▼米政策金利 0.5%の利下げ決定
日本の次フェーズのため、勇気あるリーダーシップが待たれる
FRBは18日、政策金利を0.5%引き下げ、年4.75%~5%とする方針を決定しました。市場では0.25%の利下げと見られていましたが、雇用情勢の悪化を食い止めるため、通常の倍の利下げに踏み込んだもので、4年半ぶりの利下げによりFRBの金融政策が転換点を迎えた形です。
今回の決定については、直前まで0.25%か、0.5%かという議論がなされていましたが、多くの予測では0.5%が優勢でしたので、この決定はおおかたの予想どおりと言えます。
イギリスも今後利下げに踏み切ると予想されていますが、すでにECB(欧州中央銀行)は同時期に利下げを実施しています。FRBはしばらく利上げを続けてきましたが、今回0.5%の大幅な利下げを決定し、今後も段階的に金利が引き下げられていくでしょう。一方、日本銀行は金利を0.25%としましたが、今年はこれ以上の動きはないだろうと見られています。日銀の植田総裁は以前の政策での失敗により、今回は慎重な姿勢を見せていますが、いずれは金利を上げていかなければならない状況にあります。
亀井静香氏のモラトリアム措置によって救済された企業は、金利のない世界の恩恵に浴してきました。しかし、これらの企業は依然として経営改善ができておらず、金利を段階的に引き上げるとなれば、利息の支払いが困難となり、数十万社の倒産が相次ぐリスクがあります。このアベクロ後遺症を克服し、次のフェーズに進むためには、日銀や政治家、財務省がリーダーシップを発揮しなければなりませんが、その勇気は今の段階では見えません。
また「米国の物価上昇率の推移」のグラフによると、米国の物価上昇率は徐々に落ち着きを見せており、その動向が確認されています。
▼兵庫県・斎藤知事 斎藤知事の不信任決議を全会一致で可決
リーダーにはIQとEQの両方が必要
斎藤氏がパワハラ疑惑などを内部告発されたことについて、県政に深刻な停滞と混乱をもたらした政治的責任は免れないとしたもので、これを受け、斎藤氏は10日以内に辞職、失職するか議会を解散するかの選択を迫られますが、斎藤氏は議会終了後、「不信任を重く受け止め、しっかり考えたい」と語りました。
斎藤氏の鈍感力が非常に話題となっていますが、現在の自民党総裁選に立候補している小林氏と共通する部分があるように感じます。彼らは東京大学を卒業して、大蔵省や財務省、総務省といった省庁でキャリアを積み、優秀であると評価されてきました。こうした背景を持つ人物には、IQは高いがEQ(心の知能指数)が弱いという共通点が見られます。茂木氏も同様です。つまりIQだけではなく、EQがなければ人を動かすことはできません。しかし斎藤氏は「パワハラではなく指導だ」と主張しており、その厳しい指導によって追い詰めるような態度が問題視されています。そして彼は副知事に告発者を探させ、最終的には相手を陥れるといった、とんでもない状況に追い込みました。IQは優れているかもしれませんが、人を動かすために必要なEQが欠けていることが、彼の一番の問題なのです。
一方、同じ知事でも千葉県の熊谷知事は違います。熊谷知事はNTTコミュニケーションズ出身であり、後に一新塾を経て政治の道へと進みました。彼は千葉市の市会議員を務めた後、32歳で千葉市長に当選、日本最年少の政令指定都市市長として注目を集めました。私もよく知っていますが、熊谷氏は常に周囲の意見を聞き、アイデアを引き出すスタイルを採用しています。先日の日経新聞の記事にもありましたが、このようなやり方を採用している彼のことを悪く言う人はいません。彼のリーダーシップは部下に力を発揮させ、共に課題を解決していく姿勢が評価されており、上から目線ではない点でも支持を集めています。このようなスタイルは、企業経営では当たり前のやり方です。
斎藤氏は自分のほうが偉いという意識が強すぎるために改善の見込みは低く、政治の世界や首長のような権限が強い仕事には就くべきではありません。彼は多くの公約を実現し、特に財務面では兵庫県の財政を立て直すなどの実績を上げていますが、人望を得られないという致命的な欠点があるのです。今後の動向は今週中に明らかになるでしょうが、仮に議会を解散しても再び不信任案が出され、過半数の賛成で辞職となる可能性が高く、そこまで追い込むというのも一つの手かもしれません。
