
アパグループ創業者・元谷敏夫氏の逝去― 石川県小松市から「日本のヒルトン」を築き上げた経営者
アパグループの創業者で会長の元谷敏夫氏が11日、82歳で亡くなりました。1971年に石川県小松市で前身の信金開発を創業し、注文住宅や賃貸分譲マンション事業からホテルへと事業を拡大。アパホテルを全国8万室を誇る日本一の客室数を持つチェーンへと育て上げた方です。
私にも不思議な縁がありまして、スノーモービルの先生を通じて越後湯沢でお会いしたことがあります。ごく最近も、金沢を訪れた知人を通じてお酒を一本いただきました。あの時のスノーモービルの体験を覚えていてくださったようで、よほど楽しかったのでしょう。
元谷氏の経営手腕は素晴らしいものでした。最初は安っぽいビジネスホテルばかりでしたが、横浜などには堂々たるビルを建て、カナダの会社を買収してアメリカにも展開するなど、まさに「日本のヒルトン」と呼べる存在にまで成長させました。奥様の文子さんが広告塔として表に出ていましたが、実際の経営を担っていたのは元谷氏本人です。
ただ一つ、私と全く違うところがありました。かなり右寄りの思想をお持ちだったことです。その点を除けば、金沢が誇る素晴らしい経営者でした。ご冥福をお祈りいたします。
衆院選で自民党が316議席の圧勝― 「中道」惨敗の本質は名前の変更と連合の力の衰退にある
衆院選で自民党が316議席を獲得し、単独で定数の3分の2を上回る戦後最多の議席数を記録しました。一方、立憲民主党と公明党が結成した中道改革連合は改選前の167議席から大きく減らし、惨敗という結果になりました。
私が注目するのは、惨敗の原因が極めて明確だということです。まず、選挙直前に名前を変えるというのは致命的な判断ミスでした。例えるなら、松田聖子と郷ひろみが結婚して「郷聖子」名義でコンサートをやっても誰も来ないのと同じです。立憲民主党と公明党なら、「立憲公明党」としてどちらを書いてもいいという形にすべきでした。中道という理念自体は正しいのですが、急な場合には名前の継続性が重要なのです。
もう一つの要因は連合の力の弱体化です。私の自宅の近くにも自治労の本部と支部がありますが、選挙期間中は閑古鳥が鳴いていました。公明党にとっての創価学会のように、中道にとっては連合が総力を挙げて応援しなければなりません。批判は中道だけでなく、連合の力が弱まったという点にも向けられるべきです。
小選挙区で自民党が249選挙区中86%で勝利したのは、私の記憶でも最多です。ただし、過去の例を見ると、中曽根政権の304議席も民主党の大勝も、その後に惨敗しています。大勝の後に大敗するのが日本政治のパターンですから、この圧勝が持続するかは疑問です。
高市首相の「責任ある積極財政」― 食料品消費税ゼロの公約は「やらない」ための仕掛けである
高市首相は食料品の消費税率を二年間ゼロにするため、超党派の国民会議を立ち上げ、夏前までに制度設計をまとめる考えを示しました。また「責任ある積極財政を推進する」とも強調しています。
私はこの公約は守られないと見ています。なぜなら、もし本気で食料品の消費税をゼロにしたいなら、今すぐ議会に法案を出せばいいのです。3分の2の議席があるのですから通ります。それをわざわざ超党派の国民会議に委ねるということは、そこで議論を紛糾させ、結局やらないという結論に持っていく布石です。しかも、チームみらいのような勢力が「消費税じゃなくて社会保険料だ」と主張すれば、高市首相にとってはありがたい口実になるでしょう。
「責任ある積極財政」という言葉自体が矛盾しています。少子高齢化の日本で積極財政をすれば、責任を取りようがありません。これを十年やったのが安倍政権であり、その結果がどうなったかは明白です。イタリアのメローニ首相は同様に財政が厳しい中で堅実に財政を運営し、市場に評価されています。メローニ氏と高市首相は仲がいいそうですが、やっていることは両極端です。
チーム未来の躍進と社会保険料の本質― SNS選挙時代に「正しいことをクリアに伝える力」が票を動かした
チーム未来は今回の衆院選で11議席全てを比例代表で獲得し、得票数は381万票と昨年の参院選から2.5倍に拡大しました。若年層と無党派層から幅広い支持を集め、無党派層の投票先では自民党に次ぐ2番目となりました。
注目すべきは、安野代表が主張した政策の核心です。消費税率は維持する一方、社会保険料を引き下げるべきだと訴えました。多くの人はこれを「何を言っているのかわからない」と感じたかもしれませんが、実はこちらの方がはるかにインパクトが大きいのです。10%の消費税よりも社会保険料の負担の方が圧倒的に大きく、食料品の軽減税率を二年間ゼロにしたところで、生活への影響は限定的です。
これがSNS選挙の特徴だと私は考えています。非常にクリアに一つのことだけを訴え、「他の人はこちらを言っているが、それはマイナスだ。本当に必要なのはこちらだ」と明確に示す。従来のマスコミは「政策論争なき選挙だった」と評しますが、それは的外れです。有権者は政策の中身よりも、誰がわかりやすく本質を伝えているかを見ています。
チーム未来の躍進は、見た目や肩書きではなく、言っていることがはっきりしていて、若者にも伝わる形で発信できたからこそ実現しました。政策で言えば中道こそが今の日本に必要なのに全く票に結びつかなかったことと対照的です。マスコミも政党も、この新しい現実を直視すべきでしょう。
レイ・ダリオが日本に突きつけた外交戦略― 「拍手喝采を浴びる外交」ではなく「事故を起こさない外交」を
