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KON1049「老朽マンション問題/大阪再開発/都内商業施設/欧州空調市場/食料スタートアップ」

2024.09.13
2024年
KON1049「老朽マンション問題/大阪再開発/都内商業施設/欧州空調市場/食料スタートアップ」

▼老朽マンション問題 全面改修、解体に税制優遇
場当たり的ではない、政府による大胆で包括的な対策を

国土交通省が2025年度の税制改正に老朽マンションの全面改修や解体への税制優遇を盛り込む見通しが明らかになりました。老朽マンションを巡っては、建て替えで増えた部屋の売却益にかかる法人税、事業税などを減免する措置がありますが、これを全面改修や解体にも適用し、増加する老朽マンションの再生を後押しする考えです。

この程度の対策では老朽マンション問題の解決には不十分だと言わざるを得ません。築40年以上のマンションストック数の推移を見ると、その数は急激に増加し、2044年には463万戸という膨大な数字に達すると予想されています。現在の小規模な対策では、到底間に合うはずがありません。またマンションの建て替えには、居住者の5分の4以上の同意が必要で、合意形成が非常に困難です。さらには建て替えのための資金が不十分という問題もあります。

韓国では、この問題に対して斬新なアプローチを取っています。2棟のマンションを一緒に建て替えて巨大な建物を建設し、容積率を大幅に引き上げました。これにより元の居住者の部屋数の倍以上の部屋ができ、新規入居者の呼び込みに成功、この「外部経済」を建て替えの資金源としているのです。

日本でも、このような抜本的な対策が必要です。例えば東京都のような大都市では、区画ごとに一時的に借り上げて大規模な再開発を行い、災害時の備蓄施設や幼稚園、コンビニエンスストアなども併設するような総合的な開発を検討すべきです。100メートル四方程度の区画で、このような再開発を行えば、より多くの人々を呼び込むことができるでしょう。

しかし、このような大規模開発には課題もあります。表参道ヒルズの開発時には一部の元都営住宅の居住者が移転に応じず、森ビルが辛抱強く対応を行ったケースがありました。こういった問題を解決するには、行政が明確な方針を示し、新規入居者を呼び込むために新たな経済効果を生み出すような計画を立てなければなりません。現状ではマンション内の合意形成が難しく、住民でもある管理組合の役員が疲弊してしまうケースが多々あります。より大胆で包括的な政府による対策が求められています。

▼大阪再開発 「グラングリーン大阪」が先行開業
大阪の都市機能、北への拡大がさらに進む

JR大阪駅北側の再開発地区「グラングリーン大阪」が6日、先行開業しました。これは2013年に開業したグランフロント大阪に続く旧梅田貨物駅跡地の再開発計画で、三菱地所、積水ハウスなど9事業者が参画、総事業費は1期と2期で合わせて1兆数千億円規模となります。

この地域は、通称「うめきた」と呼ばれる梅田北ヤードの開発で、第2期に当たる部分です。現在ヨドバシカメラなどがある場所の隣接地が今回開発されています。グラングリーン大阪という名前が示すように公園のような緑地空間が設けられ、ホテルや多数のマンションも建設されています。駅に近いという立地の良さから非常に人気が高く、物件はすぐに売れてしまう状況です。

現在、大阪の都市開発の中心となっているのが、この梅田駅北側エリアです。本来であれば大阪城周辺の開発を先に行うべきなのでしょうが、さまざまな事情により進んでいません。また御堂筋沿いの開発においてはミナミまでの両側の整備が必要ですが、こちらは個別の建物単位で少しずつ進められています。しかしキタのエリアでは、もともとが広大な更地であったために大規模開発が可能となりました。最初に積水ハウスが二つの大きなビルを建設して、それらを空中廊下で結び、その後、ヨドバシカメラの出店により人の流れが大きく変わりました。グラングリーン大阪の建設により大阪の都市機能が北へと広がっていますが、さらに北側には淀川があるため、これ以上の拡大は難しいでしょう。

▼都内商業施設 銀座の賃料が過去最高水準
路面店人気は、そぞろ歩きの人々を取り込めること

不動産サービス大手、シービーアールイーがまとめた都内主要エリアの賃料動向によると、銀座中央通りや晴海通りの賃料は25万円から42万円で、前の年に比べ8%上昇し、過去最高水準となったことが分かりました。増加する訪日外国人客向けに高級ブランドなどの出店意欲が強いことや、スポーツ用品店なども広告効果を狙い、路面店にショールームを構えていることなどが賃料を押し上げたということです。

例えば坪30万円とすると、100坪の店舗では年間36000万円と非常に高額な賃料です。しかし今、デパートに出店しても集客は難しく、多くのブランドが路面店を選択しています。特に銀座では松屋通りやマロニエ通りでは、モンクレールなどといった高級ブランドの路面店が増加しています。

