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KON1104:地政の影と構造変化の波――「連立」「GDP転落」「AI教育」から読み解く日本の岐路

TOP大前研一ニュースの視点blogKON1104:地政の影と構造変化の波――「連立」「GDP転落」「AI教育」から読み解く日本の岐路

KON1104:地政の影と構造変化の波――「連立」「GDP転落」「AI教育」から読み解く日本の岐路

2025.10.23
2025年
KON1104:地政の影と構造変化の波――「連立」「GDP転落」「AI教育」から読み解く日本の岐路

連立離脱の陰にある地政の影――「高市と組むな」というシグナルと九条改正の緊張

公明党と中国の近さは歴史的経緯に根を持ち、池田大作氏と中日関係、田中派の系譜など“伝統的なパイプ”が今も機能しています。今回、斉藤代表が大使と会談し「連立への要望はなかった」と説明したものの、高市氏との連携に中国が強い警戒心を持つ構図は否めません。高市氏は靖国参拝や安全保障観でタカ派色が濃く、憲法九条改正にも前向きと見なされるため、中国にとっては明確なリスク要因です。公明党は比例に強く小選挙区に弱い選挙構造を持ち、対外関係の微妙な風向きが党内の意思決定に影響しやすいのも事実です。結果として「中国の影響はなかったと言い切れない」という印象を残し、国内政治の再編と対中関係が絡み合う難しさを浮き彫りにしたと言えます。外交の影が政局の表情筋を引っ張る――その典型事例です。

自民×維新の連立交渉:議員定数1割削減の力学――比例削減で公明に逆風、文書担保で「安倍の前例」を封じる

自民党と維新の会は連立合意に近づき、維新は年内成立の「議員定数1割削減」を強く求めています。焦点は比例の大幅削減です。比例に依存度が高い公明党には致命傷となり、結果として「公明復帰」のハードルを上げる計算が働きます。過去、野田政権末期に安倍氏が削減を約したものの実現しなかった“前例”を踏まえ、今回は「文書で期限と人数を明記」し、連立条件の実効性を担保する姿勢が目立ちます。裏方として交渉を主導する木原氏の存在感も語られ、国民民主の玉木氏は情勢読みの遅れから「取り逃がし」の評価を受けました。比例50減は制度設計上の摩擦が大きい一方、政治改革の象徴性は強い。公明・旧与党ブロックの座標軸をズラしつつ、維新の存在感を制度で固定化する――そんなパワーゲームの実像です。

日本の名目GDP5位転落見通し:人口減と移民政策の現実――「国力は人口」の前提に抗う唯一の選択肢

IMF推計では日本がインドに抜かれ世界5位に転落する見通しです。円安の影響に加え、年90万人規模の人口減が成長力を蝕んでいます。先進国において人口は国力の基礎であり、生産年齢人口の縮小は投資・消費・税基盤すべてを痩せさせます。筆者は再三「経済移民の本格受け入れ」を提唱してきましたが、政治は依然として逡巡が目立ちます。移民は治安・同化・教育の設計が鍵であり、“理念先行”でも“恐怖先行”でもなく、数・分野・地域の配分を伴う制度設計が不可欠です。移民受け入れが前提化すれば、都市計画、語学・職業教育、社会保障の再設計が一体で動きます。人口減を直視したうえで、労働市場の弾力化と高付加価値化を同時に進める。これ以外に、順位を“結果として”押し上げる道は見当たりません。先送りは、緩やかな衰退の固定化に等しいのです。

学校現場のAI活用“54位”:統制型カリキュラムの限界――「指導要領にしがみつく授業」から「学びを設計する学校」へ

OECD調査で、日本の中学校教員のAI活用は55か国・地域中54位。背景には全国一律の学習指導要領と検定教科書への過度な依存があります。AIは個別最適・協働最適を前提とするため、画一的な進度と評価では相性が悪いのです。学校単位でカリキュラムを再設計し、課題発見・仮説形成・検証・表現の循環を学びの中心に据えるべきです。教員研修も「ツール操作」ではなく「評価設計」と「プロンプト・リテラシー」、さらに著作権・個人情報・バイアスの運用指針まで含めた包括型に改めます。自治体はモデル校を指定し、生成AIの授業実装を“単元単位”で検証する。国は学習到達の定義を成果ベースに転換する。AIは先生を代替するのではなく、学習者の自律と教師の専門性を引き上げる拡張装置です。制度がそれを阻む現状を、早急に更新すべきです。

