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KON1112:激動する世界経済と日本の針路:日銀利上げの必然性、中国の巨額債務危機、そしてAI時代の生存戦略

TOP大前研一ニュースの視点blogKON1112:激動する世界経済と日本の針路:日銀利上げの必然性、中国の巨額債務危機、そしてAI時代の生存戦略

KON1112:激動する世界経済と日本の針路:日銀利上げの必然性、中国の巨額債務危機、そしてAI時代の生存戦略

2025.12.18
2025年
KON1112:激動する世界経済と日本の針路:日銀利上げの必然性、中国の巨額債務危機、そしてAI時代の生存戦略

日銀の利上げと円安是正への転換:「金利ある世界」への回帰がもたらす企業の淘汰と経済の新陳代謝

日銀の植田総裁は12月の金融政策決定会合に向け、利上げの可能性を示唆しました。市場もこれを確実視していますが、私も「間違いなく利上げをする」と見ています。その最大の理由は、欧米との金利差にあります。

アメリカやイギリスの中央銀行が高い政策金利を維持する一方で、日本が極めて低い金利を続けていれば、資金はより高い利回りを求めてドルなどの外貨へと流れます。これが円安を加速させ、エネルギーや食料品といった輸入価格の高騰を招いています。私たちの日々の生活を直撃しているインフレ、物価高の根源はここにあるのです。

植田総裁はこのメカニズムを十分に理解しており、円安にブレーキをかけるために利上げへと舵を切るでしょう。かつてのアベノミクス、異次元緩和からの修正には時間がかかりましたが、学究肌の植田総裁は論理的に正しい道を選ぶはずです。

しかし、利上げには痛みも伴います。日本には、実質的なゼロ金利のおかげで延命してきた、いわゆる「ゾンビ企業」とも呼べる借入金依存度の高い企業が約30万社あると言われています。金利が上がれば、利払いが困難になり、経営破綻する企業が出てくることは避けられません。

これを残酷と捉えるか、経済の正常化と捉えるかが重要です。現在、日本は深刻な人手不足にあります。生産性の低い企業から、より付加価値の高い、勝ち残った企業へと人材が移動することは、日本経済全体で見れば決して悪いことではありません。痛みを伴う改革ではありますが、「金利ある世界」への回帰は、日本経済の新陳代謝を促すために必要なプロセスなのです。

北海道電力・泊原発再稼働の経済的意義:高騰する電力料金への処方箋と現実的なエネルギー戦略

北海道の鈴木知事が、北海道電力泊原発3号機の再稼働に同意を表明しました。地元自治体もすでに同意しており、再稼働に向けたプロセスが動き出します。この動きは、北海道経済、ひいては日本のエネルギー政策において極めて重要な意味を持ちます。

まず、泊原発の3号機は比較的新しい原子炉であり、技術的な観点から見ても、動かすことに大きな問題はないと考えられます。91万キロワットという出力は、北海道全体の電力需要に対して無視できない規模です。

なぜ再稼働が必要なのか。それは北海道の電気料金が全国的に見ても非常に高額になっているという現実があるからです。安価で安定した電力供給は、道内企業の競争力強化や、道民の生活防衛のために不可欠な施策です。もちろん、安全対策は最優先ですが、経済合理性を考えれば、動かせる資産を有効活用しない手はありません。

ただし、知事が同意したからといって「明日から動く」というわけにはいきません。津波対策などの防潮堤建設や、規制委員会による審査プロセスなど、まだクリアすべき物理的・手続き的なハードルが残っています。それでも、今回の政治決断は大きな一歩です。感情論ではなく、データと経済合理性に基づき、エネルギー問題を解決していく姿勢が、これからの日本には求められています。

リニア新駅と「目的地」としての都市開発:通過点ではなく、そこに行くこと自体を目的化する発想の転換

リニア中央新幹線の「山梨県駅(仮称)」の着工見通しが報じられましたが、その立地計画には疑問を禁じ得ません。在来線の駅から離れており、接続も悪い。「不便だからバスで結ぶ」という発想は、あまりにも短絡的です。

