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KON1053「全米大学ランキング/米ゼネラル・モーターズ/米テスラ/スズキ/中国ファーウェイ」

2024.10.11
2024年
KON1053「全米大学ランキング/米ゼネラル・モーターズ/米テスラ/スズキ/中国ファーウェイ」

▼全米大学ランキング 2025年版のランキング発表
全米ランキング上位校は、費用面でエリート学生に手厚い支援

USニュース&ワールド・リポート』は先月24日、2025年版の全米大学ランキングを発表しました。これは全米1500校を対象に、学生の卒業率、負債額、教員と生徒の比率、論文の引用回数など17の基準で評価するもので、総合大学部門は1位がプリンストン大学、2位がマサチューセッツ工科大学、3位がハーバード大学だったということです。

全米大学ランキングは複数の企業や団体が発行していますが、、卒業生の初任給や給料を基準としたものもあり、似たような結果が出ていますが、こちらではプリンストン大学が1位ではありません。プリンストン大学はやや理論に偏った学生が多い印象があり、上位となるのはスタンフォード大学やハーバード大学です。私の母校であるMITは、どちらのランキングでも2位か3位になることが多く、今回も2位という結果でした。

「米国大学ランキング上位5位大学の年間学費」の資料によると、5校とも現在の授業料は6万ドル台で、日本円に換算すると、145円の為替レートで約900万円から1000万円になります。非常に高額ではありますが、優秀な学生であれば学費は免除されることが多いので、成績がよければ心配は要りません。またMITでは女性やマイノリティを優先的に入学させる枠をつくって、それを条件に政府からの補助金を受けています。そしてMITは工学系の大学なので、試験を行うとインド人学生ばかりになってしまいますが、インド人学生に対しては一定の調整が行われ、これによって女性やマイノリティ枠が確保されています。このように、実は入試は公平ではありません。以前、私はMITの社外取締役を5年間務めていましたが、この問題は常に議論の的となりました。

成績が優秀な学生のほとんどは授業料が免除となるほか、学生によっては生活費までも免除されます。例えばバイオリニストの廣津留すみれさんは、ハーバード大学で授業料と生活費が免除され、さらに年に1回、大分の実家に帰るための交通費まで支給されていたそうです。ハーバード大学は卒業生からの寄付金による4兆円規模のファンドがあり、それをラリー・ピンクのような著名な投資家たちが運用しているため、実際には全学生を無償で受け入れることも可能です。しかし授業料を6万ドル程度と設定することで、競争力を保つという側面もあるため、授業料は高額に設定されています。

なお、アメリカ人学生に対しては、さまざまな奨学金や補助金制度が充実している一方で、外国人学生にはそうした支援はあまり提供されていません。私が学生だった頃には外国人でも同じ条件でしたが今はそうではなく、廣津留さんのケースは非常にまれです。彼女はバイオリンを専攻しながら数学を学ぶという、ハーバード大学が好むタイプの学生であったという背景があったからでしょう。このように表面的には学費は高いように見えますが、実際には多くの学生が先輩たちの寄付による運用益で無償で学び、女性やマイノリティには優しい制度が整っています。

▼米ゼネラル・モーターズ 従業員約1700人をレイオフ
大幅な賃上げ後、なぜ大量レイオフが行われるのか

米ゼネラル・モーターズがカンザス州の完成車工場で、従業員およそ1700人をレイオフ、一時解雇する見通しが明らかになりました。同工場でガソリン車の生産を11月に終了し、2025年後半からEVにシフトするための措置ということですが、世界的なEV需要の原則を背景に、生産ペースを見直す動きの一環と見られます。

GMは最近、大幅な賃上げを実施しており、工場で働くブルーカラーの従業員でも年収が1000万円に達するケースが出てきています。にもかかわらず、今回のレイオフという動きが起こることに矛盾を感じます。レイオフ自体は根本的な解決策にはなりません。いわゆる「エレベーターの論理」というものが働いているからです。これは、最後に雇われた従業員から最初に解雇されるというもので、長年勤務している組合員は解雇の対象になりにくい構造です。そのため、今回レイオフされるのは主に最近雇われた従業員であり、このような制度の下では不公平感が残ると言えるでしょう。

また、GMがこのような状況下で大幅な賃上げを行ったことにも疑問が残ります。経営陣に軸が無いように見受けられます。さらに、EV市場がこれから縮小する可能性がある中で、競争力を維持できるかどうかも懸念されています。トヨタなど他の自動車メーカーは多様な技術開発を進め、よい成果を上げており、また中国からは安価なEVが急速に市場に参入しています。このような動きに対してGMの対応が遅れているように見えるのは否めませんが、GMのセンスのなさがそうさせるのでしょう。

▼米テスラ ユーザー離反は凋落の始まりか
個人の言動が引き起こした、リベラル層離れ

ニューヨーク・タイムズは8月、「イーロン・マスクの暴言にテスラの販売急落」と題する記事を掲載しました。これはニューヨーク・タイムズが行ったアンケート調査で、保守派よりもリベラル層がテスラに不快感を抱いていることが明らかになったと紹介。テスラが実質的に何年もモデルチェンジをしていないことや、修理、メンテナンス不備の発覚、およびマスク氏の差別発言などを受け、これまで好んで購入していたリベラル層がテスラを避け始めているということです。

