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KON1121:地政学・経済・テクノロジーが交差する”転換点”の世界を読む

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KON1121:地政学・経済・テクノロジーが交差する"転換点"の世界を読む

2026.03.05
2025年
KON1121:地政学・経済・テクノロジーが交差する"転換点"の世界を読む

イランへの先制攻撃とハメネイ師死亡── 約37年続いたイスラム共和国体制の終焉と、中東の地政学的大転換

イスラエルのカッツ国防大臣は2月28日、アメリカ軍と共同でイランの軍事施設に空爆を実施したことを明らかにしました。そしてトランプ大統領は同日、この攻撃によってイランの最高指導者ハメネイ師が死亡したと発表しました。1979年のイスラム革命後、1989年に最高指導者に就任したハメネイ師が約37年にわたって統治してきた神政体制が、一夜にして根底から揺さぶられたことになります。

私がまず指摘したいのは「なぜハメネイ師は家族と同じ場所にいたのか」という素朴な疑問です。攻撃が予測されうる緊張状態にありながら、娘や孫まで同席させていたとすれば、指導者としての危機管理能力に根本的な疑問が生じます。これは体制の硬直性と内部機能不全を象徴しているとも言えます。

体制崩壊後の展望については、不確実性が高いと見ています。革命防衛隊は依然として強力な軍事力を保持しており、トランプ大統領が呼びかける「国民蜂起」が容易に実現するわけではありません。人口約9,000万人を擁するイランは巨大な国家であり、内部変革には相当な時間と外部からの関与が必要です。

今後の焦点は、大統領職のペゼシュキアン氏が権力を掌握して通常の大統領制へ移行するのか、それとも新たな宗教指導者がトップに就くという旧来の構造を維持するのかという点です。また、イスラエル・アメリカによる攻撃が「吉」と出るか「凶」と出るかは、数週間のうちに明らかになるでしょう。

社会的に示唆されるのは、宗教的権威主義と核開発の組み合わせがいかに国際的孤立を深め、最終的に壊滅的な結末をもたらすかという教訓です。同時に、力による体制転換がその後の安定をもたらすとは限らないという現実も改めて問われています。中東の火種は、ハメネイ師亡き後も続く可能性が十分にあります。


中国のハイブリッド戦と台湾侵攻2027年説── 日本の国政選挙への介入と、半導体サプライチェーンを揺るがす地政学リスク

日経新聞の分析により、今年1月の衆院選において中国系の約400のSNSアカウントが連携し、高市首相の印象を操作する工作を行っていたことが判明しました。AI生成画像も活用された巧妙な情報戦は、中国が常用する「グレーゾーン・ハイブリッド戦略」の典型例です。私は「労力もむなしく高市圧勝となった」と評しつつも、台湾などに対してははるかに大規模なハイブリッド戦が展開されていることへの警戒を促したいと思います。

さらに深刻なのは、CIAが2023年7月、主要テック企業の幹部に対して「中国が2027年までに台湾へ侵攻する可能性がある」という極秘ブリーフィングを実施していたという事実です。当時のレイモンド商務長官が、台湾の半導体依存からの脱却に消極的な企業幹部に強い危機感を持たせるために開催したもので、アップルのティム・クックCEOが「その後は片目を開けて眠るようになった」と語ったとされます。

私はこれに関連して、習近平が自らの3期目が終わる2027年までに台湾統合を望んでいると指摘します。反対する軍部はほぼ粛清されており、けん制が効かない状況になりつつあるとの認識です。

一方、中国商務省は日本の三菱造船など20の企業・団体を輸出規制対象に指定しました。「日本の再軍備化と核への野心を抑制する」との名目ですが、私はこれを高市首相が非核三原則の見直しに言及したことへの反発であり、謝罪か撤回があるまで続くと見ています。レアアースなど他の日本企業にも影響が及ぶ可能性があり、政府レベルでの対応策が急務です。

日本企業にとって、台湾有事リスクとハイブリッド戦争という二重の地政学的脅威をサプライチェーン戦略に組み込むことは、もはや選択肢ではなく必須事項になっています。


少子化加速と円安が示す「国力低下」の現実── 出生数70.5万人・実質実効為替レート50年ぶり最安値が物語るもの

厚生労働省の2025年人口動態統計によると、出生数は705,809人と1899年の統計開始以来10年連続で過去最少を更新しました。特に深刻なのは、国立社会保障・人口問題研究所の推計より約17年も早いペースで少子化が進んでいるという事実です。婚姻数の増加が若干の歯止めになっているものの、根本的な趨勢は変わっていません。

私は各国の対策の限界も指摘したいと思います。フランスが導入した「N分のN乗方式」(家族人数に応じた税負担軽減)は一時的に出生率を回復させましたが、時間とともにその効果は消えてしまいました。スウェーデンでも同様の傾向が見られます。先進国においては、いかなる政策的介入も長期的な出生率の改善には結びつかないという「恐ろしい現象」が起きているのです。

この少子化と軌を一にするように、日本円の実質実効為替レートが67.73と1973年の変動相場制移行後で最安値を記録しました。実質実効為替レートとは各通貨に対する円の総合的な購買力を示す指標であり、バブル崩壊後の長期低迷と超低金利政策がその背景にあります。