かつて私が主宰した「リアルタイム・オンライン・ケーススタディ」でも、まさにこの場所を取り上げました。当時の結論は、「甲府の既存市街地や在来線との接続にこだわる必要はない」というものです。リニアが開通すれば、東京からわずか15分で到着します。これは通勤圏内どころか、都心の一部と言っても過言ではない近さです。

何もない野原だからこそ、できることがあります。既存の街につなげようとするのではなく、その駅周辺自体を巨大な開発エリアとし、そこを「目的地(デスティネーション)」にしてしまうのです。東京から15分でアクセスできる大自然の中に、最先端のオフィスや研究施設、あるいはリゾート機能を持たせた街をゼロから作る。そうすれば、「甲府に行くための駅」ではなく、「その新しい街に行くためのリニア」になります。

静岡工区の問題などで全線開通の目処は立っていませんが、先行して甲府まで開通させ、そこを終点として開発するだけでも十分な経済効果が見込めます。既存のインフラに縛られず、白紙のキャンバスに絵を描くような大胆な構想力(コンセプチュアル・スキル)こそが、地方創生には不可欠なのです。

AI時代のリスキリングと組織論:個人のスキル習得を超えた「チームによるAI実装」の重要性

ユニ・チャームが昇進要件にAI関連資格を追加するなど、日本企業でもAIに関する「学び直し(リスキリング)」の動きが加速しています。AIに対する関心を高めるという意味では良いことですが、個人の資格取得だけにフォーカスしても、企業の生産性は劇的には向上しません。

なぜなら、生成AIなどの最新技術は、個人が単独で使うだけでは「優秀なチャットボット」止まりだからです。真にビジネスで成果を上げるためには、3人から10人程度のチーム単位でAIを活用し、業務プロセスそのものを変革する必要があります。

例えば、「これまで20人でやっていた業務を、AIを駆使して5人のチームで回せるようにする」といった具体的なミッションをチームに与えるのです。プログラミング能力やデータサイエンスの知識も重要ですが、これらはAI自身が急速に補完しつつあります。今求められているのは、AIを使って何を実現するかという「構想」と、それを実行する「チームビルディング」です。

会社組織としてAI導入を進めるなら、「個人のスキルアップ」という視点から脱却し、「AIを武器にした小規模チームによる課題解決」へとシフトすべきです。そうでなければ、資格持ちが増えるだけで、実務は何も変わらないという状況に陥るでしょう。

生成AIによる失業とベーシックインカムの原資:「マグニフィセント・セブン」の時価総額への課税という新提案

AIの進化は凄まじく、2030年までに世界で8億人の職が失われるという推計もあります。アンソロピックのCEOなど、AI開発の最前線にいる人々自身が、「仕事がなくなる未来」を予見し、ユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)の必要性を訴え始めています。

AIが人間の知能を超え、労働を代替するようになれば、多くの人が職を失い、社会不安が増大します。これを防ぐには、働かなくても生活できるだけの現金を給付するUBIしか解決策がないかもしれません。しかし、最大の問題は「その財源(原資)をどこから持ってくるか」です。

私は、「時価総額への課税」を提案しています。現在、マイクロソフトやNVIDIAなど、いわゆる「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる巨大テック企業の時価総額は天文学的な数字になっています。これまでの税制は「利益」に対する課税でしたが、これからは、AIによって富を独占し、将来価値を膨張させている企業の「時価総額」そのものに、例えば毎年1%といった税を課すのです。

これを「ユニタリー・タックス(Unitary Tax)」として世界各国で協調して徴収し、各国の市場規模(売上やユーザー数)に応じて配分する。そして、政府がそれを国民にUBIとして配る。突飛に聞こえるかもしれませんが、AIが生み出す富の偏在を是正し、社会システムを維持するためには、税制の根本的な再定義が必要になる時期が来ているのです。