もともとテスラは、カリフォルニアを中心としたリベラル層が飛び付き、環境に優しい車として人気を集めました。私は、リベラル層が得意げにテスラ、テスラと騒いでいたのを思い出します。しかし、イーロン・マスク氏の異常な発言が度々問題視され、特に最近では極端に保守的な立場を取る発言や、応援団長としてトランプ氏を支持する動きが目立っています。またマスク氏は、女性を蔑視するような言動やテイラー・スウィフト氏に対する暴言などを繰り返しており、これがリベラル層の反感を買っているようです。こうした理由から、リベラルな層がテスラのイメージに強い違和感を覚え、購入を控えるようになったと考えられます。

テスラ車はCO2を削減し、環境に配慮したイメージで市場にうまく浸透しましたが、創業者で最大のオーナーであるマスク氏個人としての言動がそのイメージと大きくかけ離れているため、急速に販売が落ち込みました。とはいえ、マスク氏はスペースXなど他の事業を抱えているので何とかなるとは思いますが、現状では非常に厳しい状況だと言えるでしょう。

▼スズキ インド自動車販売店を6800店に
販売店拡大は、今後のEV化で重荷となるか

スズキがインドの自動車販売店を2030年度までに現在の7割増加の6800店に拡大する見通しが明らかになりました。スズキは地元企業などと販売店契約を結び、ここ数年は年間200店ペースで拡大してきましたが、所得水準が高まる地方都市にも足場を築き、インド全土で販売網を構築する考えです。

これは驚くべきことです。6年間で約3000店を増やすということは、年間で500店ずつ開業することになります。これは従来の10倍以上のペースであり、非常に大胆な拡大計画と言えます。

インドの新車販売台数のグラフによると、スズキは圧倒的な台数で1位の座を占めており、2023年にはさらに販売台数を伸ばしました。2位の韓国・ヒョンデも好調で、続いて地元企業のタタやマヒンドラ&マヒンドラも順調に成長しています。これに対してトヨタはかなりの遅れをとっており、また起亜はヒョンデのグループ会社であるため両社を合算すれば強固な競争力を持っていることは間違いありません。ホンダは健闘していますが、ルノーはインド市場にあまり積極的ではなかったため、現在は伸び悩んでいるようです。ルノーはカルロス・ゴーン氏が在任中にインド市場に参入したものの、伸び悩みに変わりはありません。

しかしこのデータではスズキがインド市場で圧倒的なシェアを持っているように見えますが、実は問題点があります。というのも、このデータにはEVが含まれていません。インドでは現地企業や中国メーカーがEV市場で勢いを増していますが、スズキを含めた日本の自動車メーカーは苦戦しています。今後、インドでのEV化が急速に進むとなれば、スズキが依存するガソリン車やプラグインハイブリッド車では競争力が低下する可能性があります。そのため、急速に拡大しようとしている販売店網が将来的には重荷となるリスクも考えられます。

スズキはまだ優れたEV車を持っていないため、これからEV分野での対応が求められていますが、いずれにしても日本の自動車メーカーとしては珍しく、スズキがインド市場でトップを走り続けていることは非常に誇るべきことだとは思います。

▼中国ファーウェイ 高級EVセダン「Stelato S9」発売
見掛けではなく、走行性能がどうであるかを注視したい

中国ファーウェイは8月、高級EVセダン「Stelato S9」を発売しました。これはファーウェイと北京汽車が共同開発し、航続距離や静粛性、安全性のベンチマークで競合するメルセデス・ベンツなどの車種を上回ったということで、競合の販売台数が月間100台程度にとどまる中、Stelatoは発売開始72時間で、およそ5000台の注文が確定したということです。

しかし私は、にわかには信じがたいと思っています。かつて深センで技術的な遅れを指摘されていたファーウェイが、北京汽車と組んで高級車市場に参入し、しかもメルセデスやBMWに匹敵するような車を開発したとは驚きです。特に航続距離が一回の充電で800キロに達するというのは、出来過ぎた話にも思えます。しかし車内装備や仕様を見ると大変豪華で、どのようにしてファーウェイがこの技術を実現したのか非常に疑問です。もちろんファーウェイには北京汽車が付いているので、完全な素人でないことは確かですが、発売直後のデータだけでなく、今後の展開を慎重に見守る必要があるでしょう。多くの人は、次はファーウェイがどこまで成功するのか、さらにはTSMCのような大手企業がどのように関与しているかにも関心を寄せています。

Stelato S9がこれほど急速に売れたのは、デザインや仕様のよさが大きく影響していると思いますが、実際に走行した際のパフォーマンスがどうなるかが最も重要です。私はこの急速な成功について少し疑問を持ちながら、今後の動向を注視すべきだと考えています。

—この記事は2024年10月6日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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