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TOPAoba-BBT Education Review世界大学ランキングの歩き方【後編】社会的影響と活用リテラシー

世界大学ランキングの歩き方【後編】社会的影響と活用リテラシー

2023.10.11
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世界大学ランキングの歩き方【後編】社会的影響と活用リテラシー

前編では、3つの主たる世界大学ランキングの評価基準とその限界について確認しました。ランキングによる大学の序列化は課題も多い一方で、実社会においては、個々人の意志決定に少なからず影響を与えています。後編では、まず、ランキングがどのような場面で影響力を発揮しているのかを確認します。そして、それをどのように捉え、活用するべきかについて考えてみたいと思います。


INDEX
▷高度人材の確保にランキングを活用
▷留学生も選択の手がかりに
▷多様な価値観との衝突も
▷終わりに ~ランキングと向き合うときの心得~


高度人材の確保にランキングを活用

世界大学ランキングは、それぞれの大学がもつ特徴を一元的な指標に変換する役割を果たします。一元化のプロセスを通して、本来考慮すべき多様な価値には目をつむり、その代わりとして「わかりやすさ」という強力な利点をもたらしてくれるのです。情報があふれ、複雑化した現代社会では、このような単一の指標は多種多様なステークホルダーにとって極めて使い勝手がいいものとなります。

例えば、世界大学ランキングは、人材の質を効率的に評価する一つのツールとして用いられています。現代のグローバル化した経済環境で競争力を強化するために、高度人材の育成と獲得、それを通じた付加価値創出は各国にとって急務になっているのです。特に、労働力人口の減少と技能人材の不足が進行する先進国では、STEM領域を中心にスキルの高い人材を効率よく獲得することが求められており、多様な施策が展開されています。

2022年5月30日、イギリスが導入した「High Potential Individual (HPI)」ビザ制度は、世界大学ランキングを発給基準として採用しています。この制度は少なくとも2つのランキングでトップ50にランクインしている大学の卒業生を対象としています。これは、高いランキングの大学から卒業した人材は高度なスキルを持っているという前提に基づいています。このような考え方はランキングが単なる数値以上の意義を持っていることの証左と言えるでしょう。

イギリスの他にも、シンガポールや韓国など、多くの国がビザ発給基準として世界大学ランキングを考慮しています。日本も例外ではありません。ランキングで100位以内の上位大学を卒業した外国人を「未来創造人材」と認め、最長2年間、就職活動などができる在留資格を与えているのです。

このように、世界大学ランキングはグローバルな国際労働市場においても大きな影響を与えています

留学生も進路選択の手がかりに

留学を希望する学生にとっても、世界大学ランキングは教育機関の品質を簡易的に評価する貴重な手段となっています。多くの留学生は、ランキングをひとつの端緒に、専攻分野や研究環境、さらにはキャンパスの立地や設備といった他の要素とのバランスを考えて大学を選びます。新しい文化や教育環境に飛び込む前のリスクを軽減する上でも、ランキングは重要な手がかりとなるのです。

日本の大学はしばしば国際性の指標で低いランクに甘んじていると評価されます。最大の要因は「言語の壁」でしょう。このため、教育力や研究力でリードしていても、国際性で高く評価された他国の同格大学と競合する際には不利になってしまいます。そしてこれは、日本の大学が優秀な留学生や教員を引きつけられないという問題にもつながっています。優秀な人材を獲得できないことは、イノベーションの遅れや学術的な影響力の低下を招き、長期的には日本全体の国際競争力にも影響を与えかねません。

日本政府もこの問題に対処するために、国際的な研究協力の促進や外国人学生のサポート体制の強化など、様々な対策を模索しています。しかしながら、その効果はまだ十分に発揮されているとは言えません。

以上のように、世界大学ランキングは、留学生、大学、さらには国のビザ政策に至るまで多面的な影響力を持っています。その存在を無視したり軽視したりするわけにはいかないのです。

多様な価値観との衝突も

世界的に影響力を強めるランキングシステムですが、一部の国や大学からは不満や不信感の声が漏れ、反発する動きも見られます。

2022年春、中国の地方大学である南京大や蘭州大、そして北京の名門大である中国人民大学がランキングからの脱退を決めました。背景には、ランキングの評価基準が中国独自の教育文化や国情に合致していないという中国指導部の考えがあると言われています。

また、2022年秋のアメリカでは、イェール大学とハーバード大学、そしてカリフォルニア大学バークレーの法科大学院がランキングに参加しないことを表明して話題となりました(ただしここで対象となったランキングはU.S. News & World Report社による大学ランキングです)。

ランキングは必ずしもすべての大学が追求するべき目標や価値観を正確に反映していません。前編でも述べたように、ランキングでは研究出版数や論文引用数などを評価指標としていますが、これが教育の質や学生サポートにどれほど貢献しているかは別問題なのです。教育に力点を置く大学や手厚いサポートが特徴の小規模大学が正当に評価されないのは大きな問題です。同様に、歴史が浅い大学や新興国・途上国の大学が不利な立場に置かれることも考慮しなければなりません。

各大学がランキングの順位アップを目指して短期的な成功を追い求めようとするほど、長期的な戦略や持続可能な発展が犠牲になることもあります。これは大学が本来追求すべき教育の質や社会貢献がおろそかにされる危険性を孕みます。

終わりに ~ランキングと向き合うときの心得~

ランキングは便利なツールです。しかし、ランキングが提供する一元的な指標は、様々な捨象が行われているぶんスポットライトが当たる部分が偏りがちで、それがすべての学生にとって最適な選択基準となっているわけではありません。ランキングの限界や課題を深く理解し、それらをどう捉えるべきかについてのリテラシーが求められます

留学先を検討する場合には、国の文化、治安、生活費なども総合的に考慮する必要があります。例えば、ランキングが高い大学でも、その地域の治安が悪ければ学生としては安心して生活できないかもしれません。また、教育プログラムの質、学生サービス、キャンパスの立地や設備、地域社会との連携など、ランキング以外の多角的な視点から大学を評価することが重要です。

また、各国のビザ政策の要件は頻繁に変更されるため、ランキングだけでなく最新の公式情報を確認し、総合的に判断することも念頭に置いてください。

ランキングを含む多面的な情報を適切に理解し、それをバランス良く活用することで、より明確で有用な教育やキャリアの選択が可能になるでしょう。

◆参考 世界大学ランキングの歩き方【前編】3大ランキングを読む(2024年度版更新)

原稿:Knockout
編集・構成:原知子
写真:Pexels(すべてイメージです)

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