 中国経済を蝕む2900兆円の地方債務:バブル崩壊を超える規模と「売れない不動産」の深刻な実態

中国経済の現状は、極めて深刻です。地方政府の隠れ債務を含めた総額は、約2900兆円に達すると試算されています。日本のバブル崩壊時の不良債権処理額が約230兆円だったことを考えると、その規模は10倍以上。現在の習近平政権の対応能力をはるかに超えていると言わざるを得ません。

最大の問題は、不動産市場の構造的な欠陥です。中国の地方都市には「鬼城(ゴーストタウン)」と呼ばれる、誰も住んでいないマンション群が林立しています。これらは単に売れ残っているだけでなく、内装や設備が未完成の「コンクリートの箱」の状態であることが多いのです。

日本や欧米のバブル崩壊時は、価格を下げれば買い手がつき、市場は在庫を消化できました。しかし、中国のこれら物件は、さらに追加投資をして住める状態にしない限り、いくら価格を下げても誰も買いません。しかも、僻地に建てられているためインフラもなく、需要そのものが存在しないのです。

地方政府傘下の投資会社(融資平台)が乱立し、無計画な開発を行ったツケが回ってきました。これらが連鎖的に破綻すれば、世界経済への影響も計り知れません。習近平氏の周囲には、この未曾有の危機を処理できる経済テクノクラートが見当たらないのも致命的です。

中国のイノベーションと「実験する自由」:自動運転に見る、規制の壁を突破する中国の強み

経済危機の一方で、中国の技術革新力を見くびってはなりません。英エコノミスト誌も指摘している通り、EVやAI、特に自動運転の分野において、中国は世界をリードしつつあります。その原動力は、地方政府が競い合うようにして企業に「実験場」を提供している点にあります。

日本では、自動運転の公道実験を行おうとすると、警察や国交省の厳しい規制があり、「事故が起きたら誰が責任を取るのか」という議論で止まってしまいます。結果、トヨタでさえ閉鎖された「ウーブン・シティ」の中で実験せざるを得ません。しかし、閉鎖環境でのデータは、複雑な現実社会では通用しません。

対して中国では、「どんどんやってくれ」と公道を企業の実験に開放しています。もちろんリスクはありますが、それによって得られる膨大な実走行データと経験値は、技術開発において圧倒的な優位性をもたらします。

規制でガチガチに固めて「安心・安全」を優先しすぎて技術競争に負ける日本と、リスクを許容してイノベーションを加速させる中国。不動産バブルという負の側面とは裏腹に、未来の産業競争力という点では、中国の「実験する自由」から学ぶべき点は多いのです。

トランプ次期政権の課題とインフレとの戦い:関税政策と物価高抑制という矛盾する公約の行方

アメリカではトランプ氏が大統領への返り咲きを決めましたが、彼の前に立ちはだかる最大の敵は「インフレ」です。世論調査を見ても、国民の最大の関心事は物価高であり、バイデン政権が支持を失った最大の理由もここにありました。

トランプ氏はペンシルベニア州での演説などで物価抑制を最優先課題に掲げていますが、彼が同時に主張している「輸入品への高関税」や「不法移民の強制送還」といった政策は、経済学的に見ればインフレを加速させる要因になりかねません。関税は最終的に消費者の負担となり、安価な労働力の供給が断たれればサービス価格は上昇するからです。

また、トランプ氏はメキシコに対して水資源の供給条約を守らないとして追加関税を警告したり、ビザ免除プログラムで入国する外国人に5年分のSNS履歴の提出を義務付けようとしたりと、強硬な姿勢を崩していません。

しかし、こうした排他的な政策は、アメリカへの観光客やビジネス客を減少させ、経済に悪影響を及ぼす可能性があります。「物価を下げる」という国民への約束と、自身の支持層が好む「アメリカ・ファースト」の保護主義的政策。この矛盾をどう解決するのか。失敗すれば、中間選挙で早々に手痛いしっぺ返しを食らうことになるでしょう。

—この記事は2025年12月14日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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