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KON1113:「自壊する覇権国」と「迷走する島国」――2025年、ビジネスパーソンが直視すべき世界の断層

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KON1113:「自壊する覇権国」と「迷走する島国」――2025年、ビジネスパーソンが直視すべき世界の断層

2025.12.26
2025年
KON1113:「自壊する覇権国」と「迷走する島国」――2025年、ビジネスパーソンが直視すべき世界の断層

生成AI時代の日本の戦略:「開発」ではなく「活用」に勝機あり。周回遅れの国産AI開発に巨額投資をする愚

生成AIを巡るグローバル競争が激化しています。OpenAIやGoogleなどが次々と新モデルを発表し、中国でも100社以上のAI企業がしのぎを削る中、日本政府は「国産AIの開発」に1兆円規模の支援を行うとしています。しかし、これは桁が違います。孫正義氏ですら海外で10兆円規模の投資を行っている現状において、今から日本がLLM(大規模言語モデル)の開発競争に参入しても、勝負にならないことは明白です。

重要なのは「AIを作ること」ではなく、「AIをいかにうまく使うか」です。魚屋が魚を獲る技術ではなく、仕入れた魚をどう調理して客に提供するかで勝負するように、日本企業は既存の優れたAIモデルを活用し、自社のビジネスモデルや産業構造を再設計することに注力すべきです。例えば、社内データを学習させたプライベートなAI環境を構築し、業務効率化や新たな付加価値の創出に繋げることこそが現実的な解です。ユーザーとしての立場から「使い倒す」ことにおいては、決して劣後してはなりません。道具を作る競争ではなく、道具を使ってどのような価値を生み出すか、その知恵比べのステージに早く移行すべきなのです。

ニデック永守氏の辞任に見る「引き際」の美学:名経営者が陥った晩節の汚点。「名誉会長」という肩書きへの未練が示すガバナンス不全

日本を代表するモーターメーカー、ニデックの創業者である永守重信氏が代表取締役を辞任しました。永守氏は卓越した経営手腕とM&A戦略で同社を世界的企業に育て上げた、尊敬すべき名経営者であることは疑いようがありません。しかし、今回の辞任劇、特に会計処理の疑義により監査法人から意見が表明されないという異常事態を招いた責任は重大です。

私が違和感を覚えるのは、辞任後も「名誉会長」というポジションに留まる点です。自身の築き上げた企業風土が不正の温床となったことを反省し、引責辞任するのであれば、会社から完全に身を引くのが筋でしょう。「名誉」という言葉にしがみつき、会社に残ろうとする姿勢からは、自身の置かれた立場を客観視できていない、「老害」化の懸念すら感じさせます。真の創業者は、役職がなかろうと、相談が必要であれば人は自然と集まるものです。私自身、BBTの役職からは離れていますが、創業者としての事実は変わりません。後継者育成に悩み、回転ドアのように社長を交代させてきた末のこの結末は、偉大な経営者が晩節を汚してしまった典型例として、我々に「引き際」の重要性を教えてくれています。

大学発ベンチャーが育たない日本の構造的欠陥:「死なない」ことが最大のリスク。新陳代謝なきアカデミアにイノベーションは生まれない

日本の大学発スタートアップの生存率は9割を超えるとされていますが、これは決して成功しているわけではありません。単に赤字のままゾンビのように生き延びているか、研究室の延長で細々と活動しているに過ぎないケースが大半です。米国のように「多産多死」で新陳代謝が活発に行われ、リスクを取って挑戦する環境とは対照的です。

根本的な原因は、日本の大学の「テニュア(終身在職権)」制度にあります。一度教授になれば定年まで安泰という環境では、教員に起業家精神など育ちようがありません。40年前の研究を続けているような教授が居座る組織に、政府が10兆円ファンドの運用益をばら撒いたところで、イノベーションなど起こるはずがないのです。 成功例として挙げられるスタンフォードやケンブリッジのトリニティ・カレッジでは、大学と産業界の垣根が低く、人材の流動性が確保されています。日本でもかつての慶應SFCのような気概が必要ですが、それすらも今はブランド化し、マンネリ化しています。政府の補助金に頼るのではなく、真に市場で戦える技術と経営マインドを持った人材を、大学という枠組みの外で育成する仕組みが不可欠です。

百貨店戦争の勝敗:阪急の「外商」vs 三越伊勢丹の「店舗」――「顧客業」への転換を今更掲げる三越伊勢丹の周回遅れ。富裕層ビジネスの本質とは

三越伊勢丹HDが、店舗・仕入れ・外商の垣根を超えた人材育成を行い、「顧客業」への転換を図ると発表しました。しかし、厳しい言い方をすれば、これは「今更何を言っているのか」という話です。江戸時代の呉服屋発想から抜け出せていないことの証左でもあります。