路面店の人気の理由は、そぞろ歩きの人々を取り込めることです。新宿3丁目辺りから伊勢丹南口にかけての通りには、以前は何もありませんでした。私はこれまで高級ブランドの路面店がくるぞと言っていましたが、今では半分ほどのエリアで出店されています。、かつては百貨店の2階、3階は多くの人々で賑わっていましたが、今では表通りをそぞろ歩く人々を捉えることが非常に重要となり、新宿の景観も変化しています。

民泊規制に関する質問をいただいています。

「欧州やオーストラリアで民泊規制の導入が相次いでいます。Airbnbが普及を大きく後押ししましたが、今となっては住民から民泊で住宅不足に拍車がかかっているという意見があり、大家が保有物件を民泊にしたり、民泊目的の不動産投資が増えたりして、物件価格や家賃が高騰したと主張しています。一方で民泊が家賃を押し上げる効果は、実際はそれほど大きくないとの研究結果もあるようですが、塾長のご意見を伺いたい」

私は供給側を自由化すれば、値段は上がらないと考えています。民泊についても同様です。例えば、軽井沢のような別荘地ではAirbnbのようなものは禁止されています。しかし使用されていない別荘は少なくなく、これらの物件を民泊として活用すれば、ホテルよりも多様な宿泊オプションを提供できるでしょう。しかし実現には二つの課題があります。一つは、星のややプリンスホテルなど既存のホテル業界などの利害関係者からの反対です。もう一つは、別荘を一括で管理して民泊用に整備するマネジメント会社が日本にはないことです。

民泊用の投資については、市場原理に任せるべきだと考えます。投資が成り立つのであれば、投資をしてもらえばいいのです。規制を緩和し、自然経済の流れに任せることで、最終的には適切なところに落ち着くのではないでしょうか。

▼欧州空調市場 暑い欧州、空調M&A過熱
日本企業が機会損失を招いたのは、地道な関係構築不足

日経新聞は先月30日、「暑い欧州、空調M&A過熱」と題する記事を掲載しました。これは独ボッシュが7月、日立との合弁会社を含む米ジョンソンコントロールズの空調事業買収を発表したと紹介。欧州は夏場でも室温が低いことから、これまで空調機器で室内を冷やす習慣がありませんでしたが、2022年、夏の熱波などで空調の見直し気運が高まっているもので、欧州で新たに生まれた空調事業を背景に事業の争奪戦が熱を帯び始めたとしています。

現在、ダイキンが世界一の空調メーカーとして欧州でも存在感を示していますが、他の日本企業は苦戦しています。またエアコン設置には電気工事と排水を処理するための工事が必要で、それぞれ異なる業者が関わります。日本企業はこういった中間業者との関係構築がうまくできず、唯一ダイキンだけは丁寧かつ適切に対応してきたために今の立場を築き上げました。

今回ドイツの自動車部品メーカー、ボッシュが、米ジョンソンコントロールズの空調事業を12000億円で買収しました。この買収には日立の白くまくんの事業も含まれており、本来であれば日立が自社で展開することもできたはずで、日本企業にとっては大きな機会損失だったと言えます。

欧州ではエアコンのない家庭が多く、近年、気温が上昇傾向にあるため耐えられないという声が高まっています。エアコン市場は欧州だけではなく、東南アジアやインドにも広がることが予想され、特にインドでは購買力の問題でエアコンの普及率は低いものの、経済成長に伴い爆発的に高まる可能性は大いにあります

このようにダイキンをはじめとするエアコンの強豪メーカーにとっては、非常に有望な市場が広がっていますが、一方でエアコンの電気消費量の増加によるCO2排出量の増加や、冷媒に使用されるPFASなどの環境への影響が懸念されており、市場拡大を手放しでは喜べない状況でもあります。

▼食料スタートアップ 「飢え」満たせぬ食テック
代替肉に頼らず、摂取量で対策を

日経新聞は1日、「『飢え』満たせぬ食テック」と題する記事を掲載しました。これは食料・農業スタートアップへの投資額が2023年まで2年連続で減少したほか、代替肉大手の業績や株価も低迷していると紹介。インフレに直面する消費者や飲食店が割安の従来の肉を選択していることが要因ですが、一方で気候変動により不作や病虫害の危機も高まっており、特に食料自給率が低い日本は法整備と共に投資や技術開発を促す取り組みが欠かせないとしています。

ビヨンド・ミート社などが製造する代替肉は確かに肉の風味はするものの、本物の肉には到底及びません。ビーガンの人たちの選択肢にはなっていますが、一般消費者には一時的なブームに過ぎなかったようです。さらに昆虫を原料とした食品の研究開発も進められ、昆虫独特の味や食感でなければ受け入れるという人もいますが、継続的な食習慣には今のところはなっていません。代替肉は持続可能なビジネスモデルとはならず、ビヨンド・ミート社はついに赤字となりました。世界的に見ると私たちは肉を食べ過ぎる傾向がありますので、肉に対するアレルギーがあるといった体質でなければ、本物の肉を適量摂取するといった方向に進むのがよいと思います。

—この記事は2024年9月8日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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