日本語/English

KON1092「火山列島・日本/トランプ関税/対米交渉/制裁関税/インフラ制裁/ノーベル平和賞/EUの通貨戦略」

TOP大前研一ニュースの視点blogKON1092「火山列島・日本/トランプ関税/対米交渉/制裁関税/インフラ制裁/ノーベル平和賞/EUの通貨戦略」

KON1092「火山列島・日本/トランプ関税/対米交渉/制裁関税/インフラ制裁/ノーベル平和賞/EUの通貨戦略」

2025.07.18
2025年
KON1092「火山列島・日本/トランプ関税/対米交渉/制裁関税/インフラ制裁/ノーベル平和賞/EUの通貨戦略」

火山列島・日本の宿命— 諏訪之瀬島をはじめとする火山活動の活発化をどう捉えるか

私たちが暮らす日本列島は、地球規模の火山帯、いわゆる「火山列島」の上に成り立っています。今回の鹿児島県・諏訪之瀬島の噴火活動は、この地理的背景を如実に物語っています。7日には5回の中規模噴火が確認され、最大1500メートルの噴煙が上がりました。福岡管区気象台は噴火警戒レベルを「2(火口周辺規制)」に設定し、住民に警戒を呼びかけています。

現在注目されているのは、諏訪之瀬島に加え、口永良部島やトカラ列島の地震・火山活動の動向です。これらの地域は、必ずしも活火山として知られているわけではありませんが、地下構造の変化が示唆されており、油断はできません。さらに新燃岳も7年ぶりに再噴火しており、九州一帯の火山活動が活発化していることは明らかです。

過去にも三宅島や伊豆大島では全島避難が行われたことがありました。行政としては「安全宣言」を出す責任が重く、住民を戻す判断には慎重にならざるを得ない現実があります。新燃岳でも、旅館業者が営業を再開できず3年近く苦しんだ事例があります。

火山活動の原因が明確に解明されていない現状では、「何が起きてもおかしくない」という危機意識が重要です。南海トラフとの因果関係は否定されていますが、地下の構造変化が進んでいる可能性は否定できません。日本に住む限り、火山や地震とは切り離せない宿命であるという現実を再認識し、防災意識を高めるべきだと考えています。

トランプ関税再び— 恣意的な「対日25%」の裏にある本質

トランプ大統領が8月1日から導入予定の新たな関税政策は、14か国を対象に一律でない税率を課すという、極めて恣意的な内容です。日本には25%、韓国やEUには30%以上、ブラジルに至っては50%の関税が設定されました。その基準は貿易不均衡ではなく、「気に入るか気に入らないか」という個人感情で決まっているとしか思えません。

ブラジルの例が象徴的です。アメリカとの貿易収支は均衡しているにもかかわらず、前大統領ボルソナロの収監に反発したとして「罰」として50%の関税を科されました。これはもはや国家間交渉というより、私怨に基づく制裁といえるでしょう。

日本政府の対応も気になります。自動車産業をはじめ、日本企業はアメリカ国内で11万人の直接雇用を生み出し、ディーラーや関連業を含めると220万人に及びます。さらにアメリカで製造された日本車が30万台輸出されており、経済的に密接な関係を築いているにもかかわらず、毅然とした対応が見られません。

日本政府の「なめられたくない」という姿勢は結構ですが、それだけでは戦えません。トランプはロジックに弱くはありません。彼が理解できる言葉で、実利を示し、交渉に臨むべきです。単なる「毅然とした態度」ではなく、緻密な戦略と数字に基づく交渉力こそ、今求められている外交姿勢だと私は考えます。

交渉力の不在と人材配置の誤り— 対米交渉に必要なのは経歴ではなく成果を出す戦略家

今回の関税問題に関し、日本政府の交渉担当である赤沢経済再生担当大臣が批判の的となっています。立憲民主党の野田元首相も更迭を求めましたが、そもそも赤沢氏が交渉の最前線に立つべき人物だったのかが疑問です。

彼はコーネル大学でMBAを取得しているものの、トランプと対等に渡り合うには、経済・企業・貿易構造を深く理解し、「相手の利益を先に提示する」戦略的交渉力が必要です。単に語学ができるだけでは、相手に響きません。

私はM&Aの現場で幾度となく交渉を経験してきましたが、トランプのような交渉相手には、数字で納得させる話法が必要です。たとえば「アメリカで作った日本車を日本に逆輸入すれば100万台売れる」といった提案は、トランプにとって「ウィンウィンの解決策」であり、「お前のアイディア、最高だ」と受け入れられる可能性が高いのです。

赤沢氏には残念ながらそのような発想や交渉技術が見られません。それどころか、彼は「新しい資本主義」「スタートアップ」「感染症危機管理」など、7つもの役職を兼務しています。これでは現場に集中できるはずもありません。

交渉の現場に必要なのは、専門知識と柔軟な発想、そして相手を納得させる「語り口」です。もし交渉の最前線に立たせるなら、私が推すのは上川陽子氏。英語力、胆力、そして死刑執行の判断も下せる冷静な判断力を兼ね備えた数少ない人物です。

EU・メキシコ・カナダへの制裁関税— トランプ流「政治関税」は国家経済に何をもたらすか

EUやメキシコ、カナダに対しても、トランプは相次いで30~35%という高関税を表明しました。理由は表向き「貿易赤字」「不法移民」「薬物密輸」などですが、実態は「報復に対する報復」「好き嫌い」に近いものです。

たとえばカナダはアメリカの最大の貿易相手国であり、特に木材や農産物の対米輸出が多い国です。ここに35%の関税が課されれば、カナダ経済だけでなく、アメリカ国内の物価上昇に直結します。住宅建材や食品価格が上がれば、アメリカの一般消費者が直撃を受けることになります。

