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KON1106:現場が動くと国が進む——構想力、人材投資、そして実利外交

TOP大前研一ニュースの視点blogKON1106:現場が動くと国が進む——構想力、人材投資、そして実利外交

KON1106:現場が動くと国が進む——構想力、人材投資、そして実利外交

2025.11.06
2025年
KON1106:現場が動くと国が進む——構想力、人材投資、そして実利外交

学び直しの現場から見えた「構想力」の底力—Bond-BBT MBA卒業式とリカレント教育が示す人材投資の実効性

今週は、Bond-BBT MBAの東京卒業式と「構想力イノベーション」第3期の修了が重なりました。修了率は100%、受講者の中心は組織の中核層で、3名の構想発表はいずれも現場実装を見据えた骨太な内容でした。卒業式では成績最優秀者へのメダル授与や卒業生代表のスピーチが会場を引き締め、学び直しの成果が確かな自信として可視化されました。私は宴席を早々に辞する主義ですが、壇上の熱量だけで十分に価値を感じました。日本の生産性向上は「一気呵成の制度改革」より、現場で使える構想力を持つ人材の母集団拡大で実現します。学び直しは福利厚生ではなく、競争戦略そのものであると申し上げます。

小売DXの急所――セルフレジ万引きと“発想の転換”

セルフレジの万引きは「システム改善」だけでは解けません。重要なのは、店舗動線・棚割り・顧客導線・スタッフ配置・精査プロトコルまでを一体で設計することです。ヴィンクスの取り組みは、AI画像認識や重量センサーの精度向上に加え、「誤認対応」「声掛け」「再スキャン導線」など運用要件を織り込む点に強みがあります。万引き防止は顧客体験とトレードオフになりがちですが、会計体験を“阻害”ではなく“整流化”と捉えれば、ロス削減と売上増が両立します。小売DXのKPIは“検知率”だけでなく、客単価・回遊・再来店とセットで見るべきです。発想をテクノロジーに閉じ込めず、現場オペとデータ設計を束ねること――ここに勝ち筋があります。

高市外交の初動評価――対米・ASEAN・韓国で見えた「演出と実利」のバランス

トランプ大統領との会談、ASEAN首脳会議、韓国とのシャトル外交合意――初動の評価は「及第点以上」です。対米は“褒めて距離を詰める”演出で軋轢リスクを下げ、ASEANでは米中の間合いを測りつつFOIPの旗を丁寧に振りました。韓国とは相手の文脈に寄り添う贈答・言葉選びが奏功し、未来志向のレールを敷いています。重要なのは“国内向けの硬派さ”と“対外の柔軟さ”の切り替えです。国内イデオロギーの延長で近隣外交を行えば即座に詰みます。今回のように角を立てない最適化を繰り返せば、実利は蓄積します。首相は靖国等の象徴案件を封印し、アジアの信頼を稼ぐことに徹すべきです。外交は理念の競技ではなく、国益の積分です。

「対米80兆円」問題の本質――誰の財布で、どの案件に、どのリスクテイクをするのか

対米投融資枠の話題は華やかですが、要諦は「資金の出し手・返済原資・リスク配賦の設計」です。電力・パイプライン・データセンター電源・原発・重要鉱物といった案件群は、政治リスク・規制リスク・技術リスクが大きく、キャッシュフローの見通しも案件次第で揺れます。日本企業が“国費前提”で手を挙げる構図は危うく、最終的に誰がBSで抱えるかを曖昧にしたままでは、後段で「約束違反」非難の温床になります。入札・PPA・容量市場・収益下支えの制度枠組みを明示し、プロジェクトファイナンスの原理で案件を選別すべきです。“国益”の美名で民間のリスク判断を鈍らせてはなりません。数字で語れない投資は、いずれ政治で揺らぎます。

リニア中央新幹線「11兆円」の壁――時間短縮30分のために、社会は何を差し出すのか

総工費見通しは7兆円から11兆円へ。南アルプス直下の難工事、停電・避難動線の安全設計、駅の深度と乗継ロス、途中駅の政治配慮による停車増――総合すると、名古屋区間での所要短縮は“体感優位”を削られます。東海道線リスク分散は北陸新幹線延伸でも代替可能で、費用対効果の再評価は不可避です。加えて、90%超がトンネルの時速500kmは心理負担も大きい。巨額投資の正当化は「全国の時間価値の純増」で語るべきですが、接続・深度・停車の摩擦を入れれば純増は目減りします。私は、名古屋以遠の不確実性も踏まえ、段階凍結と資金の他用途振替(物流インフラ・送配電強靭化等)を提言します。速度崇拝から、総合最適へ舵を切る時です。

医療費の論点整理:診療報酬と“OTCもどき”――公的資金は「医療でしか救えない領域」に集中せよ

物価高で公的医療機関の経営が厳しく、診療報酬の増額は一定の合理性があります。一方で、市販薬同等の“OTCもどき”を保険適用で安くする慣行は再設計が必要です。慢性疾患で医師管理が不可欠な処方は引き続き支援しつつ、自己管理可能な領域は自己負担へ軟着陸させるべきです。政治ではなく医師の臨床判断で適用線を引く仕組みを整え、患者の負担急増は移行期間と高額療養費で緩和します。重要なのは「公費の優先順位」です。限られた原資は、重症化予防・救急・地域医療・出産小児の基盤へ。高校授業料の一律無償化より、給食無償と医療のボトルネック解消に厚く配分する方が、社会的余命を最も伸ばします。医療財政は“善意”ではなく“効果”で配るべきです。

産業地図の書き換え:iRobotの苦境と中国の席巻――価格破壊に勝つのは「真似されにくい統合アーキテクチャ」

ルンバのiRobotが資金繰り難に直面する一方、中国勢は掃除ロボ、洋上風力、DRAM、建機まで量と価格で世界を押さえています。安価な量産・政策支援・巨大内需の三点セットに、個社単騎の“機能差”は長持ちしません。日本企業の打ち手は二つです。第一に、ハード×ソフト×サービス×保守の“全体最適”でロックインを設計すること(例:ロボットをデータ基盤や保険商品と束ね、LTVで勝つ)。第二に、ブランド資産の活かし方です。日立建機の改称方針はグローバル露出を自ら削ぐ懸念があり、B2Bでも“見える看板”の価値は侮れません。コモディティ化の波に抗うには、個別機能の差ではなく、エコシステムの差で勝つ――これが要諦です。

生成AIの現在地――資本設計と人材育成の両輪で進め

OpenAIはNPO支配構造を改め、営利側の機動性を高めました。NVIDIAは通信の要、6Gでノキアと連携し裾野を広げる一方、Metaは広告偏重と巨額インフラ投資のはざまで市場の揺り戻しを受けています。示唆は明快です。①資本設計:研究・推論・データの三位一体に適した資本構造を作り、投資家還元と長期R&Dの両立を図る。②用途特化:汎用AIの土俵ではなく、現場業務に密着した“垂直統合AI”で価値を出す。③人材育成:3か月で業務用チャットボットを内製できた受講者の声が示す通り、内製力はコストではなく競争力です。外注180万円より、自社知が資産化する設計へ。日本の逆転は“導入”ではなく“組み込み”で決まります。今こそ全社で学び、埋め込む時です。

—この記事は2025年11月2日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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