▼セブン&アイHD 買収提案で「全事業の統合に関心」
アクティビストに反する、したたかな買収提案
カナダ・アリマンタション・クシュタールのアレックス・ミラー社長兼CEOは17日、セブン&アイ・ホールディングスへの買収提案について全事業の統合に関心があると語りました。セブン&アイの主力であるコンビニ事業だけでなく、スーパーや外食チェーンなどを一括して傘下に収めたい考えで、セブン&アイの同意がない買収については現時点で想定していないということです。
現在セブン&アイは、物言う株主たちから、利益を生んでいるコンビニ事業以外の事業を売却すべきだという強い圧力を受けています。しかしクシュタール側は、コンビニ以外の事業も含めた統合を検討しているため、すぐに売却はせずにそのまま残しておくよう求めています。
セブン&アイの主なセグメント別業績を見ると、海外のコンビニ事業は大きな規模を誇り、国内のコンビニ事業も好調です。しかしスーパー事業は収益を上げられておらず、アクティビストたちは不採算事業を切り離すべきだと主張しています。
クシュタールは、セブン&アイ傘下の、赤ちゃん本舗やロフト、デニーズなどのレストラン事業やコントラクトフード事業、イトーヨーカドー・ヨークの首都圏向け商品製造を行うピースデリ、さらにはアメリカで一度破産したタワーレコードの国内店舗(現在71店舗)、ぴあといったチケットや出版事業等についても、引き続き保有するべきだとしています。セブン&アイが不採算事業を売却し、利益を上げている事業に集中しようとしている中で、クシュタールは買収後にこれらの事業を再検討することを提案しています。この提案は、非常に戦略的で慎重なものと言えるでしょう。
▼睡眠ビジネス 起こせ!睡眠2000億円市場
結局は、自分が寝たいだけ寝るのが一番
日経新聞は14日、「起こせ!睡眠2000億円市場」と題する記事を掲載しました。これはビックカメラやニトリが寝具の売り場面積を拡大したほか、西川やジンズもデジタルで睡眠を管理、改善する商品を発売したと紹介。睡眠関連の市場規模が年々増加しているのを受けたもので、日本人の平均睡眠時間が足りていない現状を踏まえ、各社は開拓の余地が大きいと見ているということです。
ジンズは、ブルーライトカット率を高くした睡眠環境を整えるメガネを発売しています。また私自身もスマートウォッチを使用していますが、睡眠時間や呼吸状態を測定し、朝になるとスマホにデータが転送されます。さらに現在、私が使用している息子が買ってくれたベッドは心拍数や深い睡眠・浅い睡眠などを測定するセンサー付きです。しかしベッドのデータとスマートウォッチのデータが一致しないことがあり、どちらが正確なのかと心配になることもありますが、結局のところ、自分が寝たいだけ寝るのが一番だと感じています(笑)
睡眠関連事業を行っている主な企業としては、西川、ビックカメラ、ニトリ、イケア、ジンズなどが挙げられます。また年代別に推奨される睡眠の在り方は異なっており、特に高齢者には、長時間寝そべるよりも、立って歩くことが推奨されています。
日本の労働世代における睡眠時間の割合を見てみると、20歳以上では6~7時間が多いようです。また私自身の睡眠は5~6時間が多いので、いわゆるショートスリーパーに分類されます。しかし、調査データが59歳までしかないのは失礼な話です。私はまだ働いていますし、高校時代と比べても睡眠時間に大きな変化はありません。
▼国内モバイル通信調査 モバイル品質調査全18部門中13部門で首位
これまでの印象とは大きく異なる調査結果に
KDDIは16日、英オープンシグナルが実施した日本のモバイル通信調査で、全18部門中13部門で1位を獲得したと発表しました。4月の前回調査で受賞した5部門に加え、一貫した品質、信頼性、エクスペリエンスなど新たに8部門でも受賞したということで、これについて技術部門の前田執行役員は「努力が間違っていなかったと確信できた」と語りました。
今回の結果で驚いたのは、NTTドコモが4位となった部門が多かったことです。トップを多く獲得したのはKDDI(au)で、また楽天モバイルはこれまで品質面で劣ると言われていましたが、今回の調査では楽天の評価が上がりました。私は日本中を移動しますので、どこでも通話ができるのが必須条件ですが、私の蓼科にある別荘ではauはつながりません。ドコモの基地局が近くにあるため通信状況は大変よく、ドコモに対する信頼が非常に高かったのですが、この調査結果ではドコモの順位が下がりました。
KDDIが18部門のうち13部門でトップとなったことは、これまでの私たちの経験や認識とは異なっています。特にソフトバンクや楽天モバイルは、以前は品質の問題で通話ができない場所が多いとされていましたが、今回の調査結果では違います。オープンシグナルはちゃんと調査したのか?と思えるほどで、これまでの世間の印象とは異なる結果に私は驚いているのです。
