第一弾では、2020年度に改訂された学習指導要領と2023年度実施の全国学力・学習調査の結果から日本の英語学習の実態と課題をまとめました。第二弾では、国外と比較した日本の英語学習の特徴や今後の展望について、英語教育に詳しい宇野令一郎さん(株式会社Aoba-BBT 常務執行役員、コンテンツ事業本部副本部長)にお話を伺います。
ー他国と比較した日本の英語教育の特徴について教えてください。
日本の英語教育には、欧州諸国やアジア諸国と比較していくつかの遅れが見られます。まず、教育の開始時期が他国に比べて遅い点が挙げられます。例えば、中国では小学校1年生から英語教育が始まり、ヨーロッパでは多くの国が小学校1〜3年生から英語教育を必修としています。一方、日本では2020年の学習指導要領改訂によって、小学3年生から英語の授業が開始されましたが、正式に教科として扱われるのは小学5年生からです。英語教育のスタートが遅れることで、日本の学生が英語に触れる機会は他国と比べて限られており、これが学習成果に影響を与えていることが指摘されています。
さらに、授業時間の少なさも日本の特徴です。多くの国では、週に数時間の英語授業が小学校から高校まで継続して行われていますが、日本では週に1〜2時間程度にとどまっています。言語の習得には多くの時間が必要であり、この「量」の不足が、英語力の育成に大きな課題をもたらしていると言えます。
また、日本の英語教育では、コミュニケーション能力を育成する取り組みが十分ではない点も挙げられます。欧州諸国では「CLIL(内容言語統合型学習)」という、英語を使って他の教科を学ぶ方法が普及しており、日常的に英語を使う実践の機会が多く設けられています。しかし、日本では文法や読解の教育が依然として中心で、日常のコミュニケーションに必要なスキルを伸ばす授業が少ないのが現状です。
教員の英語力にも課題があります。多くの国では英語の教員に対して高い言語能力が求められますが、日本では地域や学校によって教員の英語力に大きなばらつきがあります。特に地方では英語を十分に使いこなせる教師が少なく、これが授業の質や生徒の学習成果に影響を与えることもあります。
さらに、日本の英語教育は試験対策に偏りがちである点も見逃せません。欧米諸国では、英語はグローバルなコミュニケーションツールとして重要視され、実用的なスキルを重視した教育が行われていますが、日本では依然として大学入試や資格試験に向けた文法や単語の暗記が主流です。その結果、実際に使える英語力を身につける機会が少なくなっているのが現状です。
これらを踏まえ、日本の英語教育には改善の余地が多く、特にコミュニケーション能力を強化する教育や、実践的なスキルを育成するカリキュラムの導入が今後の大きな課題となるでしょう。
諸外国における外国語の実施状況 (文部科学省「諸外国における外国語学習の実施状況調査」より抜粋)
ー日本で広く採用されている英語学習の方法にはどのようなものがありますか?
日本では、幼少期から自然に言語を聞いて学ぶ方法よりも、文法や構造を重視した学習が主流となっています。これは、日本での英語学習が言語習得に最適な時期とされる幼少期を過ぎてから始まるためです。言語の臨界期(8〜9歳頃)を過ぎると、自然に言語を習得する能力が低下し、文法学習が不可欠になります。
また、日本の英語教育は試験対策の影響を強く受けており、高校入試や大学入試、さらには英検などが文法重視型であることも、文法や単語の暗記に重点を置いた学習が広がる要因となっています。2023年度の全国学力・学習状況調査では、日本の子どもたちは「聞く」「話す」能力が低い一方で、文法や単語の理解度は高いという結果が出ています。
このことからも、現行の教育方法では実践的な言語運用力が育まれにくいという課題が浮き彫りになっています。
ー2023年度の全国学力・学習状況調査の結果から、日本の子供たちの実践的な英語力(書く・話す)が低いことが指摘されてきましたが、これについて宇野さん自身の考えを教えてください。
言語習得に最も適した時期は幼少期ですので、諸外国のように小学校1年生から英語教育を開始することが、書く・話す能力の向上につながると考えています。
確かに、英語を流暢に話せない教師にとっては負担になるかもしれませんが、AIやデジタル技術を活用して学習を支援し、教師はファシリテーターとして生徒の学びをサポートする役割に専念できる環境を整えることが重要です。実際、GIGAスクール構想により、全国の小中学校で1人1台のデジタル端末が配布され、これを活用した学習の可能性が広がっています。
また、試験の内容も文法偏重型からコミュニケーション能力を重視する方向にシフトすることが求められます。これにより、早期から英語を実際に使う機会が増え、言語スキルの向上に大きく貢献するでしょう。
ー宇野さんが注目している英語学習/教育メソッドについて教えてください。
私は、子どもたちの好奇心を刺激する学び方を導入することが非常に重要だと思います。たとえば、低学年の子どもたちは、好きな英語のアニメを観ることで自然と英語を吸収することができます。また、フォニックス(英語のスペリングと発音の法則を学ぶ方法)も、日本ではまだ普及していませんが、非常に効果的な学習法です。研究によれば、フォニックスを導入した子どもたちは、単語の読み書き能力が大幅に向上しており、これにより発音や語彙の習得にも役立っています。
大人向けの学習法としては、実際に必要とされる場面に関連した英語を集中的に学ぶことが有効です。仕事や趣味、旅行など、目的に合わせた学習を行うことで、より実践的なスキルを身につけることができます。
ーこれからの日本での英語学習に、どのようなことを期待しますか?
今後、日本の英語学習は、ただ試験に合格するためのものではなく、グローバルなコミュニケーションツールとしての英語を活用する方向にシフトしていくことが望まれます。
人口の5〜10%で良いので、外国人と対峙したときに劣等感を抱くことなく、自信を持ってコミュニケーションを取ることができる社会を目指してほしいと思います。
また、AIやテクノロジーの進化により、文章の和訳や英訳といった作業は自動化されていくでしょう。そのため、単なる文法知識に頼るのではなく、多様な文化理解を伴った言語運用能力の養成がこれからの課題です。英語を「学ぶ」だけでなく、「使う」力を育てる教育の実現を期待しています。
宇野さん、ありがとうございました!
株式会社Aoba-BBT
常務執行役員 コンテンツ事業本部 副本部長
宇野 令一郎さん
前職は(株)三菱東京UFJ銀行に在籍、三菱UFJキャピタル(株)にて教育業界含む投資業務に従事。
カナダ・McGill大学経営大学院修了(MBA/ 国際ビジネス)、熊本大学大学院修了(教授システム学修士)、慶応義塾大学経済学部卒業。
原稿:鈴木優衣