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KON1107:若者が動かす民主主義、選択と集中の成長戦略──人・資本・エネルギーの再設計で日本を再起動する

TOP大前研一ニュースの視点blogKON1107:若者が動かす民主主義、選択と集中の成長戦略──人・資本・エネルギーの再設計で日本を再起動する

KON1107:若者が動かす民主主義、選択と集中の成長戦略──人・資本・エネルギーの再設計で日本を再起動する

2025.11.13
2025年
KON1107:若者が動かす民主主義、選択と集中の成長戦略──人・資本・エネルギーの再設計で日本を再起動する

若年層が動かした投票率の地殻変動:SNS選挙が常識を塗り替え、政策と媒体の選択が勝敗を分ける

今回示された年齢別投票率の推移は、日本の選挙行動の常識を根底から変えた重要なシグナルです。従来は「年齢≒投票率」で、60代は60%、30代は30%という直線的な相関が続いていました。ところが直近の参院選では、20〜30代が一気に40%台後半まで上昇し、従来の「高齢者向け施策を優先すれば勝てる」という暗黙の前提が崩れつつあります。背景にあるのはSNSを基盤とした情報流通の断層化です。若者はテレビや新聞よりも、共感できる発信者とプラットフォームを媒介に投票行動を決めます。ゆえに、政策の中身だけでなく、どの媒体で誰が語るかが決定的に重要になります。一方で、この現象が次回以降も持続するかは不確実です。SNSの潮目は速く、短期の熱狂が再現性を持たない恐れもあります。従って、各党は若年層に刺さる「持続可能な政策パッケージ」と同時に、プラットフォームごとに適合させた語り手・語り方を戦略的に設計する必要があります。若年層を「無視してよい少数」とみなす時代は終わりました。今後は30代以下を主要顧客とみなした政策設計と、SNS原生のコミュニケーションへの本格移行が勝敗を分けると考えます。

外国人受け入れは「統合投資」か「取締先行」か:国力の源泉は労働投入と定着支援への大胆投資

首相が示した「ルール厳格化」路線は、一見もっともらしく聞こえますが、人口減少が年90万人規模で進む日本にとって本質的な解は、受け入れ数の拡大と社会統合への投資です。各国は語学教育、就労マッチング、地域コミュニティ支援、行政サービスの多言語化などに予算を割き、定着率を上げることで長期の税収・成長に結びつけています。違反対策の強化は必要条件ですが、それを先行させるだけでは「来てほしい人材ほど来ない」逆選抜を招きます。兵庫県のクマ対策に見られたように、テクノロジーと運用への投資が成果を左右します。移民政策も同じ構図で、制度設計と実装の両輪が重要です。スウェーデンやカナダ型の統合プログラム、実務日本語×職業訓練の一体化、自治体・企業・NPOの三位連携による生活支援の標準化など、成功事例は豊富にあります。人手不足由来の機会損失が16兆円規模に達する中で、罰則や排除だけに注力するのは国家の自己衰弱に等しい行為です。「受け入れるなら徹底的に生かす」──統合投資こそが国力再生の最短ルートだと提言します。

「17の戦略分野」は多すぎる:成功するリーダーは“一点突破”に資源を集中する

政府がAI半導体など17領域を掲げる成長戦略を打ち出しましたが、経営の原則から見れば方針過多です。歴代の結果を出した政治リーダーは、郵政民営化(小泉)、三公社民営化と日米関係(中曽根)など「一つか二つ」に資源と政治資本を集中しました。優先順位が薄まれば、政策担当も利害調整に追われ、実行速度が落ちます。今の日本に必要なのは、「国際競争で勝ち切れる領域」に絞った深掘りです。例えば①AIインフラ(計算資源・省電力設計・国産スタック)、②次世代製造基盤(ロボット×OT×ソフトウェア化)、③人的資本の再教育(実装型DX・英語×データ)の三点に大胆に集中し、他は民間の創意に委ねるべきです。政策KPIは「世界シェア」「生産性上昇」「外貨獲得」に直結させ、予算配分も実績連動にする。アベノミクス期の反省は、量的緩和や財政出動の弾をばらまいても、生産性と競争力の基盤に刺さらなければ持続しないことでした。「選んで捨てる」ことは痛みを伴いますが、分散投資の延長では世界のフロントに届きません。集中と実行の政治を取り戻すべきです。

日経5万2千円超でも「実力相場」ではない:流動性相場の波に乗りつつ、実体の創出に踏み込む時

株価は将来キャッシュフローの割引現在価値であり、企業の実力と期待で決まります。現在の日本株高は、海外マネーの流入、ガバナンス改革、AIテーマの連想といった外部要因が強く、実体の厚みが十分とは言えません。ユニクロのような例外はありますが、広範にみれば付加価値創造の伸びが株価に追い付きません。では個人や企業はどう備えるべきか。投資家はテーマ過熱の歪みに過度に賭けず、稼ぐ力(ROICと営業CF)で銘柄を選ぶべきです。企業側は「AIで何を効率化したか」ではなく「AIでどの新収益を生んだか」を示す段階に入っています。製造・流通・金融の現場で、需要予測・在庫最適化・価格最適化・顧客応対自動化などのPL貢献を数値で開示する会社ほど、相場の反落局面でも評価は残ります。株価の波はチャンスですが、実体を伴わない上昇は脆弱です。政府は資本市場に頼るのではなく、③で述べた重点分野に集中投資し、企業は現場の生産性革命で自らのバリュエーションを正当化することが求められます。

