。またハイチの隣国であるドミニカは、一つの島に共存しており、リゾート地としても知られ、欧米人が長期休暇を楽しむような安定したな国です。『TIME』に掲載された動画がありますが、ドミニカに逃れたい多数のハイチの人々が、国境でせき止められている様子を見ることができます。同じ島であっても、こんなにも違うということがよく分かる象徴的な映像です。ハイチは地震やハリケーンで国が壊れ、大統領でさえ国に戻らず外から政治を行っているほどで、何とか手を差し伸べられないものかと私は切に思います。

ベネズエラにおいては現政府をたたきのめし、昔どおりに石油を掘削して輸出で国民を潤すというしっかりとした仕組みによって今の問題を解決させることが可能です。そういった圧力を積極的に行うべきであり、既に中国やロシアは狂ったベネズエラを助けようとしています。しかしマドゥロ氏は応援してくれる国があると調子に乗って、自分が悪いとは思ってはおらず、これが不幸の始まりだと思います。

▼欧州議会選 欧州人民党など親EU派が過半数
極右の躍進だけではなく穏健派の伸びもあり、バランスが取れた結果に

欧州議会選の投開票が6日から9日にかけて行われ、フォンデアライエン委員長率いる中道右派、欧州人民党が最大会派を維持するとともに、新EU3会派が合計で過半数を確保しました。今回の選挙では欧州の物価高や治安、移民政策などが主な争点となり、ポピュリズム、大衆迎合主義的な政策を掲げる極右右派勢力が躍進しましたが、一方、中道の欧州刷新派や環境政党は議席を大幅に減らし、仏マクロン大統領は議会下院の解散総選挙を表明しました。

フランス国内では、マクロン氏は極右政党に大敗したことに過剰反応しているようですが、欧州議会レベルでは、フォンデアライエン氏の欧州人民党が伸びているので心配する必要ありません。極右と言われる伊メローニ氏や仏ルペン氏が少し伸びを見せていますが大したことはなく、穏健なところも伸びているので、過剰に反応すべきではないと思います。

しかしドイツの結果だけを見ると、心配な点があります。伝統的ドイツの与党と言われるメルケル氏が所属していたキリスト教民同盟および社会同盟に次いで、政党とは言えない、右翼もいいところだと嫌われていたはずのドイツのための選択肢(AfD)が第2党に躍り出ました。現首相のシュルツ氏が所属する社会民主党が順位を下げてしまったことは、ドイツにとっては非常に衝撃が大きいと思います。

またフランスについても詳しく言及すると、国民連合がマクロン氏の共和国前進、現・再生の倍以上となり、この結果を受けてマクロン氏は解散を表明しました。しかし今は、マクロン氏に対する国民の関心、忠誠心はそもそもなくなっています。以前イアン・ブレマー氏のアイデアだとして紹介しましたが、マクロン氏の下にルペン氏を首相として与党の中に入れるというやり方が、マクロン氏が主導権を維持できる唯一の方法であり、奇想天外かもしれませんが面白い選択だと思います。

▼伊メローニ首相 欧州の「陰の権力者」に
極右出身だと懸念されるも、バランス感覚に優れた権力者と評判に

日経新聞は14日、「メローニ伊首相、欧州の『陰の権力者』に」と題する記事を掲載しました。これは欧州議会選で、メローニ氏らが率いる欧州保守改革が70超の議席を得て、第4位の勢力になったと紹介。メローニ氏は15歳で右翼団体に入るなど、経歴を見れば極右政治家ですが、2年前のイタリア首相就任後は保守本流のイギリス・サッチャー元首相のような路線を目指しているとされ、アメリカでトランプ政権が復活しても、メローニ氏なら相性が合うため、米欧同盟の救世主になるとの見方も浮上しているということです。