私が強調したいのは、円安を歓迎してきた日本の輸出産業・財界の体質が、結果として国力低下を放置してきたという構造的な問題です。タイへの旅行者が「こんなに高いの?」と驚く現実は、かつてとは全く逆転した日本の国際的地位を如実に示しています。インバウンド増加は「日本が安い国」になった裏返しに過ぎません。

少子化と通貨価値の下落は、表面上は別々の問題に見えますが、どちらも日本社会の活力・生産性・投資力の低下という同一の根幹から生じています。根本的な構造改革なしには、この二重の衰退スパイラルから抜け出すことは難しいでしょう。


iPS細胞医療が世界初の条件付き承認へ── 心不全・パーキンソン病治療の扉を開く、日本発の医療イノベーション

厚生労働省の専門部会は2月19日、iPS細胞を活用した再生医療製品2品目の製造販売を条件付きで了承しました。大阪大学発スタートアップ「クオリプス」の心不全向け心筋細胞シート「リハート」と、住友ファーマのパーキンソン病向け治療薬候補「アムシェプリ」の2製品です。いずれも7年以内に有効性・安全性を再検証することを条件とした「条件期限付き承認」となります。

私はこれを「世界的に素晴らしいこと」と高く評価します。心臓のリプレイスメントとパーキンソン病という二つの深刻な疾患に対して、山中伸弥教授がノーベル賞を受賞したiPS細胞技術が実際の治療薬として認められたことは、日本の基礎科学研究が世界トップクラスであることの証明です。

iPS細胞は患者自身の細胞から作製できるため、拒絶反応のリスクが低く、倫理的問題も少ないという利点があります。心不全は世界で3,800万人以上が罹患し、パーキンソン病も世界で600万人以上の患者がいるとされる難病です。これらに対する根本的治療法が確立されれば、医療費削減と患者QOLの劇的な向上が期待されます。

課題は7年間の実証期間をどう乗り越えるかです。再生医療は製造コストが高く、普及・保険適用の枠組み整備が必要です。また、スタートアップ企業が長期の臨床検証を継続するためには、国や大企業からの継続的な資金支援が不可欠です。

日本はiPS細胞技術で世界をリードしてきた一方、応用・実用化では海外勢に先を越されてきた歴史があります。今回の承認を起爆剤に、製薬企業・大学・規制当局が一体となってこの7年間で確実な成果を積み上げていくことが、日本の医療イノベーション産業の未来を左右すると言っても過言ではありません。


空飛ぶ車と自動運転── オリックスが20拠点整備、スカイドライブが東京で旅客実証——「空のモビリティ革命」は本物か

「空飛ぶ車(eVTOL:電動垂直離着陸機)」の実用化に向けた動きが具体化しています。オリックスは2030年秋までにeVTOLの発着場を20か所整備する方針を固めました。大阪・関西万博での整備実績を活かし、大阪湾岸から瀬戸内海の観光地を結ぶ路線網の構築を目指すもので、IRとの連携も視野に入れています。

一方、東京では三菱地所・兼松・スカイドライブの三社が東京都推進の実証実験を実施しました。スカイドライブ製の機体によるデモフライトに加え、チェックインから搭乗直前までの旅客体験を検証するターミナルを設置し、実際に人を乗せて運んだという点で注目されます。私は「マスコミの人たちも、この程度ならいいかなという評判だった」と比較的前向きに評価しています。

他方で、アメリカではウェイモ(アルファベット傘下)の自動運転タクシー拡大計画がニューヨーク州知事に阻止され、自動運転全般にも逆風が吹いています。テスラの完全自動運転(FSD)は人間の5倍の事故率という報告もあり、技術の完成度への疑問符は消えていません。私の分析では、自動運転分野では中国勢が先行しつつあります。

空飛ぶ車の本格普及には「静岡区間の通過問題でリニアがいまだ着工できないように、インフラ整備が想定より大幅に遅延する」というリスクが常に伴います。現に、リニア中央新幹線は南アルプス貫通工事の難しさから見通しが立たず、唯一未着工だった山梨県駅がようやく3月11日に着工予定です。

日本の新モビリティは技術的には世界に肩を並べる水準にあります。問題は規制・制度整備のスピードと、継続的な民間投資の確保です。eVTOLが「夢の乗り物」から「生活インフラ」へと進化できるかどうか、今後5年間が正念場と言えます。


AI覇権競争── OpenAIの超大型増資、中国によるClaudeの不正蒸留、そしてAnthropicの安全指針緩和

AI業界の覇権争いが新たな局面を迎えています。OpenAIはAmazon、エヌビディア、ソフトバンクグループを引受先とする増資で約17兆円を調達すると発表しました。未上場企業としては史上最大の資金調達であり、半導体・データセンターへの集中投資を通じて高性能AI開発を加速させる方針です。

これに対抗する形でMetaはAMDと最大6ギガワット相当のAI半導体を5年間調達する約16兆円規模の契約を締結し、エヌビディア一極支配への対抗軸を形成しつつあります。

