▼米中貿易 中国製EVなどに制裁関税
重い制裁関税を課すも、貿易問題は解消されず
アメリカ政府は14日、中国製のEVや半導体に制裁関税を課すと発表しました。不公正な取引に対する制裁措置を定めた通商法301条に基づく措置で、EVの関税を現在の4倍、太陽光パネルも2倍にするなど、総額およそ2兆8000億円分の輸入品の関税を引き上げるということです。
かつて日本に対しても制裁関税は行われましたが、これほどではありませんでした。そのときは6~7%だったものが13%~20%になる程度でしたが、トランプ政権以降は100%などと極端に増えています。それでもアメリカで生産するとなれば、中国で作るよりももっと高くなり、アメリカで工場を造って生産しようという動きにはなりません。
また、あまり気付かれてはいませんが、中国から輸入品の関税を100%にすればアメリカ政府は大変な余力を得ることができ、財政赤字の解消に役立ちます。そして選挙の面から見ると、中国をたたいてくれてありがとう、労働組合から見れば、われわれの声を聞いてくれてありがとうという側面はあります。しかし本来の目的である貿易問題は、今回の制裁措置では克服できません。
▼中国・セルビア関係 東欧セルビアを訪問
中国を歓迎するセルビア、対する中国の本音は?
中国・習近平国家主席は8日、セルビアを訪問しました。セルビアはEUと加盟交渉を開始し、未加盟ながらもNATOととも関係を有してますが、中国・ロシア寄りの姿勢もみせており、歓迎式典でセルビアのブチッチ大統領は「台湾は中国領土の一部」と発言したほか、首脳会談では中国の一帯一路推進を含めた連携強化で合意しました。
旧ユーゴスラビア7カ国の中で、セルビアはコソボやクロアチアを不当に攻撃し、裁判所に元大統領が引っ張られたこともあります。セルビアはEUやユーロ圏に加入したいのですが、実現は難しい状況です。またNATOとセルビアが戦争となった25年前、NATOは中国大使館を誤爆しましたが、今回セルビアを訪問した習近平氏は誤爆で犠牲になったことを忘れないとコメントしました。NATOにはアメリカも入っているからか、被害に遭った人たちに花を手向けたいなどと言えばいいところを、わざわざ「忘れない」と言ったのです。しかし25年前といえば、まだ習近平氏はそれほど重要な人物でもなかったのですから、とても奇妙な話です。
▼中国軍空母 「福建」が初の航行試験
空母「福建」は、中国の台湾に対する圧力
中国軍の3隻目の空母となる福建が1日、初の航行試験を実施しました。福建は満載排水量8万トンを超える中国最大の軍艦で、リニアモーターの原理を使った電磁式カタパルトにより艦載機を効率的に飛ばせることなどが特徴ということです。
中国では、各省の名称を航空母艦の名前とします。1槽目の空母、遼寧はウクライナの中古品だったものを直して使用しています。次に山東、そして今回の福建です。福建と言えば台湾であり、下心が見え見えのいやらしい名前です。台湾海峡に福建が行くのは、中国が自分たちの母港が福建だからだと見せつけているようなものです。この空母はロシアのまね事ではない新しい形のもので、それを福建と名付けたことは、台湾に対する相当な、そして精神的な圧力になると思います。
▼東南アジア情勢 東南ア鉄道網、中国の計画乱立
東南アジア諸国の、中国への依存度を高めるのが狙い?
日経新聞は6日、「東南アジア鉄道網、中国の計画乱立」と題する記事を掲載しました。これはベトナム、ラオス、ミャンマーなどが中国主導の鉄道計画を進めていると紹介。一帯一路構想の下、東南アジアで物流網を拡大したい中国と、鉄道を梃子に自国経済の発展を図りたい各国の思惑が一致したものですが、工費が計画以上に膨らんだり、採算を見誤れば、経済力のない国々は中国依存を高めることになりかねないとしています。
ラオスは中国と強くつながっているため、逃げることはできませんが、タイは自国のお金を使わずに、そしてカンボジアも、この事業をうまく利用したいと思っています。またベトナムは高速化を望み、ミャンマーは自国ではできないので中国に好きにやってほしいと思っています。
しかし中国は一帯一路の延長と捉え、この事業は軍事戦略的な意味合いも強いようです。決して中国はお人好しではありませんので、何の見返りもなく、お金も含めて中国の負担で進めるなどということはありません。今後、お金の問題がはっきりしたとき、どの国も負担が難しいことが明らかとなり、中国への依存が高くなる恐れがあります。
▼政府開発援助 日本のODA実績約3兆円
日本のODAは相手国民へのアピール不足
日本のODA、政府開発援助の実績額が2023年におよそ3兆円となり、過去最高を更新したことが分かりました。2014年からの10年間で倍増したもので、政府が去年改定した開発協力大綱で、相手国の要請を待たずに提案するオファー型の協力を強化したことなどが要因と見られます。
しかし人馬一体で突き進む中国とは違い、日本が援助に費やすお金はどこまで続くのでしょうか。主要国のODA実績額の推移のグラフによると、日本は頑張ってはいるものの、アメリカ、ドイツに比べればまだまだ少ない状況です。
また日本はインド、バングラデシュ、フィリピンなどに多くODAを供与していますが、インドでは国土が広過ぎることもあって、日本から多額のODA供与を受けていると広く一般国民が認識しているか心元ありません。まるで自然に降ってくるという感覚ではないかと懸念しています。バングラデュはも同様の懸念をおぼえます。フィリピンは中国を警戒しているため、日本のODA、特に鉄道関係や都市交通については評価しています。また中国に対しては、最近までODAを行っていましたが、戦後賠償の一環であると感謝はされていません。
日本のODAは、もっと見える形にしていく必要があります。
▼中国政府系ファンド 190兆円ファンド、日本に的
今、中国による投資は国内を見限り、国外へ
日経新聞は9日、「190兆円ファンド、日本に的」とする記事を掲載しました。これは中国の政府系ファンド、CICが日本の中堅・中小企業に的を定めていると紹介。CICは2017年以降、アメリカ、イギリスなどの主要金融機関と共同で相次ぎ投資ファンドを設立し、これまで製造業や医療など20社以上に投資したということで、中でも日本の中堅・中小企業は高品質な上、割安な価格で買収できるとして、引き続き強い投資意欲を示しているということです。
CICは有名な中国の国営ファンドですが、整体サロン「カラダファクトリー」を運営する日本の中堅企業、ファクトリージャパングループを買収したことは面白いと思います。中国は森林や水源を買うなど、やり過ぎれば日本にたたかれることになりますが、このような出来上がった会社を買う分には構わないと思います。
CICではありませんが、既に日本のマンション購入などには多くの中国系のお金が入ってきています。例えば森ビルなどもそうですが、3分の1ぐらいは中国側が買う前提で造られており、またかつて大阪北ヤードと呼ばれていたエリアでも同様です。今、中国のお金は日本に向かっています。逆を言えば、中国国内での投資機会は非常に疑問視されているということです。
—この記事は2024年5月19日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。