企業年金の健全化が投資の「今」を教える:分散・長期・規律がリターンの源泉

東証プライム上場企業の確定給付年金の積立比率がリーマン後最高水準に達したことは、運用環境が「分散に報いる局面」であることを示します。国内外の株式・債券に加え、金・不動産・新興国資産などを組み合わせた基本ポートフォリオが功を奏し、割引率の上昇も追い風になりました。示唆は三つです。第一に、個人・企業ともに「国内偏重」を改めることです。為替ヘッジのコストを勘案しながら外貨建て資産を厚くし、相関の低い実物資産を一定比率で組み込むべきです。第二に、ガバナンスの透明性です。GPIFや大手年金が示すように、アセットアロケーションの意図とKPIを公開し、逸脱時のルール(リバランス)を機械的に実行する規律が長期の超過リターンを生みます。第三に、好調期こそ「将来の逆風」を織り込むことです。金利・地政学・AIによる産業再編はボラティリティを高めます。今のうちに含み益を厚くし、景気後退局面での買付余力を確保しておくことが肝要です。足元の成果を“次の冬”への備えに転化する──年金運用の教訓を企業財務と個人資産に活かす好機です。

人材価格の国際ギャップ──理系採用は戦略価格で

みずほFGが博士初任給を月38万円へ引き上げる報がありましたが、国際市場では依然として競争力不足です。米系投資銀行や大手テックは新卒でも年収1,000万円超が珍しくなく、優秀なSTEM人材の獲得はグローバル入札の様相です。加えて、同グループはマレリ関連での債権問題も抱え、金融と産業の両面で厳しい意思決定を迫られています。ここで重要なのは「賃上げ」という点の改善ではなく、「賃の構造」を戦略的に組み替えることです。具体的には①職務等級ごとのレンジを国際水準に寄せる、②専門職に職能給と明確な成果インセンティブ(研究・特許・収益貢献)を付す、③事業部横断のAI/データ職の社内マーケットを作り、希少スキルの内部価格を可視化する、の三点です。あわせて副業・社外連携・社内VCを通じて“越境学習×成果”を評価する仕掛けが必要です。賃金の絶対額と評価制度の透明性が揃って初めて、優秀層は日本企業を選びます。「人への投資」を掛け声で終わらせず、価格と制度の両輪で国際標準に合わせる時だと考えます。

産業戦略の要諦──iRobotとテスラに学ぶ「作る場所」

家庭用ロボット大手の競争劣位が語られました。教訓は明快です。製品がコモディティ化しやすい分野では、設計と発明を本国に残しつつ、量産は最適地(しばしば中国)で行い、コスト土俵で戦うことが不可欠です。テスラが早期に中国での生産体制を築いたことが、世界価格競争の中での持久力につながりました。日本企業は品質とブランドに依存しがちですが、サプライチェーンの柔軟性、現地パートナーとの連携、コストエンジニアリング能力が同等以上に重要です。加えて、製品を「ハード単体」ではなく、データ回収・クラウド連携・サブスク化まで含めた収益モデルに転換しない限り、値下げ競争から抜け出せません。産業ごとの「最適地生産×本社機能高度化」の設計を先に決める。国家としては関税や規制の変動にも耐えるマルチ拠点化(チャイナプラスワン)を平時から作っておく。発明と製造の分業を前提に、価格とサービスの複合で勝つ戦い方へ舵を切るべきだと考えます。

原子力の現実解──再稼働、SMR、溶融塩炉、そして輸出

柏崎刈羽の再稼働意識調査は、地元と広域の認識ギャップを可視化しました。安全性の技術要件は充足しつつも、政治・地域合意は別文脈で動きます。他方、世界では小型モジュール炉(SMR)や、ロシアの船上原発のような輸出モデル、さらには中国のトリウム溶融塩炉の実験など、多様なアプローチが進んでいます。日本が採るべきは「再稼働の信頼回復」と「次世代炉の選択と集中」を同時並行で進める現実主義です。第一に、再稼働では緊急時対応・避難計画・情報公開の三点を“運用で信頼”に変える努力を継続すること。第二に、次世代炉はSMRの産業化に照準を合わせ、材料・製造(モジュール化)・安全解析のサプライチェーンを国内で組むこと。溶融塩炉は材料腐食の長期信頼性という壁が高く、研究継続は必要でも商用化は中長期です。第三に、輸出は単体炉売りではなく、燃料・運転・金融を束ねた「原子力サービス」として国際連携で臨むことです。脱炭素と供給安定を両立させる“使える選択肢”を持つことが、日本の産業・雇用・技術基盤を守る道だと考えます。

—この記事は2025年11月9日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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