一方、深刻な問題も浮上しています。Anthropicは中国のAI企業3社が同社のAIモデル「Claude」と1,600万回以上のやりとりを行い、その出力データを使って自社モデルを訓練する「蒸留」と呼ばれる手法で不正に能力を抽出していたと明らかにしました。私は「DeepSeekがアメリカのAIを蒸留してコストを大幅に削減したのと同じ手口」と指摘し、中国の技術獲得手法の巧みさを改めて警告します。皮肉なことに「日本はパクるべき企業さえない」とも言及しており、日本のAI産業の存在感の薄さが気になるところです。

Anthropicはまた、安全指針を緩和することを発表しました。これまでは安全性を保証できない場合は開発を中断するとしていましたが、競合が高性能AIを開発した場合には競争力維持を優先するという方針に転換したものです。AI安全性と競争力の間のトレードオフに迫られる構図は、業界全体の課題でもあります。

日本の総務省がAI-RANアライアンスに政府として初めて加盟したことは前向きなニュースですが、個別企業レベルでの投資規模には圧倒的な差があります。国家戦略として日本がAI時代に何を強みとするか、早急に問い直す必要があります。


トランプ政権の「友好的占領」と一般教書演説の空虚さ── ネットフリックス介入・キューバ発言・歴代最長の自己礼賛演説が示すトランプの本質

トランプ大統領は一般教書演説で、関税政策によりアメリカ経済が「驚異的な回復を遂げた」と強調しました。歴代最長の1時間47分を費やした演説でしたが、私は「内容はない」と一刀両断せざるを得ません。自身の功績を際限なく列挙し、称賛しない議員を「バカ者」と呼ぶなど、品格を欠く振る舞いが際立ちました。世論調査でもこの演説の評価は低かったとのことです。

より問題なのは、大統領権限の私物化とも言うべき行動です。ネットフリックスに対し、取締役のスーザン・ライス元国連大使を解任するよう要求しました。背景には、友人のラリー・エリソン氏の息子が主導するパラマウント・スカイダンス社によるワーナー買収案件へのてこ入れがあったとされます。大統領が民間企業の役員人事に介入するという前代未聞の事態に、私は「とんでもない」と強い懸念を示したいと思います。ネットフリックスが買収を取り下げると株価はむしろ回復し、市場も大統領の介入を「余計なお世話」と評価した格好です。

キューバに対しては「友好的に占領するかもしれない」と発言しました。ベネズエラからの石油供給が途絶え、メキシコもアメリカの圧力で供給を停止した結果、深刻な経済危機に陥っているキューバへの影響力行使の意図を公言したものです。私は「友好的でない占領と何が違うのか」と皮肉りつつ、アフターケアなき力による支配の危うさを指摘したいと思います。

FRBとの関係でも緊張が続いています。FOMCの議事要旨では、インフレが続く場合に利上げが適切になる可能性が示唆されており、利下げを強く求めるトランプと中央銀行の独立性の衝突が今後の焦点になります。


日本の輸出がイタリアに抜かれた衝撃——抹茶・商用車・自販機に見る産業競争力の明暗

OECDの統計によると、2025年下半期(7〜12月)の輸出額でイタリアが日本を上回り、初めて半期ベースで逆転しました。イタリアは高級アパレル、ワイン、プロシュート、チーズ、メガネなど需要が揺らぎにくい高付加価値品を強みとし、トランプ関税の影響が大きい汎用製品とは一線を画した輸出競争力を発揮しています。イタリアのドル建て輸出額は同期間に約58兆円を記録し、日本の約57兆円を上回りました。私は「輸出のチャンピオンだった日本が、狭い高付加価値分野を持つイタリアにやられてしまった」と嘆かざるを得ません。

東南アジア主要6か国での日本車の販売台数が2019年比22%減少し、中国EVメーカーにシェアを奪われている現実も重なります。かつて日本が築いたタイ・ベトナム・インドネシアでの市場は、低価格EVの攻勢によって急速に侵食されています。

一方で、日本国内にも課題は山積しています。抹茶の海外需要が急拡大しているにもかかわらず、茶畑の摘採実面積は2015年比29%減少しており、生産が追いついていません。高齢化と人手不足が原因であり、私は「外国人労働者を静岡・鹿児島に入れなければ、輸出チャンスを逸する」と明快に指摘したいと思います。

自動販売機事業では、伊藤園がドル箱と呼ばれた自販機75,000台の事業を子会社に移管する方針です。物価高でスーパーやドラッグストアへの消費者移動が加速し、補充要員の人件費・物流費高騰も重なり、かつてのビジネスモデルが通用しなくなっています。日野・三菱ふそうの統合によるトラック業界の再編も、産業構造の地殻変動を示しています。

イタリアに学ぶべきは、一つの都市・地域が一つのブランドを持ち、それを世界に発信する「地域密着型グローバル戦略」の徹底です。高付加価値でブランド力のある日本産品は数多く存在しますが、その磨き上げと輸出戦略が体系的に行われていない現実が、今回の数字に表れていると言えます。

—この記事は2025年3月1日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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