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KON1065「所有者不明土地問題/ワーキングホリデー拡充/2025年総選挙と世界各国の動向/防衛省の司令部地下化計画」

2025.01.10
2025年
KON1065「所有者不明土地問題/ワーキングホリデー拡充/2025年総選挙と世界各国の動向/防衛省の司令部地下化計画」

▼所有者不明土地問題
自治体による強力な再開発支援の必要性

現在、深刻化しているのが「所有者不明土地」の問題です。これは都市部だけでなく、温泉地やリゾート地、農村地域を含め日本各地で発生しており、相続人が不明だったり、相続手続きが完了していなかったりする土地が増えている状況です。政府は公益性のある事業を対象に、法務局が事業者に代わって所有者や法定相続人を調べて通知できるようにする方針を示しました。こうした取り組みによって、相続手続きが進まず放置されがちな土地を活用しやすくする狙いがあります。

しかし、相続人を見つけるだけでは根本的な解決にはつながらないとの指摘も強いです。実際に、故人の相続をめぐって多くの遺族が権利を分散してしまい、印鑑を押してもらえず土地が宙に浮いたままになるケースが少なくありません。温泉で知られるリゾート地や、かつてバブル期に乱立したマンションなどでは、相続人が海外移住していたり、そもそもその物件や土地に関心を持っていなかったりすることもあります。結果として、施設の老朽化や温泉源の維持管理ができなくなり、倒壊や環境問題を引き起こすケースも見受けられます。
そのため、自治体が主体となって所有者不明の土地を買い取り、その土地を再開発や観光資源として活用できる仕組みが不可欠だと考えられます。適切な権限の付与と予算の確保があれば、空き家・空き地の問題を新たなまちづくりに結びつけることも可能でしょう。高齢者社会の進行や都市部への人口集中が進むいま、地域の再生や経済活性化の観点からも、この所有者不明土地問題を積極的に解決する取り組みが急がれます。

▼ワーキングホリデー拡充の狙い
インバウンド強化と人手不足解消の両立

政府は、イギリスやカナダなどの一部の国を対象に、ワーキングホリデービザの運用を拡充し、2回以上の取得や二年連続での滞在を認める方向へと動きました。これにより、若い海外人材が日本の飲食店や旅館、観光施設などで働きながら日本の文化や生活を体験しやすくなります。特にコロナ禍からの回復を目指す観光業界では、「語学力を備えた人材が不足している」「多文化対応がスムーズに行えない」といった課題が顕在化しており、海外の若者が現地語でSNSやWebを通じて情報発信することは、インバウンド客の呼び込みにも大いに貢献すると期待されています。

実際、東南アジアや欧米諸国ではワーキングホリデーをきっかけに、長期的にその国で就職し定着する若者が少なくありません。日本でも外国人労働者の受け入れ拡大が議論されるなか、観光やサービス業など人手不足が深刻なセクターとのマッチングが進めば、経済活性化と国際交流を同時に促進できるでしょう。
さらに、優秀な人材にとっては、日本での滞在期間の延長や就労範囲を広げる政策は大きな魅力となります。政府には、ワーキングホリデーを足がかりに長期滞在を検討する人々の受け入れ制度を整備しつつ、多文化共生の環境づくりを本格的に進めてほしいと思います。こうした取り組みが進展すれば、日本の地域経済や観光地の活性化に寄与するだけでなく、未来志向の国際人材育成にもつながると考えます。

▼2025年総選挙と世界各国の動向
インフレや治安への不満が与党への圧力に

世界各国を対象とした世論調査では、物価上昇(インフレ)や犯罪・暴力などへの不安や不満が強い地域ほど、政権与党の支持が低迷する傾向が報告されています。とりわけ急激なインフレが家計に打撃を与えると、国民は現行政府を責任者とみなしやすいため、与党が選挙で議席を大幅に失う例が相次いでいます。こうした状況は先進国でも見られ、イギリスのようにインフレ対策が後手に回った国では、与党が選挙で苦戦するケースが続出しています。

日本でも2025年には参議院選挙が控えており、昨今の物価高やエネルギーコストの上昇が家計を圧迫している事実は否めません。また、治安面での大きな問題は比較的少ないとはいえ、SNSを通じて広がる事件・事故の情報が不安を煽ることもあり、政治への不信感につながりやすいと指摘されています。
さらに、途上国や新興国で経済が好調だと答える国々では、与党の立場が強いことも多く見受けられます。日本や韓国、フランスなど「経済の調子が良いとは言いづらい」とする国々では、国民の悲観的な見通しが政権批判に直結しやすい構造があるようです。2025年の参議院選挙では、インフレ対策や景気の先行きが主要な争点となる可能性が高く、どのようなビジョンと具体策を提示できるかが、各党の命運を分けるといえそうです。

▼防衛省の司令部地下化計画
国民保護への議論が求められる安全保障体制

防衛省は2025年度予算案に、九州・沖縄の航空自衛隊基地などを中心とした司令部施設の地下化に向けた関連費用を計上しました。これは、台湾有事などへの備えとして、指揮系統の“継戦能力”を確保する狙いがあるとされています。軍事拠点を地下に移すことで、ミサイル攻撃や空爆などのリスクを減らそうとする動きですが、一般国民に対する防空設備はまだ十分とはいえません。

