
英語教育やIT人材育成などの専門教育の欠如
英語教育の実態
日本の英語教育は、受験対策に偏った文法や読解中心のカリキュラムが長年続いてきました。ALT(アシスタント・ランゲージ・ティーチャー)の活用が進んでも、授業全体を英語で進められる教師が少ないのが現状です。さらに、小学校への英語導入が拡大しても、専門的な指導スキルを持った教師が不足しており、教育の質が一様でないことが問題視されています。
グローバルビジネスでは英語が共通言語となっているだけでなく、海外の情報や研究成果をダイレクトに取得する手段としても不可欠です。国際競争力を取り戻すためには、実践的な英語運用能力を養成するカリキュラムと、教員の育成体制が急務といえます。
IT教育の遅れとデジタル人材不足
IT教育も同様に立ち遅れています。プログラミングが中学校で必修化され、小学校でも段階的に導入が進んでいるものの、専門的に指導できる教員が足りないため、形だけのカリキュラムに終わっているケースが少なくありません。AIやデータサイエンスなど高度な分野で活躍できる人材を育成するには、初等・中等教育の段階からデジタルリテラシーと論理的思考力を体系的に培う必要がありますが、現状では「パソコンの操作方法を教える」レベルにとどまっていることが多いのです。
さらに、企業側のリスキリングやアップスキリングも十分に進んでいないため、社会全体でIT人材が不足している状況が続いています。一部の先進企業はデータ分析やAI技術などを短期間で学べるプログラムを社内で提供していますが、こうした取り組みが広く浸透しているとは言い難いです。教育行政と産業界が協力して、IT教育を質・量ともに拡充しなければ、日本企業が世界市場で優位性を持つことは難しいでしょう。
実践の場と学びの循環
英語やITだけでなく、知識を「教える」だけで終わらせず、「実践する」場を作ることも重要です。欧米ではインターンシップやプロジェクト型学習が一般的で、学生が在学中に社会の現場を体験しながらスキルを身につけられる仕組みがあります。一方、日本では学校と社会の接点がまだ薄く、理論と現実の間に乖離があるのが現状です。企業の研修制度も座学が中心で、実務との結びつきが十分ではありません。
このギャップを埋めるには、産業界や地域社会、大学などの連携が不可欠です。Amazonが社内向けにデータ分析やAI技術の研修を提供し、学習機会を大幅に拡充しているように、企業そのものが教育機能を担う体制が日本でも必要とされています。グローバル市場での競争力を回復するためには、英語教育やIT人材育成において専門性を高めるだけでなく、社会全体で学びを循環させる仕組みを整えることが大切です。
—この記事は、11月に開催された向研会での講演『新・教育論』の内容を一部抜粋し、編集したものです。講演内容を全編視聴されたい方は、以下のリンクよりご視聴いただけます。