
南西諸島の群発地震と火山帯の活発化:喜界島〜トカラ列島で続く有感地震にどう備えるか
喜界島や悪石島、小宝島周辺で震度3〜4の地震が相次ぎ、火山帯の活動が活発化しています。島嶼部は避難経路やライフラインが限定されるため、同程度の揺れでも都市部以上のリスクを孕みます。地形・港湾・通信の脆弱性を前提に、平時からの島外避難計画、発電・通信の分散冗長化、観光ピーク時の避難誘導訓練を定常化すべきです。噴火・地震の複合災害は想定内と割り切り、自治体と民間事業者(船舶・航空・通信)の共同オペレーション手順を文書化・反復訓練することが実効性を高めます。科学観測の強化と同時に「運ばれる側の準備」を進めることが要諦です。
北京「抗日戦勝80年」式典:史実のすり替えと対外プロパガンダへの距離感
中国が主催する「抗日戦争勝利80年」記念行事に露朝首脳が並ぶ構図は、今日の陣営形成を象徴します。一方、対日戦の主体は国民党であり、終戦処理でも蒋介石が中心でした。共産党が「自ら解放した」とする物語は政治的再解釈に過ぎません。日本の元首相級が儀式に同席することは、結果的にその物語に権威付けを与えかねません。歴史叙述の恣意性に対する距離感を保つことが肝要です。国益の観点では、台湾海峡・半導体サプライチェーンの安定に資する関係に資源を配分すべきです。
モディ首相来日と日印戦略:対中・対米の狭間で「第三の軸」を実務で固める
日印は半導体、重要鉱物、医薬、AIで新枠組みを協議し、新幹線のインド導入もアピールしました。インドはロシアから原油を安く買って、転売しており、米と摩擦を抱えつつ、上海協力機構を通じ中露とも距離を保つ多極主義です。日本は対中の不確実性、対米の通商圧力という“挟み撃ち”にある以上、インドとの実務協力を拡充し「地政×産業」の冗長性を確保すべきです。具体的には、先端封止・装置部材の現地サプライ網、人材・標準・認証の相互承認、防衛装備の整備支援など、政治日程に左右されにくいレイヤーを太くすることが重要です。
対米通商での「80兆円」論争:文書化リスクと国内説明責任の欠落
関税引下げと巨額対米投資の同時発出が報じられる中、「80兆円は投資か献上か」という言説が飛び交います。ここで重要なのは“誰が、何に、どの条件で、どの権限で”支出・投資するのかの可視化です。目的・使途・ガバナンスを曖昧にしたまま文書化すれば、相手側の解釈で既成事実化され、後から不利な再交渉を強いられます。国内農政や自動車サプライチェーンに直撃する条件は特に透明化が必要です。国会での事前審査・第三者レビュー・逐次開示を制度として埋め込み、通商政策の説明責任を取り戻すべきです。
洋上風力「総取り撤退」が示すもの:調達インフレではなく“入札設計と監督”の失敗
三菱商事連合が落札した3海域の撤退表明は、コスト高騰だけで説明できません。過度な低価格落札→事後の増額要請は、競争設計と監督の機能不全の表れです。日本の急峻な海底地形では浮体式の技術・保守・系統接続の不確実性が高く、固定価格志向の入札は構造的に歪みます。必要なのは、①段階的容量入札と進捗連動ペナルティ、②資機材指数連動の価格調整条項、③系統投資の責任分担明確化、④国内サプライヤー育成のスコアリングです。再エネは「量の約束」ではなく、実装工学と金融工学の設計勝負に移っています。
ベトナムの都市開発に見る日本流ノウハウ:交通一体型・段階実装で“ゴースト化”を避ける
北ハノイスマートシティをはじめ、住商・野村・東急などが進める複合開発は、日本の私鉄モデル(住宅×交通×商業)の経験を輸出する試みです。中国の一部に見られる“交通なき高密建設”と異なり、段階的にインフラと需要を同期させるため、入居率と生活利便が両立しやすい。カーボンニュートラル設計やIoT運用は魅力ですが、肝は運営。料金体系・管理組合・公共空間の維持に日本企業がどこまでコミットするかが成否を分けます。短期の販売益より、長期運営収益(OPEX)の設計に踏み込むべきです。
EV電池の世界的過剰供給:「量で押す」中国方式の利点と限界
2025年の電池生産能力が需要の3倍超という試算は、価格下落と淘汰の加速を意味します。中国勢は過剰投資で価格優位と規模の学習曲線を稼ぐ一方、資本効率は悪化しやすい。日本勢は高付加価値セル、BMS、全固体のロードマップ、リサイクルと原材料の回収で勝負するのが現実的です。政策面では、重要鉱物の上流投資・自由貿易圏内の原産地要件・再資源化義務の設計が鍵となります。コモディティ化する量産セルに固執せず、モジュール設計・安全規格・セカンドライフまで含めた“システム”で差別化すべき局面です。
テルモの英オルガノックス買収:臓器保存のブレークスルーを成長軸に
テルモが約2,200億円で臓器保存輸送のオルガノックスを買収。冷却保存に比べ、可用時間を大幅に延ばす技術は移植実施率を押し上げ、医療アクセスの地域格差縮小に資します。テルモは循環器・血液管理の強みを活かし、ポンプ・温度制御・センサー・データ解析を統合した「臓器物流プラットフォーム」へ拡張できるはずです。規制承認・保険償還・院内オペの標準化を同時並行で進めれば、単発のM&Aで終わらず事業柱に育ちます。日本発メドテックが“時間を買う医療”で世界に貢献する好機です。
—この記事は2025年8月31日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。