▼企業ブランド価値 アジア8か国・地域の首位は韓国サムスン電子
日本を含まない調査ではあるが、トップ企業の高価値は紛れもない事実
日経リサーチが実施した、企業のブランド価値に関する調査結果によると、アジアの主要8カ国・地域におけるブランド価値の首位は韓国サムスン電子だったことが分かりました。スマートフォンや半導体で大きなシェアを獲得していることなどが要因で、日本企業の最高位は4位のソニーだったということです。
私が信じられないのは2位のadidasで、これほどの存在感を持っているのか?と驚きました。Appleが上位に入ることは理解できるのですが、adidasがNIKEを上回るのを見たのは初めてです。
調査結果を細かく見ると、SAMSUNG、adidas、Apple、SONY、NIKEと続き、その後にHONDA、TOYOTA、Microsoft、Panasonic、BMWがランクインしています。また、YAMAHAが上位に位置しているのは私には意外でした。YAMAHAは世界的に有名なブランドではありますが、これほど高い評価を受けるのは珍しいと感じます。そしてPHILIPSも日本ではあまり見かけませんが、YAMAHAの次にランクインしており、そしてMercedes-Benz、Nestlé、Coca-Cola、LGなどが続いています。
この調査はアジア版とはいうものの日本は含まれず、中国、台湾、タイ、インド、ベトナム、インドネシア、マレーシア、フィリピンといった国々で実施されているため、日本国内の感覚とはかなり異なっています。いずれにしてもブランド認知度というのは企業価値に直結しており、SAMSUNGの企業価値が常に高く、何兆円にもなることをこの結果は示しています。
▼国内労働市場 2035年時点の労働力不足推計384万人
次期選挙での各党公約には、最も大事なことが掲げられず
パーソル総合研究所と中央大学が17日にまとめた推計によると、2035年時点の日本の労働力不足が、現在の2倍となる384万人に達する見通しが明らかになりました。高齢者や女性、外国人の労働参加が進むことで就業者数は6%増加する一方、短時間労働の広がりにより、就業者1人当たりの年間労働時間が9%減少するということです。
労働力不足の対策として、省人化の取り組みが注目されています。具体的には産業ロボットや配膳ロボットなどの導入、過剰サービスの削減が挙げられます。しかし、これらの対策を講じても、人手不足が解消される見込みはありません。このため日本は外国人労働者の受け入れを増やすか、あるいは一部の業務を縮小または廃止するかという選択に迫られています。しかし来週行われる衆議院選挙においては、外国人労働者の大幅な受け入れ拡大を公約に掲げる政党は見当たりません。選挙でこの話題を避けるのは、仕事が奪われるかもしれないと有権者に思われたくないからなのでしょう。
製薬企業の研究所で働いている方から、次のような質問をいただきました。「新卒採用で近年、中国籍(高校または大学まで中国、日本の大学院で博士号取得)の方の応募が増えてきました。皆さん、日本語、英語、中国語を流ちょうに話し、非常に優秀です、アメリカ、中国ではなく日本を選ぶモチベーションがどこにあるのかを知り、リテンションにつなげたいと考えていますが、個人事情に加えて国際情勢などから日本が選ばれる理由というのはあるのでしょうか」
この問いに対しては、私は「あります」とお答えできます。まず最も優秀な中国人学生は、アメリカを目指します。そして超優秀な人材と競争を避けたい学生が日本にやってきますが、そんな彼らであっても日本の学生より優秀で、日本の国立大学でのクラスのトップは中国からの留学生が多いと言われています。さらに中国国内では、アメリカやイギリスに留学した人が帰国後に高いポジションを得ることが多く、日本で学んだ学生は不利だとされています。多くの中国人留学生は、心から日本に来たかったわけではありません。日本の奨学金を獲得できたからという学生もいるようです。
これは日本人学生のレベルが下がっており、日本と中国との学力レベルの差が大きく開いていることが原因で、今の状況は当たり前のことなのです。中国では、いまだに大学レベルにおける競争が激しい社会であり、それ故に中国人学生の学力レベルは高く保たれています。日本で学んだがために中国での出世を望めない優秀な学生を、日本の企業が採用してリテンションするのは非常に価値があると言えます。
—この記事は2024年10月20日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。