柏崎刈羽と東電の信頼:お金では埋まらない「説明責任」――再稼働の前提は“真実の共有”と“行動規範の刷新”

東電は柏崎刈羽1・2号機の廃炉検討と地域活性化の1000億拠出を示しました。しかし本質は資金の有無ではありません。福島第一事故の原因・意思決定・現場対応について、住民と国民が「納得可能な一次情報」を得ていない限り、再稼働の社会的合意は成立しません。必要なのは、(1)事故原因・対策の一次資料の完全開示、(2)緊急時指揮系統と避難計画の第三者監査、(3)安全文化KPI(ヒヤリハット報告率、是正完了率等)の定期公開、(4)不適切事案の迅速公表と経営者ペナルティの制度化、の4点です。原発の是非を超え、巨大リスク産業に求められる透明性と説明責任を満たせるかが問われています。「利益の一部を出す」では信頼は買えません。対話の前提は、事実と再発防止の証明です。

ランサムウェアとアサヒ:支払い拒否は正しい、だが脆弱性は残る――供給混乱とシェア逆転が示す“事業継続”の要件

アサヒはサイバー攻撃に対し身代金支払いを拒み、自力復旧を続けています。原則として正しい判断です。支払いは次の攻撃を誘発します。一方で、供給混乱が長期化しキリンにシェア逆転を許した事実は、製造・出荷・販売データの冗長化と復旧プロトコルの欠落を示唆します。今後は①最重要業務(生産計画・在庫・物流)の分離・ゼロトラスト化、②バックアップの3-2-1原則と復旧訓練の定期化、③代替SKU・代替出荷経路の“紙運用”含むフェイルセーフ手順、④被害公表と復旧進捗の透明化で、取引先・消費者の信頼を守るべきです。ブランディングは「強い供給の継続力」が支えます。危機対応の巧拙は、一時の販売ではなく中長期のブランドエクイティを左右します。

半導体二題:TSMCの一人勝ちとフェニックス集積の現実味――先端ノードの寡占と「第二のシリコンバレー」構想

TSMCの業績は先端ノード需要(3~5nm)に牽引され、四半期で純利益2兆円超という規模に到達しました。設計のNVIDIA等と製造のTSMCが垂直分業で価値を極大化する構図は当面崩れません。他方、米アリゾナではTSMC新工場を核に装置・材料の集積が進みますが、完全無人化に近い最先端工場の運営には、人材・水・電力・規制の総合条件が要ります。「第二のシリコンバレー」という比喩は拙速で、実際は“製造クラスター”の熟成を待つ段階です。日本は装置・材料・後工程で連携余地が大きく、国内では電力安定と人材育成(プロセス・メトロロジー・EHS)を急ぐべきです。基幹部材の国際分散と標準化、そして地政学リスクに耐える在庫戦略――これが勝者の条件です。

トランプ外交の「日替わり」と日本のエネルギー選択――対露圧力・中東停戦・関税政策に振り回されない戦略

トランプ氏は対露発言や停戦案を日替わりで変え、ウクライナ支援の中身や中東停戦の条件も揺らぎます。さらに自動車運搬船への課徴金や関税強化は、サプライチェーンと価格に直接波及し、米国の新車平均価格上昇を通じて需要を冷やす可能性があります。日本は対露エネルギーの扱いで「サハリンの特殊性」と調達多角化の両立が要諦です。短期はスポット依存を抑え、中期はLNG長期契約のポートフォリオ最適化、再エネ×系統強化、域内連系(ASEAN送電網の進展も注視)の三本柱で“政治的ノイズ耐性”を高めるべきです。米政権の気分に左右されず、数量・価格・地政の三軸でリスクを可視化し、国益最適を選ぶ。これが日本の現実解だと考えます。

—この記事は2025年10月19日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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