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KON1100「総裁選の本質/対米「80兆円スキーム」の正体/コメの大規模化と物価高/グローバルサウスの主導権争い/北朝鮮の「生体情報密封」」

TOP大前研一ニュースの視点blogKON1100「総裁選の本質/対米「80兆円スキーム」の正体/コメの大規模化と物価高/グローバルサウスの主導権争い/北朝鮮の「生体情報密封」」

KON1100「総裁選の本質/対米「80兆円スキーム」の正体/コメの大規模化と物価高/グローバルサウスの主導権争い/北朝鮮の「生体情報密封」」

2025.09.18
2025年
KON1100「総裁選の本質/対米「80兆円スキーム」の正体/コメの大規模化と物価高/グローバルサウスの主導権争い/北朝鮮の「生体情報密封」」

総裁選の本質──「人気投票」ではなく三大課題を競え

自民党総裁選は告示9月22日、投開票10月4日のフルスペックで実施されます。論点は「誰が人柄でまとまるか」ではなく、日本の根本課題である①人口減少の反転、②対米一辺倒を超える現実的外交、③工業化時代にとどまった教育の刷新の三点に尽きます。人口は年90万人減で国力の基礎が痩せています。私は受け入れ枠と教育投資をセットにした大規模な移民政策(年90万人規模)を明示すべきだと考えます。外交は「国連中心・平和外交」という空語を改め、日米安保の条文化で自動追随する欠陥を修正し、日本独自の選択肢を持たねばなりません。教育は全国一律と既得権益の殻を破り、英語・IT・AIを中核に据えた学習体系へ大胆に移行することです。候補者はこの三点に具体策と年次計画で応えていただきたいのです。

対米「80兆円スキーム」の正体──関税10ポイントの買い取りか

政府は対米関税25%を15%に緩める見返りに、日本側が総額約80兆円を拠出する枠組みを進めています。問題は①資金の使途が米国内防衛以外や海外案件(中東など)に流用されうるのか、②トランプ政権任期内に使い切れない場合の残額の扱い、③軍事目的への転用可否が不透明なことです。これほど規模の大きい支出に基本条項の歯止めがないのは財政・外交の両面で危険です。仮に自動車関税が痛点なら、国内の被害業種に直接補填するほうが効率が高いという選択肢もあります。国会と世論は「不平等か否か」の抽象論ではなく、条文ベースの使途制限・監督主体・未執行額の処理・第三者検証を詰めるべきです。総裁候補はこの枠組みを是正・再交渉できるかを明言する責任があります。

コメの大規模化と物価高──「趣味の農業」から産業設計へ

この9年で一戸当たり水田面積は47%拡大し、福井は2.2→5.2haへ進展しました。一方、平均年齢69歳の小規模高齢農は相続税回避もあって離農が進まず、生産性の低さが米価高騰(5kgで4500~5000円)に跳ねています。私は政策の二極化を提案します。0.5ha未満の層は生活保護・職業転換支援へ切り替え、1ha超の担い手へは圃場整備、機械化、販路統合に集中投資する。農協は都道府県単位以下に集約・株式会社化してサプライチェーンの近代化を図る。10年後の担い手不在地は、選抜した外国人就農者に段階的教育(言語・技術2年+実地3年)と所有権付与を認める。価格では世界の大規模生産に勝てなくとも、品質差別化とコスト最適化を両立させる設計が必要です。

欧州で連続する「安全保障×安全」の教訓

リスボンのケーブルカー脱線は老朽設備と単一ケーブル依存という設計リスクが露呈しました。他方、EU委員長機のGPS妨害で紙地図着陸、ポーランド・ルーマニア領空への無人機侵犯など、軍民の境界でハイブリッド脅威が常態化しています。教訓は三つです。第一に、重要インフラは「単一点故障」を排した冗長設計と、停止時のフェールセーフを標準化する。第二に、測位・通信はGNSS多重化(GPS/GLONASS/Galileo/QZSS)と慣性航法のバックアップ、電磁妨害の可視化・通報網を整える。第三に、越境無人機への対処は共同防空・共同訓練に組み込み、要撃・証拠保全・外交抗議までの一気通貫プロトコルを持つことです。日本でも同種事案は「起こり得る前提」で備えるべき段階にあります。

グローバルサウスの主導権争い──日本は号令でなく実装で勝て

中国が上海協力機構などを通じてグローバルサウスとの連携を強める中、日本経済新聞は社説で「主導権を渡すな」と主張していますが、情緒的な発想では現実は動きません。求められるのは、サウス側の合理と利害に資する具体パッケージです。例として、債務再編+人材育成(看護・IT)+ローカル製造の三点セットを、受入れ国の税制・通関デジタル化と一体で提供する。資源分野では透明な価格式と紛争予防条項を標準契約に組み込む。通信・教育ではオープン規格と日本語・英語・現地語の三言語教材で「相手が選びやすい選択肢」を差し出す。日本の強みは誠実な実行と中長期のコミットです。主導権とはスローガンではなく、相手が採りたくなる設計図の質で決まります。

北朝鮮の「生体情報密封」──権威主義体制のリスク管理

最高指導者の専用列車に特殊トイレや浴室を備え、毛髪・排泄物の漏出を徹底的に防ぐという情報は、北朝鮮の権威主義体制におけるリスク管理の本質を映します。生体情報は健康状態や親子関係、潜在的後継者問題に直結し、権威の根拠を揺るがしかねません。建国から現体制まで正当性が薄弱な北朝鮮では、DNAレベルの事実さえ政治化されます。外部からは滑稽に見えますが、クーデターや暗殺の常在リスクの下では合理的な選択でもあります。私たちが学ぶべきは、「情報が権力の通貨である」現実です。民主国家においても、機微データの管理・漏洩時の危機対応・説明責任の枠組みは不断に更新が必要です。笑って済ませず、情報と権力の関係を冷静に見るべき局面です。

中東の現実──「ガザをリゾートに」の能天気と二国家の潮流

戦後ガザを米管理下でリゾート開発という発想は、住民の強制移動と主権軽視であり国際社会の支持を得ません。一方、国連では二国家共存を支持する決議に142カ国が賛成し、欧州主要国でパレスチナ国家承認の動きが広がります。そんな中でイスラエルが仲介国カタールを空爆したとされる報は、和平の基盤を自ら壊す禁忌です。現実的解決は、停戦→段階的撤収→検証付き安全保障→再建資金のガバナンスという「手順の合意」からしか始まりません。日本は中立的支援国として、復興の監査・電子バウチャー型支給・教育と医療の再建で実装力を発揮すべきです。

ロシアをどう捉えるか──企業の経済安保と現実主義

トランプを拘束する「プーチン・ファイル」なる話が飛び交いますが、企業が向き合うべきは噂ではなく、リスクを価格に織り込む現実主義です。対露政策は国レベルでは制裁継続が前提ですが、極東や資源分野には日本の技術が貢献できる余地が残ります。企業は①制裁準拠のデューディリジェンス、②資本・人材・技術のサプライチェーン代替の確保、③為替・物流のバックアップ回廊(トルコ・カフカス・中央アジア)の設計、④政治イベントのトリガーベース撤退条項を契約に組み込むことが要諦です。理想は隣国としての交流ですが、意思決定は「中央集権・恣意性・戦時経済」という構造リスクを前提に、地域・案件ごとに線引きして臨むべきだと考えます。

—この記事は2025年9月14日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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