この分野で圧倒的な勝利を収めているのが阪急百貨店です。阪急は30年も前から、沿線の富裕層が高齢化し「買い物弱者」になる未来を見据え、外商部隊を強化してきました。芦屋や夙川の邸宅に御用聞きが出向き、顧客のニーズを深く理解して商品を届ける。このモデルを徹底してきたからこそ、梅田での百貨店戦争において、阪急は三越伊勢丹を撤退同然の状態にまで追い込むことができたのです。 店舗に来るのを待つのではなく、顧客の生活に入り込む。この「外商」こそが、成熟社会におけるリテールビジネスの要諦です。三越伊勢丹が今になってこの事実に気づき、組織を変えようとしているのは良いことですが、30年の遅れを取り戻すのは容易ではありません。ビジネスモデルの陳腐化に気づく感度の差が、企業の明暗を分けています。

「フロー」から「ストック」へ:成熟国日本の税制改革論――稼ぐ人より持てる人に課税せよ。失われた30年で肥大化した資産への視点

政府は富裕層への課税強化として「ミニマム課税」の見直しを検討していますが、議論の焦点が「所得(フロー)」に偏っている点に日本の税制の限界を感じます。日本はすでに成長期を終えた成熟国家です。過去30年で所得は伸びませんでしたが、個人金融資産は2000兆円を超え、不動産価値も一部で高騰しています。つまり、フローではなくストック(資産)に富が偏在しているのです。

これからの税制は、フローに対する課税を抑え、ストックに対する課税、すなわち資産課税へとシフトすべきです。稼いでいる現役世代の足を引っ張るのではなく、眠っている巨額の金融資産や、有効活用されていない不動産に対して課税することで、資産の流動化を促すべきです。三木谷浩史氏のように莫大な資産を持つ層に対して、所得税の枠組みで議論するのではなく、保有資産そのものに応分の負担を求める。これが成熟国としてあるべき公平な税制の姿です。米国の一部州のように固定資産税や富裕税の考え方をより積極的に導入し、「資産大国ニッポン」の実態に即した制度設計を急ぐべきでしょう。

半導体産業の光明と懸念:DNPのナノインプリントとTSMC熊本への期待、そしてラピダスへの冷ややかな視線

日本の半導体産業において、注目すべきニュースがいくつかあります。まず、大日本印刷(DNP)が開発したナノインプリント技術は、製造時の消費電力を大幅に削減できる画期的なものであり、キヤノンの装置と組み合わせることでゲームチェンジャーになる可能性を秘めています。また、TSMCの熊本第二工場が最先端の4ナノ品などの生産を検討していることも、日本のサプライチェーンにとって明るい材料です。

一方で、北海道で最先端半導体の量産を目指すラピダスには懐疑的にならざるを得ません。彼らが発表したガラス基板などの技術は、理論上は優れていても、量産化へのハードルは極めて高いものです。巨額の国費を投入し、過去の日の丸半導体の夢をもう一度追うようなプロジェクトは、成功確率が低いと言わざるを得ません。 日本が生き残る道は、全てを自前でやることではなく、DNPのような特定の「強み」となる技術で不可欠な存在となり、TSMCのようなグローバルリーダーとうまく連携することです。国策プロジェクトの幻想に踊らされず、冷徹に技術的な優位性と市場の現実を見極める必要があります。

EVシフトの失速とハイブリッドの復権:「EV一本足打法」の限界が露呈。環境規制と市場原理の乖離を見抜け

欧米でEV(電気自動車)販売の失速が鮮明になっています。ドイツなどの補助金打ち切りやトランプ氏のEV優遇策廃止の方針を受け、市場は「EV離れ」を起こしています。一方で、トヨタが得意とするハイブリッド車(HV)の販売は好調です。これは、政治主導の無理なEVシフトに対し、市場と消費者が「NO」を突きつけた結果と言えるでしょう。

日本政府はいまだにEV購入に手厚い補助金を出していますが、これは自動車メーカーへの事実上の賄賂のようなもので、政策としての合理性を欠いています。そもそも火力発電比率の高い日本でEVを普及させても、CO2削減効果は限定的です。 欧州メーカーも、2035年のエンジン車禁止目標の撤回を示唆するなど、現実路線への回帰を始めています。環境イデオロギーだけでビジネスは回りません。全方位戦略をとってきたトヨタの判断が正しかったことが証明されつつある今、日本企業は過度なEV偏重に惑わされることなく、HVや水素など多様な選択肢を持つ強みを活かすべきです。

—この記事は2025年12月21日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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