本来、国家の安全保障では国民全体をいかに守るかが最大の課題であり、軍事施設や防衛省の庁舎のみが優先的に地下化されることに対して、「私たち一般市民はどうなるのか」という疑問や不満が出てくるのは自然な流れです。フィンランドやイスラエルなど、安全保障意識の高い国々では、長年にわたって市民向けのシェルターや地下施設を整備し、有事の際の避難行動を日常的に訓練しています。
日本においては、地震などの自然災害対策との連携を視野に入れ、国民保護を重視したインフラ整備が求められるでしょう。とはいえ、防衛計画全体を公表してしまえば安全保障上のリスクが高まるとの懸念もあるため、情報開示の範囲や方法は慎重に検討されるべきです。国防が単に軍隊の問題ではなく、国民生活や社会インフラ全般にかかわるテーマだという認識を共有することが、今後の鍵になると思います。

▼日中関係と”ゴールデンビザ”
富裕層ビザ緩和がもたらす人的交流拡大

岩屋外務大臣は、中国人富裕層向けに有効期間10年の観光ビザを新設し、団体旅行ビザについては滞在可能日数を30日に延長するという緩和策を発表しました。一方、中国も日本人向けの短期滞在ビザの免除措置を再開しており、両国間での相互交流を促進する狙いが見えてきます。インバウンド需要の増大を見込む日本政府にとって、中国からの富裕層は高い消費力を持つ市場として期待値が高く、東京や大阪だけでなく、地方都市や観光地においても経済効果が期待できます。

中国人富裕層の多くは海外に資産を分散させる傾向が強まっており、長期滞在ビザの取得を足がかりに別荘や不動産を購入するケースも少なくありません。こうした動きがさらに進めば、地域経済に新たな投資や観光客誘致の機会が生まれる可能性があります。ただし、中国国内の政策や資金移動に関する規制が今後強化されることもあり得るため、必ずしも安定的に人と資金を呼び込めるかは不透明な面も否定できません。
それでも、日中の経済・人的交流が深まれば、ビジネスチャンスの拡大だけでなく、双方の文化的理解が進み、国際社会における連携の基盤を強固にできるかもしれません。日本としては、富裕層の消費だけを期待するのではなく、多様なレベルでの交流や投資を呼び込み、地域の活性化やイノベーション創出につなげる取り組みが重要だと考えます。

▼中国資産運用大手の日本進出
富裕層ビジネスと共産党規制へのジレンマ

中国の大手資産運用会社ノアホールディングスが、日本に新たな拠点を設立したと報じられました。同社の英語名は「Noah Holdings」で、“ノアの箱舟”を想起させるブランドイメージを持っているともいわれます。これは、中国の富裕層が資産を海外に移動させ、新天地で新たな生活基盤を築く一種の“方舟”になり得るサービスを提供する意図があると推察されています。

近年、中国では資産の国外流出に対して共産党が厳しく目を光らせており、規制強化の動きも見られます。そうした状況下で、ノアホールディングスが日本に拠点をつくるというのは、富裕層の資産管理を支援する一方、投資対象として日本市場を選好している層が一定数いることを示しています。ただし、共産党の規制がさらに強化された場合、顧客資産の移動がスムーズに行えなくなる可能性も十分に考えられるため、同社としてはリスクを抱えながらの挑戦になるといえます。
日本側から見ると、中国の富裕層がお金を持ち込み、国内で不動産投資やビジネス投資を進めることは新たな経済チャンスにほかなりません。しかし、地政学的リスクや企業・個人情報保護の観点も慎重に考慮する必要があります。自治体や企業が海外資金を受け入れる際、関連する法律や規制を整備し、透明性を高めていくことで、双方にとってメリットのある関係を築けるのではないでしょうか。

▼韓国政治の混乱
大統領職務代行への弾劾と超流動的な政局

韓国では、大統領の職務を代行してきた首相に対する弾劾訴追案が可決されるなど、政治的混乱が続いています。とりわけ、先の政権で与党・野党の対立が深まっていたところに、新たな争点が浮上したことで、事態は代行職まで弾劾される異例の状態にまで発展しました。韓国では大統領制の特性上、政権与党と大統領が同調していない場合、国会とのせめぎ合いが激化しやすく、弾劾につながる事例も決して珍しくありません。

現職大統領のユン氏自身も、さまざまな疑惑や政策課題を抱えているとされ、一部では逮捕を求める動きまで報じられました。しかし、実際には大統領周辺が強固に守りを固め、野党と警察が衝突しかねない状況に陥っているなど、政治の不安定要素は増すばかりです。
このような韓国の国内情勢は、外交や経済にも大きく影響します。日本にとっても、防衛協力や半導体・自動車産業のサプライチェーン確保など、韓国との連携は重要なテーマであるため、韓国の政局が流動的であることは先行きに不確定要素をもたらします。今後、政権がどのような形で安定を取り戻すのか、あるいは早期の選挙に突入して新たなステージへと移行するのか、注視していく必要があるでしょう。

—この記事は2025年1月6日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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