今回のG7サミットでは伊メローニ首相が議長を務め、非常にうまくやったと私は思います。突然ローマ法王を呼んでヘリコプターで登場させたことには、少し疑問はありますが(笑) メローニ氏はムッソリーニを尊敬する極右の政治家で、大変危ない人物だと見られていましたが、EUや欧州議会ともうまくやり、イタリア国内でも非常に成果を上げています。いい加減な政治を長きにわたって行っていたベルルスコーニ氏と比べても、メローニ氏のほうが実績を出すのではと期待しています。今回のG7での活躍により、彼女への世間の見方も随分と変わったと思います。

▼フランス情勢 仏10年物国債利回り
過剰な心配は無用だが、ある程度の金利調整は必要

11日の欧州債券市場で、フランスの10年物国債の利回りが一時3.33%となり、昨年11月以来の高水準となりました。ルペン氏率いる極右政党、国民連合と中道右派の共和党が選挙協力を決定したのを受け、フランス議会で、大統領は中道、首相は右派か極右というねじれ状態が現実味を帯びてきたためで、金融市場は株価、通貨も下落するトリプル安となりました。

こちらについても、私はあまり心配はしていません。利回りが落ちたといっても、わずかなもので、過剰に反応するようなものではなく、フランスが構造的に大きく変わったということでもありません。しかしある程度の金利を付けなければ、国債を買ってくれる人はいなくなるというのは間違いありません。

▼英総選挙 対EU修復の公約発表
とんでもポリシーがスナク氏の寿命を決定付けたか

イギリスの最大野党、労働党は13日、74日に投開票される総選挙の公約を発表しました。これはEUとの貿易円滑化へ向け、検査などの通関手続きをなくす新たな協定の締結を目指すなど、EU離脱に不満を抱く有権者の取り込みを目指すものですが、イギリスYouGovの調査結果によると、与党・保守党の支持率が新興右派政党・リフォームUKを初めて下回り、3位に転落したことが分かりました。

現首相スナク氏では支持率の回復は難しいとは思いますが、議会は解散していますので、今は七夕選挙にまっしぐらです。「英国の時期選挙で投票したい政党の調査」において、スナク氏が党首を務める保守党は2023年の25%から現在では18%まで下げ、労働党は倍の37%です。そして今、数字を伸ばしているのはリフォームUKで、スナク氏の寿命が短いことが予測できます。

リフォームUKが掲げている政策の主な物を紹介しますと、移民については流出・流入は差し引きゼロにする、エネルギーを安く提供するなどがあります。そして私が注目しているのは、医療に関するサービスです。イギリスは国民皆保険ということで自慢していたNHSが破綻状態で、リフォームUKは公立病院で診察してもらうまでに3日以上かかる場合は、民間病院で診察してもらえるバウチャーを供与、また公立病院で手術までに9週間以上かかるなら、民間病院で手術してもらえるバウチャーを供与するという政策を掲げました。国民にはかなり響いたと思います。しかし最終的には労働党政権に戻ることは間違いないとは思います。

また労働党は、かつて保守党が行ったブレグジットは間違いだ、ブレグジットの是非を問う国民投票実施を行ったデービッド・キャメロン氏が外務大臣を務めているなど言語道断、保守党はたたきのめすべきだと主張しています。しかし今さらEUに戻るのは恥ずかしいので、関税手続きをなくす新たな協定締結を目指し、それによりフランスやポルトガルなどから新鮮な食品を手に入れやすくなるなど、EU離脱により不便になった問題が解消されるとしています。EUに戻ることはないが、実際には戻ったのと同様の状況となる交渉をEUと行うとしています。しかし労働党党首スターマー氏はずるい人であるため、聞き心地のよい政策を出しているのだと思います。

対するスナク氏は話になりません。18歳の国民を対象に1年間の兵役か、何カ月間の社会奉仕を義務付ける考えを示しました。この選挙前の大切な時期に、常識では考えられない発言です。残念ながら、このようなポリシーを聞いてスナク氏に残ってもらいたいという国民はいないと思います。

 

—この記事は2024年6月16日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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