EUに関しても、ワインや車、化学製品などの対米輸出に大きな影響が及びます。特にフランス産やドイツ産の高級品が狙い撃ちされることで、アメリカ産の代替品が売れる構図を作り出しています。

これは明らかに「経済論」ではなく「政治論理」で動いており、トランプ政権下のアメリカが「保護主義のヤクザ外交」に舵を切ったことを象徴しています。国際的な信頼は損なわれ、世界経済の不安定化を招くリスクもあると私は懸念しています。

銅に50%関税という愚策— EV時代に逆行するインフラ制裁の矛盾

アメリカ・トランプ前大統領は、銅および銅製品に対して50%の追加関税を課す方針を打ち出しました。銅は電線や配管などのインフラだけでなく、EV(電気自動車)や再生可能エネルギー関連機器に欠かせない戦略資源です。安全保障を理由にした発言ではありますが、私はこの政策に対して非常に懐疑的です。

というのも、アメリカ国内では銅の自給体制がほとんど整っておらず、供給元はチリ、コンゴ、中国、日本などに大きく依存しています。これらの国々からの輸入に高関税をかけるということは、製造コストの高騰、ひいてはEV産業全体への打撃となり、アメリカ経済に跳ね返ってくるのは明白です。

現在、世界中で脱炭素化が進む中、EVやスマートグリッドの整備は国際競争力の源です。銅の安定供給を妨げるような措置を取ることは、「アメリカ・ファースト」の名のもとに未来産業の首を絞める結果をもたらすでしょう。

また、こうした突発的な関税措置は、グローバル企業のサプライチェーンに不確実性をもたらします。これにより、アメリカ国内での新規投資や設備投資が減少する恐れもあります。トランプ流の即興政策は、市場の信頼を揺るがすだけでなく、アメリカ自身の競争力をも損ねかねないのです。

トランプ移民政策の自己矛盾— 労働力不足と妻の出自に苦しむ「排除と容認」のジレンマ

トランプ氏の移民政策は常に矛盾をはらんでいます。最近では、農業やホテル産業などでの労働力不足に対応するため、農家が保証する場合に限って不法移民を取り締まり対象から除外する方針を示しました。これは産業界からの強い反発を受けたことによる“現実的な妥協”ですが、私に言わせれば「最初からわかっていたこと」です。

アメリカの農業・建設・宿泊業は、不法移民によって成立していると言っても過言ではありません。特に季節労働者の多くがビザを持たずに働いている現状において、全面的な排除は現実的ではないのです。

皮肉なのは、トランプ氏自身の夫人であるメラニア氏も、移民としてアメリカに渡り短期間で市民権を得た経緯があるということです。さらに、彼のフロリダの別荘「マール・ア・ラーゴ」で働いているスタッフの多くが外国籍労働者である点も、移民排斥を掲げる立場と矛盾しています。

加えて、「出生地主義」の撤廃も打ち出していますが、これは自らの息子バロン氏の国籍すら揺るがしかねません。制度の合理的見直しではなく、排外主義に基づく政策は、アメリカの社会と経済の根幹を揺るがす危険を孕んでいるのです。

ノーベル平和賞を狙うトランプ— ネタニヤフとの癒着と危険な和平演出

イスラエルのネタニヤフ首相は、トランプ氏をノーベル平和賞に推薦する旨を記した書簡をホワイトハウスで直接手渡しました。推薦理由は「アブラハム合意」──イスラエルとアラブ諸国の国交樹立を仲介したという実績ですが、私はこの動きを冷ややかに見ています。

確かに外交的成果はあったかもしれませんが、トランプ氏の本質は「平和」とは真逆です。対中関係、対イラン関係、そしてウクライナ危機やガザ紛争への介入姿勢を見れば、「火に油を注ぐ」ような態度ばかりが目立ちます。

ノーベル平和賞の候補になるには、理念と一貫性、そして長期的な安定をもたらす指導力が必要です。推薦状を使った政治的パフォーマンスは、本来の趣旨から逸脱しています。ネタニヤフ氏の推薦には、ガザ情勢へのアメリカの関与を自国に有利に導きたい思惑が見え隠れします。

トランプ氏の「平和への貢献」が演出である限り、世界の平和は彼の自己顕示の道具にすぎません。私はこのような候補が「平和」の象徴となることに強い違和感を覚えています。

EUの通貨戦略と日本の資産運用— 米国債依存からの脱却を進める好機

EUがユーロの国際的競争力強化のために、共同債(ユーロ債)の発行に本腰を入れ始めました。これはドル一強体制に対抗するもので、コロナ禍以降に導入された財政出動の手法を恒常化させようとする動きです。

発行残高はまだ米国債に及びませんが、私はこの動きを高く評価しています。ユーロ債は加盟国の連帯性を高め、資本市場としての欧州の信頼性を向上させる手段となります。

日本もまた、米国債に依存しすぎた資産運用を見直す好機です。リスク分散の観点からも、全体の3分の1程度をユーロ債に振り向けるのは極めて理にかなっています。米国の政治的・財政的不安定さが増す中で、ユーロ圏は比較的制度的安定性があります。

中国はすでにユーロ債シフトを始めており、日本が同様の戦略を取ることで、国際金融の分極化を促進し、ドル依存のリスクを低減できるでしょう。今こそ日本の外貨準備戦略を見直すタイミングだと、私は強く感じています。

—この記事は2025年7月13日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

関連コンテンツ

Lifetime Empowerment 学び続ける世界に、力をLifetime Empowerment 学び続ける世界に、力を

より詳しい情報をご希望の方は、
お問い合わせフォームより問い合わせください。