
IT業界に迫るAIリストラ―人員削減と再教育の両立―
インド大手タタ・コンサルタンシーサービスが世界で1万2千人の削減を発表しました。背景には顧客の
IT投資抑制がありますが、同社はAI分野への再配置とリスキリングを同時に進めるとしています。世界ではAI関連の合理化が加速しており、米国IT企業の削減人数は今年だけで9万人近くに達し、前年比36%増です。成長領域へ集中する一方、不採算部門の整理が進む構図です。私は、これは単なるリストラではなく「AI対応型の産業転換」と捉えるべきだと思います。従業員にとっては痛みを伴いますが、再教育と適正配置が伴えば将来の成長力に変わります。問題は各国で労働移動の柔軟性が異なる点です。日本のように職能固定が強い社会では、人材の再配置が遅れ、国際競争で取り残されかねません。AI時代の雇用調整は単なる削減ではなく、「人をどう次世代産業に活かすか」が問われています。
ブラックストーンのテクノプロ買収―人材派遣とDX需要の交点―
米投資ファンドのブラックストーンが、日本の技術者派遣大手テクノプロを5,000億円で買収する見通しが報じられました。テクノプロはDX需要を背景に稼働率9割超を維持しており、成長余地が大きい企業です。ファンド参加により、M&Aや技術者育成を加速させる狙いがあります。私はこの買収を「人材を資本とみなす新潮流」と捉えます。製造業が設備や特許で評価された時代に比べ、現在は「スキルを持つ人材」が最大の資産です。派遣企業はこれまで労務管理の延長と見られてきましたが、今後は教育投資を通じて人材価値を高める事業体へ進化するでしょう。日本では人材育成を企業任せにする傾向がありますが、ファンドの資本力を背景に教育とマッチングを組み合わせたビジネスは有力です。テクノプロの事例は「人材をどう投資対象にするか」を示す象徴となりそうです。
GPT-5の登場と課題―ハルシネーション8割減の意味―
OpenAIがGPT-5を発表しました。従来に比べ「事実誤認(ハルシネーション)を8割減少」と説明していますが、業界からは「劇的な改善ではない」との声もあります。私はこの評価に同意します。AIは便利ですが、使う側が誤りを見抜けるリテラシーを持たなければ、誤情報を拡散しかねません。むしろ重要なのは「誤りをどの程度許容するか」という社会的合意です。AIの進歩は直線的ではなく、改良を積み重ねる地道な過程です。利用者側も経験を重ねることで適切に使いこなせるようになります。つまり、AIは「万能ツール」ではなく「習熟が必要な道具」なのです。GPT-5は改善の一歩に過ぎませんが、この競争の中でサービスの質は確実に上がっていくでしょう。
グーグルのAI検索導入―広告モデルの変容と競争激化―
グーグルが年内にも日本でAI検索を導入する方針が伝えられました。会話形式で問いかけると、AIがウェブ情報を要約して答える仕組みです。検索市場シェア9割を誇るグーグルにとって、AI検索は広告モデルの根幹を揺るがす挑戦です。従来の検索はリンク一覧を表示し、上位数件に広告を組み込む形でしたが、AI検索では「答えの提示」が主となり、クリック数は大幅に減るでしょう。私は、これは利用者にとっては効率的ですが、企業にとっては「露出機会が減るリスク」でもあると考えます。広告主は従来型SEOから「AIに拾われやすい情報発信」へ戦略を転換する必要があります。オープンAIなどの競合も強化しており、検索と広告の未来像は数年で大きく変貌するでしょう。
AIと電力需要の爆発的増加―データセンターと原子力回帰―
メタなど米IT大手4社が2040年までに合計1,400万kWの電力を確保する計画を発表しました。日本の稼働中原発を上回る規模であり、AI向けデータセンターの電力消費が桁違いに膨張していることを示します。太陽光や風力では安定供給が難しく、原子力や火力が再評価される流れです。日本も一時ゼロになった原発比率を8%程度まで回復させていますが、なお不足感は否めません。私は、AIインフラが「エネルギー政策の主役」を動かす時代に入ったと考えます。電力確保は国際競争力と直結し、供給が不安定な国ではAIビジネス自体が成立しなくなります。データセンター誘致を進める各国の動きも「電力をどう確保するか」が勝敗を分けるでしょう。
自動運転・空飛ぶ車の国際競争―日米中欧の規制差と挑戦―
米ジョビー・アビエーションが旅客輸送会社を買収し、2026年商用化を目指す「空飛ぶ車」事業を加速させています。一方、中国のバイドゥは欧州で自動運転タクシーを展開予定です。これに比べ日本は規制の壁が高く、実証段階から進みません。私は、ここに日本の弱点が表れていると考えます。安全を重視する姿勢は理解できますが、経験を積む機会を失えば技術は成熟しません。米中は事故を糧に進化させていますが、日本は「事故を恐れて挑戦を止める」傾向が強い。結果として技術と市場で取り残される危険があります。自動運転や空飛ぶ車は次世代都市交通の基盤です。規制と実証のバランスをどう設計するかが、日本の競争力を左右します。
人口減少と外国人労働者依存―90万人減と30万人増の現実―
総務省統計によれば、日本人は前年比90万人減少し、減少幅は過去最大となりました。他方、外国人労働者は30~40万人増加し、自然減の一部を補っています。特に建設や介護での依存が拡大し、宮崎県など地方で急増しています。私は、これは「なし崩し的な移民政策」と映ります。欧州や豪州は計画的に人材を受け入れ、語学や文化教育に予算を投じていますが、日本は現場の要請に応じて場当たり的に受け入れているにすぎません。そのため社会的摩擦や教育不足が課題となります。人口減を補うには毎年30万人規模の受け入れが必要ですが、現行制度では追いつきません。人口減少と労働力確保は、日本社会の持続性を左右する最大の課題です。
—この記事は2025年8月17日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。