▼自民党総裁選 首位は石破元幹事長
選挙応援で人を集められるか否かがトップの決め手
自民党の次の総裁にふさわしい人は誰かを聞いた9月の世論調査で、報道各社の結果はいずれも1位が石橋氏、2位は小泉氏、3位は高市氏となったことが分かりました。小泉氏は8月下旬までは首位でしたが、各局の討論番組などで解雇規制の見直しなどを打ち出したものの、改革の方向性がはっきりしないとして、党内外から批判が出ており、小泉氏の発言ぶりに不安を抱く人が増えたと見られます。
小泉氏が打ち出す改革の方向性に明確さがないなどは、以前から分かっていたことです。しかし総選挙が近づけば、選挙応援に誰が来るかが重要なポイントになるため、石破氏や高市氏ではなく、圧倒的な人気の小泉氏が必要となるわけです。今回の総裁選では決選投票が見込まれており、50人以上の議員票を集めたと思われる小泉氏にとって、非常に有利な状況です。
小泉氏は「ポエム大臣」と揶揄されており、彼の政策などには誰も期待していません。しかし選挙となると彼を支持する人が多く、特に中年女性に人気があります。選挙応援での発言内容よりも、人気があるかどうかが議員票に影響を与えるため、小泉氏には十分勝機があるのです。また世論調査は自民党員に限った調査ではないため、2位になったとしても自民党員は小泉氏にすがりたい気持ちが強いのだと思います。
一方、麻生氏が不穏な動きを見せており、特定の候補を支持するような動きが見られます。麻生氏が支持していると見られる候補者のサスペンダー大臣がどこまで票を集められるかは不透明ですが、麻生氏自身はキングメーカーを目指しているようです。
公明党の役割は、政策ではなく自民党の集票機構へ
公明党、山口代表の後任を選ぶ代表選が18日告示され、石井啓一幹事長のほかに立候補の届け出がなかったことから、石井氏の当選が決定しました。28日の党大会で正式に就任する見通しで、石井氏は「連立政権の一翼を担い、さまざまな政策を実現する先頭に立ち、粉骨砕身働く決意」と語りました。
最近の公明党は以前ほどの注目を集められず、その役割も変わってきています。かつての公明党は主義主張が強く、特に憲法改正に反対し、中国寄りの姿勢を鮮明にしていました。公明党創立者の池田大作氏がノーベル平和賞を望み、中国と親密であったことがその主張の根底にあったからですが、山口氏が安倍氏と連立を維持する中で、憲法解釈の変更や安保3文書にも賛成するようになりました。その結果、現在の公明党は、自民党の補完的な役割を担う存在となり、独自の主張が薄れてしまいました。公明党はもはや政策で目立つ存在ではなく、自民党にとっての集票機構なのです。
創価学会の支援により、公明党はかつて比例区で900万票を集めていましたが、近年では700万票を超えるのが精いっぱいです。しかし、その票は自民党にとっては重要であるため、自民党が公明党との関係にしがみついています。特に公明党は自民党の政策に強い異議を唱えることもなく、選挙の際には確実な票をもたらすため、自民党にとっては欠かせないパートナーだと言えます。
公明党の代表選がほとんど注目されなかったのも、党の影響力が低下しているからです。池田大作氏の時代には強力な組織力があり、現在も『公明新聞』や創価学会の『聖教新聞』を通じて支持を集めているものの、かつてほどの影響力は見られず、党首が誰であっても大きな違いがないと思われています。新たに代表となった石井氏は東京大学工学部の出身で、建設省出身を経て国土交通大臣も務めました。悪いうわさは全くなく人畜無害で、最も無難な人物です。
ちなみに、この状況は立憲民主党の党首選にも似ています。現党首の泉氏や女性候補を含む4名が立候補したものの、国民の関心は決して高いとは言えません。今のところは野田氏が最も票を集めているようですが、物足りなさを感じます。しかし、この4名しか出てこなかったのですから、仕方がありません。誰が選ばれても大きな変化は期待できないでしょう。
—この記事は2024年9月22日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。