現代ビジネスが掲載したレイ・ダリオ氏の論文は、今の日本にとって極めて重要な提言です。世界有数の投資家であり、アメリカ経済界のご意見番であるダリオ氏は、日本に対して中国との対立か迎合かではなく、中間戦略を取るべきだと指摘しています。
ダリオ氏の主張の核心はこうです。強硬路線は国内で支持を集めやすいが、国力を消耗させる。今の日本に国力を消耗する余裕はないはずだ。したがって、備えを一生懸命しながら刺激を最小化し、何があっても対応できるようにする中間の戦略が必要だ、というものです。
これは要するに、高市首相に対して「静かに方向転換しないとやばい」と言っているのです。今、日本にとって中国とことを構えて良いことは何もありません。台湾について積極的に発言しても得るものはない。経済を優先すれば、中国と良好な関係を築くことが不可欠です。
実際、4月にはトランプ大統領の訪中が予定されており、米中は関係安定化で動いています。そのタイミングで日本がいくら台湾問題を訴えても、トランプ氏が賛同する可能性はゼロです。日本に必要なのは「拍手喝采を浴びる外交」ではなく、「事故を起こさない外交」です。中国との関係を改善しつつ、アメリカをいらだたせない。この冷静なバランス感覚こそが、今の日本外交に求められています。皆さんもぜひダリオ氏の論文の全文をお読みいただきたいと思います。
日銀ETF売却「完了まで112年」― アベクロ時代の禁じ手が残した百年の後遺症
日銀が先月開始したETF(上場投資信託)の売却について、1月の売却額が簿価でおよそ53億円分だったことが明らかになりました。株価に影響を与えないよう年間3300億円ずつ売却する方針ですが、時価で95兆円に膨らんだ保有銘柄の売却が完了するまで、単純計算で112年かかるというのです。
「40年後に生まれる人によろしくお願いします」と申し上げたいところです。日銀がETFを大量に買い入れて株価を維持してきたこと自体が、いわば「イカサマ」だったのです。かつては禁じ手と言われていたこの政策を、特にアベクロ(安倍・黒田)時代に積極的に推進した結果、90兆円近い保有残高が積み上がりました。
急激に売れば株が暴落しますから、少しずつ売るしかない。しかし、その「少しずつ」では112年かかる。これこそが「責任ある積極財政」の成れの果てです。高市首相が掲げる積極財政路線を続ければ、こうした後遺症はさらに膨らむことになります。
この問題は、日本の金融政策における過去の判断の重さを象徴しています。後始末に百年以上かかるような政策が「責任ある」とは到底言えません。次世代に途方もないツケを残していることを、私たちはもっと深刻に受け止めるべきでしょう。
日産自動車6500億円の赤字― ゴーン後遺症からの脱却には「いい車を作る」原点回帰しかない
日産自動車は2026年3月期の連結最終損益が6500億円の赤字となる見通しを示しました。最終赤字は二期連続で、過去最大の赤字額です。工場など資産の見直しやリストラ費用が膨らんだことが主因ですが、根本的な問題はもっと深いところにあります。
ゴーン氏は二つの大きなミスを犯しました。一つ目は、コストダウンには成功したものの、新しい車を生み出すという日産の命綱をないがしろにしたこと。二つ目は、自分が得意なアメリカ市場に偏重し、日本をないがしろにしたことです。ゴーン氏は月に一日程度しか日本に来ず、来ても マスコミを連れてディーラーを回る写真を撮って帰るだけでした。その結果、国内販売は低迷しています。
日産という会社は本来、厚木の研究所が生み出す車の魅力で勝負してきた会社です。フェアレディZに代表されるような、走りの良さ、ドライバーの心をつかむ車。私も日産の車は何十台も買ってきましたが、その魅力が基本的に失われてしまいました。
アメリカで若干売れ始めている車種があるものの、全体をひっくり返すには至りません。今の経営陣にはメキシコやイギリスの生産拠点出身の外国人が多く、日産のDNAを完全に失っているわけではありませんが、厚木の研究所を立て直し、みんながグッとくるような車を再び生み出すこと。それなくして日産の再生はないと私は考えます。
関税の90%は米国消費者が負担している― トランプ氏の主張を真っ向から否定するニューヨーク連銀の調査結果
ニューヨーク連銀が発表した報告書によると、トランプ大統領が輸入品に課した関税の90%をアメリカの消費者と企業が負担していることが明らかになりました。昨年、平均関税率が2.6%から13%に上昇した際の影響を調査したものです。
トランプ氏は「関税は貿易相手国が負担する」と繰り返し主張してきましたが、この調査結果は完全にそれを否定しています。相手国が負担しているのはわずか5%程度に過ぎず、残りは関税として政府が徴収するか、最終的にアメリカの消費者が高い価格として負担しているのです。つまり、関税はインフレの原因そのものになっているということです。
私はトランプ氏が徐々にこの現実を認識し、静かに軌道修正していくと見ています。言っていることが事実と異なることが数字で明白になれば、いくら強弁しても限界があります。タコのように自分の足を食べるような政策を続けることはできないでしょう。
この問題は日本にとっても他人事ではありません。トランプ政権が関税政策を見直す場合、日本企業への影響も変わってきます。また、関税が消費者に転嫁されるという経済の基本原則は、日本国内の貿易政策を考える上でも重要な教訓です。事実に基づいた冷静な政策判断が、いかに大切かを改めて示しています。
—この記事は2025年2月15日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。






